11話 善悪の境界
「お前………生きて帰れると思うなよ!」
無駄に、本当に無駄に高いプライドを傷つけられたアスタロトの顔にはもう余裕はない。たかだか拳一つを受けられた程度でも、彼の自尊心はズタズタにされてしまったのだ。
彼はいきなり今までにない攻撃を仕掛けた。太陽が青く染まっていく。太陽の温度そのものが急激に上昇した証だ。
「なるほど、そう来たか」
更にはそこかしこから焼けるような臭いと煙が立ち上ぼり、充満していく。
「そうはさせないよ」
瞬間的に太陽が元の状態に戻り、急激に空気の温度が冷えていく。
「チィッ!なら………これなら動けないだろう!?」
アスタロトが挑発的に口にしてから僅か2秒足らずで、町は氷に覆われた。より正確に表現するならば………一瞬で気温が絶対零度まで下がったのだ。
分子すら動かないのだから、白蓮は身体が凍り付いて動けないに決まってる。そう思ったアスタロトは、雪が嵐のように吹き荒ぶ中声高々に挑発する。
「はっ、所詮人間なんてこの程度なんだよ。さっきは良くも僕のことを招かれざる客、だなんて心外な呼び方してくれたね。お前は種族で人を判断する差別主義者なわけ?クズめ、人の良い顔しておいてさぞかし人を騙して誑かして来たんだろうなあ。お前に傷つけられた人達を想うと嘆かずにはいられないよ」
「君は少し妄想が過ぎるようだね」
「………は?………幻聴………じゃ、ないよな」
「残念ながら、現実だよ」
「がっ………はぁっ………!」
白蓮の膝蹴りにアスタロトの身体が吹き飛ぶ。そして彼が指を一つ鳴らすと、全てが元通りとなった。
「良くもやってくれたなぁ!」
激しい怒りを込めた蹴りによる破壊が白蓮に迫るも、彼は微動だにしない。
攻撃が効かないならまだ分かる。許せないし理解も出来ないが、まだ状況として飲み込める。だが白蓮の身体には土汚れ一つ付いていなかった。
「一体、どうなってるんだよおおおおォォォ!!!」
心の声そのままに絶叫するアスタロト。だがその声は強烈な音波攻撃となる。瓦礫や廃材が消し飛び、波状攻撃が白蓮に迫る。だがそれでも、白蓮の身体は何も変わらない。
「君の攻撃は通用しない。………たが、どうやらそれは僕の方も同じようだけどね」
「………?」
その呟きを聞いたアスタロトは、少しの疑問の後背筋が凍るような感覚に身体を震わせた。
「………ま、まさか………お前………僕の能力をっ!」
「まあ、あくまで予想だけどね」
「暴いたつもりなら………僕をこけにするのも大概にしろよ!!!確信したつもりか!?それで勝ったつもりか!?そんなのおかしいだろ、僕は最強のはずなんだ!!!お前ごとき、本気を出せばすぐにでも───」
「なら早く出したらどうかな、その本気って奴をさ」
「このっ………!」
白蓮は一度下がり、アスタロトに向かって蹴る動作をした。
「はぁ?お前何してるわけ?詭弁の次は奇行?手に負えな───ぐあああぁぁぁっっっ!!!」
瓦礫を吹き飛ばしながら迫る攻撃がアスタロトに直撃した。遠くまで吹き飛ばされる姿を見た白蓮は、ほっとため息を吐く。
「………君の力の再現さ。どうかな、自分と同じ攻撃方法でやられた気分は」
「ふざけるなっ!!!何だよ、相手が出来ることは自分にも出来ますって?どれだけ僕を馬鹿にすれば気が済むんだよ!!!」
「………君はさ」
ポツリと漏らしたその言葉にアスタロトは耳を傾ける。
「何、文句でもあんの?」
「いや、そういうわけではないんだけどね。………君は………自分が良い行いをしていると本気で信じているのかな」
アスタロトの表情から、白蓮はそう問うた。もし彼が無理矢理従わされて、魔王に脅されてこんなことをやらされているのかもしれないと考えたのだ。
「自分の心に正直になるんだ。君は自分のしていることが悪だと理解しているのかな。僕が一番嫌いな言葉は………差別だ。僕は君が魔族だからといって決して敵だと決めつけないし、もし君の心にきちんと悪を悪と理解するだけの理性があるのなら………きちんと心を入れ替えてやり直すことが出来るはずだ。生き物にはあらゆる可能性がある。僕はそれを信じているんだよ」
