第三話 初仕事
「カーム・レジェン…」
聞いたことがある。2年前、とある冒険者たちが魔王を討伐すべく魔王城に赴いたが、結果は敗北…
冒険者たちは逃げ帰ってきたが、1人だけ行方不明となった…その人の名前がカーム・レジェンだった。
「そんな馬鹿な、その人は死んだはずでは?」
「でも見ちゃったのよ、あの人カームさんとそっくりなんですって!だからこんな噂がたったのよ」
「へえ…」
あの人が伝説の武闘家…でもそれだったら納得出来る。あの戦闘能力の高さは元最強の武闘家だったからなら合点が行く。思考を張り巡らせていた時、看護師さんが話しかけてくる。
「そういえばオーディナリーさん」
「あ、はい」
「特に体に異常は見られなかったため入院しなくて済みますよ、良かったですね」
「え?あ…ありがとうございま…す…?」
一瞬困惑した。体に異常が見られなかった?確かに顔面を燃やされた記憶が存在する。床を溶かす温度だぞ?あんなに熱い炎を顔に直に食らったら火傷するどころの騒ぎじゃないはずだ。なのに異常がない?
先ほどから疑問ばかりが湧いてくる。しかしもう考え続けるのも疲れたのでもうとっとと帰ることにした。
「もう帰っちゃっていいんですよね?」
「はい、いいですよ」
「あ、ありがとうございます」
「あとお金は払わなくていいですよ、カームさんらしき人が払っていったので」
「あ、分かりました」
そうして魔法治療医院を出ると、出会わないであろう人と出会った。
「遅かったじゃないか?」
「あ…あの時の面接官さん…」
カーム・レジェンなんじゃないかという疑惑が出ている男だ…
「あ…あの…」
「どうしたんだ?聞きたいことがあれば何でも答えるぞ?」
「もしかしてあなたって…カーム・レジェンさんなんですか?」
「…」
しばらくの沈黙の後その答えは出た。
「…そうだ、俺はカーム・レジェン。よくわかったじゃないか」
「やけにすんなりですね」
「真実を真実でないというほど愚かなことはないからな…」
彼はそういうと西に沈んでゆく太陽をもの悲しげに見ていた。
「…それはそうと、お前に伝えたいことがあったんだ、お前は明日からリッチ家の執事だ、これからよろしく頼むよ」
「あ…ありがとうございます…」
「まあいきなりすぎだな、すまない、じゃあ明日リッチ家に来てくれ。じゃあな」
そういうと彼は魔法治療医院の中に入っていった。
僕は少し混乱してしまっていた。今日はいろいろと起きすぎて困惑することしかできなかった。
とりあえず親に仕事を見つけたということだけを伝えようと帰路につく。
「…今日はマジですごい日だったなぁ…」
そんな独り言をつぶやきながら、僕は家に向かう。
~カーム~
「すまない、フレンディーって患者の友人なんですが…」
「ああフェクトさん。今日もフレンディーさんとの面会ですか?」
「そうだ、許可をいただきたいのですが…」
「いいですよ、いつも通りの病室です」
「ありがとうございます」
俺はカーム・レジェン。
今のはフェクト・フェニーなのだが…
そんなことはどうでもいい、今は自分の恩師に会いに行っている。
「失礼します…」
「ん?」
自分の恩師とはいつもこの魔法治療医院から抜け出している男…フレンディー・ソップさんだ。
「おお!フェクトじゃねえか!俺への土産でも持ってきたのか?」
「まあ土産みたいなもんですね」
そうして我々は話を始めた。
「それで…土産はなんなんだ?」
「フレンディーさんがリッチ家の面接に送ってくれた男ですよ」
「ああ…オーディナリーか…」
彼は暗くなり始めた空を見ながらつぶやく。
「彼の結果は合格、良い人材になってくれそうです」
「そうか…ならよかった…」
そうしてそのあと少し世間話を交わした。
「フェクトさん、そろそろ面会終了の時間です」
「わかりました」
看護師さんから面会終了の時間と告げられ、俺は帰ろうとする。
「それではフレンディーさん、私はこれで…」
「フェクト!」
帰ろうと挨拶した時、フレンディーさんはいきなり大声を上げる。
「ど…どうしたんですか?」
「…この前みたいな失態…もう二度と犯すなよ」
「…はい」
そういわれ、魔法治療医院を出る。
そして、
「もう二度と仲間は失わん…!」
そうつぶやき、俺は屋敷に戻る。
~オーディナリー~
「改めてみてもでけーな…」
目の前にそびえたつ巨大な屋敷を見上げ、僕はそうつぶやく。
「オーディナリー」
僕の名前を呼んだその男は、この前と全く変わらない服装をしていた。
「こんにちはカー…むぐ!」
彼の名前を呼ぼうとしたら速攻で口を塞がれる。
「その名前で呼ばないでくれ、今の俺はフェクトって男なんだ、頼むからフェクトって呼んでくれ」
