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8、ヒロイン属性は伊達じゃありません

 自分がもしかしたらとんでもないことをやらかしてしまったかもしれないとわかった次の日。

 私はリリーと立てた計画を実行に移すため、授業が始まる前の教室内に視線を走らせていた。そして、すぐにお目当ての人物を見つけて近寄っていく。


「あの、お隣いいかな?」


 金色の長い髪の後ろ姿に声をかければ、その人物は笑顔で振り返って「どうぞ」と言った。

 やっぱり、主人公は伊達じゃないなと感じさせる可愛い声と笑顔だ。金髪に蜂蜜色の目なんていうキャラデザは、ヒロインならではだなと感じさせられる。私のような基本の造作は地味めの顔がこのカラーリングだったら、間違いなくもっとモブ感が増したに違いない。いや、コレットのキャラデザもモブにしては可愛いと思うけど。


「シャニア・ヒロイスさんだよね。入学式で目立ってたから、実は仲良くなりたいなって思ってたの」

「え……やだー、あのときのことはもう言わないでよ。本当、恥ずかしかったんだから」

「違う違う。悪い意味で目立ってたんじゃなくて、私は面白い子だなって思ったんだよ。あと、自分で馬に乗ってここまで来たっていうのがもう、素敵だなって。私、馬が好きなの」

「そういうことだったんだ……そうね。あなたとなら仲良くなれそう」


 シャニアが興味を持ってくれそうな話題を出してみると、案の定彼女は食いついた。初めは少し緊張していたみたいなのが、今はすっかりほぐれているようだ。

 リリーと立てた作戦はその名も、「親友ポジGET作戦」。

 乙女ゲームに出てくる、主人公の親友ポジションを目指してみようと考えたのだ。

 というのも、このままではオルクスくんとシャニアを偶然出会わせるのは難しいからだ。それなら、まず私がシャニアと親しくなり、自然な流れで二人を引き合わせたらいいのでは、というアイデアである。

 「マジラカ」は多くの乙女ゲームが採用している友人ポジションのキャラクターがいないため、モブである私をそこにねじ込んでもシナリオ的にも世界観的にも大丈夫だろうというのがリリーの考えだった。

 これがもともとそのポジションのキャラクターがいたのなら、親しくなるのも難しかったかもしれないけれど。

 だから、まだ他の攻略キャラクターとの関係すら進展していない様子の今なら、無理矢理友達になることくらいできるはずと考えたのだ。

 親しくなったらオルクスくんとシャニアを引き合わせる。そして、二人の恋を応援する。それが、私とリリーの立てた作戦の全容だ。

 お膳立てさえすれば、あとはシナリオというか世界の強制力によってうまくいくんじゃないかというのが、リリーの見立てだった。楽観視しすぎな感は否めないけれど、ひとまず「マジラカ」のサブライターだったリリーを信じてみようと思う。


「コレットは、馬が好きだって言ってたわよね? だったら、いいもの見せてあげる!」

「え、いいもの?」


 授業が終わると、シャニアは私の手を取って勢いよく立ち上がった。それから、私の返事も聞かないままどこかへと早足で歩きだす。


「ねえ、いいものってなあに? どこに行くの?」

「馬が好きなら、何かに乗れない生活はきっと飽き飽きしてるだろうなって思って。この学院にも、乗れる子たちがいるんだって! 噂に聞いただけだから、確かめに行くのは今日が初めてだけど」

「え、まさか……」


 シャニアは私の手を引いて、どんどん校舎の外れへと歩いていく。

 今の発言からおそらく、向かう先は乗り物のあるところ――校舎の外れにある厩舎だろう。嫌な予感がするのは、魔法学院の厩舎には当然普通の馬はおらず、いるのは特殊な生き物たちだからだ。


「うそ……何で……?」


 私はあまりにもさくさく進んでいくことに気がついて、焦った。さっき教室を出たと思ったら、もう別棟の連絡通路を走っている。

 厩舎は生徒には用のない場所だから、転移魔法を使っても結構遠い場所にあるはずなのに、なぜかもうかなり距離が縮まってきている。

 シャニアの様子を見ていてわかったのだけれど、彼女は「こっちであってたっけ?」とか「この道のはず!」などと言いながら、進む道をすべて最適化しているみたいだ。本人はきっと無意識なのだろう。つまり、彼女の進む先に道ができているのだ。

 ヒロイン属性、恐るべし!

 そんなふうにシャニアが連絡通路の転移魔法を捻じ曲げていることにおののいているうちに、厩舎に到着してしまった。「マジラカ」のストーリーの中にもちらっと登場したけれど、この目で見るのは初めてだ。

 さすがに乗り物にできる生き物を休ませているだけあって、それはかなり大きかった。

 

「すごいね! どんな子がいるんだろう?」


 シャニアはわくわくした様子で、ずんずんと厩舎に近づいていく。でも確か、ここはそもそも生徒は立ち入り禁止のはずだし、厩舎にだって鍵がかかっていて入れないだろう。それでも、シャニアの足取りにはためらいがない。


「あの、勝手に入ったらだめなんじゃないかな……?」


 迷うことなく鍵のかかった戸に手をかけるシャニアを一応止めたけれど、結局それも無駄だった。魔法による鍵が施されていた戸は、一瞬光る魔法陣を浮かび上がらせたのち、あっけなく開いてしまった。

 たぶん、結構強固な鍵がかかっていたはずだ。それを開けてしまうのだから、シャニアのヒロインりょくはヤバすぎる……!