「はぁ?何を言うかと思えば………馬鹿馬鹿しい。何、お前は自分が絶対的に善だと信じきってるわけ?お前の勝手な思想を僕に押し付けるだなんて、どうかしてるとしか思えない!!!僕の自由を阻害する奴は全員死ね!それに種族も糞もないんだよ!僕の求婚をはね除けたあの売女王女も、人の命令一つマトモに実行できないクズ共も、偉そうにふんぞり返って命令する魔王も全員嫌いだ、死ねば良い!!!」
白蓮はその言葉を聞き、ため息を吐いた。魔王軍でありながら、魔王に対して忠誠心の欠片も無く、自分の要求を押し通すためなら、全く躊躇わずに人を殺せるその神経。
「………どうやら、僕と君は相いれないらしい。当然人は考え方が違うし、それによる認識の違いを埋めるために擦り合わせが必要だ。だが………物事の判断基準が根本から違う君を尊敬することは少し難しいみたいだ、すまない」
「はあ………何を今更当たり前のことを口にしているわけ?というかそもそもお前だって金稼ぎのために身勝手にモンスターを殺してるだろうが!自分のことを棚に上げて他人を貶めて侮辱するだなんて、狂人のやることだ!!!」
「君と話していると頭が痛くなってくるよ………これは、まさか………」
突如空が曇りだし、雷が鳴りだした。それは四方八方、あらゆる場所から激しい光ととも白蓮に向かって放たれる。
「確かに良い方法ではあるだろうけど、僕には通じないよ」
例え何千発撃たれようと、その攻撃は意味をなさない。「体に傷がつかない」と自身の運命を変えることで、あらゆる攻撃を無効化しているのだ。
「クソが………1発10億Vを何十発も食らっているはずなのに………!」
白蓮は目の前にブラックホールを発動させ、それら全てを吸収した。だがアスタロトの身体が引き寄せられている様子がないことに違和感を覚え、それを解除した。
「物理攻撃は効かない、か。これは中々難儀な相手だ」
「ようやく身の程を理解したようだな。なら潔く死ねよ!!!」
「それは出来ないかな!」
超新星爆発2つ分のエネルギーを球のようにして凝縮させて放つ。
「無駄だってまだ分からないのかなあ!!!」
白蓮の攻撃をアスタロトは蹴りでかき消すと、激流のような勢いで拳を繰り出す。
白蓮はそれを捌き続け、後ろ回し蹴りを正面から受け止めた。それを掴むと、思い切り振り回し続け、建物に向けて投げ飛ばした。
追撃としてホワイトホールを建物に向けて設置し、そこから膨大なエネルギーが放たれる。が、しかしそれを苦もなく突貫しながら受けきった。
音速もかくやというスピードで迫るアスタロトだったが、突然その身体が地に落ちる。
「ぐっ………がぁ………!舐めるなよお前えええ!!!」
アスタロトはすぐに立ち上がると、親の仇のような目で白蓮を睨み付ける。
「じゃあ、これはどうかな?」
「はぁ?」
突如アスタロトの右腕が何かに切り飛ばされた。初めて感じる類いの痛みに、彼は絶叫しながら吐瀉物を地面にぶちまける。
「さぞ痛いだろうね。………さて、今僕は君に何をしたと思う」
「な………なに、を………」
「ただのかまいたちさ。今度は見えない攻撃にも気を付けた方が良いよ」
かまいたちはかまいたちでも、普通のそれとは訳が違う。
絶対に命中し、確実に腕を切断し、味わう苦痛は10倍に。風さえ吹けば、彼にとってはそれが無敵の武器と化す。
だが、それはアスタロトも同じ。蹴り一つで町を根こそぎ吹き飛ばすことが出来る。その膨れ上がったプライドが、彼を立ち上がらせる原動力となった。
「クソが、クソがクソがクソがクソがクソが………!!!!!!僕を………この僕がこんな目に遭うだなんて………ふざけるな、こんなのおかしい………」
ぶつぶつと怨嗟を撒き散らすが、その声はどこにも届かない。
「あぁ、もういいや………全員死ねよ!!!」
白蓮との戦いを放棄し、彼は突然上空へとジャンプした。そして地面に向けて蹴りを放とうとする。
「させるか………っ!」
