6話 頂上対決
現在、冒険者の数は世界でおよそ30万人ほどいると言われている。その中でSランク1位の座にいる者………すなわち、世界最強の冒険者。それが《全能》ことユイル・リーズベクトである。彼は滅多に冒険者ギルドには現れない。なぜなら彼が請け負う依頼は、ギルドを通した国からの依頼のみだからだ。
どんな能力があるのか、冒険者は誰も知らない。謎に満ちた男が、今ベールを脱ぐ。
予選から二日後の朝、スタジアムには満員の観客が詰めかけていた。いきなりのSランクの1位と2位という対戦に、誰もが大いに期待しているのだ。
そして遂に、二人がスタジアムに姿を現した。無表情で白蓮を見つめるユイルに対し、白蓮は僅かに睨むような表情で返す。
「まさか、君といきなり対戦できるとはね。幸先が良いよ、ユイル」
「………そうか、良かったな」
その二言だけで会話は終了し、実況の宣言とともに世紀の一戦が始まった。
「まずは小手調べかな」
その言葉とともに、空から轟音が鳴り響く。3発の小さな隕石が会場に向けて落下していたのだ。しかしユイルは一切動じない。それどころが迎撃するそぶりすら見せないのだ。
彼の身体に直撃するまで後2m弱のところで、隕石が端から消えていった。その現象に観客がどよめく。だがこの状況は、白蓮にとっては予想通り。ならばと次の手を打つ。
白蓮の前に直径5mほどのホワイトホールが出現した。そこから雪崩のように隕石や炎など、宇宙の塵がなだれ込んでくる。だがそれすらも、端から消えていった。
「小手調べはここまで。さあ、力を上げていこうか」
太陽の表面の炎………いわゆるプロミネンスが直接ユイルに向かって放たれた。その熱は摂氏7000度。普通ならば星ごと消えてなくなるような攻撃だ。しかし白蓮の能力は万能そのもの。星どころか、スタジアム内にその被害を留められるようにすることができるのだ。
そしてその攻撃の規模に、観客たちは戦慄した。通常の炎魔法などとは一線を画す攻撃に、どうやってその攻撃をしているのかが予想もつかなかったからだ。
「な、なんなんだよオイ………」
「め、滅茶苦茶だ………何が起こってるかわかんねえよ」
そんな攻撃にもユイルは眉一つ動かさない。一歩たりとも動かず、彼は攻撃をしのぎ切って見せた。というより、先ほどと同じように熱光線が空中で切り取られたように消えていくのだが。
「………なるほど。やはりか。ある特定の空間に触れた瞬間から、僕の放った攻撃は消滅していった。君の能力の正体に辿り着いたよ。1年掛けて、ようやく。ユイル、君には|この世界の物理法則は通用しない。いや、正しく言えば………その空間は君が作った世界、つまり君が設定した物理法則により動くものであるということ。君が僕の攻撃を君の固有世界から拒絶した。だから、どんな攻撃をしても君の世界にはそれが存在しないことになっている………違うかい?」
「………流石に、驚いた。俺の能力を看破する奴がいるとはな」
場内は一気に騒がしくなった。白蓮の説明を理解できるものが少ないからだ。
それは無論、ハク達も同じ。
「い、一体どういうことなの!?」
「………あ~、俺なんとなく分かったわ。つまりだな、ユイルさんの能力は《自分の世界を創造する能力》ってこと。白蓮の無茶苦茶な攻撃が端から消えていったのは、ユイルさんがあの攻撃を『能力の範囲内にはあの攻撃は存在しない』と設定したからなんだよ。分かりやすく言うと………例えば俺たちの生きる世界そのものを自身の領域内には存在しないと定義すれば、どんな攻撃も無効化できる。たとえこの星をぶっ壊しても、あいつは無傷でいられるだろうな」
「そ、そんな………そんなの、どうしようもないじゃないですか!!!」
ハクは悲鳴にも似た声を上げるも、アインは笑みを浮かべていた。彼は白蓮の表情を見て、彼がまだ絶望していない………諦めていないことを悟ったからだ。
「白蓮さんには何か策があるみたいだぜ」
白蓮はユイルを睨みつけると、一度距離をとった。ユイルの攻撃に備えるために。どんな物理法則で、どんな規模の、どんな方法で攻撃してくるかが一切予測できないからだ。
「攻撃してこないのかい」
「………頃合いだ。貴様を殲滅する」
黒く塗りつぶされたような色の触手が数本、ユイルから放たれた。しかし白蓮は一歩も動かず、指を鳴らした。すると触手は弾け無と化した。
「………相変わらず厄介な能力だ。貴様の《運命操作》は」
「君ほどじゃないさ」
白蓮の能力。それはありとあらゆるものの運命を操ることができるというものだった。それはすなわち、世界をも自由に操ることができる。生きとし生けるもの、神羅万象全ての運命は彼の手の中にあるのだ。
ただし、それが唯一通用しない相手がユイルだった。前回の全闘戦、決勝で二人は対戦したが白蓮は指一本触れられずに敗北してしまった。だが今回は、ユイルの能力の正体が割れているため、前回とは違い格段に戦いやすくなっていた。
