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21話 ジョーカーvs神託者

 《神託者》。これが、フォルトゥナ・ゴッドグレイスがギルドから付けられた異名だった。神の声を聞き、人々の悩みを解決する。未来を的確に示し、導く存在として。

 

 

 黄金の夜明けは、自らの正義と信仰を貫き通す者にこそ入会が許される。常日頃から清廉潔白で、正義感に溢れたものが多い。

 

 今回の領主のような悪人を処断し、そこに暮らす人々を守るために日夜戦っている。しかしフォルトゥナは、そのポリシーを一時的に捨ててまでレーツェルに公式戦を挑んだ。

 

 正義も悪も関係ない。ただ、1人の男として戦いに臨むだけのこと。

 

 

 

 フォルトゥナはいきなり《ヴァジェトの目》を発動し、未来を視てレーツェルの次の行動を知る。能力の万能さ故、これがなければ次の行動が予測できずに致命的な攻撃を受ける可能性があるからだ。

 

 そして視た通り、レーツェルは全長1kmはあろうかという巨大な剣を空中からフォルトゥナへ向けて発射する。先ほどの意趣返しだ。

 

 しかしヴィシュヌの天足で瞬間移動し剣をかわすと、瞬時にヘパイストスの神造で剣を造り首に向けて刃を振るう。が、レーツェルの喉から鉄のトゲが伸びてきた。

 

「随分と器用なことをしますね」

 

「まあナ」

 

 ギリギリで回避したフォルトゥナは、ヴィシュヌの天足とヘルメスの翔靴(しょうか)を使って、空中に転移したままそこに留まる。

 

 だが、レーツェルも黒い烏のような巨大な翼を産み出し、空を飛んで彼がいる場所まで突貫する。

 

「《ヘパイストスの神造》!」

 

 100近くの武具が一気に射出されるも、レーツェルの翼がオリハルコン製に変化した。それを大きくはためかせると、それらは全て地上へと落下していく。

 

 フォルトゥナはラーの目を使い、強力な光で焼き滅ぼそうと画策する。が、レーツェルの翼が鉄から鏡へと変化しそれを反射した。

 

「何っ………!?《アテナの加護》!」

 

 防御能力で事なきを得ると、すぐさま反撃に転じる。今度は身体能力を強化し、巨大なハンマーで押し潰そうとする。

 

 レーツェルの右腕が巨大な鉄の腕に変化し、ハンマーを掴み取る。それを押し込もうとするがびくともしない。

 

「ナラ、こうダ!」

 

 素材を鉄からオスミウムという、青灰色をしたこの世で最も重い金属へと変更した。重量は3倍以上となり、流石のフォルトゥナも押し込まれる。

 

「ぐっ………ううぅぉぉぉおおおお!!!!」

 

「パワーが上ガッた………!それニ、何ダこの熱さハ………」

 

 ハンマーが熱で真っ赤に染まり、少しずつ腕が溶けていく………が、オスミウムの融点は5000℃を超える。高熱に耐え、非常に硬い金属なのだ。

 

 腕はハンマーを殴り付け、後ろによろめいたフォルトゥナをそのまま地上に叩き落とそうと拳を縦に振るう。

 

 しかし突如更に高く吹き飛ばされ、慌てて翼をはためかせてどうにか凌ぐ。

 

 モーセの奇跡は地上では土煙などで攻撃が来ることが分かるものの、空中では不可視必中の一撃と化す。その衝撃は海を割り、天を裂くような威力。まともに喰らえばかなりのダメージだ。

 

 肋骨が砕け散り、内蔵が潰れたもののすぐに修復し、何事も無かったかのように反撃に転じる。分身をフォルトゥナの周りに配置し一斉攻撃を仕掛けようとするも、彼は自身を覆うように剣を展開させ発射した。全身を串刺しにされた分身体は消え、戦いは再び振出しに戻る。

 

(こノままジャ奴ニダメージを与えラレない………ドうすル?)

