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18話 解かれた封印

 ハクは魔王上にある研究所で身体を拘束され、ドラゴンすら昏倒させる程の超強力な睡眠剤で眠りにつかされていた。

 

 その、夢の中で。彼は1人の女性と対話をしていた。

 

『………あなたの封印を解く鍵を教えましょう。ですがそれは………あなたの力によってやり遂げられなければならないことです』

 

「………僕の、力だけで………」

 

『愛する仲間を守るために………敵を討ちなさい。その力はきっと、あなたの偉大なる旅路の役に立つことでしょう』

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「………何?逃がしただって?」

 

「申し訳ありません!魔法を封じる魔道具も付けたんですが………なぜか効かなくて!壊れてたんだと思います!」

 

「いや、もういい分かった。ありがとう。君は別の任務を」

 

「かしこまりました、エーテル様………」

 

 研究室の寝台で拘束したはずのハクが姿を消したことを報告されたエーテルは少し苛立つも、すぐに次のプランを練り始める。実験に失敗は付き物。部下の失態に一々怒ったり、はたまた粛清したり………そんな余裕は彼にはなかった。

 

「バレれば………いや、まあその時はその時か。好きにさせてもらおう」

 

 その瞬間、急速に身体の力が抜けていくのを感じた。思わず膝を着き、寝台に掴まり倒れることを防ぐ。

 

「………見限られたか………まあいい、俺は俺のやることを、目的のためにただ続けるだけだ」

 

 

 

 彼は飛翔体を創造し、それに乗って王都へ向かう。音速を超えたそれは、数分も立たずに王都へと降り立った。

 

 

 王都ではアイン達が決死の攻撃を続け、モンスター達を何とか倒していく。氷で凍らせることで細胞の動きを停止させ、一気に破壊して殲滅する。ハクの回復魔法で傷を癒した冒険者達やフォルトゥナも抗戦を続け、散り散りになったモンスターを1対1体確実に仕留めていく。

 

 

 

 しかし蛇のように胴体が長く、黄金色に輝くドラゴンが現れたことによって状況が一変。口からは黄金の炎を吐き出し、動きも素早い。

 

「また厄介なのが現れやがったな………!」

 

 アインはフォルトゥナと協力し、ドラゴンの討伐に向かう。常に黄金のオーラを放出していてそのエネルギー量は莫大なものであり、身を守る盾となる。

 

 破壊のオーラによる腕をその身に巻き付けるような形で発射するも、ドラゴンが雄叫びをあげながらよりエネルギーを放出したことによってかき消される。

 

 フォルトゥナはドラゴンの目の前まで近付いていき、ほぼ0距離からモーセの奇跡を放った。

 

 ダイレクトに海を割るほどの衝撃が叩き込まれたその巨体は遥か上空に打ち上げられる。

 

「《ヴィシュヌの天足》!」

 

 ドラゴンのいる上空へと瞬間移動した彼はゼウスの神雷を叩き込み、地面へと墜落(ついらく)させる。

 

 心臓に雷が命中したのか、ドラゴンは完全に動かなくなっていた。身を守るエネルギーも消え、生命活動は停止したようだ。しかし何が起こるか分からないためアインの破壊のオーラにより綺麗にその死骸を消し去った。

 

 

「流石はSランク。だけどいくらモンスターを倒そうが俺を仕留めないと根本的な解決にはならないよね」

 

「そりゃそうだ。だからテメエをぶっ殺すんだよ」

 

「無理でしょ。ああ無理だよ。お前には出来ない」

 

「あっそ、じゃあ試してみようぜ」

 

 アインが一気にオーラを凝縮し、腕状にして放つ。更にハクの魔法で奇襲をかけた。前方には破壊が、後方には雷と炎が。

 

「無駄だって!」

 

 彼の腕が巨大なドラゴンの頭に変化し、攻撃を喰って無効化したその瞬間、レーツェルの剣が両腕を切断する。再生する隙もなく、今度はフォルトゥナの《モーセの奇跡》による衝撃波が彼の身体を吹き飛ばし、ハクの雷撃で地に撃ち落された。

 

「一瞬モ隙を与えルな!」

 

