ダンジョン強化計画①
<光の魔王>ソフィアと話をしてダンジョンの経営方針が決定した。ズバリ戦力増強だ。しばらくは初心者ダンジョンとして堅実に運営していこうと思ったが、ダンジョンの敵は冒険者だけではないことが分かった。
ソフィアさんの言葉を信じるなら、ソフィアさんの派閥とは敵対しないだろう。しかし、それは同時にソフィアさんの派閥と敵対派閥とはバチバチの関係になるということだ。そのため自衛の手段が必要だ。特に対多数の対策を重視する。なぜかって?暗黒魔狼王より強い存在が来たらどっちみち勝てないからだ。
対多数を考える中で一番シンプルな戦略は分断、各個撃破だ。どんな大軍であっても分断して少人数になってしまえば最大の強みである数が無くなる。単純な話だ。
分断するために使うのは「制限部屋」と呼ばれるダンジョン施設だ。この制限部屋は入室者に様々な条件を課すことができ、その条件を満たさない限り入室することができないといったものだ。しかし、なんでも条件にできるというわけではない。例えば「死んでいること」と条件設定しようとしても設定はできない。おそらく攻略不可となってダンジョンが機能不全になってしまうからだろう。それ以外でも重量を設定する場合は最低でも600kg以上でなくてはいけない。このような詳細な数字設定はダンジョン側で行われているようでどうにもならなかった。
今回はこの制限部屋を部屋としてではなく、通路として使う。既にある通路の真ん中を制限部屋に指定して制限『5人以下、再利用時間2分』とすれば完成である。見た目は通路に扉が2枚あるだけだが、立派な制限部屋だ。
この制限部屋により大軍が来たとしても攻略速度は著しく落ち、制限部屋の向こう側で待ち構えていれば常に対5人の形をとることができる。
「うん、こんなものかな。」
「真剣な顔でどうされたんですか、魔王様?」
「制限部屋を使ってみたんだ。これでボス部屋に何百人も集まることはないだろ。」
「…ええええ!?何ですかこの制限部屋は?部屋っていうより通路じゃないですか?それに『5人以下、再利用時間2分』って何ですか?人数制限と時間制限を併用する場合は『10人以下再利用時間1分』が限度のはずですよ?」
「通路ってことは否定しないけど、どっちでも良いだろ。制限の方は、同じような制限部屋のルートを10本以上作ったらできるようになったぞ。」
「そ、そうなんですか…確かにこれなら人数は制限できますけど、ここに来る冒険者さんは大体3人から5人のパーティーですから意味がないのでは?」
「ま、これは保険みたいなものだから気にしなくて良いよ。それよりダンジョンの難易度を上げようとしてるけど、何かコスパの良いものあるか?」
「ちょっと待ってください。調べますから。」
うーん、と唸りながら妖精辞典とにらめっこすること数分。あっと声を上げるフェア。
「これはどうでしょうか?モンスター部屋!」
「…モンスター部屋ってモンスターがいっぱいいる部屋だよな?」
「そうです!うちの主力のゴブリンさんが格上の冒険者さんに勝てるとしたらこれしかありません!」
「うーん、確かにそうかもな…。分かった、採用しよう。ただし、設置するモンスターはスライムにしよう。」
「えー、スライムさんですか?確かに魔王様が毎日スライム50連だ!!とか言って召喚するから、うちには大量のニートスライムが居ますけど…」
そう言ってジト目で見てくるフェア。ニートスライム…他に言い方なかったのか?
「スライム50連は良いだろ別に。当たりスライムのおかげで生活は豊かになっただろ?」
そう言って辺りを見回すと多くのスライム家電が目に入る。スライムライトにスライムコンロ、スライム収納、スライム冷却器。今はまだ性能は低いが使い続ければ、だんだんスライムのレベルが上がり、稼働時間や威力が上がっていくはずだ。……はずだ!
「はぁ、魔法攻撃無効のスライムが出るまでの辛抱だ。大丈夫。出るまで引けば排出率100%だ。」
「魔王様…自己暗示ですね分かります。」
モンスター部屋は少し天井の高い部屋を用意し、その天井にびっしりとスライムを配置した。スライムには「部屋の中心に侵入者が来たら落ちろ」とだけ命令しておいた。
…視界外からおびただしい数のスライムが降ってきたら消化される前に息ができなくて死ぬよな?息ができたとしてもそんな状況で物理無効のスライムに対して落ち着いて魔法の詠唱をできるとは思えない…
あれ、ニートスライムの就職先としか考えてなかったけど結構凶悪なトラップだったりする…?