 

 ヴァジェトの目。フォルトゥナの強さを根底から支えるものだ。未来視能力と超再生能力という強力な2つの力を持つ。左目で発動するため、ならばそれをまずは潰す必要があると感じた。

 

 しかし先の戦いでフォルトゥナは目をやられている。それを学習したからか、ヘパイストスの神造で眼帯を作り装着していた。ならば右目をと思い、武器で狙った次の瞬間に目が光った。眼帯から光が漏れているため、両目ともに能力を同時発動したのだ。

 

 これならば仮に光を突破されてもすぐに治り、未来を視ることで格段に行動しやすくなる。

 

「《ブラックボックス》!」

 

 光を黒い物質で遮り、無効化する。そして光が収まるとすぐにフォルトゥナは戦斧を持って近接戦闘に切り替える。

 

「腕ハ確かだナ………傭兵だッタのカ?」

 

「神殿を、人々を守るため、あらゆる戦闘状況に対応できる訓練を受けた………ただ、それだけです」

 

「そうカ」

 

 レーツェルは戦いながらも考えていた。自分の為だけに戦うレーツェルと、人の為だけに戦うフォルトゥナ。男として、人としての資質はとうに負けているだろう。………しかし、今の自分には守らなくてはならないものがある。それが例えクズの塊のような男であったとしても。

 

 

 何よりフォルトゥナも、一時は命を張って共に闘った仲間だ。そして、この街の人々を救うためにここまで出張ってきたという事実。ふと意図せずして、こんな言葉が口から出てきた。

 

 

「………お前がピンチになっタラ、真っ先に俺ガ駆けつケテやるヨ」

 

「ありがとうございます。なら僕も、あなたがピンチになったらすぐに駆けつけて………」

 

 

「俺がお前ヲ守っテやるヨ」

「僕があなたを守ります」

 

 

 互いに、少し気恥ずかしい。しかしこの言葉は本心から出たものであるため、別に撤回しようと言う気は無かったし、実際にそうしようと思っていた。

 

 

 

「………さて、漫談はここまで。行きますよ!」

 

「ケケケ………俺ノ発想力ヲ舐メて貰っチャ困るゼ」

 

 白蓮と同じく、レーツェルの能力は物質の膨大な知識がないと活かしきることなど出来ない。彼は国から、能力で作成した物の売買を禁止されている。超希少な金属や鉱物を思いのままに作り出すことができるため、彼が金儲けに走ればその物の価値が大暴落、鉱夫などが仕事を失ってしまう事態になりかねない。

 

 最も彼にその気はないし、そもそもお金すらも意のままにいくらでも作り出せてしまう。しかし彼はそんなことの為に能力は使わない。一度やったことはあるが、すぐに飽きたためである。

 

 

 そしてフォルトゥナが攻撃を仕掛けようとした瞬間、視界が揺らめいた。そこかしこが光で点滅しており、眩暈を起こしそうになる。

 

「な………なんだこれは………!」

 

 ただ物質を変換するだけの能力で、なぜこんな事が出来るのか。

 

「知りタいカ?なら教えテやるヨ。なぜ人ハ物を見るコトが出来るノか知ってル?光が水晶体を通ッテ、視神経に伝ワル。そいつガ電気信号で脳に伝えルことデ、物は見えてイル。それを少し別ノ電気信号に変エテやることデ、疑似的な幻覚ヤ幻聴を起こセル。白蓮も同じコトが出来るケド、あいつは使いたがラなイ」

 

 レーツェルはかつて白蓮を相手に公式戦を行ったことがある。その時に彼が用いた方法により、一気にレーツェルの戦い方の幅は広がった。

 

 ここまで微細に能力が扱えるようになるまで、彼は修行を重ねた。人は視界に入る全ての物を見ることは出来ない。脳がオーバーヒートしてしまうためだ。だから脳はいるものといらないものを分けて、人に視界を開かせている。そのことを知った時、レーツェルは大いに興奮した。

 

「その知識と技巧………流石の一言です。だが、いくら幻覚や幻聴を見せようとも僕にはヴァジェトの目があるのです。効きはしない!」

 

「そうカ………じゃあ、これハどうカナ?」

 

 するとレーツェルは手を上に掲げる。何事かと思いフォルトゥナも上を見上げるが、そこには何もない。

 

「《神の杖》」

 

 空から轟音が鳴り響き、巨大な鉄の棒が降ってきた。

 

「なっ………!?」

 

