六花
「吉田教授のお話を聞いていて、段々怖くなったんです」
「……」
「私は響子が、どんどん良くなって行くんだと勝手に思っていました。でも、それは違うのだと気付いたんです」
「どうして違うと思うんだ」
「吉田教授ほどの専門の研究者でさえ、思いも寄らない結果になる。たとえ正しい治療をほどこしてさえ、あんな馬鹿げたもののせいで捻じ曲げられるなんて!」
「……」
「じゃあ、私はどうすればいいんですか! どんなに響子のために努力したって、それは無駄なんですかぁ!」
六花は泣きじゃくった。
「響子……あんなに可愛い……」
「なあ、六花。お前は何しにここまで来たんだよ」
「きょう、響子のために……」
「そうだろう。だったら何で泣いてるんだ?」
「あんな専門的にやってきた人が言うことだから」
「お前は専門家がダメだと言ったら、それで納得して諦めちゃうのかよ」
「だって……」
「あのよ、俺もお前と一緒に同じ話を聞いたんだぞ?」
「!」
「俺は泣いてねぇだろうが!」
「!」
「響子はなぁ、誰もが死ぬと確信している中で、俺の手術を受けたんだぞ。そして実際に何十回も死んだ」
「……」
「お前はあの時手術には立ち会ってねぇけどな。でも本当にバイタルは何十回も停止したんだよ。それでも響子は帰ってきた。何度も三途の川から引き返して来たんだ」
「「奇跡のメス」と呼ばれる、あの蓼科文学でさえ、匙を投げてた。俺はやったぞ! どうだ類人猿!」
「うふふ」
やっと六花は笑った。
「俺はなぁ、六花。誰が何と言おうとやるぞ? お前はここで降りるか? それもいいだろうよ。俺は独りでもやると決めてるからなぁ」
「申し訳ありませんでした! 自分も石神先生と一緒にやっていきます!」
「おう、頼むぞ」
「じゃあ、今日は寝るぞ!」
「あの」
「なんだよ!」
「先ほど、石神先生に胸を揉まれて」
「それがどうかしたのか!」
「はい、大変に濡れてしまい」
「そうか、見せてみろ!」
六花は浴衣の裾を割った。
こいつ、下も履いてねぇ。
俺は指先で六花の股間を探る。
「ほんとだな!」
「はい」
「よし、じゃあ今日は寝るからな!」
「はい、本当にありがとうございました。おやすみなさいませ」
六花は部屋を出て行こうとする。
「おい!」
「はい?」
「今日は寝るって言っただろう」
「はい」
「早く脱いでこっちへ来い!」
「!!!!!!!!」
六花は瞬時に帯を解き、全裸でベッドへ飛び込んでくる。
同時に俺の首に腕を巻き、ベトベトになるまでキスを浴びせてくる。
俺は六花を押し倒した。
「お前、激し過ぎるだろう」
ベッドがビショビショだ。
「満足したか?」
「すいません、もうちょっと」
初めての女が、どうしたことか。
「まあ、ちょっと休ませろよ」
「じゃあ、その間、口でしてもいいですか?」
六花は、俺の下に身体を移動する。
「お前、そんなテクをどこで磨いたんだよ」
「石神先生とこうなる日を確信していましたから」
「お前の確信って、怖いよな」
「ゲッセマネから声が聞こえました」
「お前、ちょっと立ち直ったじゃねぇか」
俺は笑って言う。
「響子は見捨てかけたのになぁ」
「いてぇ!」
六花が歯を立てた。




