25話 闘争
神聖リュークス帝国、帝都の城門。そこへ向けて進軍するベリアル達、神魔連合軍。その先頭を闊歩するのは、ベリアルやルシファー、アヌビスなどの主力級の者達だ。
「アヌビス!お前は他の神と連携を取って相手の主力を徹底的に潰せ!」
「了解………」
「こんなに良い気分で人間界を歩くのは初めてだぜえええええぇぇぇぇ!!!!!」
「面白そうな遊びじゃない、ここに来て良かったわ!」
「フッ、我も心が昂るわ………!」
「全部ブッ壊していいんだろう?ハハッ!」
魔王の息子にして、魔法神マナの血を受け継ぐ《暴食の魔人》、ベリアル。
最上位の天使だったが、人間に失望し魔族へと堕天した《傲慢の魔人》、ルシファー。
冥府の使者にして罪人に裁きを下す死神、アヌビス。
数多の戦いを経て闘神と呼ばれるに至った、トール。
冥界に住み、闇を司る魔女であるリリス。
5名の主力に加え、強力な魔族や人間に反意を持つ神々を従えた軍勢は、最早神話の再現と言っても良いだろう。
しかし人間………もとい、リュークス・シュタイン連合軍には怖れなど無い。人間の限界を超え、討伐不可能とさえ言われていた魔王軍幹部を倒した者もいるSランク冒険者ほぼ全員がいる。そして逢魔を除いた黄金の夜明けの幹部である聖人に、それを束ねるオリオン。
12人の主力がいるのだから、恐れずに立ち向かう勇気があった。
住民を避難させた帝都には、全ての戦力が集結していた。トロイメライの部下であり、魔王軍にスパイとして潜り込んでいる黄金の夜明けの密偵によると、彼らは一直線に向かっているとの事だった。
「全員聞いてください!冒険者各位、Sランクを首領として隊に分かれて各地に分散して下さい!軍と騎士団、魔法師団は大隊ごとに隊列を組むこと!」
「「「了解!」」」
集まった冒険者の数は全部で900人余り。ハクのグループに入ることを希望したのは150名程。平均で割るよりも少し多い数だった。
「少年!俺達の指揮頼んだぜ!」
「これが《聖天の魔術師》………凄まじいオーラだ」
「うおおおお!!!やってやるぜ!」
ハクは自分の隊を選んだ血気盛んな冒険者にあわあわしてしまい、どうしようかとおろおろしていると、後ろからシグルドが背中を軽く叩いた。
「落ち着け、テメェなら大丈夫だ」
「シグルドさん………、はい!頑張ります!えっと、皆さん聞いてください!今から僕が皆さんを転移魔法で一斉に北側へ飛ばします!魔術師の人は近接系の人をサポートしてください!それぞれに分かれて迎え撃ちましょう!」
そして光と共に指定の場所に転移した。一瞬で景色が変わったことにどよめく冒険者達。
「すげぇ………これが転移魔法………」
「高度で習得に時間がかかるとは言うが、この人数を飛ばすとは………」
「行けるかもしんねぇぞ!」
そしてハクはシグルド達や他の冒険者を20人ほど連れて、入り組んだ市街地に向かう。
「………敵が来るまで待機?」
「それしかないですね………僕は暴食の魔人の相手をします。皆さんは他の敵の相手をお願いします!」
「「「了解!!!」」」
必ず暴食の魔人を倒す。だが、相手が自分の兄かもしれないという思いがハクを躊躇させる。
「………お、おい………来たぞ………!」
「デーモンロードもいる!お前ら固まれ!!!」
「臆するな!怯むな!」
必死に自分に言い聞かせ、冒険者達は敵集団に対し向かっていく。ハクは別行動でベリアルを探しに走り出す。他の場所からも戦闘音が聞こえていることから、既に本格的な戦闘が始まっていることが分かった。
一方、アインは破壊の能力を以て魔族を次々と蹴散らしていた。1人で10の魔族を相手にしつつ、冒険者達の援護も同時に行っている。
「ぐああああ!!!」
「馬鹿な、キングオーガがあっさりと!?」
「く、くそ!体制を立て直せ!」
連合軍も魔族に善戦しており、複数人がかりで中級魔族の相手をしていた。
しかしそんな希望は次の瞬間、一瞬で絶たれた。天から雷轟と共に、激しく輝く光柱が降ってきた。
「「「ぐああああぁぁぁぁ!!!!!」」」
魔族も兵士諸共吹き飛ばされ、辺りにはクレーターが出来ていた。
「なかなかやるなぁ、お前。人間にしては強ぇ………これは当たりかな?」
