3話 神秘の森
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ある日。朝食を取り終えたハク達は依頼が貼られているボードを見て、受ける依頼を決めていた。
「………どうしようかな」
「決まった?」
「いや、まだ良いものが無くてさ。どうしようかな………」
ちらっとアイン達の方を見ると、もう既に二人は受ける依頼を決めたようだった。
「ここなら良いのではないか。おい、お前達!こちらへ来い!」
「これいいんじゃね?」
覗き込むと………それは、神秘の森と呼ばれる場所にモンスターがいないかの調査だった。
仮にモンスターがいるならば、駆除して住めるような場所を確保してほしい、とのことだった。
「賛成です!神秘の森だなんて、良い名前ですね」
「私も賛成!森をゆっくり歩いてリフレッシュしようっと!」
馬車を使って30分。だが金が勿体無いので、ハクの転移魔法を使って神秘の森に到着した。
鳥の鳴き声が響き渡る、森の中。小さな光が漂い、名前の通り神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「うわあ………なんか、綺麗だね」
「お、あそこにウサギがいるぜ。捕って食う?」
「ダメですよ!可哀想じゃないですか!」
「はいはい、冗談だよ」
4人はしばらくの間歩き続けていると、何やら奥の方で動物達の騒ぎ声が聞こえた。
もしかしたらモンスターや密猟者に襲われているのかもしれないと考えた4人は、すぐさま向かった。
そして行ってみると。サルやウサギ、ネコなどの動物達に1人の青年が群がられていた。
「はは、くすぐったいよ。分かった分かった、後でたくさん遊んであげるからね。おお、よしよし………」
その光景に驚き、固まっていると。青年の方から声をかけてきた。身長180ほどの、美青年だった。
「………おや、お客様かな。いらっしゃい。ようこそ、神秘の森へ。僕は白蓮。18歳だ。君達の名前は?」
「僕はハクです。冒険者で、ランクはBです。宜しくお願いします」
「私はミシェルです!Eランク冒険者です!宜しくお願いします!」
「む、私か?私はユリカ。Aランク冒険者だ。この森は良いところだな。こちらこそ宜しく頼む」
「俺はアイン。俺もAランク冒険者。宜しく。ここにはモンスター調査の依頼で来たんだよ。どうやらここに依頼した奴は移住を考えてたみたいだけど」
なるほど、と白蓮はポンと手を打ち、ニコリと微笑んだ。
「それはご苦労様。へえ、モンスターがいなかったら住みたかったのか。残念ながらここには僕が住んでいるからね………可哀想だけど、依頼した人には移住を諦めて貰わないと。………それにしても君達は偉いね。毎日こうして依頼をこなしているんだろう?頑張っているんだね」
「ありがとうございます!」
「………オイオイ、まるで他人事だなぁ。《万象》の白蓮さんよ」
「………っ」
白蓮の表情が少し緊迫した物に変わった。
「どういうことですか?」
「こいつはSランク冒険者。《万象》の二つ名を持つ男だ」
「「Sランク!?」」
「通りで………魔力の質が澄んでいたんですね」
白蓮は諦めたように笑い、自らの正体を明かすことにした。
「………改めて自己紹介するよ。僕の名は白蓮。Sランクの冒険者で、《万象》の二つ名を持つ。普段はこうして森で動物達と過ごしているよ。依頼は………年に一度受けるくらいかな」
「年に一度って………それ、ギルドから怒られねえの?」
そうアインから問われるも、朗らかな態度は全く変わらない。
「僕はSランクだからね。最高位の特権という奴さ。ギルドを通した国からの依頼とかなら、受けるしかないけど」
次に質問したのは、ハクだ。なぜこの森に住んでいるのか、ということだった。
