32話 全てを捨てる覚悟
ベリアルは憤怒の表情でハク達を見ると、腕に黄金の粒子を纏わせそれを発光させる。一瞬で移動しパンチを叩き込む。各自が防御をするが軽々と吹っ飛ばされ壁に激突する。
「ハアッ!」
ハクが熾と聖の属性の魔法を掛け合わせてベリアルに放つ。だが彼は手の平を攻撃に向けると、黄金のエネルギーと破壊エネルギーを打ち込んで相殺した。
レーツェルは巨大なドラゴンへと変身しフォルトゥナを背中に乗せると天高く昇ると空から炎のブレス攻撃を吐いて攻撃しようとする。それに合わせて白蓮はブラックホールを張り巡らせてベリアルの行動範囲を封じ、フォルトゥナがラーの目を使いブレス攻撃の援護をした。
そして放たれたブレスは今までで最大の威力となり、山をも破壊するほどの威力と化した。
「………ククク、これがお前の本気か?《デッドエンド・ストーム》!」
黄金と黒いエネルギーが竜巻のように彼を取り囲み、ブレスを打ち消した。それは上空にいる2人を巻き込み捕らえて、離さない。地面に向けて急降下すると同時に白蓮、ハク共々巻き込み白い光と共に大爆発を起こす。
「「「「ぐあああああアアアッッッ!!!」」」」
今の攻撃のダメージは彼らにとっては重く圧し掛かる。遂に全員が倒れ伏し、まともに動ける者がいなくなってしまった。
「………クソ、今ノで力が………グッ!」
肩を抑えて呻き崩れるレーツェルに寄り添うフォルトゥナ。だが彼も身体の至るところから血が出ており、最早まともに戦える状態ではない。
「肋骨が折れました………!修復は出来るが、もう力が残っていない!白蓮さん、ハク君!後は………頼み、ます………!」
レーツェルは残った力を振り絞り巨大な鳥に変身して倒れた者たち安全なところまで運び、自身も戦闘から離脱した。白蓮は足を痛めたハクを支え、肩を貸して立ち上がる。
ハクは回復魔法で治し、杖をしっかりと持って怪物と化したベリアルに立ち向かう。黒いエネルギーが龍の形となりハクに襲い掛かる。そこには破壊の力が十全に込められていた。
「うおおおおおっっっ!!!」
白蓮は咆哮をあげながら白い光の十字架上の剣を振りかざして龍を断ち切ろうとする。だが押されてしまい徐々に彼の身体が浮き上がろうとするもなんとか踏ん張り、彼の背中から炎が吹きあがり龍の顔を抑え込む。
「絶対に引き下がらない!時間を稼ぐことしか出来ないけれど、僕は僕の役目を全力で果たす!」
「無駄なんだよ!ただの人間如きが!ハクは特別なんだ、お前らとは違うんだよ!!ここで砕け散れ!」
「彼は君を殺すことを躊躇っている!彼がそうする限り、君を足止めするのは僕の仕事だ!」
「躊躇ってる?殺せねえの間違いだろうが!実力でなァ!」
そして遂に白蓮が吹き飛ばされ、黒い龍がハクに迫る。
「ハク君!!!避けろーーーーッッッッ!!!!」
白蓮がそう叫ぶも、ハクは依然として目を閉じたまま動かない。
(………兄さんの、あの姿………僕にも、出来たら………!そもそも、どうやってあの姿になったんだろう)
そのまま彼の身体が呑み込まれると同時に、龍は爆裂した。盛大に吹き飛び倒れ込んだハクに対しトドメを刺そうとばかりにベリアルは黄金と黒のオーラを竜巻状に右腕に凝縮させ、彼の身体を殴りつけた。
その瞬間世界が白く焼かれたように眩い光がハクの身体から放たれた。
「………!?」
「なんだ………!?」
爆光が収まると、光に包まれた姿のハクの背中からは白い魔力結晶で出来た翼が6つ生え、頭からは白い角が2本突き出ていた。
元々白かった肌が更に白くなり、目からは赤い稲妻の紋様が浮かび上がっている。更には目の色が赤くなっていた。