光と共に現れたのは、闘神トールだった。徒手空拳で屈強な兵士達をぶちのめしながらここまで来たのだ。
「当たりかどうかは自分で判断してくれよ。名前くらい名乗ろうぜ、俺はアイン・サルファー。Sランク冒険者だ」
「俺はトール!闘神なんて呼ばれてるけど………まあどうでもいいや!とっとと殺ろうぜ?」
「んじゃお望み通り………ブッ殺してやるよ」
トールは右拳を握ると、そこに電気を溜め込んでフックを放つ。紙一重でかわしたアインだったが、放たれた電撃の余波による追撃が襲ってくる。懐に潜り込むと、破壊のオーラを拳に集めてアッパーを打つが、かわされる。そして腹を蹴るとすかさず拳を振るうが、受け止められた。
掴んだ拳を引き体勢を崩すと、トールは膝蹴りを放つ。しかし身を捻っていなし、逆にわき腹を蹴る。だが腕でガードされ、顔面に雷撃の拳が突き刺さる。それと同時に破壊の拳を頬にぶつけカウンターを決めた。
「やるねえ………素手喧嘩も行けるクチか?」
「格闘術くらい学んでるっつーの」
「ヘヘッ、人間にも良いのがいるじゃんかよ………なあああ!!!」
「顔面ボコボコになっても文句言うなよ神様ァ!」
2人は同時に拳を出し、それがぶつかり合う。ジャブ程度の力しか出していないものの、自分と格闘術でまともに戦える人間と初めて出会ったことに喜びを現にする。
「ステゴロはただの遊びくらいなもんだ、こっからはマジで行くぜ!」
トールは鉄の手袋をはめ、背中に着けていたハンマーを取り出した。それは片手で握れる程度の大きさであり、武器としては小ぶりな方だった。しかし赤々と焼けており、灼熱と化している。
「こいつは俺の相棒、ミョルニル。かつて巨人族に、俺の村が襲われたことがあったんだが………俺はこいつで、侵略した巨人を撃滅させたのよ」
「あんたの自慢話なんざ誰も聞いちゃいねえよ。んじゃ俺も、魔剣で対抗するよ」
アインが抜いたのは、片手剣ほどの大きさの魔剣だった。禍々しい意匠が施されてはいるものの、切れ味はレイドの持つ神剣に勝るとも劣らない。
「んじゃ………吹っ飛べ!」
トールはミョルニルをアインに向けて投げつける。その行為にとっさの防御態勢を取ることしか出来ず、直線状の建物ごと吹っ飛ばされた。
地面は大きく抉れ、地が焼け付き煙を発している。圧倒的な威力で敵を殲滅する戦い方が、彼の真骨頂だ。アインはかなりのダメージを負いながらも立ち上がり、魔剣に魔力を纏わせる。
「………人間がミョルニルの一撃を耐えやがった………!?」
「魔剣じゃなかったら今ので終わってただろうな。流石、大したもんだっ!」
アインは魔剣に魔力を注ぎ込むと、それにより生じる強力なエネルギーを両足に移動させ、一気に攻勢に出る。一瞬でトールの眼前に迫ると、首に向けて刃を振るう。
しかしミョルニルがそれを防ぎ、そこから激しい打ち合いが始まった。
いくら魔剣とはいえ、相手は灼熱のハンマー。打ち合いでは部が悪いだろうと判断したアインは距離を取ろうと下がるが、その瞬間を狙い済ましたようにミョルニルが投げ付けられた。
「やべっ………!」
轟音と衝撃、そして地面の焼けつく臭いが辺りに立ち込める。ミョルニルは土煙の中自動的にトールの手に戻ると、彼は二撃目を放とうと腕を振りかぶった。
しかしその瞬間、トールの腕が真っ二つに断たれた。驚きに目を見開きながらも激痛に苦悶する。
「ぐあっ………!な、なんだ………!?」
「奇襲成功~………ってな」
後ろからアインが声を掛けた。トールをからかうようなその表情に、彼は少し苛立ちを見せる。だがそれよりも、なぜ奴が後ろにいる?という疑問が浮かんだ。
「お前………何をしたっ!」
「さあね、答えるわけねぇじゃん」
アインは最初から、水の分身で相手をしていたのだ。持たせた魔剣は模造品、ただの案山子でしか無かった。
光柱に全員が気を取られている間に脅威を察し、精巧な分身を作り上げたのだ。本人はその間能力を使って屈折現象を起こし自身を見えなくさせたのだ。
「舐めんなよ、人間が………!」
左手でミョルニルを振るうと、即座に右腕が再生する。ミョルニルには再生の能力もあるのだ。
だが、トールには未だに気付いていないことがあった。今話しているアインが、本物の彼である保証などどこにもないということに。
