表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/33

16話 戻ってこい

 ハクとアインは開けた場所へ行き、フォルトゥナの冒険者試験の相手をする。

 

 Sランク2人がかりで掛かってこいと言われた際には誰もが耳を疑った。どれほどのものなのかと、好奇心からか冒険者達はその闘いを観客として見物していた。

 

「試験………開始!」

 

 ギルドマスターがそう宣言すると、アインは即座にフォルトゥナを凍り漬けにし、破壊のオーラを腕状にして放つ。

 

「《アテナの加護》」

 

 フォルトゥナの身体が白銀のオーラに包まれると同時に氷が割れ、破壊のオーラが霧散した。

 

「人は自らの力を過信してしまうもの。先を見ないことには人は強くはなれません」

 

「悟ったようなこと言うねぇ、あんた。俺達に説教出来るほどの実力か見せてもらおうじゃねぇかよ。てか、これはあんたの試験なんだ、攻撃して来いよ」

 

「あ、あの………いつでもどうぞ………?」

 

 これは戦いではなく、あくまでもフォルトゥナの力を図るための物。少し攻防をすればその力は証明される。攻撃をさせなければ、その力の証明が出来ない。

 

「………そうですか、では。《モーセの奇跡》!」

 

 フォルトゥナが持っていた杖を振り上げると、不可視の衝撃が彼らに襲いかかる。

 

「うわっ!」

 

「ぐっ………!」

 

 地面に叩き付けられた彼らを見て、冒険者達がどよめく。

 

「嘘だろ………!?Sランクが吹っ飛ばされた!?」

 

「何て奴だ………!」

 

 

 ハクとアインは互いの顔を見合わせて頷いた。余裕を見せている場合ではない。いよいよ本気でいかないといけないと。

 

「ここからは本気で行きますよ!」

 

「だな」

 

 ハクは赤白い魔力を纏い、杖に魔力を集めていく。アインは破壊のオーラを凝縮させ、規模を抑える代わりに威力を高めた。

 

 アインはオーラを球状に凝縮させるとフォルトゥナに向けて放ち、そしてハクは杖から魔力をビーム状に放出した。その光景を見て冒険者たちはどよめくも、彼は一切表情を変えることはない。

 

「《ゼウスの神雷》!」

 

 雷が放たれ、2つの攻撃を纏めて打ち消してしまった。それに2人だけでなく、フォルトゥナまでも驚いていた。

 

「って、なんてあんたまで驚いてんだよ」

 

「いえ………まさかこれが相殺されるとは思わず。相当な威力を有していたか………」

 

 アインは地面に手を触れると、フォルトゥナの周囲に氷のトゲが現れた。それは幾十にも細かく枝分かれしており、刺されれば致命的なダメージを負うことになる。

 

 だがフォルトゥナはジャンプしてかわすと、何事もなかったかのように地面に降り立つ。ハクの強化魔法を受けたアインは剣を抜き、風のような速さで斬りかかる。

 

 しかしそれを全て回避し、戦闘技術の高さを示した。左目のみが黄金色に光っていることから、何らかのスキルを使ったのだろうとアインは推測した。

 

 そしてハクは熾属性の魔法を使い、洪水のような規模の炎を噴出した。

 

 

 その光景を見て絶句する者が………3人いた。ハクを追放したシグルド達であった。

 

「………な、なぁフレイヤ………アイツを追放して、どんくらい経った?」

 

「まだ3ヶ月よ!それなのになんで………アイツ、こんな化け物になってるのよ!?」

 

「………ハク、すごい………」

 

 

 魔法が強くなっていることはシグルド自身、身を以て実感した。しかし………まだ対戦してから1ヶ月しか経っていないのにも関わらず、比較にならないほど強くなっていた。

 

 

「Sランクになったって、嘘じゃなかったの!?」

 

「………あれを見れば、納得」

 

 

 シグルドは拳を握り締め、ハクをしっかりとした眼差しで見つめる。

 

「………スゲェよ、お前は」

 

 思わず出たその言葉に、2人は彼を驚愕の表情で見る。

 

「あんたねぇ………」

 

「………シグルド………?」

 

 2人を見たシグルドは、ハクがいる方向に向けて指を差す。

 

「お前ら魔術師だろうが!良く見とけ………!」

 

 プライドを捨て、暗に戦いを見て勉強するように言った。あの、シグルドが。

 

 

「………ん、わかった」

 

「そうね。………アイツはもう、あたしらの知るアイツじゃない。遥か高みにいるんだわ」

 

 空中から魔力の翼をはためかせて凄まじい威力の魔法を湯水のように連発するハクを見て、イレーナは呟く。

 

「………でもあんなの、参考にならない。………次元が違いすぎて」

 

「ほんとよ!」

 

 

 戦いが始まってから15分が経過した。ハクは魔力の4割を使い、アインですら肩で息をしている。そしてフォルトゥナは膝を着いた。

 

 

「そこまで!!!この時を以て試験を終了とする!………もう十二分に見た。結果は1つ。フォルトゥナを合格とする!………そして、今より冒険者フォルトゥナを、Sランク第10位と認定する!異論は認めん!!!」 

 

 当然だという空気が場を支配した。異論を挟む余地など微塵もない。ハクとアインの猛攻を完璧に凌ぎきり、2人を相手に終始優勢を保っていたのだから。

 

「フォルトゥナよ。順位を上げたくばSランク冒険者に公式戦を申し出よ。倒した者の順位と入れ替えとなる」

 

「ありがとうございます。私には勿体ない地位と思いますが、Sランクとして恥じぬ成果を挙げて見せましょう」

 

 一瞬でその場から消えたフォルトゥナに対し衆目がどよめくも、すぐにそれは収まりを見せた。2人がギルドへ戻ると、シグルド達が声を掛けてきた。その空気を察したアインは立ち去り、空間は4人だけのものとなる。

