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7話 剣を取れ

「はあっ!」

 

 白蓮が手を前に振ると、轟音が鳴り響く。今度は何だと観客が空を見上げると、直径2mほどの大きさの青い火球が空から降ってきた。

 

「チッ、面倒だ」

 

 ユイルは火球に向かって手を伸ばすと、空間がゆがんだような穴が開いた。火球がそれに吸い込まれると、今度は白蓮の真上の空中から穴が開き、そこから彼が放った火球が現れた。

 

「なるほど、そういうのもありだね」

 

 白蓮はそれを消滅させると、即座に次の手を打つ。ユイルの周囲全てにホワイトホールを設置すると、そこから膨大な量のエネルギーが放出された。

 

「それがどうした! そんなものに意味はない!」

 

 青い光に包まれるユイルだが、それを一瞬で全て消し飛ばす。だが、白蓮の本命はここからだった。隕石が次々と降ってくるが、すべてその軌道は一直線上だった。後から落ちてきた隕石の方が速度が速く、次々と隕石同士が連鎖的に衝突し、細かい破片となって降り注ぐ。

 

「お前まさか………!」

 

「そして………今の攻撃の全てを加速させる!!!」

 

 ユイルの反応できない速度………音速で、幾千のも攻撃をを叩き込む! 圧倒的な攻撃に、実況も、観客も、全ての者が静まり返った。

 

「ガァッ………!」

 

 

 

 

 

 間違いなく致命傷。誰もがそう思った次の瞬間、白蓮の身体が吹っ飛んだ。

 

 まるで、攻撃を受けたかのように。否、受けたのだ。ユイルの反撃を。

 

「一体………何がっ………!」

 

「宣言してやる。この試合はもう終わりだ」

 

 無傷のユイルが、白蓮の目の前に立っていた。

 

「難だって………!」

 

「もう余興は十分だ。ここで終わりにしてやる」

 

「余興………!?君は、ずっと手を抜いていたのか………!」

 

「………考えてもみろ。俺はこの試合、お前にほとんど攻撃をしていないだろう。ここから迎撃を開始するとしよう。試合が長引くのは避けたいからな」

 

「………あり得ない、あれだけ攻撃を受けて………いや、違う。受けてない………!君はもしかして、攻撃が当たる直前で………違う、攻撃を加速させる直前で自分と世界を切り離したのか!」

 

 

「その通り。これは俺にとっての絶対の盾とも言える技だ」

 

 白蓮は立ち上がり、次なる攻撃の為の準備を開始する。

 

「何をやろうと無駄だ!」

 

「それはどうかな!」

 

 白蓮は超新星爆発のエネルギーを自らの身体に溜め込んだ。その結果、彼の身体が青白く発光した。

 

「肉弾戦か?無意味なことをするものだな」

 

「無意味なんかじゃないさ!」

 

 白蓮は亜音速で動き、ユイルの反応速度より速く攻撃を叩き込もうとした。しかしそれは、何の意味もなさない。

 

「お前の身体に教えてやる。俺の強さを」

 

 その瞬間、白蓮の右腕が吹き飛んだ。その断面は黒く染まり、明らかに普通の攻撃ではなかった。

 

「俺の攻撃はお前には認識できない。どうやって攻撃したのかが分からない。なぜなら世界が異なるからだ」

 

「全く………随分万能な力だね。ならなんで僕は君を視認できて、声も届くんだろうね」

 

「制限しているからに決まってるだろう。これはあくまで観客の為のもの。楽しませる余地くらいはあるものだ。………ならば、証明してみせようか」

 

 

 すると、ユイルの姿が消えた。最早声も届かない。固有世界に姿を消したユイルの攻撃は、もう止められない!