「くははっ!やっぱりお前は最高だなぁ!ハク!お前もとうとう覚醒に至ったわけだ!これでお前は俺と同じバケモノになっちまったんだもんなぁ!」
「………僕も兄さんも、バケモノなんかじゃない」
「あぁ?自分の姿見てみろよ、誰がどう見てもそうだろうが!」
「姿が変わっても、理性をなくしたわけじゃない!だから、そんなこと言わないでよ!」
ハクの言葉に歯噛みすると、ベリアルは破壊のエネルギー球を無数に発射した。
ハクは自身の眼前に大量の魔力晶体を生み出し、それを次々と発射する。
「何ッ!?」
それらが相殺されると、ハクは全属性の魔力を1つにして杖に集めると、そこから生まれた虹色の球体を発射した。
「今までとは違う!白ではなく、虹色になってる………!?」
「覚醒した神力も混ざってやがるな………!良いぜ、来い!」
ベリアルも自身の持つ3つのエネルギーをビーム状にして放って迎撃する。だが人の頭ほどの大きさのそのエネルギー球はあっさりとそれを割り割いて進んでいく。
「っぐ、あり得ねえ!こんなことが………!《デッドエンド・ストーム》!!!」
黄金と破壊のエネルギーを竜巻状に膨れ上がらせた後、それを超圧縮して腕に纏わせ殴りつける。だが突如飛来した白い刃に腕を断たれてしまい技が解けた。
「なっ………!ぐ、アアアアアッッッ!?!?!」
斬られた個所から黄金色の体液が吹き出し、痛みに苦悶するベリアル。ハクがゆらめいたと思った瞬間、彼は一瞬にして眼前に移動していた。
黄金の神力結晶を纏わせ鎧のようにして身を守っていたが、ハクの手のひらから生成されたハンマー状の結晶体に殴られるとそこが割り砕かれる。
「何なんだ、テメェは………!ハクじゃねえ、誰かに意識を乗っ取られてやがんのか!?」
気づけばハクの目からはハイライトが消え失せ、まるで何者かに操られるように彼は動いていた。信じられないほどのスピードとパワー。純粋な神の力は、混ざりものであるベリアルのそれよりも上だったのだ。
「それは違うよ。ただ、僕はもう………兄さんを許せない」
(なんなんだこの膨大すぎる魔力と神力は………!?どうなってんだ、こんなの制御できるはずが………ッ!違う、制御回路をぶっ壊して無理やり………!!!じゃあすぐに空にならねえのはなんでだ?)
覚醒したことにより、閉ざされていた魔術回路が彼の身体の中で開かれた。世界樹と呼ばれる神界に満ちるエネルギーである神力の源であり、それを世界に供給する役割を果たす樹木型の超巨大な神力結晶。そこへ接続回路を繋いだため、直接無尽蔵に神力が供給され続けるのだ。
彼は混じり気のない純粋な神力をそのまま操ることができる為、故に魔法の威力もこれまでとは次元が違う威力を誇る。
「バカな………!こんなことが………」
身体の神経を全て神力を操るための回路へと変化させた為、彼の弱点であった身体能力の低さが解決されたことになる。
ハクは杖を持つと、そこから白い太陽を思わせる火球を放った。
「チィッ!《レイジング・バースト》!出力MAX!」
青く輝くエネルギー球を放ちそれが火球とぶつかる。互角だったが徐々にハクの攻撃が押していき、燃えるようにしてレイジング・バーストを呑み込み焼き尽くしていく。
「攻撃を焼ききっただと………っ!」
ベリアルは眼の前に迫る火球に対し逃げを選択。避けてどうにか回避したが、一気にピンチになってしまった。
「………だったらもう、全ての力を使い尽くしてやるよ。調子に乗ってんじゃねえぞハク!!!」
「必ず兄さんを倒す!!!」
2人は向かい合うと、自身の持つ最高の技で相対することを選択した。
