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5話 全闘戦

 魔族を退け、街に平穏が戻ってから数日後。冒険者達が集まる酒場に、ハク達は集まっていた。

 

「なあお前ら、全闘戦って知ってる?」

 

「あ、知ってる!冒険者達による武闘大会でしょ?」

 

「へえ、そんなものがあるんですね」

 

 どうやら知らないのはハクだけのようだ。アインが彼のために、より詳しい解説をする。

 

「そう、冒険者の武闘大会のこと。より詳しくルールを言うと、ブロックごとに予選トーナメントを戦うわけ。ブロックの数は4、それで優勝しなきゃ本選には進めない。ちなみにSランクはエントリーさえすれば無条件に本選トーナメント出場、しかもシード権付きで1回戦を戦うことはない。けど4人までって枠が決まってる」

 

 本選を戦うのは8名。その中の4枠を勝ち取るのは、容易ではない。毎度名勝負が繰り広げられる、Cランクから参加が許される冒険者の祭典なのだ。

 

「………僕、出てみたいです!」 

 

「言うと思ったよ。ほら、エントリー用紙があるから行ってきな」

 

「はい!」

 

「ミシェルはどうするんだ?」

 

 ユリカがそう聞くも、彼女は出場しない意思を伝える。そもそも彼女は戦う力を持ってはいないからだ。

 

 

 そして、ギルドに到着したハクはエントリー受付のため列に並ぶ。すると横から、エントリーを終えたシグルド達が現れた。

 

「ハク………!よう、久しぶりだな。テメェも出んのか?あん時良くもやってくれたなア………!絶対に許さねえ!全闘戦でぶっ潰してやる!!!覚悟しろォ!」

 

「互いに頑張りましょうね!」

 

「フンッ、あんたなんかあたしが叩き潰してやるわよ!シグルドが出る幕なんかないわ!」

 

「………頑張って、応援してる」

 

 イレーナがギュッとハクの手を握り、激励の言葉を掛ける。それにハクは頷きで返した。

 

 そしてハクはエントリー用紙を受付嬢に渡し、無事受理された。これで後は本番まで特訓するだけだ。

 

 彼は受理されたことを伝えに酒場へ戻ると、3人にそのことを報告した。

 

「うむ、とりあえず良かったな。無事にエントリー出来て。私は必ず優勝する!負けんぞ!」

 

 その時。1人の男がユリカとミシェルに声をかけてきた。身長は180前後だろうか、アインと同じくらいの美貌を誇る青年であった。

 

 挿絵(By みてみん)

 

「2人とも、すっごく可愛いね。ねえねえ、俺と遊ぼうよ」

 

「なんだ貴様は名乗りもせず………断る!わ………私には既にこいつがいるからな、男なら間に合っているぞ!」

 

「私も彼がいるので………ごめんなさい」

 

 青年はそうかあ、と間の抜けた声を出して店を出ようとするそぶりを見せる。しかし彼は一向に店を出ない。

 

「断られると困っちゃうんだよなあ。君達、冒険者ランクは?」

 

「俺はAランクで、こいつはBランク。ランキングじゃ俺は8位だよ」

 

 アインがそう言うと青年はハクを鼻で笑った。見た目にはとても強そうには見えないため、寄生でランクを上げたと推測したのだ。仮にそうじゃないとしても、青年にとってはBランクなど敵ではなかった。

 

「俺はアルレウ。冒険者ランクはSで、今は4位の座にいるよ。全闘戦で当たった時は宜しく頼むよ。………ああちなみに、今回はSランクが4人共出る。まあ勝つのは俺だけどね」

 

「《超越者》アルレウ・ゴードンか。うわ、また面倒な相手だなあ」

 

「君達、本気で俺に勝つつもり?悪いけどそれ無理だよ」

 

 2人はアルレウを睨みつけ、敵対する意思を見せる。

 

「安心してよ、優勝すんの俺だからさ」

 

「勝つのは………僕だ!」

 

 その宣言の声を聞いたアルレウは満足そうに去っていった。とても愉快なものを見たというような顔をして。

 

「威勢が良いなあ、もし当たったら半殺しにしてやろうか。思い知ると良いさ、Sランクに楯突いたらどうなるかをね」

 

 Sランクは千差万別。白蓮のように人が良い者はまれで、むしろ偏屈でプライドの塊のような人間が多いのだ。

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 そして、予選当日。2日間に渡って予選は行われる。4つの会場で同時に行われる為、観客が飽きることはない。

 

 ルールは主に3つ。

 

