怖い女
結局、六花の「資料」整理は夜中までかかった。
俺が東名をぶっ飛ばしたために、昼過ぎには病院へ着いた。
響子の顔を見る間も惜しんで、途中で栞に頼んでおいたカフェイン剤を受け取ると、すぐに六花のマンションへ。
最初に現況を確認した俺は、段取りを組んで六花へも指示を出す。
その合間に、冷蔵庫を覗き、適当に食事を作って二人で食べた。
マンションに着いて、そこまでで30分。
そして俺が寝室のキャビネットのものを全部出していると、六花が全裸で現われた。
両手に「器具」を幾つも抱えている。
「何やってんだ、てめぇは!」
「いえ、ちょっと使ってみたいと」
俺は六花の尻を三発叩いて
「さっさと言われたことをやれ!」
部屋を追い出した。
少し相手をして、圧力を下げてやってもいいのだが、俺が不味い。
はっきり言って、俺と六花の相性が良すぎるのだ。
どこまでも貪ってしまう。
ここで貪れば、部屋の片付けなどまったくできないに決まってる。
ヤバいものはすべて寝室に仕舞い、リヴィングのAVだのも何んとか収めた。
もう、寝室に余分なスペースはほとんどない。
『肛虐聖女諸君―みんな並んで3リットル』
『マジいき天使―24時間入れっぱなし』
『激汁バンバン』
『先生、全部飲んでくれますか?―女子高生聖水放射』
『激太医者と激狭ナース』
こんなのが千タイトル。
ちょっと六花と一緒に観たいのもある。
午後23時58分に終わった。
疲れが限界だ。
早く帰りたい。
「石神先生、お風呂沸きました」
「お前はどうして、そんなに元気なんだよ?」
今すぐ寝たいのだが、ここだけはダメだ。
玄関で後ろから抱きつく六花をなんとか引き剥がし、俺はタクシーで家に帰った。
「あ、花岡さん」
「おはよう、石神くんはいるかな?」
「それが、夕べ遅くに帰って、まだ寝てるんです」
「やっぱり。石神くんの携帯にかけても出ないから、家の方に電話したんだけど」
「1時くらいでしたけど、私がまだ起きてたんでお迎えしたんです。ものすごく疲れてて、「たんぱく質が足りない」って呟いてました」
「たんぱく質?」
「ええ、「何か作りましょうか」って言ったんですけど、手を振ってシャワーを浴びて、そのまま寝ちゃったようです」
「そう。明日のことと、出張の様子を聞きたかったんだけど」
「ちょっとお部屋に声をかけてみましょうか?」
「ああ、いいわ。疲れてるんでしょうから、また夕方に連絡する」
「すみませんでした」
俺は午後の三時くらいに起きた。
腰がちょっと痛い。
下半身に鈍痛がある。
「大丈夫ですか?」
亜紀ちゃんが心配そうに聞いてきた。
「ああ、大分疲れたようだな」
理由は言えないけどね。
「お昼の残りがありますけど」
「え、残ったのかよ!」
亜紀ちゃんは笑って言う。
「タカさんの分を残したんです」
「そうか、じゃあちょっと食べようかな」
昼はパスタにしたようだ。
温めてから皿に盛って、ミートソースをかけてくれた。
俺が食べ始めると、亜紀ちゃんが卵とベーコンを出して、焼き始める。
「ベーコンエッグを作りますが、何枚焼きましょうか?」
「え? ああ、3枚もらおうかな」
「やっぱり」
「どうした?」
「夕べ、タカさんが「たんぱく質が欲しい」って言ってましたから。
俺、そんなこと言ってたのか?
「ああ、助かるよ」
食べている途中で、亜紀ちゃんから栞が電話してきたと聞いた。
まだ、俺は履歴を見ていなかった。
食べ終わってゆっくりとコーヒーを飲んでいると、栞から電話が来た。
「あ、もう起きてますよ。今替わりますね」
「花岡さん、何度もかけてくれたみたいで、すみませんでした」
「大丈夫なの? まだ声が大分疲れてるみたいだけど」
「久しぶりに長距離の運転で、思った以上に疲れたようです」
「夕べも遅かったんだって?」
「ええ、六花といろいろと話し込んでまして。今回の出張のことと、また来週はアビゲイルたちが六花のマンションに行きますから、その打ち合わせとか」
「もう、無理し過ぎよ! 明日はやめにしない?」
「いいえ、ルーとハーが楽しみにしてますから。それに院長に無理言って頼んでますからね」
「そうだけど。本当に大丈夫?」
「今日一日のんびりすれば大丈夫ですよ」
そうなのだ。明日は院長をこの家に呼んでいるのだ。
俺はフツフツと力が甦るのを感じた。
楽しみだ。
その後、スマホを見ると、130件の履歴があった。
すべて栞からだった。




