男になってました
急に馬人間は、手を伸ばすと私の顎の下をくいっと持ち上げた。
その目が嬉しそうに笑った。
「かわいい」
何言ってやがる。
自慢じゃないが、生まれてこの方、かわいいなんて言われたこと、一度もない。
デカイとか、背が高いとか、頼もしそうとか、褒められたことはあったけど。
「かわいいー」
馬人間女も目を細めた。
なんだと? お前ら、目ェ腐ってんのか。
「どこがかわいいんだ。目、悪いのか」
思わず言った私は、自分への評価は公正な人物なのだと思う。はなはだ不本意だけども。
「うわあ。かわいいー。なんてかわいい男のコなの? バグス、私にちょうだいよ」
「ダメだ。オレの罠にかかった獲物だ。だからオレんだ」
待てっ
今、なんつった?
「お金なら払うわよ。そんなか弱い男の子、役には立たないわ。愛玩用にする気なの?」
「自分も上手い罠を張れよ。出来ないからって、人の獲物を狙うな」
バグスと呼ばれた馬人間は軽々と私を抱き上げて、馬女には目もくれず歩き出した。なにをするっ
連れ込まれたのは、バグスとやらの家だった。
やさしく床に降ろされて、私は目を白黒させた。
「お茶、飲む?」
「………」
家の中は、七人の小人の家が現実にあれば、こんな感じかなあ?って言う素朴さだった。ただし、小人ではなくて大男用だ。椅子に座ると足の先しか床に届かない。
出されたお茶のティーカップは年季ものだが、独特な味のある品だった。
おいしい。いいお茶だ。思わず言った。
「香りがいいな」
馬男はなんだか嬉しそうだ。
いや待て。お前は、ではない君は、てか、あなたは勘違いしている。
「勘違いなんかしてないって。かわいいなって思っただけなんだ」
「いや、私はそもそもかわいくないし、それに、誤解があるようだが……」
そこで、私は口をつぐんだ。
ほおひげと言い、図体の横幅と言い、どう見てもオッサンにしか見えない馬男とふたりきり。男の子で押し通した方が危険性が少ないんじゃないだろうか? えーと女子高生なんだし?
真剣に見つめていたら、馬男は顔を総崩れさせてニヤけてきた。ヤバい。キモい。
「そんなかわいい顔で見つめられたら、どうしたらいいんだ。最高なの釣り上げちゃったよ~。カワイー男のコだよなー」
制服、スカートですけど? 理解してます?
しかし、夜、私は衝撃的な事実を発見してしまった。
「さっ、こっちに着替えろよ」
照れっ照れのバグスが、投げてよこしたパジャマ?に着替えようとした時、やっと気がついた。
男になっていた。