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27話 禁忌

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「………がはっ………!」

 

 突如飛来した巨大な槍に身体を貫かれたアヌビスは武器である鎌を手から落とし、血を流していた。

 

「これは………!馬鹿な、グングニルだと………!ありえぬ!なぜ貴様がこれを………!」

 

 グングニルは白蓮の手へと戻り、彼は事の経緯を説明した。

 

「僕だって驚いたさ。あなた達の世界に干渉出来るとはね」

 

「………何?………何だと、馬鹿な、ありえぬ!!!神や高位の悪魔が人界に干渉することなど容易いが、人間が何の助けも借りずに天界に干渉するなど………!」

 

「神や大悪魔の連合軍………つまりあなた達が攻めて来ると知ったとき、僕は強く願ったんだ。この街を………皆を守りたいとね。気づけば僕は天界や冥界………この世界じゃないところにまでこの力を振るえるようになったんだ。能力が覚醒したとでも表現しようか」

 

「………っ!舐めるなよ、私は冥界の番人なのだ、貴様ごときに遅れを取ると思うか?」

 

 

 アヌビスは死を司る神にして、凶悪な悪事を働いた神や悪魔などが堕とされる冥界において秩序を乱す者を粛清しているのだ。当然、相当の強さがなければ番人など務まらない。

 

 

 

 

 人界で言う無期懲役の刑務所のような場所であり、天界へと戻された者は滅多にいない。

 

 

 アヌビスが鎌を振るうと、巨大な黒い斬撃が白蓮の首に向かって放たれる。

 

「無駄な足掻きはよせ………我が鎌で振るう斬撃は当たれば死をもたらすのだ、受けずに避けるのが懸命だぞ?」

 

 白蓮はあえて真正面からアヌビスに向かって突貫した。その様子を見た彼は嘲笑した後、縦方向に鎌を振るった。

 

 白蓮はその場にブラックホールを作り出し斬撃を吸収すると、その場から消えた。

 

 

「っ!?………消えた………!?」 

 

 後ろからの攻撃を紙一重で捌いたアヌビスは、白蓮が何をしたのかの見当が付いていた。

 

「貴様………本当に人間か?」

 

「正真正銘、人間だよ………神様からそんな言葉を聞くとは思ってもみなかったけどね」

 

「………この世界の人間はどうなっているのだ、おかしいぞ………単独であのトールを撤退まで追い込んだ者がいると聞いたが………」

 

「けど、不利なのはこちらの方だ。既に主力の半数が戦闘不能になっているこの状況………やはり僕が来て良かった」

 

「ふむ、やはり貴様は他の雑魚とは次元が違うな。だがしかし、私は冥界でも上位の実力者なのだ、人間ごときが敵うはずもない!」 

 

 

 戦闘経験も豊富で、秩序を乱す者を容赦なく処断するその恐ろしさは、冥界でも折り紙付きだ。

 

 

 白蓮はホワイトホールを設置し、宇宙の塵をなだれ込ませるが、アヌビスが振るった鎌から黒い斬撃が発生する。それは雪崩を切り裂き、ホワイトホールそのものをも絶ち斬った。

 

「防御は難しい………か、これはまた難儀だね」

 

 異次元的な威力を持つホワイトホールを豆腐のように容易く切り裂いた事実。死を司るというのはあながち嘘ではないと彼は感じた。

 

 防御に使われればどんな攻撃をも無効化し、攻撃に転ずればどんな防御も切り裂き確実に相手を仕留める無敵の刃と化す。

 

 因果を踏み越えた先にある死の力は、白蓮の運命操作をも無に帰す。より強い、死という因果が絶対的に作用するからだ。

 

 白蓮の能力は、より強い因果干渉能力には押し負ける。最も、そんな相手が現れたことなどなかったわけだが………

 

「ユイルほど手に負えないわけじゃないね」

 

 能力者としては無敵にして最強と、白蓮ですら感じるユイルに比べれば、目の前の敵はまだ倒す方法があるだけ易しく思える。

 

 

 

 そしてアヌビスもまた、目の前の男に対し驚愕を抑えきれていない。

 

 

 

(………あの男、ワームホールを作るとは………天界の科学知識を持ち合わせているというのか………人間界にそんな概念は無いはずだが………?)