 

 

 そこからは最早、一方的な蹂躙だった。白蓮は吹き飛ばされると同時に、右足を失った。そして、スタジアムの場外に出されてしまった。

 

「し、試合終了~!勝ったのはユイル選手!いや、何が起こってんのかさっぱりわかんなかったが………とりあえず白蓮選手を医務室に………」

 

「いえ、その必要はありません。ユイル、能力を解いてくれ」

 

「………ああ」

 

 それと同時に白蓮の目の前にユイルが現れ、切断面の黒いモノが消えると同時に、彼は自らの身体を再生させた。これであとくされなく試合を完結させることができたのだ。

 

「ふぅ、負けてしまったねえ」

 

 その顔はどこか、晴れやかだった。負けた悔しさより、全力を出せた喜びの方が多かったのだ。気持ちの良い勝負が出来たと満足げに笑い、観客席へと向かった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 本選一回戦第二試合。対戦カードはSランク5位のレイド VS Aランク2位のユリカ。二人は兄弟であり、王家直属の騎士の家系であるアストライア家の人間。

 

 周囲から期待され、その期待に応えようと二人は共に日夜訓練を積んでいた。レイドは自分より出来の悪いユリカを見下す………なんてことも無く、むしろ彼は妹を溺愛していた。というより、過保護であった。

 

 たった一度だけ、レイドは、ユリカに騎士になることを諦めるように薦めたことがあった。当時13歳だったユリカは、当然反発した。

 

「私に才能がないから兄上は騎士の道を諦めろと言うのですか!」

 

「違う、違うんだユリカ!話を聞いてくれ!あっ………」

 

 ユリカはそのまま、家を飛び出して行ってしまった。誤解が解けないまま、いつの間にか4年の月日が経ってしまった。そして今、彼には弁明のチャンスが与えられた。妹に謝りたい。きっと怒っているだろうから、と。

 

 

 

 

 そして、ユリカの控室。彼女は一人で精神統一をしていた。忘れもしない、4年前のあの日。訓練が終わった後、兄であるレイドが突然こう言ってきた。

 

「ユリカ………君は、騎士の道を辞めるべきだ。君には普通に暮らして、幸せになるべき人なんだよ」

 

「なっ………兄上!何を言っているのですか!私に………私に才能がないから兄上は騎士の道を諦めろと言うのですか!」

 

 怒りで目の前が真っ赤になった。確かに兄は常軌を逸した強さを持ち、誰からも慕われ、頭も良い人格者。自分の理想のような存在だ。

 

 しかし、こうも直接「才能がないから諦めて普通の暮らしをしろ」などと言われるとは、思ってもいなかった。悔しさで涙を流しながら、彼女は家を出ていった。強くなろう、強くなって兄を見返してやろうと。

 

 そして時間となったため、彼女はスタジアムへ上がった。4年分の努力の成果を見せてやろうと。

 

 

  舞台に上がると、レイドはユリカに話しかけた。気まずそうだが、しかし少し嬉しそうに。

 

「ユリカ………久しぶり。4年ぶりだね。その、驚いた。凄く成長しているからね。君も大人になったんだね。兄として嬉しく思うよ」

 

「………兄上も、お変わりないようで。4年前から、私はずっと努力してきた!必ず兄上を倒す!」

 

「あ、あのあれは違くて………そういう意味で言ったんじゃなくて………試合始まっちゃった」

 

 ユリカの大剣が唸り、次々と重量級の斬撃が繰り出される。その小さな身体からは想像も付かないパワーだ。それをレイドはひたすらにかわし続ける。

 

「神剣は使わないのですか、兄上」

 

「そうだね。今はまだ必要ない」

 

 屈辱に顔を歪めながらも、彼女は冷静さを失ってはいない。より強烈な攻撃で決めることを選択したユリカは、今まで隠していた攻撃方法を選択した。剣士らしからぬ戦い方だが、背に腹は代えられない。

 

 紫色の粒子が彼女の身体から立ち昇り、それが大剣に集まっていく。

 

 彼女が剣を振るうと、それは数十発のオーラの斬撃となってレイドの元へ襲いかかる。 

 

「へぇ、やるね!」

 

 斬撃との間を縫うようにして前に飛び出したレイドは、始めて剣を抜いた。それは何の変哲も無いロングソードで、神剣ではない。

 

 しかしユリカは冷静に対処する。間合いに近づけず、遠くから切り刻むために、剣を振るう。

 

 縦に横にと、格子状の斬撃がレイドに襲いかかる。しかし彼は大きくジャンプし、その範囲から逃れる。

 

 だが、こうなることをユリカは予見していた。

 