白蓮は一瞬でアスタロトの場所へ跳び、すんでのところで攻撃を防いだ。蹴りで地面へ叩き落とし、そこへ向かって急降下する。
下から大量の石が飛んできた。それら一つ一つが通常なら当たれば人体が木っ端微塵になる威力だろう。たが白蓮はその全てをかわし、彼の左のあばらをを踏みつけた。
「がっ………!」
高所からの落下エネルギーが加わり、彼の肋骨はバキリとへし折れた。
回復される前に早急に決着をつけることを決断した白蓮は、更なる追撃に出ようとする。
しかし行動はアスタロトの方が早かった。即座に距離を取ると瞬きする間に肋骨を修復し、一瞬で白蓮の背中に移動する。後ろから強く抱き締めあげて肋骨や胸骨を破壊した。だが白蓮もまた瞬間的に身体を修復し、再び距離を取ろうと下がる。
「そう簡単に逃げられると思うなよ!!!」
「いや、そう来ると思っていたさ」
狙い通り、距離を取る自分に対し直線的に追撃を仕掛けようと真っ直ぐ突っ込んでくるアスタロト。
だがそれを逆手に取り、突っ込んでくる彼の肩を押し、合気道のように地面に倒してしまった。
「ぐあっ!」
「………君、相手とまともに戦ってこなかったクチだろう。どんな相手もその能力があれば数発で倒せるから、仕方ないところもあるよね」
アスタロトには戦闘経験が致命的に足りていない、と白蓮は感じた。事実、彼はどんな達人が相手だろうと、極力無比な魔術師だろうと、蹴り一つで血煙に変えてきたのだから。
かといって同じ魔王軍幹部同士で手合わせすることなどまず無い。彼らは皆仲が悪く、互いに顔を合わせたがらないためである。
鍛練など、もっての他。最強である自分には、強くなるための努力など必要ない。凡百の雑魚と同じことをしたくないというプライドもあったのだが。
「………ッッッ!!!黙れ!まともに戦うまでも無かったってことさ!お前ら人間とは生物としての格が違うんだよ!」
「生きとし生けるものは皆神の下に平等だ。それには種族も身分も関係ない………違うかい?」
「下らないね、全くもって無価値な言葉だ」
「………同情するよ。君はきっと辛い人生を送ってきたんだろう。だからこうした、歪んだ価値観を抱いてしまった。ならば、僕にはそれを正す義務がある」
白蓮は心の底からアスタロトを哀れみ、可哀想な奴だと同情した。
そんな言葉と視線を向けられたアスタロトは即座にその表情を憤怒へと歪めていく。
「お前今、僕を哀れんだよな。人間の癖に………この僕を………下に見たよな?絶対に許さない!!!命乞いだって聞いてやるものか、骨も残さず粉々にしてやるよ!!!」
アスタロトは大きく足を振り上げた。今までで一番の攻撃だと、誰の目から見ても明らかだ。
「死n」
突然、言葉が途絶えた。白蓮の飛び蹴りがアスタロトの顔面に命中。そのまま上半身ごと千切り飛ばしたのだ。
戦闘慣れしている者からすれば、大きく足を振り上げるモーションなど隙だらけ以外の何物でもない。
「能力に溺れた末路がこれか、僕も戒めないとね」
「…………ま………て………!なに、もう………勝った気で………いるんだ………よ………!」
「当然警戒は解いていないし油断もしていないよ。………君と違ってね」
胴が別れた程度で死ぬほど、魔王軍幹部は弱くない。みるみる内に下半身を再生し、再び地面に足を付けた。
「絶対に許さない………!殺してやる、次は、必ず………!」
一瞬でアスタロトの姿が消えた。どこかへ逃亡したのだ。
「魔王軍幹部が敗走………あちらにとってはかなりの痛手を負わせられたかな」
◆◇◆◇◆◇
「クソ………許さない………!あの野郎、必ず血だまりにしてやる!!!」
敗走など、屈辱以外の何物でもない。気が晴れず、怒りが収まらないアスタロトは八つ当たりをすることにした。何も考えず最高速で逃げた彼は、直線的に周りの物を吹き飛ばしながら森まで逃げて来たのだ。
「僕をコケにしやがって、バカにしやがって………!………というかここってどこだよ」
「どうしたの?お兄ちゃん、ここはエルフの森だよ?」