 

 

 天界に干渉出来るから、そこの知識でもかっさらったのだろうとアヌビスは思い、再び鎌を握る。

 

 

 

「僕の方が不利か………こんな状況、久しぶりだ」

 

 アスタロトとの戦いでは五分と五分、ユイルとの戦いでは圧倒的な実力差があった。

 

 それ以来彼はユイルを倒すため、徹底的に知識を求め、高めた。戦いに活かせる自分の知らない知識を貪り、上手く使いこなせるよう鍛練をこなしてきたのだ。

 

「さて、どう攻略するかな………」

 

「フッ、無駄だ!」

 

 アヌビスにはこんな話がある。彼は死者の魂を素早く冥界へと運ぶため、とても足が速いと。

 

 その上冥界で彼は幾度も修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者。その強さは本物だった。 

 

 

 アヌビスの鎌が変形し、捻れた形をした槍と化した。唸りを上げ、高速回転しながら迫りくる攻撃を避けた白蓮は、海神ポセイドンが操る槍である三叉槍を携えて次々と迫る攻撃を弾くが、次にアヌビスは巨大な棘が隙間無く付いた巨大な棒を振り下ろす。  

 

 

「あらゆる武器を自在に使いこなせるということか………だったらこれはどうかな」    

 

 三叉槍を送り返すと、次に彼が取り出したのは魔槍ゲイ・ボルク。放った瞬間に当たることが確定し、回避は不可能の必殺の槍だ。  

 

 しかしそれはアヌビスの鎌によりあっさりと両断された。が、その程度は彼にとっては想定内。彼は使い捨て感覚で伝説の武器を使い、次々と試していきアヌビスの力の程度を測っていた。

 

「貴様………!小賢しい真似を!」

 

 武器を変形する前に次々と槍衾のように攻撃が襲ってくるため、反撃さえ出来ない状況が続く。彼は防戦一方だったが、攻撃を喰らうことなくいなしていた。

 

 

 

 

「ならばこれはどうだ?《デスサイズプリズン》!」

 

 一瞬にも満たない速度で高速移動しながら、死の刃を振るう。黒く染まった死の斬撃が全方向から襲い来る。この技で、レイドとグラディウスはやられてしまったのだ。

 

「………なるほど、当たれば負傷は免れないね。………君はこの程度で僕を倒せると思ったのかな」

 

 白蓮の姿が消えると同時に、斬撃が全てかき消された。その事実に愕然とするアヌビスは、白蓮に向けて鎌を振るうも、白い光刃に受け止められた。

 

「これは………っ!貴様………、自分が何をしているのか分かっているのか!?干渉の度が過ぎるぞ!神聖の概念礼装を………人間風情が………!天罰を喰らいたいのか貴様ァ!神の意志に背く行為を容易く………」

 

「………これは概念礼装というのか。なるほど。もちろん僕だって好き放題これを使えるわけじゃないよ。………ただ、君は冥界の神様でありながら僕らの住む人間界に攻め入り、多くの被害を出している。………これは君への、僕からの天罰だ」

 

 

 人間に、人間如きに神が使う天罰という言葉を使われること自体が彼にとっては不快の極み。神がそれを赦したという事実が信じられないことだった。

 

 概念礼装。それは、善や悪、火や水といった自然的な概念を形として受肉させた武具だ。無限にあるそれは、数多くいる神の中でも上位の者しか扱えない。天界に干渉する術を持つ白蓮は、死という概念を刃という形で操るアヌビスに対抗するため、説得を試みたのだ。

 

 

 それは成功し、漠然とした神聖という概念を、光刃という形で操る術を手に入れたのだ。

 

 

「私が怖れている………!人間を………!こんな、ことが………死を司る、このアヌビスが………!?………ま、待て………ぐあああああぁぁぁっっっ!!!!」 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 一方で、アニマとルシファーの戦いは熾烈を極めていた。

 

「フッハハハ!!!流石に衰えてはいないようだな、アニマ!」

 

「私は堕天した貴様を赦すわけにはいかない………!天誅を下す!」

 

 

 最上位格の天使は熾天使と呼ばれ、一介の神をも凌ぐ強さを誇る。

 

 白い光を武器などの様々な形に変形させるという戦い方をしている。ルシファーも黒い光を用いて、アニマを殲滅せんと次々と攻撃を繰り出す。

 

「天誅だと!?抜かせ雑魚が!我の後釜でしかない貴様ごときにこの我が倒せるとでも!?」

 

「ぐっ………」

 

 

 アニマが大きく吹き飛ばされた直後、ルシファーは後ろから突然現れた鉄の棘に全身を串刺しにされた。

 

「ガハッ………!?なん、だ………!」 

 

 

「動けなイと思っタカ?残念、死んデなイヨ!」

 

「死んだふり作戦………成功ですね」

 

 フォルトゥナとレーツェルはハイタッチしたあと、戦いへと向かう。フォルトゥナは《ヘパイストスの神造》を用いて全身鎧を着込み、戦斧と巨大な盾を持ちルシファーに斬りかかった。

 

 レーツェルはその身体をファンシーなクマのぬいぐるみへと変えた。

 

「………?!」  

 