「ここは元々は魔獣の森と呼ばれてて、危険なモンスターが多く住む暗く淀んだ場所だった。けど、デーモンブルやキングミノタウロスなどの危険度Aのモンスターによって元々住んでいた動物達が狩られ始めて………ギルドから直々に依頼を受けて、モンスターを掃討した。その結果、この森を住み場所にして良いことになったのさ」
「掃討したって………1人で?」
「うん。………200体ものモンスターを倒すのは、少し心が痛かったけど」
200体もの危険度Aのモンスターを、たった1人で討伐してしまうなど尋常ではない。目の前にいる男の強さを4人は改めて認識した。
「生き物を大事にする白蓮さんにとっては、さぞかし………」
「………同情してくれるのかい?ありがとう」
するとアインが、白蓮に提案を持ち掛けた。
「………なあ白蓮さん。俺と勝負してくんない?Sランクなんて滅多に会えねえ貴重な存在と知り合えたんだ。この機会を逃すわけにはいかねえな」
「アイン!貴様突然何を!?」
「そうですよ!それに、一体どこで………」
白蓮は少し考えたあと、首を横に振った。
「………僕は戦わない。争いでは何も救えない。ただ、無益で血が流れるだけだ。それに、僕が戦うときは森の動物達が危険に脅かされた時だけだ。すまないね。他を当たってくれ」
頑として首を縦に振りそうにないので、アインは仕方なく諦めることにした。
「んじゃ、動物達と遊ばせてくれ。それくらいならいいだろう?」
「それなら大歓迎さ!ほら、皆おいで!」
大きな口笛の音が森に響くと、鳥や熊、サルなど多種多様な動物達が大勢集まってきた。
「熊だ!わあ!食べられちゃうよ!」
「安心して。彼は人を襲わない。そう僕が教えたからね」
ハクが恐る恐る手を伸ばすと、熊はそこに手を乗せてきた。
「わ………ほんとだ」
ユリカとミシェルは、愛らしい動物達との触れ合いに夢中だった。
「うわー!ネコちゃんだ!可愛いー!」
「ほう、ウサギか!可愛いものだな」
そんな中、アインは5匹のサルを相手にからかって遊んでいた。
「面白いもの見せてやるよ」
「ウキ?」
アインが指をパチンと鳴らすと、水の分身が増えた。
彼が7人に増えたと錯覚しているサル達は目を丸くしている。
「「「本物の俺はどーれだ?」」」
身ぶり手振りで、サル達に本物の自分を当てたらバナナをあげることを説明する。
サル達は相談し、それぞれが思う方へ指をさした。すると、1匹だけ正解した。分身を解き、そのサルへバナナ1本をあげた。
すると、残りの4匹が物欲しそうに見つめてくるので仕方なく、全員にバナナをあげてしまった。
「全く………仕方ないな。………ん、俺にもくれるのかい?ありがとうな。………あ、美味ぇ」
そしてしばらく彼らは動物達と触れ合い、そろそろ帰ろうと準備をしていたころ。
「何かがまっすぐこちらに向かって来てるよ!ドラゴンの群れみたい!」
「なんで分かんの?………まあそれは良いや。白蓮さん、あんたは動物達を守ってな。俺達が相手するよ」
「いや、結構。森の動物達に危害を加えようとする奴は………僕が相手をしよう」
アインにとっては願ってもないチャンスだった。白蓮の実力を間近で見られるからだ。
ドラゴンの数は7匹。ワイバーンやファイアードラゴンなど、凶暴な種ばかりだ。
「援護はいらない。Sランクの実力を確かめたいんだろう?なら、ここで黙って見ておくんだ」
先程とは違い、自信に満ちた表情で言い切る。その姿には、畏怖せざるを得ないほどの迫力があった。
7匹のドラゴンが一斉に白蓮に迫る。全長10~15m近くの大きさのドラゴンが空から自分を狙ってくるのだ。普通の冒険者なら物怖じどころか、一目散に逃げ出してしまいそうな状況。
