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10話 憤怒の魔人

 ハク達は、自分達が住む国であるシュタイン王国最大の都市、王都へ観光にやって来た。

 

「凄いねぇ、いつもの町とは大違い」

 

「………うむ、そうだな。王都には何度か来たことがあるが………相変わらず活気に満ちている」

 

「だなぁ………ハク、はぐれんじゃねえぞ~」

 

「ミシェルと手を繋いでるので大丈夫です!」

 

 そこら中に店が立ち並び、いつもの場所とは比較にならないほど活気づいていた。まずは露店で食べ歩こうかと思い、皆はそれぞれが気になるものを購入し、分け合うことにした。

 

「美味しいね!」

 

「そうだね~、ほらハク、あーん!」

 

 他人の目など何のその。互いに食べさせ合うハクとミシェルを見たユリカは思わずため息をつく。

 

「全く………人前だというのにはしたない」

 

「良いじゃねえか、あ、俺達も食べさせあう?………いや、それは夜に取っておくか………な?」

 

「だっ黙れ!いきなりそんなことを………それこそ………は、はしたないぞ!」

 

「そう?いつものことじゃねえか」 

 

 けらけらと悪びれもせず笑うアインに対し最大級のため息をついたユリカは、彼の腕に抱きついて身体を密着させた。

 

「ふ、ふん………こ、これくらいはしてやろう!」

 

「お前も大概じゃね?人のこと言えねえなぁ」

 

 意気揚々と歩きだしたアインに気づいたハク達はその後を追い掛ける。

 

 

 

 

 その瞬間。地響きのような音が鳴り響き、地面が大きく震動した。

 

 

「な、なに………?」

 

「地震か?」

 

 人々が困惑するなか、アインは表情を固くする。

 

「………揺れ方が変だ」

 

「え?」

 

「一方向に激しく揺れたぞ。普通は地震って前後か左右に揺れるはずなのにな」

 

「確かに、そう言われてみれば………」

 

「この揺れ方は………まるで攻撃の余波だぜ(・・・・・・・・・・)

 

「………攻撃!?それって………」

 

 アインは何者かが強大な技を放って、その余波により地面が揺れたと考えた。

 

「………嫌な予感がする。魔王軍じゃねえだろうな」

 

 その予感は、正しい。その揺れはまさしく《憤怒の魔人》アスタロトによる攻撃の余波によるものだったからだ。

 

「ここまで余波が届くと考えると………魔王軍幹部かもしれねえ、気を付けたほうが良い」

 

「じゃあすぐに伝えにいかないと!」

 

 王都の冒険者ギルドまでハクの転移魔法で4人は飛び、予感を伝えようとしたその時。

 

「たっ………大変です!!!商業都市ギルバードが………跡形もなく消滅しています!!!完全なる更地に………!」

 

 ギルド職員が慌ててそう伝えると、現場に戦慄が走る。

 

「なんだと………!ま、まさか魔王軍幹部の………!」

 

「はい、恐らくは………」

 

 

 その瞬間、拡声魔道具による声が、王都に響き渡った。

 

『あ~、あ~………どうもこんにちは。僕は魔王軍幹部、《憤怒の魔人》アスタロトっていいます。たった今王様とか后とかをブチ殺しました。………今から要求することを飲めば国民の皆は殺さないけど………もし飲まなかったらこの国ごと皆さんを消し飛ばします』

 

 その言葉に、皆が混乱の境地に達する。その要求を聞くため、ギルドマスターは怒声を以て皆の心を静めさせた。

 

 

「………ハク、落ち着いて」

 

 怒りか、それとも恐怖か。ミシェルは身体を震わせるハクの手を優しく握った。

 

 

『要求は………そうだなぁ、今から1時間以内に美女2人王宮に連れてきてよ。|ちょうど今切らしちゃってて《・・・・・・・・・・・・・》』

 

 まさか女探しとは、と呆れ果てる冒険者達。しかしそのふざけた要求を飲まなければ、国は更地と化してしまう。だが、そうするつもりがあるものなど、ここにはいない。

 