「あ?………ああ、そうなんだ。ごめんねえ、お兄さん森に迷ってしまって………とりあえず案内してくれない?君の住処にさあ」
「うん、わかった!」
憂さ晴らしをしてやろうと、彼はエルフの少女についていく。すると、木々で作られたエルフの集落が見えて来た。すると、家から出て来た少女と目が合った。風貌から察するに、それはエルフの戦士だった。
「………魔族!?どうしてここに魔族が……」
「………は?オイ、お前今なんて言った?僕を種族名で呼んだだろ!!!僕にはアスタロトって名前があるんだよ!!!それなのになんでお前は種族名で人のこと呼ぶわけ?普通あなた、だろ?言葉遣いもロクになっちゃいない奴が僕と口を聞こうだなんて、随分と思いあがった奴だなあ!!!!!!」
「ご、ごめんなさい、アスタロトさん。あなたはなぜここに来たの?」
「憂さ晴らしだよ!気が晴れないから、ここら一体でも消し飛ばせば怒りもおさまるってもんさ!」
「………っ!皆逃げて!!!魔族が来たわ!!!戦える人は相手をして!!!」
「あ、そうだ。お前………僕の女になれよ。へへ、可愛い顔してんじゃん」
いきなりの要求に、彼女は絶句した。そのまま近づいてまじまじと顔を見つめてくるアスタロトに、嫌悪感を隠さない。それだけで彼は怒りを沸き立たせるも、ここで殺害すれば楽しみが消えると感じ、攻撃を止めた。
「お前!ルファを離せ!」
「魔族め………許さん!」
十数名のエルフの戦士がアスタロトの前に立ちふさがる。弓や剣、魔法杖を持った彼らは警戒しながらも、逃げ遅れがいないように時間稼ぎをする。
「………はぁ?何勝手にお前らの都合で僕に命令してるわけ?僕の気分を害するなあああぁぁぁ!!!」
苛立ちを解消するため、彼は思い切り足を振り上げた。その攻撃は全てを灰塵に帰する。集落諸共、戦士や住民全てを血煙に変えた。
「あースッキリした。お前も僕の気分を悪くさせればこうなるんだよ、たからほら………大人しく僕の女になれよ、ね?」
「………は………い………っ」
虚ろな目で、感情を失くした声音で少女は、ルファはそう答える。たった数分。その間に彼女はあまりにも多くの物を失った。
その事実は、彼女に諦めを与えるのにあまりにも十分すぎる。
彼の奴隷のような存在として生涯を過ごすしかないと諦めが着いた、その時。
アスタロトの側から彼女が消えた。
「これから屋敷で………あれ?………ッッッ!?!?!?」
その事にアスタロトが気付き、慌てて周囲を見渡す。すると………自分が先ほど一蹴した青年が彼女を抱えているではないか。
「テメェはまた女の子にちょっかい掛けてんなぁ。浮気性の男は嫌われるぜ?」
その青年とは、アインだった。隣にはユリカもおり、剣を構えている。
「貴様っ!エルフの集落をこんなにするとは………許せん!!!」
「オイ、さっきのようにいくと思うなよ?………ユリカ、取りあえずこの子をギルドに連れていけ。こいつの相手は俺一人でする」
「………、分かった」
「僕の相手をお前一人で?冗談は休み休み言えよ。お前、さっきのこともう忘れたわけ?」
アスタロトの言葉をアインは鼻で笑い飛ばす。まるで、勝算があるような口ぶりで。
「白蓮さんから色々聞いたぜ。お前の能力の正体まで全部。………お前さ、アサシン舐めんなよ」
「お前のことなんかどうだって良いんだよ………!僕の女を良くも取りやがったなぁ!?!?」
「怒んなって。お前、最強なんだろ?だったらもっと心に余裕持てよ」
確かに、と思ったアスタロトは手を大きく広げた。
「僕の力を存分に見せてやる。その上でじっくりといたぶってやるよ」
「んじゃ遠慮なく」
彼の周囲に数百の氷のトゲを展開し、それを四方八方から放つ。そして遅れて来るように破壊の腕が彼の身体を呑み込まんとする。
しかしアスタロトは余裕の笑みを崩さない………どころか、狂笑まで浮かべた。
◆◇◆◇◆◇
時は遡り、二か月前。
ハクは山にこもり、魔力操作の修行に励んでいた。白蓮から紹介された翁と呼ばれる人物に会いに行ったのだ。翁は賢者と呼ばれる魔法の達人で、様々な逸話を残す伝説の魔術師だ。