しかし、白蓮は歴戦の猛者。全く動じずに薄笑いを浮かべ、ドラゴンを迎え撃つ。ハク達の後ろにいる動物達も心配そうな表情で見守っていた。
ドラゴン達が一斉に攻撃を仕掛けた。炎や雷、闇のエネルギーなど、多彩なブレス攻撃を放つ。
「やれやれ全く、ドラゴンというのは揃いも揃って同じような攻撃をしてくるんだね」
白蓮はドラゴンに向かって手のひらを伸ばすと、ブレスは彼の眼前で、透明な障壁のようなものに防がれ霧散した。
「なるほど、こんなものか………君達に問おう。なぜ森の動物達を襲おうとしたのかな」
ドラゴン達は一斉に咆哮を上げ、白蓮を威嚇する。しかし、彼の表情は少しも険しくならない。
「同時にそんな大声で喋られたら鼓膜が破れてしまうよ。………なるほど、動物達をさらって食べようとしていたんだね。この世は弱肉強食とはいえ、この森の動物を食糧にされては、僕が困るんだ。………悪いけど、立ち去ってもらえるかな?」
動物と意思疏通が出来る白蓮は、この場から立ち去り住みかに戻るように交渉する。しかし、プライドの高いモンスターであるドラゴン達は、その言葉に激昂した。
「………仕方無いな。これ以上の対話は難しい、か」
一歩たりとも動かずにドラゴン達の攻撃を凌ぐ姿に、ハク達は驚愕した。
「………一体どうやって」
「白蓮さんの手前で何かに弾かれてるような………」
白蓮は覚悟を決めた表情で、ドラゴン達に向かってこう言った。
「致し方ない。………君達の命は、ここで終わりだ」
その言葉を口にした瞬間。───全くの同時に、ドラゴンの心臓が止まった。
動きを停止し、墜落していくドラゴン達をハク達は茫然と見つめていた。
「「………は………?」」
「何が、起こったの………?」
「あんた、一体何をしたわけ?」
その質問に、白蓮は平然とした顔でこう答えた。
「 彼らの寿命を終わらせたんだ。 可哀想だけど森の動物たちを守るためには仕方がなかったんだ。良ければ君たちも彼らを供養してやってくれ」
「 そう言われても意味が分かんないんだけど。一体どうやって寿命を終わらせたわけ?」
「 詳しくは言えないけど、僕の能力によるものだと考えてくれれば良いよ」
ドラゴンの寿命をも終わらせることができる能力の強さに彼らは驚嘆した。 一体白蓮の能力の正体が何なのか推察したがまるで見当がつかない。ハクは白蓮に、他に何かできることはないのかと聞いた。
「そうだね、例えば………こんなことも出来るよ」
白蓮が一本の大木に触れた次の瞬間、 一瞬で木は朽ち果て、 そして元の姿に戻った。 次に彼が森の地面に触れると 、 森中に花畑が広がった。 チューリップやバンジーなど色とりどりの花が咲いたことに動物たちも喜び、騒ぎ出した。
その神秘的な光景に彼らの脳は理解を拒否しようとしたが、 必死に能力の正体を突き止めようと思考を巡らせる。 しかし、まるで超常現象のような出来事に理解が追い付かない。
一旦彼らは考えることを辞め、 その光景を楽しむことにした。花畑を見ていると後ろから白蓮が口を開いた 。
「 この花畑は永遠に枯れることはない。 しかし花が増えることもない。 不変であることは人生において最も重要なことであると僕は思っている。 退化も進化もしない、こんな平穏な世界がずっと続けばいいと思っている。しかし僕の願いは、魔王軍がいる限り叶うことはないだろうね。だから僕は彼らが森に入ってきた時に、積極的に倒すようにしているよ」
「 白蓮さんは、魔王軍幹部の人を倒せる自信はあるんですか?」
「 そもそも彼らは人じゃない。全員魔族だけどね………でも倒せる自信はあるよ。 戦ったことはないんだけどね」
ハクは戦ったことがないのに倒せる自信があるとはどういうことかと聞こうとしたが、それほどまでに自分の能力の強さに自信があるのだろうと勝手に結論付けた。