「あんなの誰が従うかよ!!!俺達全員で奴をぶっ倒しちまえば問題ねえよな!!!」

 

「そうだそうだ!魔族なんかに屈する必要はねえ!」

 

 冒険者達の戦意が高揚し、全員でアスタロトに立ち向かおうという空気が出来上がる。しかし、それに水を差したのはアインだった。

 

 

「お前ら………底無しのバカだな。もしここにいる人数で奴に立ち向かったとしても、一蹴されるのがオチだ。無駄死にするんじゃねえよ。………そういうのは、俺達Sランクに任せとけば良いわけ。お前らは凱旋の準備でもしてな」

 

「僕達が………必ずあの人を倒します!だから、皆さんはどうか………ここにいて備えていてください!お願いします!」

 

 ハクが必死に頭を下げると、それに従わざるを得ない空気が生まれた。

 

 

 

 ハクは非常に気が弱く、頼りないがために威厳など欠片も無いように見える。

 

 だが、Sランクという肩書きを手にいれたことで、冒険者達はその言葉に耳を傾け、従わざるをえなくなる。それほどの権力を手にいれたのだ。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 王城の広間に、金髪碧眼の美少女が拘束されていた。玉座に座り込んだアスタロトは、その少女を品定めする。

 

「へえ………中々良いじゃん。僕の嫁にはピッタリだ」

 

「なんで………お父様と………お母様をっ………!」

 

「………君を(めと)りに来たんだよ。ほら、君って美人で聡明って国内外で有名じゃん?17歳ってことは婚姻にはもってこいの年齢だから、僕が夫になってあげようと思って」

 

「ふざけたことを………っ!誰があなたなんかの物になるの!!!」

 

「君に拒否権なんかあるわけないだろ。僕と君が結婚することは運命なんだからさ」

 

 悪びれもせずそう宣うアスタロトを睨み付ける少女。国王である父と后である母を殺した怨敵を、許すことなどできるはずもない。しかし精一杯の抵抗は、睨み付けることだけだ。

 

「そうだなぁ………あ、ねえ、捕まえた女の子連れてきてよ」

 

 そう言って他の魔族に命令すると、すぐさま拘束された美少女が3人、奥の広間から姿を表した。その容姿を見て興奮し始めたアスタロトは、その場で小躍りし始めた。

 

「素晴らしい素晴らしい!うん、いいね。文句なしの容姿だ。………あ、聞きたいんだけど………まさか娼館から連れ去ってないよね?」

 

 突如恐ろしく低い声でそう尋ねるアスタロトに、魔族達は怯え、すくみ、声も出ない。

 

 しかし、少女の1人だけが明らかに娼婦と分かるような格好をしてしまっていた。

 

 その瞬間アスタロトは激昂し、がなりたてる。

 

 

「ふざけるなよふざけるなよふざけるなよおおおお!!!お前はなんで………娼婦とかいう誰にでも股を開くようなのを連れてきたんだよ!僕はなぁ、僕だけを見てくれて僕だけを愛してくれる女じゃないと嫌なんだよおおおお!!!なんで………なんでなんでなんでええええぇぇぇぇっっっ!!!」

 

 泣き嘆きながらその少女を連れてきた魔族に対して掴みかかり、拳を一発入れた。それは魔族だけでなく、その先にあるものすら木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

「………ッ!」

 

 

 

「………あぁ、ごめんね他の2人………君達は違うよね?」

 

「ち、違いますっ!わ、私は決して娼婦などではございませんし、男性と付き合ったことすらありません!」

 

「あ、あたしも!娼婦じゃないし、男と手を繋いだことも無いです!信じて!」

 

 その言葉を聞いたアスタロトは安心しきった笑みを浮かべると、2人に対しとんでもないことを命じた。

 

「じゃあ………今から僕に抱かれてくれるよね?僕と君達は運命で結ばれているんだから、そのくらい当然出来るよね?愛する男と身体を一つにするなんて、女にとっては最高の名誉のはずだよね。さあ、服を脱いでくれ!!!」

 