「最初から俺を弄んでたのか………!?このガキが!マジでブッ潰してやる!!!」
「そんなにカッカしてると血圧上がりまちゅよ~」
「ガアアアア!!!こいつマジムカつく!!!」
あらゆる策を講じ、罠を仕掛け、真綿で絞めるように相手を自分の術中に嵌めていく戦い方が、アインの真骨頂だ。
考えてみれば、破壊の能力が強力だったためそれに頼りすぎていたということに気が付いたのだ。ハクと同じく、自らの力に振り回されて、本来の戦い方をしていなかった。
ミョルニルの一撃に対して馬鹿正直にパワーで勝負する必要はない。対策のしようならいくらでも思い付くのだ。更には建物という名の壁がそこら中にある。
この町がどうなろうがどうでもいい。白蓮辺りが復旧してくれるのだから。
「お前を倒すよ、俺らしく卑怯で悪どい手を使ってな」
「抜かせ雑魚が!消し飛べ!!!」
真っ向から倒さずとも、戦闘が出来ない状態にすれば良い。力で上回る必要などどこにもないのだから。
投げ付けられるミョルニルに対し、アインは大量の氷を生成した。当然それは氷塊を飴細工のように粉砕するが、この光景こそが彼が狙っていたもの。
砕け、そこら中に散らばる氷でトールの視界は遮られる。ミョルニルが戻ってくるまでには僅かな猶予がある。その間だけは、トールは無防備だ。異常なまでの重量を誇るミョルニルを投げつけるという動作は、彼自身にも負担を強いる。全力投球の直後に他を気にする余裕など、どこにもないのだから。
「………あ………?」
気付けば、後ろから穿たれた魔剣が心臓を貫いていた。
ミョルニルがその手に戻ると即座に後ろへ向けて振るいつつ、傷を癒す。
「知ってるよ、この程度じゃお前は死なないよな?………にしてもお前も馬鹿だな、同じ手に二度も引っ掛かるなんてさ」
「………ッ!!!」
トールはまたも自分が嵌められたことを察し、怒りを地面にぶつける。すると地面が溶け始め、マグマと化していく。
「お前さ………なんかやったろ?何だ?何をした?」
トールはアインの力に、彼自身による物だけではない………何かを感じていた。
「………あ、気付いた?いや、俺も分かんないんだけどよ、ある日急に────」
ある日の夜。ユリカと散々楽しんだ後、彼は泥のように眠っていた。夢の中で、黒く光る人型の光の輪が自分に話しかけて来た。
「|ᚢᛁᛋ ᛈᛟᛏᛖᛋᛏᚨᛏᛖᛗ?《力が欲しいか?》」
目の前からと、頭の中の同時に2種類の言葉が聞こえて来た。そのためアインはその言葉が理解できたのだが、頭の中には様々な疑問が浮かぶ。
「あんた、誰?何なの?」
するとそれはアインにも分かる言語で話し始めた。しかしやはり光の輪が実体を持って話している様は、奇妙に映った。
「私は”忘れられた神”。神の一柱だったが、いつしか解釈が歪み、存在さえ歪になった………ただの成り損ないだよ」
「神様が何の用だよ?」
「私は………貴様が気に入った。故郷を滅ぼし、善と悪の狭間で苦悩しながらも………それでも仲間のために、善で在り続けようとするその姿がな。敵を破壊するだけの力を授けよう。自分に正直になれ………破壊を愉しむだけの歪さが、お前にはあるのだ」
その瞬間、彼は身体の内に黒い穴を開けられた。それは小さいものだったが、途方もない………説明しようのない力が流れ込んでくるのを感じた。
三日三晩苦しんだ末、彼はこの戦いの前夜にそれを克服した。力が身体に馴染んだ証拠だ。
「………ありがとうな、神様」
そしてアインは身体の内に溜められ、今もなお供給され続ける力を解き放った。黒く光るその身体から発せられるエネルギーで、周囲の物が根こそぎ吹き飛んでいく。それを見たトールは、スパークを身体から発しながら、手を空に掲げた。
雷が空から降り注ぎ、それがトールの身体に直撃する。彼の身体が黄金に光りだし、周囲に雷鳴を轟かせた。そしてそれが止むと、彼の全身には稲妻状の文様が出来ていた。
「準備はいいな?」
「神の力を得たってんなら話は別だ。もう遠慮はしねえよ、全開で行くぜ」
ここから男同士の真っ向勝負。枷から解放された両者が激突した。
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