 雨のようにレーツェルの槍が降り注ぐ。戦闘技術に欠けるエーテルは身体を固い鱗に変化させ、何とかしのぎ切る。

 

「《ラーの目》!」

 

 フォルトゥナの右目が光ると、エーテルの身体が燃え上がる。そしてハクの《聖なる光(ルクス・サンクタ)》が彼に直撃し、大きく力を削ぐことに成功する。光属性は攻撃魔法や治癒魔法としての側面が強いが、ハクの使うそれは魔族の力を大きく弱めることが可能なのだ。

 

「はぁ、はぁ………身体が重い………!けど、実験には想定外が付き物さ。この程度で動揺すると思う?」

 

 そう言いながらも彼は超速で腕をワニに変化させ、ドラゴンの翼を生やして口から火球を放った。反応できないと悟ったレーツェルは、剣を真ん中に構えて伸びてくるワニの頭を切り裂いた。

 

 ハクの水魔法で火球をかき消し、一気にラッシュをかける。

 

 ハクは全属性の魔法を一気に放出し、エーテルの周りを攻撃魔法で取り囲む。その上からフォルトゥナの《ゼウスの神雷》が降り注ぐ。

 

「ぐああああぁぁぁっっっ!!!!」

 

 力の弱まったエーテルにはそれを凌ぎきる力はなく、狭まり合わさった攻撃魔法とゼウスの神雷とのコンビネーション攻撃を受けた。

 

「………ぜぇ、ぜぇ………まだだ、まだ俺は………やるべき、ことが………!」

 

「どんだけしぶてぇんだよコイツ!!!」

 

「《聖なる光(ルクス・サンクタ)》!」

 

「もうその手には乗らないよ!」

 

 エーテルは放出された光をかわし、さきほど喰らった攻撃をそのままハクとアインに返す。

 

 それを同じ技で相殺し、ハクは魔力を放出する。だが彼はドラゴンの翼を生やしてかわし、腕を刃に変えてハクの左腕を切断した。

 

 回復魔法で腕を治したことにエーテルが驚いた一瞬の隙を突き、アインの破壊の腕が彼の背中を貫く。しかし破壊より修復の速度の方が早く、逆に隙を突かれて爪で身体を切り裂かれた。

 

 

「ハク!」

 

「任せてください!」

 

 回復魔法によるサポートを受け、更には強化魔法により身体能力が向上した彼らは、エーテルの前に立った。

 

 ハクは後方に下がり、支援に徹する。

 

 

「俺は………《強欲の魔人》だああああああああぁぁぁァァァッッッッッ!!!!!」

 

 エーテルは雄叫びと共に身体から炎や雷撃、超大量の刃を放出した。

 

「こいつ………全部巻き込んで自爆でもする気かよ!」

 

 ハクが防御魔法を二重に張り、それにアインの破壊のオーラが混ざり会う。フォルトゥナも防御能力を使ってカバーをした。銀色に防御魔法による障壁が光り輝く。

 

「《アテナの加護》!」

 

「|《不変の神壁》《イムタビウス・デウス・ムルス》!」

 

「《デストラクション・エンチャント》!!!」

 

 

 

 しかし。エーテルの攻撃はそれを突き破りかけていた。

 

「そんな………!二枚目にもひびが………!!!」

 

「もう一枚です!」

 

「そ、そうですね!」

 

 不変の神壁を三つ重ね、その上に再び破壊のオーラと銀色の輝きを灯す。

 

 二枚目が砕かれ、三枚目にもひびが入る。しかしそれは小さいものだった。そして、攻撃は遂に収まった。

 

 

「………俺の全てが、防がれるとはね」

 

 エーテルが膝から崩れ落ちると同時に、ハク達は膝を着いて、息を荒く吐いていた。

 

「くそ、俺達も限界に近い………!」

 

 元々モンスター達を倒すのに相当な労力を使っていた為、彼らも既に限界を超えていた。

 

 

 

 

 

 しかし戦いはまだ終わっていない。エーテルが真っ先に立ち上がり、アインに向けて腕を変化させた刃を振るう。それを咄嗟に受けた彼は、長剣を突きつけた。

 

「剣戟か、いいぜ………かかってこいよ」

 