 戦いながらも困惑を隠せないルシファーに対し、レーツェル改めクマのぬいぐるみが腕に取り付いた。

 

「離せ………、邪魔だ!」

 

 軽々と地面に落ちたぬいぐるみはその姿をスライムへと変えた。

 

 ルシファーを捉えようとその身体を伸ばすも、魔力を吹き出しただけでバラバラに散ってしまった。

 

 

「………!レーツェルさん!」

 

 散ったスライムの破片が強力な毒ガスへと変わり、ルシファーの身体へと進んでいく。

 

「おのれ………邪魔をしおって!人間の分際………いや人間か?………っち!」

 

 翼をはためかせて何とかガスを散らせると、その姿はフェニックスへと変わった。

 

「………ど、どうなっている………!?夢でも見ているのか!?」

 

「ピギイイイイぃぃィィッッ!!!」

 

 耳をつんざくような鳴き声。炎を発射し、物理的に追い込んで行く。

 

「ッ!」 

 

 その直後、防がれた炎が氷へと変化し、彼の身体に纏わりついた。

 

「ガ………ッ………………」

 

 そして彼自身の身体が剣へと変わると、フォルトゥナの元へと飛んでいく。

 

「奴を斬ればいいのですね。………やりましょう」

 

 

 レーツェルは能力を使い、ルシファーを凍り付かせた。完全に凍死した、はず。だからこそトドメを刺そうと剣に姿を変え、フォルトゥナの元へと飛んだ。

 

「………待て、お前ら!」

 

「「ッ!?」」

 

 

「ハッ………こんな小細工で我がやられるはずが無かろう?」

 

 気がつけば普通に行動しているルシファーに、フォルトゥナは目を見開く。レーツェルも元の姿へと戻り、戦闘に備える。

 

 

「全く、器用なことをするものよ。少し凍りつき始めた段階で気付いておったからな………あえて冬眠程度に留めておいたのはその為よ」

 

「………厄介だナ」

 

「我は傲慢の魔人………こんなものでやられるはずがないだろうが、バカどもめ」

 

「魔人というのは、ひっきりなしに来るものなんですかねえ」

 

 

 黒いエネルギーによる鞭攻撃をかわした3人はルシファーを取り囲む。そしてレーツェルは巨大なフェンリルへとその姿を変え、翼を食いちぎって見せた。

 

「グガアアアァァッ!!!!貴様、貴様なんということを………!?」

 

「一旦下がれレーツェル!」

 

 

 翼を新たに生やしたルシファーは一気に上空へと飛んでいく。一旦態勢を立て直すのかと思った瞬間、彼の身体から黒いエネルギーが槍のように襲い掛かってきた。

 

 アニマは難なく防いだものの、レーツェルとフォルトゥナはそれに貫かれてしまい、身体から黒煙を吹き出しながら倒れた。

 

「………脆いな」

 

「果たしてそうかな?まあ良い、ここからは私1人が相手だ」

 

 

 

 

 アヌビスは白蓮の光刃に貫かれ、冥界に撤退せざるを得なくなった。ルシファーとリリスを倒せば、後はベリアルだけという状況になる。

 

 

 

 

「………ぜぇ、ぜぇ………っ!立てフレイヤ!終わってねぇぞ!」

 

「分かってるわよ………!」

 

 シグルド達は次々と襲い掛かる敵を倒しながら、先程上級魔族を何とか倒したところだった。

 

「へへ、さっきのはAランクくらいの奴だったな。ハクのデバフに助けられたが………まだまだピンチには変わりねぇぞ」 

 

「………………あっ、2人共、誰かこっちに来る………」

 

 

 イレーナが指差した方向から、巨大なドラゴンの背に乗ったトロイメライがやってきた。

 

「………お前達、平気か」

 

「何とかな………つぅか、誰だよあんたは」  

 

「………………俺はトロイメライ。元魔王軍幹部だったが、今は神聖リュークス帝国の民だ。お前たちの味方だ、安心しろ。ここいらのはあらかた片付けた」  

 

「強欲の魔人だった人………?聞いたことある」

 

「………かつて俺はベリアルと共謀して世界を滅ぼそうとした。………嗤ってくれ、哀れな魔族だと」

   

「何があったかしんねぇが、テメェは今俺らの味方………それで良いだろうが、ごちゃごちゃ理屈並べてんじゃねぇ!」

 

「………………そうかもな」

 

 

 3人はトロイメライから貸し与えられたモンスター達を使役しながらどうにか敵を倒していく。

 

 

 トロイメライとアルレウ、ハクの尽力によりなんとか戦況を盛り返していた。そして刹羅とリリスの戦いは熾烈を極めている。

 

 

 

 戦いの行方は、誰も知らない。

 

 

 

 

 

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