「《ラスト・アポカリプス》!」
「究極魔法………原初の2!《聖なる覇龍》!」
眼上に広がる漆黒の超巨大エネルギー。それはまるで全てを破壊し尽くさんという勢いで迫り、余波だけで建物や瓦礫が次々と破壊されていく。
魔法陣から白く光り輝く巨大な龍が姿を現し、放たれた攻撃を食らい尽くそうと天に昇っていく。
2つの力が激突し拮抗し合う。光と闇がぶつかり合っているようにも見え、それは2人の強さの象徴だった。
だが白い龍は天まで轟くかの如き咆哮を上げると、その口に光のようなエネルギーを溜め込む。
「兄さん!これで………終わりだ!!」
閃光が放たれた。ビーム状に一点に放出されたそのエネルギーは、エネルギーの中心を居抜き、浄化されるようにラスト・アポカリプスが燐光となって消えていく。
「こんなことが………っ!ありえ、俺が………負け………!?」
断末魔を上げる間もなくベリアルは光に呑み込まれていく。黒煙を上げながら地面に堕ちていき、彼の身体は消えかかっていた。
原初の魔法である究極魔法ですら仕留めきれなかったことにハクは驚愕するも、だがもうベリアルが戦えないことは彼にとっても明白だった。
「………あーあ………ったく、俺の負けだよ………」
「兄さんは本当に………強かった………!ガハッ、ゲホッ………!」
覚醒状態が解けた途端ハクは膝から崩れ落ち、吐血をした。自身の限界を超えた動きを今までしていたことで、脳が混乱し筋肉は悲鳴を上げ、全身が痙攣していた。だがそれでも、そんな状態でも彼はベリアルに、倒れ込む兄に寄り添い手を握る。
「これじゃ、どっちが勝ったか分かんねえな………クク」
「そう、だね………、アハハ………」
ボロボロの姿で倒れ込み、口から血を流しながらも彼はまっすぐにベリアルの顔を見た。
「………じゃあな、地獄で待ってるぜ。ハッハッハ………!!!クハ、アハハ………!」
限界を超え、さらなる強さを求めて力を奪い続けてきたその代償とばかりに彼の身体から黄金の炎が噴出し、彼の身体を天へと召す燐光へと変えていく。
「兄さん………また、会えるよね………?」
その問いかけに笑みを持って応えたベリアルは、完全にこの現世から姿を消した。
「ハク君、大丈夫かい」
「白蓮さん………何とか、大丈夫です………」
「どうやら終わったようだね。けど、まだ魔王軍幹部は残っている。いつまた襲ってきてもおかしくはない。油断は出来ないよ」
「はい、そうですね………」
「じゃあ、皆の待つ場所へ戻ろうか」
暴食の魔人ベリアルを倒したハク。さらなる強さを得たが、その代償として彼は1週間の間一度も目を覚まさずに眠り続けた。
◆◇◆◇◆◇
1ヶ月後。元いた王国へと戻ったハク達は変わらずクエストをこなしながら日々を過ごしていた。
「じゃじゃーん!見て見て!ほら、ハクも!」
「………ん、私達、Aランクに昇格」
「ま、当然だな」
シグルド達3人は戦いでの武功が認められAランクへの昇格を果たしたのだ。
「わあー!おめでとうございますー!」
「凄いね!おめでとう!!!お祝いにさ、大きなケーキ買おうよ!」
自分のことのようにわいわいキャッキャとはしゃぐハクとミシェルに対し、アインとユリカはこれからが大事だぞ、と気を引き締めさせる。
「お前たちの目の前には、私という壁がある。それを超えたとしてもSランクという壁が待っているぞ」
「た、確かに………そうね」
少し締まった空気をミシェルが緩ませるために、ケーキを買ってくると言い出ていった。ハクも着いていき、彼が収納魔法から取り出したのは、7人分の大きさの巨大ケーキだった!
