チュートリアル②
光が収まった後にいたのは漆黒の大狼だった。毛は影を具現化したように暗く、金色の眼は俺を静かに見下ろしていた。
お、おい。願いを元にするんじゃなかったのか?確かにケモミミとは考えたけどこれは完全に獣じゃないか!知性の方も怪しいぞ?話せるのか?
「…俺は『幸運の魔王』シャルロットだ。言葉は分かるのか?」
狼はコクリと頷くと、身体が黒い霧のようになり収束してゆく。次第に姿がはっきりとして、ケモミミを持つ女が現れた。
「召喚に応じ参上しました、マスター。」
ずっと聞いていたくなる様なひどく心地良い声だ。髪や耳は狼と同じ漆黒の毛で覆われ、こちらを伺う顔には息をするのも忘れるほどの美しさがある。か、完璧かよ。
「ちょっとー、いつまで見つめ合ってるんですか?召喚が終わったらダンジョンを創りますから早く正気に戻って下さいね。」
「…ああ、大丈夫だ。フェア、この魔物の能力を知るにはどうしたらいいんだ?」
「えっと…鑑定眼を使う?」
「何で疑問形なんだ。その辞書に書いてあるんだろ?俺が見るから貸してくれよ。」
「だ、ダメです!妖精の大辞典は妖精にしか読めませんから!フェアちゃんの役目を奪わないで下さい!」
ポカポカと殴ってくるが全く痛くない…ホントに不安だな…
「鑑定眼ってスキルの欄にあったよな、どうやって使うんだ?」
「ふふん、それなら知ってますよ!物や生き物を知りたいって感じで見るんです。ランクによって見れる対象とか情報量が変わって、生き物の場合は相手と自分のレベル差とかでも変わるんです!」
ドヤ顔をしてくる妖精は無視して早速鑑定眼を使ってみると、自分のステータスと同じように空中に画面が浮かんできた。
名前:―――
種族:暗黒魔狼王
レベル:1
HP:2500/2500
MP:800/800
筋力:3000
魔力:700
物防:1500
魔防:1500
敏捷:2800
器用:1800
幸運:300+500
称号:獣王 魔王の配下
加護:《幸運の魔王》(幸運値に補正大)
固有スキル:神獣化 獣王の威圧
恩恵スキル:狂獣化
スキル:身体強化 魔力操作
………つよ。ステータスの桁が違うじゃん。筋力にいたっては俺の20倍だよ。固有スキルも何か強そうだし、やっぱ運+∞のお陰だよな?これは勝ったな!誰に勝ったかは知らないが、とりあえず勝った。異世界はヌルゲーだった!
「名前が空欄なのは俺が付けろってことか?ネーミングセンスは自信ないぞ。」
「ね、ネームドにして頂けるのですか!?」
今まで無表情を崩さなかったケモミミ美女が驚愕と歓喜の入り交じる顔で食い気味に聞いてきた。
「あー。魔王様、名付けは後にした方が良いと思いますよ。名付けとは魔物との間に特別な契約をするようなもので、大量の魔力と生命力が必要になります。レベル1の魔王様が名付けをするとしばらく瀕死状態になる可能性があるんですよ。」
「なにそれコワイ、名前つけるだけで命懸けなのか。他の魔王は魔物を呼ぶ時はどうしてるんだ?」
「普通は種族名で呼びます。名前は一部の魔物しか与えられないものですから。」
「そうか。暗黒魔狼王、すまないが名前はしばらく待ってくれ。レベルが高くなってからつけることにするよ。」
「と、とんでもありません。名付けを約束して頂けるだけで十分です!ありがとうございます!」
嬉しそうに礼を言う暗黒魔狼王には申し訳ないが少し待って貰おう。にしても可愛い…
「ちょっとー、またですか?今度こそダンジョン建設を始めてもらいますからね!」