 完全に狂った思考に、理解できないという表情を浮かべる。だがしかし、命には変えられない。少女の内の1人は、覚悟を決めて服を脱ぎはじめた。

 

「………ちょっと、なに、やって………」

 

「仕方ないでしょ。こうしないと殺されるんだから………」

 

 

 こそこそと会話をしていた2人だったが、運の悪いことにその会話はアスタロトに聞こえてしまっていた。

 

「………は?………おい、なんだって?嫌なの?もしかして?僕に抱かれたくないの?運命で結ばれてるんじゃなかったの?………仕方ないってなんだよ。それじゃまるでお前は嫌だけど仕方なく、命惜しさに僕に抱かれるみたいじゃないか。そんな噛み合わない心理状態でしても気持ち良いわけないじゃないか、じゃあなんで自分から服を脱いだんだよ!!!僕は嘘をつく女の子が一番嫌いなんだ!!!このクソアマがあああァァァ!!!」

 

 アスタロトは少女に蹴りを喰らわせると、その身体は王城の一部と共に、木っ端微塵に四散した。

 

 

 少しでも………ほんの僅かでも機嫌を損ねれば死ぬ。そう理解した少女は覚悟を決めて、服を脱ごうとした………その瞬間。

 

「ハアアアアアァァァァッッッ!!!」

 

 

 少年の雄叫びとともに白い光が見えた。それが近づいてきたと思ったが、アスタロトに向かって放たれていることに少女は気づいた。

 

「な、なに………?」

 

 それは王城を屋根ごと突き破り、遠くの空に向かっていく。

 

「到着っと………何、この状況」

 

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 

 滅茶苦茶に破壊された王城に、血煙が立ち込める。そんな光景を見たアインは即座に状況を察し、顔をしかめる。

 

「テメエ………女の子を………っ!」

 

「理解が早くて助かるよ。そうさ、でも仕方ないだろ?この僕の機嫌を損ねた上に嘘までついたんだ、死んで当然さ」

 

「ひ、酷い!なんてことを言うんですか!」

 

「………んじゃあ、お前を殺すのも仕方ないな。俺の機嫌を損ねたんだから。お前が言ったことだぜ、自分の言葉には責任取れよ?クソ野郎が」

 

 アインのオーラが腕状になり、10本ほどの腕がアスタロトの全身を取り囲んで一斉に襲いかかる。だが数秒すると、全ての腕が吹き飛ばされると同時にその攻撃範囲がハク達の場所まで届きそうになった。

 

「チイッ!」

 

 咄嗟にドーム状に破壊のオーラを設置し、かつハクの魔力による防御障壁で事なきを得た。

 

「………おかしいなあ、王城ごと吹っ飛ばすつもりだったのに………調整ミスったか?」

 

 そんなアスタロトの小さなボヤきをアインは見逃さない。

 

(調整………って言ったか?能力のことだな。何かを操っているのか) 

 

 会話内容、要求、表情と場の惨状からアスタロトの性格を分析したアインは、次の手を打つ。

 

(こいつ相当自己顕示欲が高いタイプだな。能力に胡坐を欠いてるのが目に見えるようだぜ。それに………油断したら色々バカみたいに喋ってくれそうだ)

 

 だとしても、まさかこうもあっさりと破壊が破られるとは思ってもみなかった。故に能力の看破は現状最大の急務だ。動きを観察する時間が欲しい。そう思ったアインはハクに戦闘を任せ、一旦少女二人をギルドで保護するため連れ出そうとした。

 

 だが、そんなことをアスタロトが許すはずもなく。

 

「そんなことが許されるわけないだろ!」

 

 アインに向かって突貫。凄まじいスピードで突っ込んだ。だが彼は後ろに跳んでかわし、アスタロトはそのまま窓を突き破って落下した。

 

(………なるほど、今ので少し分かったわ)

 

 その一挙動のみで彼の能力を予想したアインは、彼女達をハクに預ける。彼は転移魔法でギルドへ飛び、すぐさま戻ってきた。

 

「ハク、あいつの能力………多分身体能力強化だ。それも、相当な倍率のな」

 

