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捕獲

捕獲

 私ともののけ×1.1さんは、エアロックから外に出て、脱出艇の外面に張り付いて地球を見ている。宇宙空間で命綱なし、半袖、生足、裸眼。こんなことができるのは、この身のメリットの1つである。 

 腕時計型コンピュータのディスプレイが点灯してはるちゃんが、「救助船がもうすぐ見えてきます。右手の方向です」

 言われた方向を見ると、白い点がだんだん大きくなるのが見えた。生身の人間が2人、脱出艇の外でくつろいでいるのを見られたら、後が面倒なので船内に戻った。

 近づく救助船は、巨大でコンコード号と同じくらいの大きさに見えた。構造も同じで、鉄塔の両端にブリッジとエンジン、その間は球形の物が多数並んでいた。燃料タンクだと思う。

 はるちゃんにテキストで通信があった。内容は次のとおり。

 こちらは、特別救助回収船のザハニト号。本船は無人で、遠隔操作と人工知能で制御しています。今より回収します。現在の極軌道を離れて、宇宙ステーションの軌道に移動します。大きな減速と方向転換が必要になります。そちらの船内に、貴重な資料が多数あるとのことなので、ゆっくり減速します。問題なければ、救助回収と本船への固縛を始めます。

 ザハニト号は、ブリッジ付近から網を放出した。救難艇は網に包まれた。網は引き戻され、かつ絞られザハトニ号のブリッジに救難艇は固定された。

 「これでは、救助てはなく獲物の捕獲で嫌な感じ」と私。

はるちゃん「本当は接続部どうしをつなぐのでしょうけど、壊れているかも知れないし、長時間大きな減速をするので必要な方法だったのでしょう。救助船からの情報によると、ゆっくり減速するので、地球の宇宙ステーションに着くまで30日かかるそうです。それと安全のために、こちらと救助船間のデータ通信は緊急時以外切るそうです」

「地球は目の前なのに、そんなにかかるのか。安全のために通信を切るとは、どう言うこと?」と私。

はるちゃん「地球から見ると急に消えて、5年後急に現れた。そして未知の情報の数々。ザハトニ号もどうにかなったら困るのでナーバスになっていると思う。地球側との通信は、ずっと接続中なので心配しないで」

 後になって思う。この30日は、我々(私、もののけ×1.1さん、はるちゃん)に考える時間と話し合う十分な機会を与えた。そして、起こりうるだろう事態に十分対応できた。

 もののけ×1.1さん「さち、宇宙浴(体一つで船外に出てくつろぐ)の続きしようか。ザハトニ号のブリッジから見えないようこっそりと」


 地球側宇宙ステーション

 減速は時間がかかったが、負の加速度によって壁に強く押さえつけられることもなく、強力宇宙テープで固定した電源やコンピュータは全部無事だった。減速するため何回も地球の周りを回った(地球の引力を利用した、あまり燃料を使わない航法)ので、色々な方向と大きさ(遠方の極軌道から宇宙ステーションの軌道に移行するので)の地球を見ながら、飽きるまで宇宙浴ができた。


 網が救難艇から外され、宇宙ステーションと有線接続された。

 はるちゃんは地球側に向かって言った。「報告は、テレビ会議にしたい。こうすると、理解が早まります」

 「何もない船内を何のために映すのか? 何か見せるべき資料ができたのか? (文句を言いながら、しかししばらくして)接続した」

 救命艇の船内とステーション内の消失遭難船捜索センターの事務室は、テレビ会議システムに接続された。カメラ付きディスプレイが明るくなり、それぞれ相手の室内を写した。

 「おおっ」とセンター側事務室内の全員が驚きの声をあげて、そのあと個々の私語でざわざわした。センター側のディスプレイに、私ともののけ×1.1さんが、正々堂々と映し出されたからだ。

 向こうのざわざわは止まらない。はるちゃんが「報告といいますか、紹介します。スーツの男性はもののけ王さんです。となりの方は、さちさんです。さちさんは、コンコード号の元乗客です。皆さんの聞きたい質問は、95パーセント予測できます。質問を受ける前に、判りやすく一括して説明します。よいでしょうか?」 

 センターの偉い人は、かなり興奮した感じで「なぜこんなことを今ごろになってした? と聞きたいが、これも予想どうりの質問の内だろう。こちらから、闇雲に聞いても混乱しそうだから、たのむよ、はる」


「私はさちです。質疑応答をしながら進めると、収拾がつかなくなります。予想した質問を、私、もののけ×1.1さん、はるちゃんで先にまとめて答えます。それと、二人の名前は愛称を付けて

呼んでいます」

「最初に、なぜ今になって重要なことを発表したのか? に答えます。私ともののけ×1.1さんはすぐに救命する必要がなかった。救命艇の設備では、通信速度が遅く詳しい説明が困難であった。その状態で今から言うことを述べてしまうと、大きな誤解を生み救助が先送りになると思った」

「私ともののけ×1.1さんは、何者か? その答えは、幽霊です」センター側の全員が相当ざわつく。「幽霊は、肉体が朽ち果てたのにも関わらず、魂、つまり精神の機能が残った状態と仮にします。私ともののけ×1.1さんは、魂だけでなく全ての体の機能が保存されています。皆さんに明確に私が見えると思います。見えるだけでなく、ドアを開けたり、物を持つことができます。機能だけが、体や機械等の入れ物や媒体なしに独立してあることは、絶対にないことで理屈に合いません。どうしてこうなっているかは、私には判りません」

 センター側の私語のざわつきは、止まらない。写真や動画を撮っている人も多数いる。間違いなく世界中に、このことはネット配信されているだろう。


 次にもののけ×1.1さんが登場した。

「宇宙で亡くなった人や動物の機能は、私に吸収されて保存される。それでひと塊りになる。もう100年近く繰り返している。コンコード号の乗員は、遭難時に全員亡くなった。そして私の一部になった。なぜそうなるかは…」

 もののけ×1.1さんは、月と地球の間に暗黒物質が凝集している超空間があること。超空間は、生物の機能や光や電波(電磁波)も保存すること。保存だけでなく好きなように検索閲覧ができること。私については、なぜか、もののけ×1.1さんと一つにならなかったことなどを説明した。

 はるちゃん登場。まじめに説明。

「超空間は、我々が放出した携帯電話や脱出艇の位置情報から、地球と月の間を極軌道(南極と北極上空を通るような軌道)で回っていることが判ったと思う。5年前、私が制御するコンコード号は、地球から月の宇宙ステーションに向かっていた。その航路は、超空間の軌道と重なっていた。さらにほぼ0の確率だが、本船と超空間が同時に同じ場所にあった。船と超空間が接触して遭難した。その時に、地球側から見るとコンコード号は消えた。本船と超空間の軌道は直行しているので、二つが重なって片方に引っ張られたとしたら大荷重がかかり船は粉砕するはずだが、居住区とブリッジの気密(船内の空気の保持)が破損しただけであった。その時に乗客と乗員は、すぐに意識を失い、そのまま全員残念ながら亡くなった。」

「遭難後は、超空間に本船はなぜか捕らわれた。遭難直後から現在に到るまで船は、救難信号と状況を示すデータを送信し続けている。しかし携帯電話を放出するまで、一切地球からの反応はなかった」

「さちさんの提案と、もののけ王さんの協力で携帯電話を放出することができた。これがうまくいったので、脱出艇で超空間を離れることにした。現在、超空間にはコンコード号と、私のコピー、それともののけ王の本体がある。コンコード号は、原子力電池の残量からあと30年は機能する」


読んでいただき、本当にありがとうございます。

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