口を塞がれたまま懇願される。
喋れないので頭を縦に振り、フェクトと呼ぶことを誓う。
「ありがとう。じゃあついて来てくれ、今から研修を始める」
「はい」
そう言われ僕はフェクトさんについて行く。
ついて行った先には合格者と思われる人が大量にいた。
「それでは合格者が揃ったのでここの見学及び研修を始めさせていただきます」
そういいながらフェクトさんは自分の後ろにあった木箱から服を取り出す。
「まずはあなた達にこの服に着替えていただきます、その後にこの屋敷の見学をします」
そうして僕らに服を手渡し、着替えさせた。
「どうやら全員着替えたようなので屋敷の中を案内させていただきます」
そうして屋敷の案内が始まった。
案内された部屋はどれも気にならない部屋だったし、特に質問もなかった。
ある1部屋を除いては…
「この部屋はこのリッチ家のお嬢様がいる部屋です。私以外の執事は入室が許可されていないので間違っても入らないように」
なぜフェクトさんしか入っては行けないのだろうか…疑問だったがこの前までの疑問に比べれば気になるほどでもなかったから質問しなかった。
その後は簡単に仕事の仕方を教えてもらい、一日が過ぎていった…
「それではこれで今日の研修は終わりです。明日も研修があるので気を引き締めてくださいね」
そう言われ、僕の近くにいた人達はゾロゾロ帰って行った。
僕も帰ろうとした瞬間、とてつもない殺気を感じた。
しかし自分に対する殺気ではないのはわかった。
どこから殺気が来てるのか探ろうとしたが、戦闘能力がないため、そのまま帰った。
思えばあの時の選択は正しかったのだろうか…
〜カーム〜
「ふう…」
研修生たちを見送った後、俺は一息つく。
毎年この年になると大量の研修生の面倒を見なくては行けないから大変だ。
そんなことを思いつつ、屋敷の中に戻ろうとすると
ヒュン!
そんな音とともに鋭い何かが飛んでくる。一瞬で見切り、即座にかわす。
飛んできた方に目を向けると
「何の用だ…?ギルドの犬」
「…」
ここには冒険者ギルドという魔王を倒すという目的や魔族に困らされている人を助けたいという目的を持った奴らが集まっている組織が存在する。
その中でも特段強い七英雄の1人に数えられる女が今俺の目の前にたっている。
その女の名はレベッカ。
「なんの用で来た?」
「あなただったら…分かってるんでしょ?」
この女は何故か俺に執拗に戦闘を仕掛けてくる。
何故戦闘を仕掛けてくるのか。それを聞いていなかったことを思い出し、質問を投げかける。
「なんでいつも俺に戦闘吹っ掛けてくるんだ?俺がお前の親殺したとでも?」
「あなたがまた私より強くならないように…強くなる前に殺すためよ!」
「!?」
質問に答えた後即座にナイフを投げながらこちらに接近してくる。
俺は飛んできたナイフをたたき落としこちらに向かってきていたレベッカを迎撃する。
彼女が腰から抜いた立派な剣を手で掴む。
「へえ…まだ…腕は…衰えては…ないようね!」
彼女は掴まれた瞬間剣を引き抜き間合いを取る。
「お前が弱すぎて話にならないだけだ。俺の腕は昔よりもっと衰えてる」
「!?言ってくれるじゃない!」
どうやら俺が放った言葉で怒りモードに入ったようだ。こちらとしては都合がいい。
「お前は…今まで武闘家が魔法を会得したという…記録を見たことはないか?」
「?そんなことあるわけないでしょ?」
そうだ。武闘家は本来魔法なぞひとつも覚えない。魔法は魔法使いや賢者といった奴らが会得するものだ。
しかしそれはあくまで今までの話だ。
「ふふ…お前にいいもん見せてやるよ。」
「え?」
そして俺は後ろに隠していた腕を前に突き出し、魔法を放つ。
「オメガトルネイド!」
その瞬間、俺の腕からものすごい突風が吹き、レベッカを襲う。
「きゃあ!」
とっさの出来事にレベッカは一瞬反応が遅れたようだがそれでもまだ風に吹き飛ばされず耐え続けている。
さすがはあの汚職組織の最強の7人に数えられているだけはある。
だがこれだけで終わる俺でもない。
「オメガフレア!」
「え!?」
強烈な爆発魔法をレベッカの足元に撃つ。
その時、足場が吹っ飛び強烈な風に巻き込まれていたレベッカは何処か遙か遠くまで吹っ飛んでいった。
「ふう…」
妨害者を退け、また一息着く。
「もう二度と会いたくねえな…あいつとは…」
そういい屋敷の中に入って行く…
続く…
追記:この世界での魔法について、この世界での魔法は弱い順に(魔法の名前)、アルファ(魔法の名前)、オメガ(魔法の名前)となっている。しかし中にはあとの二つがない魔法も存在している。