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23話 最強を求めて

 そして同日、梁山の村。刹羅が倒され、逢魔が脱獄したという話でもちきりだった。長老などの村の運営者達も頭を抱え、村中に重い空気が漂っていた。そんな中、白蓮は梁山を登り、頂上まで辿り着く。そこには彼の予想通り、逢魔がいた。

 

「………やはりここにいたか」

 

「白蓮。何か用?もしかして連れ戻しに来た?」

 

「いや、そんなことはしないよ」

 

 

 逢魔は空を見上げると、彼の視線の先には満月があった。

 

「今夜は月が綺麗だ」

 

「………確かにね。1つ聞きたいんだけど、なぜ………幼少の頃、長老達を殺したのかな」

 

「彼らはあの頃、村の少女達を食い物にしていたんだよ。儀式とか何とか理由を付けて、弄んで楽しんでいた。………俺の姉がそうだったからね。姉は失意のまま、今も部屋に閉じこもっている。だから殺してやったんだ」

 

「………そんな、ことが………いや、すまない。てっきり、悪意の元にやったのかと………」

 

 白蓮は目を伏せると、逢魔は肩に手を当てる。大丈夫、気にしなくても良いと。

 

「昔は3人で良く遊んだよね。まあ刹羅はこんな辺鄙(へんぴ)な村、出ていきたいとか言ってたけど」 

 

「そうだったね。けど、またこうして………ここで皆が再会できた。喜ばしいことだ」

 

 既に刹羅は村を出立したらしい。自由に気ままに、好き勝手にやっていることだろうと2人は思った。そして逢魔は白蓮に近況を聞いた。

 

「最近はどう?」

 

「ああ。今はシュタイン王国が近くにある森で動物たちと暮らしていてね。冒険者になって、Sランクの第2位になったよ」

 

「君らしいね。俺は神聖リュークス帝国の皇帝が直々に率いる組織に入っているんだ。今や幹部の地位さ」

 

「………へえ、そうなんだ。僕は最近、ちょっと依頼を頑張っていてね。この間は上空1万mにある天空竜の住処を誤って滅ぼしてしまってね………」

 

「俺は最近滅覇皇竜ゲオルギドスを倒したんだ。10秒もかからなかったなぁ」

 

 2人の視線が少しづつ熱を帯びた物へと変わっていく。2人は昔から力を競い合っていたライバル同士。こういった話をすると、どうにも熱に浮かされてしまうようだった。

 

 ちなみに2人の話は全て事実。天空竜の住処を滅ぼすなど、例えハクやアインでも不可能な話だった。1体1体が天災級のモンスターで、それが群れを成して100体以上で完全に統率された連携を以て襲い掛かってくるのだから。

 

 天空竜1体の討伐という超高難易度のクエストだったのだが、力加減を誤ってしまいうっかり全滅させてしまった。

 

 逢魔が軽く片付けた滅覇皇竜ゲオルギドスもまた、禁忌指定された強大なモンスターの1体。ドラゴンの中でも最高位の強さを誇り、大陸を滅ぼすであろう力を持っている。レーツェルやフォルトゥナでも討伐には時間がかかり、苦戦は必至。だが彼は、それをあっさりと倒してしまったのだ。

 

「白蓮、ちょっと手合わせしてみない?」

 

「………一発だけならいいよ」

 

 

 そして彼らは村から少し離れた山へと移動した。梁山とは別の山脈、天遼山脈と呼ばれている場所だった。厳しい環境の為、誰も近づこうとはしない。戦いにはうってつけの場所だった。

 

「じゃあ、行くよ」

 

「いつでもどうぞ」

 

 その言葉を皮切りに、両者は魔力を纏った拳を合わせた。ぶつかり合った瞬間、山が吹き飛び消滅した。逢魔はさらなる追撃を加えようと指に極小のエネルギー球を作ると、それを放とうとするもその前に白蓮によってその攻撃は阻止される。

 

「一発だけと言っただろう?何より今の攻撃は自然に破壊をもたらし過ぎる。ここでは危険だ」

 

 山脈を完全に吹き飛ばすほどの攻撃を逢魔は戯れに放とうとしていた。それを止めるのは確かに道理だった。しかしどこか物足りない逢魔は、このストレスを晴らしたい気分に襲われた。だがその前に、確認したいことがあった。

 

 

「………君が2位だって?じゃあ、1位は誰?」

 