「そろそろ君を本気で叩き潰そうかな」
太陽の熱と光が収束し、一点に集まって放たれた。だがしかしユイルには通用しない。すぐさま太陽を認識対象から除外し、攻撃を無効化する。
だが、そこが好機。白蓮は狙っていたのだ。その瞬間を。太陽光を認識しなくなるということは、一瞬の間だとしてもユイルの視界は完全なる闇と化す。
「うおおおおおっっっ!!!!」
自身の身体を亜高速まで加速させ、パンチを放った。しかしユイルは、それをかわしたのだ。まるで彼の姿が最初から見えているかのように。
「ど、どうしてっ!君の視界は真っ暗のはず!見えるわけが………」
「………俺の世界に光という概念を創造すれば良いだけだ」
「君はそんなことまで………!」
今度はユイルから攻撃を仕掛けた。黒いもやが無数の腕の形をとり、白蓮の身体を掴もうと襲い掛かる。しかし白蓮の身体の前に突如ブラックホールが出現し、それと全くの同時にユイルのいた場所だけに数十倍の重力がかかった。
「ぐっ………貴様………!」
ユイルの身体がつんのめり、地面に倒れこむ。彼が白蓮を攻撃するその時だけは、彼の攻撃を無視できない。その能力の弱点を、白蓮は捉えたのだ。
「ようやく捕まえたよ」
「フン、甘い。この程度で俺を潰せるか」
一瞬で重力の影響下から逃れ、彼は平然と立ち上がった。このままではいたちごっこ。永遠に決着がつかないと考えた白蓮は次の行動に出ることにした。
「だったら………これはどうかな?《ハイパーノヴァ》!!!」
すると、その言葉とともに閃光が降り注いだ。その正体は、超大規模な超新星爆発。彼は意図的にそれを起こし、それによって発生したエネルギー全てをユイル一人に向けてぶつけたのだ。
しかしそれは、彼の世界領域に触れた瞬間に消滅していく。白蓮は力づくで突破しようと試みているのだ。しかしユイルが反撃してこない限り、攻撃は無効化されていくのみ。それを知っているはずの白蓮がなぜ、とハク達は思う。
しかし白蓮は知っている。ユイルという男が、自分が最強であることを信じて疑っていないことが。ゆえに、プライドが高い彼はしびれを切らし、必ず反撃してくるということが!
「いい加減しつこい」
冷たい声がユイルから発せられると同時に、彼の手のひらから青いエネルギー光線が発せられた。それは易々とエネルギーを消し去っていくが、そう簡単に白蓮は諦める男ではない。
超新星爆発のエネルギーが収束された攻撃を、更にもう一つ上乗せして放ったのだ。つまり、超新星爆発2つ分のエネルギーが凝縮された攻撃ということになる。
「なっ………!」
凄まじいパワーに押され、遂にユイルが地面に倒れこんだ。スタジアム内のみに被害を留めた白蓮の器用さに観客は息を飲むと同時に………世界最強の男に深手を負わせたという事実が、そこにはあった。
「「「「うおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」」」」
「つ、遂にあのバケモンが倒れやがった………」
「もう何がなんだがわからねえけど、とにかくスゲえええええ!!!!」
白蓮も、この時ばかりはホッとしていた。ライバルに、深手を負わせたという事実に。そして、彼の能力を打ち破ることができたということに。
「けど………こんなものじゃ彼は終わらない」
「………そうだ、こんなものでは俺は倒せない」
平然と立ち上がったユイルは、白蓮を見て初めて笑みを浮かべた。好敵手と呼べる存在が、人生で初めて現れたということに。
「………まずは認めよう。白蓮、お前は強い。相手が俺でなければまず間違いなく瞬殺は必至。見事なものだ。その能力を生かし切るに足りる知識量が、お前にあったということだ。だが………あくまでお前の力はこの世界にあるものを利用しているに過ぎない。俺が創造主たる世界の運命を、精々操ってみせろ」
「全く、君らしい。ならお望み通り、君の世界も僕が操る。そして、君を倒すよ」
二人の男が互いを認めあった。例えそれは、衆目には到底理解できないような会話内容だったとしてもだ。
そして白蓮は歩を進めると、ユイルの目の前に姿を見せた。そこは、周りの風景が黒一色で染められた世界。何者であろうとこの戦いを止めることなど、出来はしない。
「………これが、君の世界なんだね」
「ようこそ、俺の世界へ。来い、白蓮。領域内を通常世界に適応させてやる。どんな手段を使ってでも、俺を倒してみせろ」
「………それはありがたいね。なら遠慮なく!」
ここからが、本当の勝負。勝つのは果たして────
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今回は埒外のスケールでの戦いとなりましたね。正直天体現象の知識は皆無なので、調べながら頑張って書きました。