「「わああああ〜〜〜!!!」」
「美味しそう………じゅる」
「ま、まあ………食べてやらんこともないな!」
「おっきなケーキ………!早く食べたいです!」
「皆してガキみてぇだな………」
「まあまあ、今日くらいは良いじゃねえか」
皆が目を輝かせながら、ケーキを頬張り、買ってきた料理を並べて皆で酒を飲む。ベリアル討伐の祝いも兼ねた、ささやかな宴が始まった。
皆が良い感じに酔ってきたころ、イレーナはハクを連れ出して外へ出ると月が良く見える高台に行った。設置されていたベンチに座ると、2人は満月を見ながら少しばかり無言の時間を過ごす。
「………ハク」
「はい?」
軽い酔いの影響もあってか少しばかり呆けていたハクに、突如としてイレーナは声を掛けた。彼女の綺麗な顔が思ったより近くにあり、彼の心臓は少しばかり高鳴っていた。
「………ハクのこと、ミシェルから全部聞いた」
「そう、ですか。アハハ、がっかりしたでしょ、僕が人間じゃないなんて知って………皆はいつもみたいに振る舞ってくれているけど、ほんとは怖いんです。弱い人として扱われていた僕が、今度は一転………化け物みたいにみられるんじゃないかって」
「………それは違う。ハクが神族だったとしても、中身はおんなじ。優しくて、誰にでも気を配れる人。ハクはハクのままで、何も変わらない」
「………イレーナ、さん………ありがとうございます」
少しだけ気持ちが軽くなった彼は軽く伸びをすると、イレーナのことを見る。すると彼女はハクの手を握り、深呼吸をすると手に持っていたものを彼の薬指にはめた。
「ハク。私は、あなたのことが好き。パーティーで一緒だった時から、ずっと。気持ちは変わらない。だから、私をハクのお嫁さんにしてほしい」
その真っすぐな言葉に、ハクの顔が真っ赤に染まる。でも、と焦る彼の言葉を彼女は待った。少したって狼狽が収まったころ、ハクは自分の気持ちを口にした。
「僕は、ミシェルのことが好きです。でも………イレーナさんのことも、気になってて………あの頃の僕に優しくしてくれたのは、イレーナさんだけだったから………」
まだ彼には恋と言う感情が明確には分からない。だが、イレーナのこともミシェルと同じくらいに大切に思っていることを自分なりに一生懸命に伝えた。だからこそ、その気持ちにどう答えれば良いのか分からないと彼は言った。
自分には想像も付かないような強敵と戦い、時には残酷な現実に絶望しながらも、何度倒されても立ち上がり自分の限界を幾度も超え、次々と襲い来る魔王軍幹部を倒して見せたその姿。自分と同じくらいの小さな身体には、数えきれない人々の想いが乗っているのだから。
「戻ってきてなんて言われて………普通なら、私達のことなんて知らないって見捨ててる、はず。けど………受け入れてくれた。あんなに酷いことしたのに………私、ハクが追放されたとき、見ていられなくて、でも逃げ出しちゃって………止めることができたはずなのに………!ずっと、今でも後悔、してる………!」
「大丈夫です。ほんとに、何も気にしていませんから!だって今も昔も、僕達は仲間じゃないですか!」
見て見ぬふりをしてしまった後悔が涙となってとめどなくあふれ出る。ごめんなさい、と何度もイレーナは彼の膝の上で謝り、彼のズボンを濡らしていた。
「イレーナさん、後悔も懺悔も今ここで終わりにしましょう。僕は皆さんのことを受け入れた時、全部水に流したんですよ?だからもう、泣かないで」
「………ん、分かった………ごめんね、もう、大丈夫」
泣きはらした顔で小さく頷くイレーナの手を握ったハク。彼女は愛しい人の顔を見て、思わず口づけを交わした。
「んっ………!?」
「私、これからハクと毎日一緒に寝て、おやすみのキスして、おはようのハグする。ミシェルの前でもイチャイチャする。もう、ハクを我慢しないから」
とんでもない方向に吹っ切れてしまったイレーナ。彼女は帰った直後にみんなの前でハクを抱きしめてキスをすると、全員が絶句した。
「私、ハクにプロポーズした。ミシェルのことも私のことも好きって言ってくれた。しかしシュタイン王国では重婚が許されている。つまりこれはもうミシェルに勝ったも同然。だから私が第一夫人」
ドヤ顔で言ったその言葉にミシェルが反論し、互いに譲らない舌戦が始まった。だがそんなもので決着がつくはずもなく。酔っていた影響なのか、翌朝にはどうでも良くなっていたのだった。
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