「………そろそろ日が暮れる。帰ろうぜ」
「はい!そうですね!白蓮さん、また遊びに行っても良いですか?」
「うん。いつでも構わないよ。またおいでよ」
「またねー!」
「達者でな」
ミシェルとユリカは動物達にお別れを言い、全員がハクの転移魔法で無事町へ着いた。
◆◇◆◇◆◇
そしてハクとミシェルは結果報告をしようとギルドに足を運ぶ。ドアを開けると、そこにはシグルド一行がいた。どうやら冒険者たちに囲まれて、称賛されているようだ。
無視して結果報告に行ったミシェルとは別に、ハクはその野次馬の中に混ざって彼らの現在の状況を探ることにした。
「アア?当然だろ?俺ならミノタウロスなんざ楽勝だってんだよ!………ククッ、よおハク。調子はどうだあ?」
ハクを見つけたシグルドは、彼の背中を蹴り飛ばした。突然の出来事に対応できず、思い切り倒れこんでしまう。
「ぐっ………シ、シグルドさん達……どうも」
「あ~、ハクじゃん!いや、ゴミ虫って呼んだ方が良い?今のアンタはゴブリン1匹倒せないんじゃない?ほんと1人じゃ何もできないクズね!聞いたよ、アンタAランクのパーティーメンバー2人いるんでしょ?まーたおんぶにだっこ?」
「僕だって………頑張って……」
今にも泣きだしそうな表情のハクを見かねたミシェルが止めに入った。怒りで拳が震えるほどに強く握りしめていた。
「いい加減にしてよ!なんでハクをいじめるの!」
「誰だテメエ!しゃしゃり出てんじゃねえよ!………ああ、あん時一緒にいた女か!オイテメエ、冒険者ランクは?」
「私のランクはE。それが何か?」
そういうと、シグルド達は彼女を嘲笑し始めた。シグルドはランク主義の思想を持つ。それ自体は決して珍しい事ではないのだが………彼の場合は、特にそれが顕著だ。自分よりランクが下のものを徹底的に見下し、嘲笑う。
「ぎゃははははっ!!!オイオイ冗談だろ?Eランクの癖にBランクであるこの俺様に喧嘩売ったのか?ククク、バカもここまでくると最早才能だなァ!俺たちはあのミノタウロスを倒したんだぜ?お前らには一生無理だろうなあ!!!」
ミノタウロスは、危険度Bのモンスターだ。鎧のように筋肉は堅く、巨大な斧を使って攻撃する。しかし、現在のハクにとっては大した脅威ではない。上位種であるキングミノタウロスですら楽に倒せるのだから。
しかし自分自身がそれをわかっていないため、ハクは素直に彼らを称賛した。ちなみに今のシグルド達では、キングミノタウロスを倒すことなど到底無理だろう。
「あのミノタウロスを倒してしまうなんて………凄いです!」
しかしそれに反論したのは、ミシェルだ。
「馬鹿にしないで!ちょっと前まではあなた達の方が強かったかもしれないけど、今はハクの方がずっと強いんだから!」
そんなミシェルの言葉を聞いたシグルド達は、腹を抱えて笑い転げた。
「こりゃ傑作だ!こんなゴミカスの方が俺らより強い?………あんま調子乗ってんじゃねえぞこのアマァ!!!!」
プライドを傷つけられたシグルドは、裏拳でミシェルの顔を殴り飛ばした。
「ミシェル!!!………良くも………良くもミシェルをっっっ!!!許さない!!!」
今まで我慢していたハクの怒りが、爆発した。無意識に放たれた金色の魔力が上に向かって放たれ、それがシグルドに向かって降り注ぐ。攻撃の余波で、凄まじい突風が吹き荒れる。
「ぐああああっっっーーーー!!」
それが少しばかり続くと、黄金の光柱は消えた。誰もがその光景に唖然としていた。シグルドは倒れ、ハクはふらつきながらも何とか立ち上がる。
この出来事は噂になって広まり、それからは誰もハクを寄生虫などとは言わなくなった。
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