 試合中の回復魔法及びそれに準ずる行為を固く禁じる。発覚次第即失格。

 

 スタジアムの外に相手を出せば勝利。

 

 スタジアム上に完全に倒れてから10カウント。それで動かなければ勝利。

 

 

 ただそれだけだ。冒険者の純粋な実力が求められるこの大会で、未だかつてBランク以下の冒険者が優勝した事例はない。ましてやSランクが創設されてからは、Aランクが優勝することも無くなった。

 

 

 そんな状況を打開しようと、今回も数多くの猛者達が集った。

 

 そして現在ハクは2日前に渡された予選トーナメント表を見て、不安な表情を隠せないでいた。彼はBブロックで、なんとシグルドと同じブロックになってしまったのだ。

 

 ちなみにアインはフレイヤと同ブロック。うっかり殺してしまわないかが心配だった。

 

 

 ハクの緒戦は二時間後に行われる。準備運動をしっかりとしておこうと会場の外に出た。すると、大柄な体躯の男とぶつかってしまった。

 

「あっ、すみません!」

 

「クソガキ、前見て歩………っ、なんだ、坊っちゃんか………1回戦では宜しく頼むぜ、逃げ出したりするなよ?」

 

「お互い全力を尽くしましょう!」

 

 ハクの緒戦の相手はドーン。彼が追放された翌日、ハクを馬鹿にした190cm超えの冒険者だ。

 

 1ブロックに出場する人数は32名。すなわち、5度勝てば本選進出ということになる。

 

 

 アインとユリカの試合は既に終わっているので、現在行われているフレイヤの試合を見ることにした。

 

 

 スタジアム上では、フレイヤが対戦相手を追い詰めていた。

 

「さあ、もう逃げられないわよ!これでトドメ!」

 

 スタジアムの際に追い詰められた相手を、三方向からの炎魔法による攻撃で倒した。

 

 

「やっぱりフレイヤさんは凄いや!あっ、もうすぐで時間だ!」

 

 

 

 急いで控え室に入ると、途端に彼は緊張し始めていた。

 

「………そうだ、これは………僕の戦いだ。皆にも、僕が頑張ってることを示すための………!良しっ!」

 

 

 そして30分後。彼はスタジアムへと入場した。

 

『さあさあ1回戦も大詰めだ!第7試合に出場するのは………Bランクのハク・パトリシアと、Cランクのドーン・ゴッズだー!』 

 

 緊張のあまり手と足が一緒に出ているハクに、観客から笑い声がする。それと同時に、女性観客の色めき立つ声も。

 

 巨大な斧を抜いたドーンと、ハクが対峙する。

 

『それじゃ始めるぞ!3,2,1………試合開始!!!』

 

 

 試合開始と同時に、ドーンの重量級の一撃が次々と振るわれる。しかし、ハクはそれを避け続ける。

 

(まずはかわして様子を伺う………そして、相手の動きを良く見る!)

 

 ギリギリで相手の攻撃をかわし続けるハクに対し、称賛の拍手が送られた。

 

「ハアッ………クソ!なぜ当たらねえ!!!」

 

(ここくらいで、軽く攻撃を仕掛ける!)

 

 ハクの手に、黄金の魔力が集まって球を形成する。彼の得意とする、魔力放出攻撃だ。

 

「ただの魔力攻撃か!来いよ坊っちゃん!ここは大人の余裕で………受け止めてやる!」

 

 観客席でその発言を聞いたアインは、ドーンを嘲笑した。

 

「うわ、死んだなアイツ。ハク~、とっとと終わらせな」

 

「そうだ!一発入れてやれ!!!」

 

「頑張ってー!」

 

 アイン達はハクの勝利を確信していた。そして。

 

「なっ………なんだこの威力………!ぐわあああ!?!?!?」

 

 

 ドーンは吹き飛ばされ、壁にめり込んで決着した。その威力に、会場は静まり返る。

 

『け、決着!勝者はハク・パトリシアー!』

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 緒戦を突破したハクは、その後も勝ち続けた。当然、アインやユリカも。ハクの予選決勝が行われる頃、ユリカとアインは既に本選進出を決めている。

 

 フレイヤはアインに、予選決勝で可哀想なほど一方的にボコボコにされた。現在は治療中だ。そしてなんと、イレーナは本選進出を決めたのだ。2人でそのことを喜びあったばかりだ。

 

 

 

 

 そして、スタジアムにハクとシグルドが現れた。彼は、敵意を………憎悪を剥き出しにしていた。

 

