スッポンはよく洗浄し、よく火を通すこと。
「院長、大変です。一江の家で集団食中毒です!」
「ああ、またか? 毎回酒乱が集まりやがって」
「いいえ、本物です。キッチンを見ましたが、スッポンで鍋だったようで。これはサルモネラですね」
「何!」
「救急車は手配しました。うちの病院へ運びますが、それで宜しいですね」
「当たり前だ! 他の病院で知られたら大変なことだ!」
俺は院長との会話を終わり、再度部屋の惨状を見る。
いつもの吐瀉物現場とは違う。
更なるプロフェッショナルが散らばっている。
トイレの周辺はトイレと化していた。
恐らく、争奪戦になったのだろう。
ドアは大破し、周辺の壁もボードがあちこちへこみ、破れている。
そして、全員が全裸でプロフェッショナルに塗れていた。
大森だけは、上の衣服の断片だけがある。
状況分析。
スッポンのサルモネラ菌による食中毒。
患者たちは意識があるときに服を汚すことを恐れ、全裸となった。
一人が、恐らくは大森がトイレに立てこもり、栞が暗殺拳を使い破壊。後に大森を投げ飛ばす。
四人とも限界を超えた。
比較的痛みに強い六花が俺に連絡。
現在救急車待ち。
さて、どうするか。
前回までの経験で、俺はゴム手袋を持参している。
それを装着し、一人ずつ、シーツでくるんでいった。
汚物はそのままだ。
作業を終えると、救急車が到着した。
俺は身分を説明し、隊員に搬送先を告げ、後を託す。
ストレッチャーは既に4台来ていた。
俺は便利屋に連絡し、その後キッチンに戻る。
何故か、スッポンの甲羅がどれも両断されている。
プロ以上の素人の仕業だ。
「栞か」
甲羅をよく見ると、コケなどがそのまま付いている。
「洗ってねぇじゃねぇか」
次いで、リヴィングに行く。
六花のプロフェッショナルが大量に撒き散らされていた。
取り皿に残った肉片を箸でつまんだ。
「生煮えじゃねぇか」
食中毒と聞いて持ってきたジップロックに、プロフェッショナル、肉片、甲羅、そして生血は試験管に入れ、フタをした。
便利屋が到着した。
ずい分と急いで来てくれたらしい。
俺は一江のフェリージのバッグから見つけておいた部屋のキーを便利屋に渡し、部屋の掃除を頼む。
既に説明しておいたので、便利屋はフルフェイスの防護マスクを装着し、ゴム手袋にゴムの足長、そして大量のアルコールを持って来ていた。
ゴミ屋敷の清掃や、何度か事故物件のクリーニングの経験もある便利屋だから呼んだのだ。
「ああ、消毒を念入りに頼むぞ。汚れなんかはそのままでもいい。ああ、大丈夫だろうけど、この中で飲み食いはするなよ?」
「ここでですか? やれと言うなら別料金でさぁ」
やれるのかよ?
「じゃあ、任せるぞ。急にこんなことで済まないな」
「いえ! 旦那の頼みなら、なんのこともございません」
「ああ、鍵は後で俺が取りに行くから。間違っても子どもたちに渡すなよ」
「合点です!」
俺はタクシーで病院へ向かう。
仕事柄、汚物には慣れているし抵抗もない。
しかし、妙に疲れた。
病院では、既に四人が身体の内外を洗浄され、点滴を入れて眠っていると聞いた。
全員隔離病棟だ。
個室になっているため、俺は一人一人見て回った。
三人は眠っていたが、六花だけは目を覚ましていた。
「おい、大丈夫か?」
俺の姿を見て、六花は起き上がろうとする。
「寝てろ! 無理するな」
「石神先生、申し訳ありません」
「まったくだ!」
六花は布団を勢いよくたくし上げ、顔を覆う。
下半身が露出する。
オムツが巻かれていた。
「どうぞ」
「何がどうぞ、だぁ!」
俺は六花の頭のあたりを殴る。
ちょっとドキドキした。
「じゃあ、ちょっとオムツを取り替えてやろう」
「ハァウッ!」
「冗談だ!」
「えぇー!」
元気そうだ。
「気分はどうだよ?」
「はい、もう大丈夫です」
「お前が早く連絡してくれて、助かった」
「いいえ、申し訳ありませんでした」
「お前、先輩たちに遠慮して、あまり喰わなかったんだろう?」
「……」
「そのお蔭で、あいつらも軽く済むだろう。ありがとうな」
「でも、また石神先生にご迷惑を」
「まったくだよなぁ」
俺は布団から顔を出した六花の頭を撫でてやる。
「あ、ラテックス」
「当たり前だ! ばい菌に塗れたお前らを素手で触れるか!」
「あ、石神先生」
「なんだ」
「ちょっとまた漏れてしまったようです」
「ああ、じゃあナースを呼ぼう」
「いえ、あの、石神先生に替えていただけると」
「……」
「ラテックスのままで結構ですから」
俺は六花の言葉通りに替えてやる。
何も漏らしてない。
新しいオムツを敷きながら、俺はちょっとキレイな六花をいじってやった。