 

 

「………シグルドさん………フレイヤさんと、イレーナさんも。お久しぶりです」

 

「………あんた、少し落ち着いたわね」

 

「………ん、修羅場、潜り抜けた顔してる」

 

 戦士の顔つきになったハクを見た彼女達は、どれほどの修羅場を彼が抜けたかを察していた。その落ち着きようから見ても、それが感じ取れる。

 

「………なぁ」

 

「えっと………取りあえず、座りませんか?」

 

 

 

 誰もが沈黙し、辺りには重苦しく気まずい空気が流れていた。

 

「………お前に、頼みがあんだよ」

 

「頼み………ですか?」

 

「ああ。………お前、俺達の元へ戻ってくれねぇか」

 

「………へっ?」

 

 

 突然の提案にハクは目を丸くする。他の2人を交互に見るも、見つめ返してくるだけだ。これは3人の意思らしいことが分かると、ハクは狼狽える。

 

「でっ………でも………その、僕にはもう………アインさん達がいて………ですね」

 

「んなこたぁ分かってる。でも………俺達には、お前の力が必要なんだよ!なぁ、俺が悪かった!だから………俺らのところへ戻ってきてくれよ!」

 

 シグルドの懇願するさまに、ハクは完全に混乱状態に陥っていた。

 

「で、でも………その、えっと………」

 

 

 頭を抱えてしまったハクを見かね、話をこっそりと聞いていたアインがやってきた。

 

 

「まぁ綺麗な手のひら返しだねぇ。雑魚の時にはボコボコにしてまで追い出して、強くなったら戻ってきてください~って!どんだけ虫が良いんだお前はよ!こりゃ傑作だ、ハハハ!!!あのハク(・・・・)だぜ?そりゃ葛藤もするだろうさ。………こいつ、ずっとお前らのこと心配してたわけよ。あんなひっでぇ追い出され方しても、ずっと………ずっと!!!お前らが依頼を失敗しないかどうか!美味い飯が食えてるか!!!不自由はしていないか!!!いっつもいっつも言ってたんだよ!!!シグルドさん達は大丈夫かなって!」

 

 その言葉に、3人全員が愕然とした。

 

「それなのになんだテメェらは!こいつ自身じゃなくて、こいつの力が欲しいだけだろうが!確かに弱いやつは足手まといになるわな。………けどな、俺らSランクパーティーでさえ全く戦えないミシェルをパーティーに加えてるんだよ。なんでだと思う?アイツが優しいからだよ!俺達が冒険に行っている間、家事全般全部やってくれて、弱音も吐かずに俺達に優しい言葉を掛けてくれる!俺達の心の支えになってるんだよ、もちろんこいつもな!………………聞いたぜ?家事だの雑用だの、お前らの代わりに全部こいつがやってたんだって?それで十分じゃねぇかよ、それなのにお前らは追放したわけじゃん?俺は認めないね、こいつをお前らにやるわけにはいかねぇんだよ」

 

 その言葉を聞いたシグルドは、ハクに視線を向ける。

 

「お前は………どうなんだよ」

 

「そっ、そうよ………!まだ本人の意見を聞いてない!」

 

 

 悩みに悩んで………ハクの出した答えは。

 

「ごめんなさい。………僕は、戻るわけにはいきません。………あっ、もちろん、僕はシグルドさん達を凄く大切に思ってるし、頑張って欲しいなって思います。………けど、今の僕は………他に、やるべきことがあるんです。もっともっと強くなって、魔王軍を倒して、平和を………作りたいんです。皆がただ笑って暮らせる場所にしたいんです」

 

 

「………分かった。俺らはもう………お前には関わらない。俺らは何の関係もないたに………っ」

 

 ハクは、シグルドの頬をひっぱたいた。彼は涙目で彼の服の襟を掴んだ。

 

「なんでそんなこと………言うんですかっ………!そんなこと言ったら、僕が心配した意味はどうなっちゃうんですか!嫌です!………あの2年間を、無かったことになんか出来ない!!!!!」

 

「………なんで、なんでお前はいつもそうなんだよ!!!俺らがお前に………何したか分かってんだろ!!!なのに、なんで………なんでお前は………許すんだよ………っ!」

 

 シグルドは襟を掴み返して、思い切り気持ちを吐き出した。アインの言葉に、あれからもハクが自分たちのことを常に気遣っていたことを知ったためだ。普通なら、恨むか見放すか………どちらにせよ、許されることなどない。

 

 イレーナは信じられないものを見るかのように口元を抑え、涙を垂れ流していた。フレイヤはシグルドの背中を叩くと、彼は膝を地面に着いて、声を上げて泣いた。

 

「うあああああああアアアアアアァァァァァァッッッッッッ!!!!!」

 

 ハクはシグルドの元へ駆け寄り、その身体を抱きしめた。彼もまたハクの身体を抱きしめ返し、何度も………何度も、謝罪した。

 

 そして両社ともに涙も止まり、雰囲気も落ち着いたころ。ハクがこんなことを言い出した。

 

「えっと、その………1つ、提案があって………」

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 3日後。冒険者ギルドの受付。シグルドは、受付嬢にとある紙を提出した。

 

「ほら、その………これでいいか?」

 

「はい、承りました」

 

 それは、パーティー解散届と………パーティー編入届。この日、ハク達のパーティーに新たな名前が追加された。

 

 シグルド・フォーゲル。フレイヤ・バーケン。イレーナ・ラ・グラス。

 

 

 これによって、規則上ハク達のパーティーには名前が付けられた。その名も、アンキャサブル。もう二度と、その絆が壊れることがないようにと願って。

 

 

 

感想、評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