岡庭クンは、イジラレたい Ⅲ
グアムの二日目。
二日酔いの岡庭は、朝食が食べられなかった。
部屋で横になっていると、花岡がやってきた。
「ねえ、大丈夫、岡庭くん?」
「ああ、花岡さん、おはようございます」
「うん、おはよう。どうかな、気分は」
「ええ、大丈夫ですよ。大分よくなりました」
「なにか、昨日は石神くんがまた無茶をしたって」
「そんなことないですよ。石神クンと一緒にいられて嬉しかったです」
花岡は持ってきたオレンジジュースを枕元に置いた。
「もし良ければ、午後から一緒に町を回らない? 石神くんも謝りたいって言ってるし」
(!!!! 花岡さん、こないだ死ねって言ってごめんなさい!)
「うん、是非お願いします」
「じゃあ、午後にまた来るから」
石神、花岡、御堂、そして岡庭の四人で町に出掛けた。
軽い食事をとって、散策していく。
小学校だろうか。
授業は終わったようで、子どもたちが門から出てくる。
何か、みんなこっちを見ている。
(日本人が珍しいんだろうか)
岡庭がそう考えていると、一斉に集まってきた。
一人の女の子が石神の手をとって
「ワッチュア・ネイム?」
そう聞いたとたんに、クールだのグレイトだのと言いながら、石神にまとわりついた。
「石神くんって、どこへ行ってもこうよね」
花岡が呟き、御堂は笑っている。
(一緒に混ざりたい)
岡庭が近づくと、一人の女の子が気付き、言った。
「ゴアウェイ・エイプ!」
岡庭は英語が分からない。
「あ、俺マリーンたちに誘われてるんだ」
石神が言った。
花岡たちも一緒にと言われたが
「私は普通に町を見たいから」
と断る。御堂は
「僕は花岡さんと一緒にいるよ」
と言った。
「岡庭くんも一緒に行こうよ」
花岡が誘うが、
「僕は石神くんと行くよ」
岡庭は一択だった。
「ヘイ・タイガー!」
守衛事務所で待っていると、昨日石神に倒された黒人が迎えに来た。
石神は自分の名前の意味を教え、「タイガー」という愛称で呼ばれた。
黒人はシューティング・レンジに案内する。
広いレンジには、百人を超える人間が集まっていた。
一人の男が石神を紹介する。
拍手と怒号が沸いた。
石神はM629を渡される。6インチだ。
既に的が設置されており、石神は右手で構え、2秒で速射する。
的が機械の操作で近づいてきて、一人の男が結果を叫ぶ。
「オール・センター!」
会場が歓声で包まれる。
次いでスピードローダーを使っての30発の連射。
すさまじい速度で弾奏が交換され、また結果は
「オール・センター!」
レンジを少し移動し、今度は動く標的になる。
石神はすべてヘッドショットを決めた。
岡庭は何が起こっているのか分からない。
ただ、石神が撃ち終えると大歓声が沸く。
その繰り返しだった。
「ライフルはどうだ?」
「M16A2はあるか?」
「もちろんだ」
レンジの奥へ移動し、200ヤード先に標的が置かれる。
石神は何発か撃ちながらサイトを調節し、そのあとで、別な的を単発で射抜いていく。
「ちょっと外したか?」
誰かが言った。
的が回収される。
「ウォッー!!!」
的はハート型に撃ち抜かれていた。
(ボクに?)
それから、様々な銃器が持ち込まれ、石神はいずれもマリーンたちを驚かせた。
「パグスレイを持って来い!」
胸に幾つもの勲章を着けた男が叫ぶ。
すぐさま巨大なライフルが用意された。
500ヤード先に、鉄板が置かれた。
何の説明も受けず、石神は撃ち込んでいく。
二人がかりで運ばれた鉄板には、カギ十字が刻まれていた。
「オウ・シット!」
みんな大笑いしている。
「これは俺の部屋に飾っておけ!」
先ほどの勲章の男が言った。
運んだ二人は敬礼をして走り去る。
後ろから、少々年配の男がまたライフルを抱えて来る。
「ニトロ・エクスプレスか!」
石神が叫んだ。
満面の笑みだ。
「それで、何を撃つんだ?」
男は適当に撃てと言った。
「オーケイ! じゃあ、あんたは100ヤード先でリンゴを頭に乗せてくれ!」
「ファックオフ!」
男は右手を顔の前で振る。
みんな大笑いしていた。
石神は葉巻ほどもある弾丸を込め、銃床を肩に当てた。
何人か止める声がする。
しかし石神はそのまま、50メートルほど先にあった的を撃つ。
一際大きな銃声だった。石神の上半身が少し逸れる。
木製の的は粉々になっていた。
「Monster……」
みんな静まり返っていた。
(ナニナニ?)
石神は大勢の男たちに囲まれ、士官用のバーで飲み会になった。
知らぬ間に岡庭は潰れ、石神に抱えられ、帰った。
もちろん、ベッドは一人である。