 燃え盛る刃は、不屈の闘志を表しているかのようだ。ハクは敵ながら、彼のその気迫に尊敬の念を抱いていた。

 

「………すごい」

 

 アインは刃に水を纏わせ、疑似的なウォーターカッターを作り出す。そしてレーツェルも、生き物のように動く剣を構えた。

 

「《ヘパイストスの神造》」

 

 フォルトゥナの手から赤々と焼けた鉄が出現し、そして彼がそれを振るうと、剣が完成した。そして3人一斉にかかる。エーテルは脇から複数の腕を生やし、それを刃に変えて対抗する。

 

 

 

 

 

 ハクは後方で魔法を唱えていた。自分の力をさらに高めるため、彼は自分の力の制限をもう1段階解除しようと試みている。夢の中で教わった、封印解除の方法。

 

 彼は魔力を小さな球状に6つ形成し、各属性に変質させる。そしてそれを1つに合わせた。その瞬間、爆風が周囲に吹き荒れる。

 

 

「なんだ………彼はなにをしようとしている!」

 

「邪魔はさせねぇよ!」

 

 ハクを狙う凶刃が弾かれ、アインは腕を切断することに成功する。

 

 

 本来、魔術師の属性は1や2つしか適性がない。全属性の適性を持つ魔術師など、歴史の中でも数えるほどしかおらず、持つものは伝説級の資質があるとされている。

 

 属性を無理に合わせようとすると、互いに反発しあい莫大なエネルギーが生まれてしまい、魔術師が巻き込まれてしまう。故にその性質を攻撃に利用することは、遠距離戦を得意し危険を嫌う魔術師はまずやろうとしないのだ。

 

 

 ハクの魔力は神代魔法を使うためにより上質に、より純粋なものへと変質されている。もはやそれは、現代の人々が当たり前のように持つ魔力とは本質的に異なるものとなっているのだ。

 

 

 ハクは無理矢理に抑え込もうとし、反発する魔力を制御することに苦しんでいた。誤れば、自分も………いや、仲間達や王国全てが消し飛んでしまう。

 

  スパークが発生し、球体は6色がぐちゃぐちゃになったような色から、白く濁っていく。全ての力を1点に纏めるイメージを頭の中に浮かべる。

 

「あれが完成すれば………!不味いことが起きるかもしれない………!」

 

「何が何ダか知らネエけド、じゃマはさせネえヨ」

 

 なんとかしてハクの行動を止めようとエーテルは更に腕を生やすも、その瞬間エーテルの動く剣が切り刻む。そして遂にその身体を捉え、刺さった内部から茨のようにとげが枝分かれし、身体を完全に拘束した。

 

 

 ハクが合成したエネルギーが、完全に1つになった。白く光り輝き、周囲の物全てを吹き飛ばそうと衝撃波を飛ばすも、ギリギリで持ちこたえる。

 

(今だ!)

 

 収まったその瞬間、光の中に身を預けた。直後に大爆発が起き、周囲の建物が消し飛ぶ。

 

 

「………っ………!何が、起きた………!」

 

「収まったみたいですね」

 

 

 ハクの身体から黒い斑点模様のついた白い魔力がオーラのように立ち上る。魔力は完全に変質し、敵を討つことに特化し、より破壊力を増したものへと変化した。

 

 

 杖の先から魔力球を出し、それを発射した。それはエーテルに迫るごとに巨大化し、彼の身体を飲み込み吹き飛ばす。

 

「ぐあああああァァァッッッッッ!!!!」

 

 地面に叩き付けられた彼はあまりのダメージに動けなくなっていた。今の一撃で………完全に勝負は決まった。

 

「トドメだ」

 

 アインは倒れたまま動かないエーテルの心臓に長剣を刺し、そこから破壊のオーラを注ぐ。

 

 

 人を実験動物のように扱った………そんな男は、黒い残光となって消えた。灰も残らずに、綺麗さっぱりと。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

「終わった………!」

 

「しかし、変ですね。彼の力が弱まったような気がしましたが………」

 

「倒せタんだカラいいダロ」

 

「ハク、テメェまたやりやがったな………、このっ!」

 

 アインはハクの頭をわしゃわしゃと撫で回す。更なる覚醒を経た彼は、少なくとも今までの4倍は強くなっていた。

 