 避けて地上に落下すれば、ここはただでは済まない。故に避けずに受け止める必要があった。

 

「ぐっ………うおおおおォォォオオオ!!!!」

 

 身体能力を強化する《ヘラの加護》、防御能力である《アテナの加護》で白銀のオーラで身を包む。

 

 そして、彼の背中からおぞましい怪物のような腕が出現。

 

「《フェンリルの腕》!!!」

 

 それにより、《神の杖》は止められた。空気に霧散すると、レーツェルが一気に猛攻を仕掛けてくる。

 

「しまった………!」

 

 大木程の太さの鉄の鞭がしなり、フォルトゥナを襲う。しかし《フェンリルの腕》がそれを受け止め、ぐしゃりと握り潰す。そしてそのままレーツェルの身体を捕らえようとその腕を伸ばす。

 

「それガお前のとッテおきカ?」

 

「ええ。まさか………これを使わされるとは」

 

「ナら、俺もとってオキだ」

 

 なんと、自ら腕に向かって突っ込んで行った。なんのつもりだと警戒するも、その光景にフォルトゥナは度肝を抜かれることとなった。

 

 腕が消えていく。正確には、突貫するフォルトゥナの身体を貫いた先から。

 

「っ………《ヴィシュヌの」

 

「させネェよ!」

 

 発動前に彼は目の前に現れ、文字通りの鉄拳をその腹に叩き込んだ。

 

「がはっ………!」

 

 そして、二発目がその顔に突き刺さり、フォルトゥナの意識はブラックアウト。完全に抵抗力を失った。

 

 

 

「………そ、そんな………フォルトゥナ様が………」

 

「こうなれば我らだけでも!!!」

 

「かかれ!怖れるな!!!これは聖戦なり!!!」

 

 

 20人ほどの黄金の夜明けが襲いかかってくるが、今のレーツェルにとっては何ら問題はない。

 

「今疲れテんダ………休まセテくれヨ」

 

 先ほど作った大木ほどの太さの鉄の鞭を振るうと、全員が遠くに吹っ飛ばされた。

 

 

 そして、レーツェルはフォルトゥナを背負って戦線離脱。翼で飛び、王都にある自宅へ戻ると………力尽きたように眠りに着いた。

 

 その場に、『幹部をやっつケタ。後ハ頼ンだ』という書き置きを残して。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「………ん?………まさか、フォルトゥナが倒された?」

 

 この戦いに参加している聖人はフォルトゥナとグラディウスのみ。つまり大事な戦力を失ったということになる。

 

 オリオンは歯噛みするも、領主の屋敷へ向かって歩き出す。威風堂々とした歩みは、歴戦の戦士のようだ。

 

 領主は気に入った女性を自分の奴隷にして囲い、贅の限りを尽くし、領民を圧政と重税で苦しめる、悪徳領主の見本市のような男だった。しかしこの件が公にならなかったのは、財務大臣に提出する書類を捏造し、監査役に賄賂を握らせていたからだった。

 

「………ッ」

 

 思わず奥歯を噛みしめる。許せない。必ず女性を解放し、この地に住む民を救い出して見せる、と彼は決意を改めて固めた。そして彼は屋敷の門番を一撃で排除し、中へと入る。

 

「な、何者だ!」

 

「ここをどこだと心得るっ!ここは領主、アレクセイ殿の屋敷であるぞ!」

 

「これは失礼。僕はオリオン・ルイ・リュークス。神聖リュークス帝国第五代皇帝です。以後、お見知りおきを」

 

 オリオンもとい侵入者が皇帝だということに、護衛達はぎょっとした顔をする………が、すぐに本来の目的を思い出す。

 

「いくら皇帝陛下とはいえ、今のあなた様は他国の領主の屋敷の侵入者!」

 

「し、仕方ない!臆するな!ひっ捕らえろ!」

 

 5名の護衛がオリオンへと襲い掛かるも、素手での格闘で倒した。敵対者であっても殺めないというのがオリオンの矜持。例えばグラディウスだったら、問答無用で殺していただろう。

 

 そして領主の部屋に着くと、彼は女性と共に過ごしていた。この期に及んでまだ現実を受け入れられないようだった。オリオンの姿を見た領主は驚き、狼狽する。

 