「儂の言うことが分からぬか、小僧。魔力の大きさに頼りすぎなんじゃ。魔力そのものの本質を理解せずにただ垂れ流しで使っていたのだろう」
「はい………」
「翁殿、あまり彼を怒らずに。さあハク君。頑張ってみようね。当然、僕の能力を使わずに」
「頑張ります!」
白蓮の言葉にやる気を見せ、座禅を組み魔力操作に励む。そもそも属性魔法を使うためには、各属性の元素と魔力をリンクさせなければならない。
しかしそれは人が筋肉に力を込めるかの如く、難しいプロセスを踏まずに行うことができるものだ。だが、その過程を知覚することが第一歩。
「ハクよ、魔法の属性の六つを答えてみよ」
「はい!えっと、火、水、雷、風、光、闇です」
「………うむ。そうだ。だがしかし各属性には、その先があるのだ。火は熾、水は凍、雷は天、風は嵐、光は聖、闇は滅。それらを自在に使いこなせるようにならねば、魔王軍幹部を倒すなど夢のまた夢。例え魔力そのものの質が神の領域に達したとて、使いこなせねばたかが知れるというもの。今のお主は例えるなら、剣聖がなまくらの剣で戦っているようなものよ」
「なるほど………やってみます!」
まずは火を起こし、それを凝縮させる。二か月の間こういった地道な修行が続いた。その結果、今日を以てハクは修行を終え、属性を進化させることに成功したのだ。
「よく頑張った。これは褒美の魔杖だ。修行で作らせた魔石の中でも全く穢れのない超一級品のみを使用し、加工したものだ。持ち手の棒の部分から、水晶部分まで全てがその素材で作られておる」
純白に輝くその魔杖の性能は、最早神話級。神の振るう杖といっても過言ではない。その出来に感嘆の声を漏らすハクだったが、すぐに気持ちを切り替えてアスタロト討伐へと動き出した。
◆◇◆◇◆◇
「はぁ………はぁ………!こんだけやっても………!クソがっ………!」
自身の力を注ぎこんだ渾身のラッシュも、彼にとっては何の影響も与えられていない。
「ねえ、終わった?この茶番いつまで続けるのかなあ、いい加減無駄だって気づけよ!」
無造作に腕を振るうと、アインの右肩から先が消失した。あまりの痛みとダメージに倒れこみ、苦悶の表情を浮かべる。
「どいつもこいつもそうだ、僕の気分を害して楽しんでるんだろ?僕はただ平凡で目立たない生活を送りたいだけなのにさあ、魔族だからってすぐに殺そうとするだなんて、人間は本当にクソみたいなやつらばかりだよね」
「そりゃお前が………勝手にイラついて、八つ当たりして………殺しまくってるから、だろうが………!何の罪もない………人を、虐殺しまくって………!鏡、見てみろよ………!」
せめて言葉だけでもと彼は悪態をつき、抵抗する意思を消さない。こうでもしないと、心が折れてしまいそうになるから。
だが、その意思すら挫こうとアスタロトは攻撃を仕掛ける。何とか立ち上がった彼の足めがけて、土を投げたのだ。それは当たったもの全てを破壊する散弾と化し、彼の両足を粉みじんに消し飛ばした。当然彼は真っ黒になるまで破壊のオーラを凝縮し、防御態勢を整えていたが、それすら意に介さないかのように攻撃は苛烈だった。
「………あ………ぁ」
血液は滝のように流れ出し、このままでは失血死は免れない。言葉を発する余力もなく、後少しで死ぬ。
その瞬間、ハクを連れたユリカが戻ってきた。その惨状を見て絶句する2人だったが、すぐにアインの元へ駆ける。
「アインさんっ!!!しっかり!《デウス・ベネディクティオ》!!!」
属性強化された神代魔法による治癒で、アインの身体は完全に元通りになった。
「貴様………なんということを!許さん!!!」
ユリカが怒りの形相で剣を向ける。そして遅れるようにハクとアインは戦闘態勢に入る。今までアスタロトに殺された人々の無念を晴らすため、彼らは戦うことを諦めない。何度でも、何度でも立ち上がる。
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