「待っていたぞ、この瞬間を!」

 

 横凪ぎに斬撃を飛ばし、回避不能な空中で仕留めようとした。レイドはその攻撃を受け流した。

 

「いいね。とても強くなってる。あの時とは桁違いだ」

 

「話している余裕などないぞ!ハァッ!」

 

「身体つきも随分と女性らしくなっちゃって。愛する男の子でも出来たのかな?」

 

 そう言われた瞬間、ユリカの頭の中にはアインが思い浮かんだ。そして彼女は一瞬で顔を真っ赤にし、煩悩を払うかの如く剣を思い切り振った。

 

「兄上っ!!!戦う気はあるのか!避けてばかりで少しも攻撃しない!そんなもの騎士ではない!正々堂々と真正面から「じゃあ試してみる?」………何?」

 

「オレとお前が真正面から戦えばどうなるのか………試してみようか?」

 

 レイドの雰囲気が一変。ようやく戦闘態勢に入ったようだ。鋭い眼光からは、敵を倒す意志が感じられる。

 

「ようやく、本気になったか」

 

 レイドは神剣を抜いていた。銀色に光り輝き、きらびやかな装飾が施されている。

 

「往くぞ兄上っ!」

 

 レイドはその場に立ったまま剣を構えた。一撃で勝負を決めるつもりなのだと察したユリカは、上段に剣を構える。

 

 そして互いに、刀身に魔力を流し込む。ユリカの大剣は黒く光り、レイドの神剣は白く光り輝く。そしてユリカが先に剣を振り下ろした。

 

 黒く巨大な斬撃は、全長20mほどに達するほど。先ほどの攻撃とは、雲泥の差と言っていい。

 

 それを、レイドは迎え撃つ。彼が剣を振り下ろすと同時に、極光が会場を照らした。

 

 

 

 そして、光が収まる。ユリカは場外に倒れ伏していた。会場そのものを破壊しかねない威力だったが、壁や観客席には何の損壊も見られない。

 

 レイドはそれを疑問に思い攻撃が通った先に視線を向けると、そこにはユイルがいた。

 

 観客もそれに気付き、安堵の声を次々と上げる。

 

「………君相手には、手加減は出来なそうだね」

 

「お前が俺に勝つと?それは無理だ、レイド」

 

 そう。レイドがユリカに放った攻撃は、彼の全力ではない。精々二割程度と言ったところだろうか。

 

 そして彼はユリカを背負って、医務室へと運んだ。

 

 

 

 医務室には白蓮がおり、彼なら安心だろうとレイドは治療を託した。

 

「彼女の傷を治そう。おや、剣や鎧も壊れているね」

 

 白蓮が手をかざすと、ユリカのひび割れた剣や鎧、そして傷も治癒された。

 

「………全く、相変わらず君は無茶苦茶だな」

 

「そうかな?おや、アイン君達が来た」

 

 

 

 医務室のドアが開け放たれ、ハク達が医務室へとやって来た。

 

「ユリカ、大丈夫か?」

 

「ユリカさん!大丈夫ですか!」

 

「大丈夫みたい。白蓮さんが治してくれたみたいだね」

 

 

 そしてゆっくりと目を覚ましたユリカは、周囲を見渡す。

 

「………兄上。そうか、私は負けたのか。悪い………お前達はここを出てくれないか?少し、2人で話したいのだ」

 

 

 その雰囲気を察した3人はそそくさと医務室を出ていく。

 

「………兄上、聞きたいことがある。誤解、と言っていたが、あれはどういうことだ。あの言葉の真意は、なんだ?」

 

「あれは………お前に才能が無いから諦めろって言ったんじゃないんだよ。………騎士は戦うものだ。戦場で命を落とすかもしれない。オレは君に、そんな危険な生き方をしてほしくなかった」

 

「それを言うなら、兄上も同じだ。誰しも突然、命を奪われるかもしれない。人間なら誰しもそうなのだ。それに私はもう弱くない。だから、そんなに心配しなくても良い」

 

 ユリカはもう、自分が守るほど弱くはない。試合でそう理解したレイドは、彼女の生きる道を応援することに決めた。

 


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