「なっ………なんだ貴様は!?ま、まさか………リュークスの………!?」

 

「ええ。その通りです。………シュタイン王国エルダース領 領主、アレクセイ・ギルダー。あなたに聞きたいことがある。あなたはこちらにいる姫君方を奴隷にし、苦しめ、領民に圧政と重税を敷いていたというのは本当か?」

 

「ぐっ………最早隠し切れんか………!クソ!」

 

「姫君方よ、今のうちにこちらへ!」

 

「ぐうっ………!ガキの分際でこのワシから女を奪う気か!?誰でもいい!こいつを捕らえろォッ!!!」

 

 しかし、誰も来ない。傭兵や護衛は全てオリオンが倒したからだ。その事実に気づいた領主は、一気に顔が青ざめる。

 

「………クズが」

 

 冷徹な瞳で領主を射抜くと、首を締め上げる。横幅が広く、体重差もある領主を軽々と持ち上げると地面に降ろした。

 

「き、貴様ァ………サクラスの………亜人の分際で調子に乗るなァ!!!」

 

「………人は生まれながらにして平等ではない。子供でも分かる、純然たる事実だ。貧富の差を見れば、それは明らか。ですが、種族で人を分けているのは、ただ区別するためにあるのみ。それを決して、差別に用いてはならない。人族による亜人種への長年の差別意識………それは誤った歴史、人の間違いに他ならない。違いますか?」

 

「だ、黙れェ!ドラゴンがトカゲを同じ種として見ていないのと同じこと!ガキの癖にワシに説教など、100年早いわ!」

 

「………もう良い」

 

 オリオンはその首に手とうを当てて気絶させると、部屋を出て行った。そして2階から大広間を見渡すと、ドアからハクが入ってきた。

 

「あれ?あれ?領主さんどこだろ………?」

 

「もう終わりましたよ」

 

 ハクは声のした方を見ると、そこにオリオンがいることに驚いた。彼は大広間へ降り立ち、ハクの前に悠然と立つ。

 

「一歩、遅かったようですね。領主はこの手で気絶させ、こちらの目的は果たせましたが………あなたはどうしますか?」

 

「えっと、えーっと………僕は、領主さんを守るためにここに来ました!やられたら、経済がどうとかって………」

 

「あなたは何も聞かされていないようですね。この領主は民を苦しめる悪人だ。裁かなければならない」

 

「でも、この人が領主を辞めたら、ここが混乱して、僕達の生活も危ないって………それに、良い人になってくれればきっとここの人の生活も良くなります!だから、こんなことする必要は………」

 

 

 その言葉を聞いたオリオンは、その場の大気が震えるほどの圧力を放った。

 

「………甘い!あなたは人の善性をを信じすぎるところがあるようだ。世の中には話の通じない人もいるということを理解しているはず!」

 

「けど、この人だってきっと最初はこうじゃなかったはずです!人はやり直せる!」

 

「それでは人は救えない!世の中には、武力で解決しなくてはならないこともあるんです!」

 

 ハクは杖を抜き、オリオンに突きつけた。それは、抗戦の意志を示す行為。

 

「オリオンさんは正しいんだろうけど、人はまたやり直せる………どんな人でも、良い心は持っている!領主さんを守って、守り抜いて………ちゃんと良い人になってもらう!」

 

「ならばなぜ君は魔王軍幹部を倒そうとした?彼らとて人の言葉が通じるのだから、それを彼らにも言うべきでは?結局君だって、僕と同じだ!」

 

「やっていることのレベルが違い過ぎます!領主さんはまだ取り返しがつく………やり直せる!」

 

「分かりました。場所を変えましょう」

 

 

 屋敷の外に出ると、開けた場所に移動。草花があり、それ以外は何もない。ここなら大規模な戦いが起きても支障はないと判断した。

 

「1つ聞きたい。あなたは………何のために魔王軍を倒しているのです?世界を救う英雄になりたいのですか?」

 

「名誉とか、何もいりません。ただ、困っている人を助けたいだけです」

 

「そうですか………ならば忠告しておこう。今のままでは、君は英雄にはなれない」

 

 

 本物の英雄が、ハクを相手に襲い掛かる。互いに同じ方向性の、正義を携えて。

 

 


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