 身のこなしは素人同然、しっかりと武術の訓練を受けたものなら、あんなヘマはしない。やはり自分の見立ては正しかったと彼は確信した。

 

「………あのさあ、何僕を差し置いてもう勝った気でいるわけ?他人の物を勝手に盗ってはいけませんって親に教わらなかったのかなぁ………!」

 

 割れた窓から再び王城へ入ってきたアスタロトは、血管を浮き立たせ血が吹き出るほど怒りを募らせていた。

 

「どの口で言ってんだ、お前………先に人様の女を盗ったのはお前だろうがよ」

 

「ああ言えばこう言う………!どうやら自分の罪の大きさを理解していないようだなぁ!!!大体こんな一個人を寄ってたかって苛めるだなんて、どうかしてるだろうがあああぁぁぁ!!!」

 

「ハク!来るぞ!!!」

 

「はい!」

 

 

 その蹴りは空を切る。だがその力は絶大だ。今までとは比較にならない威力の攻撃に、極大魔法ですら傷一つ付かないはずのハクの防御障壁は飴細工のように砕かれ、アインの破壊のオーラでさえも力ずくで強引に突破された。

 

 

「うわああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

「ぐああっ!!!」

 

 

 その攻撃の先にある家や建物はくずぐすに破壊し尽くされ、血煙が上がる地獄絵図。

 

 

 数百メートル吹き飛ばされたハクは、落下の衝撃から備えるために再び防御障壁を自分に使い、事なきを得た。

 

「う………ぅぁ、………っ、空が………」

 

 攻撃が通った場所だけ、雲が消えていた。今日の天気は曇り空だったが、雲を吹き飛ばすほどの威力であった。

 

 

「………あんなの、どうすれば………っ、そうだ、アインさん!!!」

 

 同じく吹き飛ばされたが、別方向に落下したであろうアインを探そうと必死に呼び掛ける。

 

 すると、突如遠くから黒い燐光が吹き上がった。それはアインの破壊のオーラであることに気が付いたハクは、とりあえず安堵した。だが、それは空中で形を変えていく。

 

「………あれ、文字になって………『ハク どこにいる はやくこい』………っ、行かないと………」

 

 自分が無事であることを示すため、彼は魔力光線を上に向かって飛ばしてから文字が見える方向に向かって走り出した。

 

 

 アインの姿が見えたその時、王城の方から何かが彼に向かって飛んでくるのが見えた。一瞬だったがはっきりと姿形が見えた。それは、アスタロトだった。

 

 アインが空に描いた文字を見たアスタロトは2人が生きていたことに激昂し、即座に抹殺しようとそこまで突貫して来たのだ。

 

「アインさんっ!!!」

 

 ハクは身体強化でアインの元へ向かうものの、アスタロトの方が辿り着くのが早い。今攻撃されれば一溜りも無い。

 

 

 

 

 

 だがその拳が届く寸前で、何者かがそれを掴んで防いだ。

 

「なっ………僕の拳を………!」

 

 自分の攻撃が防がれたことに驚きを隠せないアスタロトだったが、それは即座に怒りへと変わった。

 

「こんな屈辱は初めてだ!!!誰かは知らないけど、良くも僕のプライドを傷つけてくれたなぁ!簡単に死ねると思うなよ!!!」

 

「それはこちらの台詞だよ」

 

  凛とした声が辺りに響いた。

 

「………やけに風が騒ぐと思えば………招かれざる客がいたようだね。僕は白蓮。一応Sランク冒険者だ」

 

 

「《万象》の白蓮か。噂は聞いてるよ。あの《全能》と良い試合をしたんだって?なら殺す価値はありそうだ!」 

 

「2人とも、悪いがここから離れてくれ。一般市民を守りながら戦えるほどの余裕がないんだ」

 

 

 白蓮の今までになく切迫した表情に、2人は何も返すことができない。故に黙ってその言葉に従う他無かった。

 

 

 

 2人が転移で他の場所へ行ったことを確認した白蓮はアスタロトの方へと向き直る。

 

「待たせたね。………では、始めよう」

 

 

 こうして、図らずも大きな戦いが始まった。

 

 

 

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