「ユイル・リーズベクト。僕が知る中では、人類最強の男だ。僕は2度、あいつに負けたよ」

 

「聞いたことあるなあ。《全能》のユイルか。ちょっと手合わせしたいなあ」

 

「うーん、どうだろうね。ユイルはそういう事をあまり好まないからね」

 

 白蓮から見ても、逢魔は世界でも5本の指に入る実力者と言えた。ユイルに挑戦できる実力はある。だが、彼自身があまり戦いを好まない性格であるため、説得は難しい。

 

「無理強いは良くないか」

 

 彼はあっさりと諦めると、すぐにどこかへ飛び立っていってしまった。白蓮も自分の住む森へと帰り、村には一時の平和が戻る。とはいえ別に逢魔は何をしたというわけでもないが、そこに住む人々や有力者は事件の可能性に怯え続けていたのだから。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 王都にある屋敷で、シグルド達が武器を持って立ち上がる。それを見たアインが言葉をかける。

 

「どこに行く気だ?」

 

「ああ、俺らだけで討伐に行こうと思ってな。………あん時、俺らがクソみてえに逃げ帰って、ハクを置き去りにしたあのドラゴンによ」

 

 そう聞いた瞬間、ハクも立ち上がる。自分だって、足止めしかできなかった相手。今こそリベンジする時だ、と思った。だが、それをシグルドは拒絶した。

 

「じゃあ、僕も行きます!」

 

「来るんじゃねエ!!!今のテメェがいりゃ、俺達の行く意味がなくなんだろうが!俺らだけの力でやらなきゃいけねえんだよ、これは!」

 

「そうよ、今のアンタじゃ一発でドーン、それじゃアタシ達のリベンジの意味がないわ!」

 

「………わたし達だけでやることが大事。大丈夫。もうあの時のような失敗は犯さない」

 

「危なくなったらすぐに逃げろよ」

 

 

 

 任意の場所に転移できる魔道具、転移結晶を持った彼らは屋敷を出ていった。

 

 シグルドの装備はミスリル製の剣とメイス。フレイヤは炎を生み出す能力が使えるため、中距離を担当する。そしてイレーナは遠距離。水と氷、そして光属性の魔法が使えるのだ。

 

 

 彼らは森に入ると、最大限警戒しながら進む。自分達の力だけでやり遂げ、力を証明することが必要だった。

 

 関係が逆転し、自分達がアインとハクのおんぶにだっこという状態にならないようにと今回のことを決めた。彼らにだってプライドがあるし、自力でBランク冒険者まで辿り着いたという思いもある。

 

 Aランクに昇格し、もっともっと功績を上げなくてはならないと。

 

「ハクとアインは魔王軍幹部を2人も倒してんだ、俺達だって負けてられねぇ!いつまでも頼ってられっか!」

 

「そうよそうよ!必ずドラゴンを倒して………Aランクの昇格試験を受けるわよ!」

 

「………うん!」

 

 備えは万全。魔力回復薬にエリクサー、罠など、使えるものはなんでも使う。その上で挑む。

 

 

 自分達がお払い箱にならないとは限らない。役に立たなければ捨てられるのは自分達の方だ。せっかくハクが繋いでくれた縁を切るわけにはいかない。

 

 

 そして森の最新部付近に、そのドラゴンは鎮座していた。

 

「ファイアードラゴン!!!よう、5ヶ月ぶりだなァ!行くぞお前ら!」

 

 ドラゴンの弱点は首と心臓。そこを突けば倒せる。だが鱗が堅く、通常の矢や剣では攻撃が通らない。

 

「何のために………ミスリルの剣を手にいれたと思ってやがる!」

 

 イレーナの氷のトゲが目に放たれるも、炎でかきけされる。しかしブレスを放ち終わった直後に氷塊を顔面に叩きつけ、その隙に無防備な首へとミスリルの刃を通す。

 

 鱗の隙間を縫い、剣を突き刺した。空中で針に糸を通すような芸当なのだが、それが出来たのは本人の努力と、剣聖レイドに教えを請うた結果だった。

 

 ユリカがいなければ、そんなことは夢に終わっていた。そしてユリカともひたすら剣を合わせ、修練を積み重ねた結果が、実践で現れた。

 

 

「っしゃあ!どうだ!」

 

「油断しない!ブレスが来るわよ!!!」

 

「………皆、横に跳んで!タイミングはわたしが言う!」

 

 そしてブレスが着弾する手前で横に避けると、イレーナはいくつもの氷塊をぶつけ、意識を反らさせる。

 

「良い作戦を思い付いたわ!イレーナ!ちょっと囮になってほしい!シグルドは剣でアイツを刺し続けて少しでも弱らせて!」

 

「………ん、《デコイ》!」

 

「任せろ!」

 

 ドラゴンがイレーナに標的を定め、執拗に狙う。そこを突いてシグルドが剣を鱗の隙間を縫って次々と刺していく。

 

 

 フレイヤはブレスを放った直後のドラゴンの口目掛けて、炎の翼で翔んだ。そしてありったけの炎をその体内に流し込み、内側から焼き尽くす!