「ハク………ッ!テメェなんざここで俺がブッ殺してやる!泣いて後悔してももう遅いぜェ!」

 

「………っ」

 

 怯むハクに、アイン達が観客席から声を張り上げた。

 

「ハク!!!怖がるな!今のお前ならあんなの楽勝で捻り潰せるぜ!!!」

 

「そうだ!!!追放された悔しさを、何倍にもして返してやるのだ!!!」

 

「ハクー!あんなクソ野郎に負けちゃダメ!!!絶対、絶対勝って!!!」

 

 その応援で、彼の身体に勇気が沸いた。今なら、今の自分なら勝てると。

 

「………僕は………僕はっ!!!もう、少し前とは違います!!!僕は、強くなりました!!!それを今から、シグルドさんにぶつけます!!!」

 

「………テメェ!!!言ってくれるじゃねえか………!死んでも後悔すんじゃねえぞ!!!」

 

 

 

 そして、実況の号令と共に試合が始まった。

 

「ウオラアアァァァァ!!!!!」

 

 シグルドが持っているのは、いわゆるモルゲンステルンと呼ばれる武器だった。棒に、長いトゲが何本も付いた鉄球がくっついている武器だ。簡単には殺さない、だがただでは済まさないと、そう訴えているかのような武器だった。

 

 重く、鋭く、速い。その得物を自在に扱えるようになるまでの、たゆまぬ努力の数々が感じ取れる。確かにシグルドは、性格という点では最悪と言っても良い人間だ。しかし、Bランクに辿り着くまでの努力は、本物だった。

 

「………凄い、やっぱりシグルドさんは、凄いです!」

 

「どうしたァ!避けるだけで精一杯じゃねえか!」

 

「………ここだ!《ゴッドブレス》!」

 

 威力を最低限まで抑えたゴッドブレスが空から放たれようとするも、シグルドはあえてハクに向かって突っ込んでいく。

 

「簡単なことだァ!テメェに魔法を発動させなきゃ良いだけの話!それにテメェは近接戦が全く出来なかったよなァ!」

 

「あっ………!」

 

 眼前に振るわれる攻撃を避けるも、それは陽動。一瞬視界を塞ぐための攻撃にすぎない。

 

 ハクの前頭部に、シグルドの打撃が直撃した。

 

「ハクッ!」

 

「………こりゃあ、やべぇな」

 

 審判がダウンと判定し、10カウントを開始した。

 

 

『10,9,8 ………』

 

 

 致命的な一撃を喰らったハクは、頭から血を流して倒れていた。しかし、意識が飛んでいる訳ではないので、徐々に立ち上がろうとしていた。

 

「………やっぱり、凄い………です、シグルドさんは」

 

「チッ………しぶてぇな………だがよォ、そんな状態で何が出来るってんだァ!」

 

 次々と繰り出される打撃を避けるのに精一杯で、距離を取ることが出来ないでいた。

 

「オラァ!」

 

 メイスによる突きが命中し、腹にトゲが突き刺さる。しかし、ハクの身体は地面に付かない。むしろ、ここだとばかりに後ろに跳んだ。

 

「テメェ!まさかわざと喰らったのか!!!」

 

「はい!そして………ここからが反撃です!《ゴッドウィンド》!!!」

 

「アァ!?………なっ………!?」

 

 突如現れた凄まじい勢いの竜巻にシグルドの身体が持ち上げられる。

 

「テメェ………ッ!」

 

「《ゴッドブレス》!」

 

 シグルドの身体に、神雷(しんらい)が落ちた。それは、神の裁きか………はたまた、彼の中に眠る許せないという心が産み出した物か………

 

 

 試合は決した。彼は見事、追放されたことへの報復を果たしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。本選トーナメントが会場に張り出された。

 

「………へぇ、マジかよ」

 

「え、ええ!?」

 

「………兄上と、私が………!」

 

 

 本選一回戦………すなわち、準々決勝第一試合はユイルvs白蓮。いきなりSランクの1位と2位がぶつかり合う。

 

 第二試合はレイドvsユリカ。兄妹同士にして、騎士同士の対決となる。

 

 第三試合はハクvsアイン。直接戦ったことは無いものの、二人は互いの手をそれなりに知っている。


 第四試合はアルレウvsイレーナ。最も力の差が大きい試合だ。ハクvsアイン。直接戦ったことは無いものの、二人は互いの手をそれなりに知っている。

 

 

 果たしてハクは、Bランク初の優勝を掴み取ることができるのか。そして、優勝するのは誰なのか。それはまだ、誰にもわからない。

 

 

 

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