「けど、ソノ状態にモ限界がアるダろ?」

 

「まだ、分からないですけど………消費魔力量は、今までとは桁違いです。………長くは続きません」

 

「君は魔力量をもっと増やした方がいい。保有量も、威力も一般的な魔術師に比べて規格外だが………威力に対して保有する魔力量が少ないので、魔王軍幹部相手にはすぐにガス欠になってしまいますよ」

 

 

 自分の欠点を指摘された彼は、まだまだだな、と自分を戒める。力を過信した者ほど真っ先に死ぬ。フォルトゥナのその言葉を胸に刻んだ。

 

 

 その瞬間。拍手が聞こえてきた。それも、大勢の。何事かとその方向を振り向くと、黄金色の装束を着た20人ほどの集団がいた。

 

「素晴らしい!魔王軍幹部を………いいえ、我が素晴らしき同胞の作品を………倒してしまわれるとは。これもまた神の起こした奇跡だ。皆様、英雄たちに拍手を!」

 

 轟音のような拍手が鳴り響く様に、彼らは呆気に取られる。

 

「………オイ、………今、なんつった?同胞の作品だと………?」

 

「ええ。今しがたあなた方が倒された強欲の魔人は、こちらにいらっしゃる聖人トロイメライの作品です。………そして彼は、元強欲の魔人。作品に………自分の我が子とも言える者に、その座を譲ったのですよ。彼は見守っていました。そのいく末を………」

 

「………すまなかった。まさかエーテルが………悪の心を持ってしまうとは。俺のせいだ」

 

 トロイメライと呼ばれた青年はハク達に向けて頭を下げた。

 

 

 挿絵(By みてみん)

 

 

「あなた達は一体?」


ハクがそう聞くと、先ほどから先頭に立っている物腰柔らかな青年は手を広げ、自分達の名を名乗る。

 

「我らは《黄金の夜明け》!世界を救済し、悪から人々を守ることを生業としております。僕は黄金の夜明けリーダー、オリオン・ルイ・リュークス。16歳で、神聖リュークス帝国、第5代皇帝です」

 

 

 挿絵(By みてみん)

 

 

「「なっ………!」」

 

 神聖リュークス帝国。王国と隣同士にあり、亜人が多く住む国で、かつては種族間のカースト制度があり、その頂点に位置するサクラスという種族による他種族への差別が酷い国として知られていた。

 

 だが現在の皇帝であるオリオンが就任すると、急速に減っていった。

 

 サクラスの中でも頂点に君臨するオリオンには誰も逆らえない。王としての資質が高く、賢王として世界中に名を馳せている。王や皇帝の中では、知名度は群を抜いているだろう。現在は代理人に政治のことを任せている。

 

 

 思わず皆が跪き、頭を垂れる。

 

「構いませんよ。あなた方のほうが年上ですからね。あ、そうだ。………あなた」

 

 ハクの前に跪いたオリオンは、彼にこんな提案をした。

 

「あなたの魔法の才能は素晴らしい。綺麗で優しい心を持っている。是非、我々と共に世界を救いませんか?待遇は最高のものに。聖人と呼ばれる………いわゆる幹部に就任させましょう。女性の護衛や世話役も付けましょう。あ、屋敷も差し上げますよ?お金は好きなだけ。必要な分だけ、我々が補助します」

 

「胡散臭せーなぁ」

 

 アインのポツリと漏らしたその言葉に、装束を着たもの達が怒りだした。

 

「貴様!平民の分際で………というか私も平民だが、陛下に向かってなんて口の聞き方を!」

 

「死刑だ!反逆罪で死刑に!!!」

 

「陛下への侮辱であるぞ!!!」

 

 オリオンが手で制止すると、一瞬でピタリと怒号が止んだ。

 

「お止めなさい。彼がそう思うのも当たり前の話ですよ。………ううむ、納得は出来ませんよね。仕方がない。今回は退きましょう。では皆様、ごきげんよう」

 

 

 彼らは転移魔法を使って姿を消した。黄金の夜明けは果たして、彼らの味方か………それとも、敵か………

 

 

 

感想、評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


次話から第3章、黄金の夜明け編です。お楽しみに!

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