 

 

「グオオオオオォォォォッッッ!!!」

 

 ドラゴンが苦悶の声をあげると、フレイヤ目掛けてブレスを放つ。

 

「フレイヤ!!!逃げろ!!!」

 

「………早く!」

 

「………大丈夫よ!アタシにだって培った技術があるんだから!!!」

 

 一瞬も躊躇わず、タイミングが僅かでも狂えばその身を焼かれる絶技。

 

「食らいなさい!」

 

 自らの炎をその手に掲げると、ドラゴンのブレスと融合させる。そして放たれる炎の速度と全く同じ速さ、タイミングで身体をこまのように回す。

 

 そしてそれをドラゴンに向けて投げつけた。そっくりそのまま相手の技を返したのだ。

 

 本来それは剣術で使われる技術であり、ユリカから教わったものを応用した技だ。

 

 そして、ドラゴンが膝を着いた。

 

 

「やった………!やったわ!成功した!」

 

「まだだ!終わってねぇぞ!」

 

 

 ドラゴンは立ち上がり、目の色を変えた。目の前の人間は敵。最早取るに足らない相手では無くなったのだ。

 

「行くぞ!」

 

 ドラゴンのブレスと3人の攻撃がぶつかろうとした瞬間。

 

「ちょ~っと待ってくんね?」

 

 軽薄な男の声と共に、それがかき消えた。突如目の前に現れた男に3人は驚くも、すぐに現実に引き戻されたかのようにシグルドは声を荒げる。

 

「テメェ何してくれてんだ!邪魔してんじゃねぇ!」

 

「そうよそうよ!」

 

「………2人共、落ち着いて………」

 

 

 そして男はドラゴンを見ると、呆れたような表情を浮かべる。

 

「なんだァこのトカゲは………ハッ、俺のペットにしちゃあ力不足だ。神竜くらいじゃねぇとなぁ」

 

 男はそう言うと、軽くドラゴンの腹を押した。するとドラゴンの腹に風穴が空くと同時に、奥にある木々が倒壊する。

 

「なっ………」

 

「な、なに………!?何が起きたの!?」

 

「………一旦、逃げよう………!」

 

 

 イレーナが転移結晶を持ち、使おうとした瞬間に奪い取られる。

 

「あっ………!」

 

「何だこれ?」

 

「返せ!これは大事なもんだ!それより………テメェは何もんだ!答えろ!」

 

 男は(くら)い笑みを浮かべると、自らの素性を明かした。

 

 

「オレは暴食の魔人………名前はベリアル。魔王サタンのしがない1人息子さ」

 

「魔王の………息子………っ!?」

 

「1000年前、神話の時代に激しい爪痕を残した魔王が封印されただろう?魔王は別に倒されたわけじゃねぇ。封印されただけだ。俺はその時代から生きて、神々と闘争の日々を送ったもんだ。………ククク、テメェらが崇め奉ってる神も殺して、俺の血肉にしたもんだ」

 

「………ちょっと待て、じゃあ………」

 

「400年前、魔王は………親父は無理矢理封印をぶっ壊して復活し、魔王軍を再編した。オレは今まで戦ってきた幹部とは格が違うぜ?けど、お前らみたいな塵芥を殺すつもりはねぇ。さっさとお家に帰んな」

 

 

 

 神話に残された神と悪魔の大戦争。今目の前にいる男は、それに参加したということを意味していた。まさに、神話の時代の生き証人。スケールが違いすぎる敵に、シグルド達はすぐさま逃げを選択した。

 

 転移結晶を投げ渡されるとすぐに使用し、彼らは冒険者ギルドに転移した。

 

 

 

 

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次話からは新章、カタストロフィ編が始まります。暴食の魔人を相手にハク達は勝てるのか!乞うご期待!

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