とある狼の冒険譚②
「貴方は?」
「我はファフナ、このダンジョンの竜を統べる者だ。」
「貴方はこのダンジョンの主なのですか?廃れたダンジョンだと思っていましたが。」
「…違う。だが、我は主様のいなくなってしまったこの迷宮を守護している。これ以上この場を荒らされる訳にはいかぬ。」
「主というのは魔王のことですか?…ならば問題ないでしょう。マスターからは他の魔王と敵対するなと言われていますが、既に滅んだ魔王の配下なら約束を破ることにはならないでしょう。」
「何を言っているか分からぬが、我に名乗らせたのだ。お前も名乗れ。」
「マスターにはまだ名を頂いておりませんが、人族相手にはナイと名乗っています。」
「ナイか。一応確認するが、引く気はないのか?」
「もちろんです。貴方を倒して先に進ませていただきます。」
互いに無言の殺気をぶつけ合う。気配を感じた時から気付いていたがこの者は私よりも強い。だが、負けるわけにはいかない。この程度の魔物にも勝てぬようであればマスターを護りきるなどできるわけがないのだ。
「<纏雷>」
身体全体に黒紫の雷を纏い突貫する。
黒紫の雷には俊敏を上げる効果もあり、マスターに呼ばれた当初では考えられない程のスピードで攻め続ける。
「うむ。素早さは我を上回っているな。だが、捌けぬほどではない。」
そう言って私の攻撃を避け、間に合わぬものには相殺させる。
目の前の魔物は戦闘技術でも上回っているというのかっ。
「ッ!!」
脇腹に鋭い痛みが走る。
反射的に距離を取った私は、ファフナの見せつけるように尻尾をくねらせている姿を見て理解する。
攻撃を放った瞬間に尻尾を鞭のように使って反撃されたのだ。
焦りによって単調な攻撃をしてしまった。冷静にならなくては。
「では、我も力を使うか。<焔>」
ゴウッと音とともに両手両足に炎を纏う。その熱気は距離を取った私にも伝わってくる。
「ふふふ、少しは持ちこたえてくれよ。<竜帝>」
現れたのは巨大な龍だった。
炎でできた龍は岩でできた床を溶かしながら一直線に私の元へ向かってくる。
ギリギリで反応できたのは暗黒魔狼王の本能によるものだろう。
炎の龍を見た瞬間には狼形態に戻り、回避行動をとっていた。
「!!??…魔物だったのか!!」
ファフナは思ってもいなかったのか、驚愕していた。
スキルの制御すらできない程驚いているらしい。
炎の龍は既に消えている。
(<空歩>)
スキルによって空中を駆けながらファフナに襲い掛かる。
噛みつきは避けられたが、爪での攻撃は命中し、少なくないダメージを与えることに成功する。
「グフッ…魔物であったとは気づかなかった。その姿を相手にするなら、我も姿を変えた方が良いな。ふふふ。最強種の一角である龍種を相手にするのだ、覚悟を決めるが良いぞ。」
肌を刺すようなオーラを滲み出しながら姿を変える。
身体は深紅の鱗で覆われ、背中には大きな翼が生える。
最強種の一角である龍種、その中でも攻撃に特化した火属性を司るレッドドラゴンの姿であった。
「GRYYYYYYYYYYYYYYYYYY」
最強種の咆哮が響き渡る。
下位存在の生物であれば聞いただけで屈服してしまうほどの威圧。
(これほどですか。しかし、私も。)
<獣王の威圧>を全開にして対抗する。
さらに<魔力操作>で全身に魔力を纏う。
私の魔力は少ないですから長くは持ちませんが、すぐに終わらせます。
全ステータスの中で唯一ファフナに勝っている俊敏を頼りに翻弄する。
ファフナは本来の姿を現して発揮できる力や魔力は増大したが、その巨体ゆえに暗黒魔狼王の姿を捉えきれなくなっていた。
(戦闘は有利に進められている。しかし、)
ガキンッ
叩きつけた爪は強靭な龍種の鱗に阻まれる。
(決定打に欠ける。このままでは倒すよりも先に魔力が尽きてしまう。魔力が尽きればこのスピードは維持できないでしょう。なら、選ぶ道は一つしか………ただ、今の私に制御できるかどうか。いいえ、やるしかありません。)
(<神獣化>)
スキルを発動した瞬間、暗黒魔狼王を眩い光が包み込む。
そして、再び表した姿は今までの漆黒の毛並みとは一転して純白の毛並みであった。
(な、なんだこの気配は。魔物が持っていて良いはずがない。これは…)
勝負は一瞬であった。
攻撃を受けたファフナですら何が起こったか分からないのであった。
◇
「………ッ」
全身に痛みがはしる。
確か私はレッドドラゴンと死闘をしていたはず…
「目を覚ましたか。あの技はお前が思っているよりも危険な技だ。使用は控えた方が良い。」
「……何故ですか?」
「何がだ?」
「何故私を殺さなかったのですか?」
「我はお前に負けた。勝負が着いた後に相手が気絶していたからといって手を出すような恥知らずではない。」
「そう、ですか…」
龍族は誇り高い種族なのでそういったことにこだわるのでしょうか。
私ならマスターを脅かすものはどんな手を使ってでも排除しますが。
「お前はこれからどうするのだ?我を殺し、ダンジョンの奥まで進むのか?我は負けた身故抵抗はせぬが。」
「…いえ、目的は十分達成したでしょうからマスターの元へ帰ることにします。」
「そうか……一つ聞きたい。戦う前にも言っていたがマスターとは何のことだ?」
「マスターはマスターです。ダンジョンの主にして私を召喚してくださった存在です。」
「もしや、そのマスターは魔王なのか?」
「ええ、もちろんです。」
「!!……わ、我も連れて行ってはくれぬか?」
「え?なぜですか?」
「…それを話すには我の産まれを説明せねばならない。……」
ファフナが語ったことを要約すると
ファフナはこの旧ダンジョンの元ダンジョンマスターに召喚された存在
召喚されたのは良いが、マスターが召喚された直後に殺されてしまい顔を見ることすらなく仕えるべき主を失ってしまった。
産まれてからずっと主を失ったダンジョンを守護していて、いつからか新たな主を求めるようになった。
ということらしいです。
いつもの私ならマスターに危険が及ぶ可能性があるので即座に拒否したでしょう。
しかし、彼女と死闘を終えた今では彼女が嘘をついてないことくらいは分かります。
それに、ダンジョンモンスターにとって仕えるべき主がいないということは私では想像できない程の苦痛でしょう。
私も、マスターがいなくなってしまうと考えただけで恐怖や悲しみにのまれてしまいそうです。
その同情もあるのでしょう。
「分かりました。マスターが受け入れて下さる確約はできませんが、掛け合ってみましょう。」
そう答えてしまいました。
強力なライバルができることになるとも知らずに。




