欲しいと言うなら、くれてやろう
院長室へ呼ばれた。
まあ、昨日はあれだけ楽しませてもらったのだから、二、三発は殴られてやろう。
「石神、入ります!」
やはり、机で腕を組んで睨んでいる。
「院長、昨日は調子に乗って無礼な振る舞い、申し訳ありませんでした」
黙ってる。
「院長のお気の済むまで、いかようにも」
「ふん! お前は本当に昔から頭に来る男だ! だからお前はチンピラ医者だと言っているのだ!」
「はい」
「まあいい」
え?
「女房が、お前に宜しくと言っていた。「こんなに笑ったのは何十年ぶりか」とな。俺もあんなに楽しそうな女房は見た記
憶がない。お前にはその点だけは感謝する。ありがとう」
は?
「俺はお前のことが大嫌いだけどな! ただ女房はお前のことが気に入っているようだ。女房から頼まれた。絶対に二人で
お前の家に遊びに行こう、ってな。よろしく頼むぞ」
なんだよ、怒ってないのかよ。
謝って損したじゃねぇか、ゴリラ。
「そんなことよりも、アレだ」
やはりその話か。
「双子は、俺の炎が見えたんだな」
「そのようですね」
「青い炎だとはっきり言っていた。間違いない」
「はぁ」
「あの子たちは特別だ。だからお前が何んとかしてやれ」
どうしろって言うんだよ!
「お前、これまで何も気付かなかったのか?」
だって、指から炎が出る奴なんていなかったんだよ!
「申し訳ありません。ちょっと勘が鋭いとは思っていました。あとは大食い」
「あ? なんだって?」
「ものすごい量を食べるんですよ」
「お前もっと違うことで」
「小学二年生が肉を6キロ喰うんですよ?」
「なんだと?」
俺は昨年のクリスマスパーティのことを話した。
「20キロも用意したんです。その内訳は、俺が3キロ、花岡さんは200グラムってとこですかね。長女の中二の亜紀ち
ゃんが3キロ、小五の皇紀が2キロ、あとは全部双子の胃袋です。ああ、響子は勘定に入ってません」
「お前、医者か? 小学生の胃が6キロ以上も入るわけないだろう!」
だから驚いてるって話をしてるんだろう!
フードファイターと呼ばれる人間たちがいる。彼ら彼女らは、5、6キロを食べることもある。
しかしそれは、胃酸が桁違いで、逆に量を喰ってないと胃が溶けてしまう。
「双子は、常にそんなに食べるわけじゃないんです。案外普通ですよ。まあ、結構多いとは思いますが、異常なほどではな
い。そんな胃が、6キロ喰って平然としているんですからね」
「嘔吐や下痢はないのか?」
「全然。私も注意してましたが、まったく通常運転です」
「分からん」
そうだろうよ。
またあの、「双子の胃はゲッセマネに繋がってます」とか誰かが言うんじゃねぇだろうなぁ?
まったく冗談じゃねぇ。
「とにかく、お前がよく注意して見てやれ」
「分かりました」
俺は院長室を出た。
なんだかムシャクシャする。
でも、アレは良かったな。
「ああ、石神。あの衣装な、女房が気に入ったんだとよ。だからあれはくれ」
また着るのか、奥さんの前で。
お幸せに。