 というより、これは何らかの補正が働いていると思ったほうがいいんじゃないだろうか。


「すごいね! ドラゴンがいっぱい! ペガサスも、グリフォンもいる!」


 戸が開くと、迷うことなくシャニアは厩舎の中に入っていった。

 そこは厩舎というより、前世の世界でいうと立体駐車場みたいな感じだ。区画はひとつずつたっぷりと取ってあり、そのそれぞれに体の大きな生き物たちがいた。

 みんなおそろいの、魔石をペンダントトップにした首輪をつけていて、それで管理されているだなということがわかる。

 シャニアの言うように、ドラゴンも、ペガサスも、グリフォンもいた。奥のほうは影になって見づらいけれど、まだたくさんいる気配がする。ここにいるのは、羽が生えた生き物たちなのだろうか。

 みんな目がとろんとしておとなしいのはたぶん、魔法によって鎮静されているからだろう。そうでなければ、こんなにたくさんの大型幻獣を一箇所に集めていくことはできないにちがいない。

 おとなしくさせられていても、やはり幻獣は幻獣だ。地元で小型のものは見たことがあったけれど、大きなものはやっぱり迫力が違うなと、私は恐れるような感嘆するような気持ちで立ち尽くしていた。


「この子、がいいかな。何となく、目があった瞬間にわかったんだよね」


 そんなことを言ってシャニアが近づいていったのは、一頭のペガサスだ。目があったなんて言っているけれど、その瞳が何かを映しているようには見えない。眠そうだし、焦点があっているようには見えない。このヒロイン、一体何がわかったというのだろう。


「よし、今から出してあげるからね」

「え、ちょっと待って? 本当にやるの? 今日は顔見せに留めといたほうがいいんじゃないかな? ほら、馬って人を選ぶって言うじゃない? ペガサスも馬の仲間だろうから、それなら馬みたいにまず仲良くなることから始めたほうが……」

「それっ」


 私がどうにか止めようとするのを無視して、シャニアはペガサス小屋の鍵に触れて、それを解錠してしまった。そして、ペガサスの首輪についている魔石に触れて鎮静化を解いてしまう。


「乗って」

「……う、うそでしょ……」


 覚醒したペガサスがブルルと軽くいなないている隙にシャニアはその背にまたがり、私に手を伸ばす。どうしようかと大いに悩むけれど、毒を食らわば皿まで……と、覚悟を決めてその手を取った。

 ここで逃げ帰ったところで、どうせ怒られるのだから。それなら、このトンチキなヒロインが何をしでかすのか近くで見届けたほうがきっとマシだ。


「よし、行くよー!」

「ふゅえぇ……」


 シャニアがポンポンとペガサスの腹を蹴って合図すると、ペガサスは軽く走り始めた。軽くといってもやはりペガサス。あっという間に厩舎を出て、外へと駆け出してしまった。

 普通の馬でさえ、鞍をつけずに乗ることは難しいのだ。それをペガサスでやっているのだから、相当にきつい。私は振り落とされてはかなわないから、申し訳ないと思いつつギュッとペガサスにしがみついた。

 シャニアは特に無理をして乗っている気配はない。つまり、脚だけでどうにかなっているのだろう。内転筋が強いな、おい。

 少し外を駆けてから、不意にペガサスが翼を羽ばたかせた。すると、ふわりと体が宙に浮く。その背に乗った私たちも今、宙に浮いているということだ。

 この瞬間気絶してしまったらすべてが終わるけれど、何とか気を失わないように私は必死だった。


「きれいな景色ねー」


 飛び立ったペガサスの背で、シャニアは感激の声を上げた。でも、私には景色を見る余裕なんてない。今この瞬間、振り落とされて死なないようにするのがやっとだ。

 でも、頬に当たる風がただ歩くとき感じるのとは違う。これは、自転車や車で走ったときに感じる風に近い。……爽やかだと思う前に、そのくらいのスピードが出ているのだということがわかって怖くなった。


「すごいすごーい! 私たち、風になれるね!」


 金の美しい髪をなびかせながら、シャニアが無邪気な声を上げる。楽しいですか、そうですか。でも、私たちは風になる前に退学になりますけどね。


「ペガサスくんだって、本当は走りたかったよねー?」

 

 シャニアはペガサスの首の辺りをポンポンと優しく叩いて、慰めるみたいに言った。

 後ろに乗っている私としては、変に刺激してほしくない。刺激して、ペガサスが本気出したらどうするんだ! たとえ退学になったとしても死にたくはない。

 私がひやひやして生きた心地がしなくなっていることなど露知らず、シャニアとペガサスはそれからしばらくゆうゆうと空の散歩を楽しんでいた。

 途中で誰かが見咎めてくれるんじゃないか、先生が止めに来てくれるんじゃないか、正義感溢れる誰かが「何やってるんだー」って言ってくれるんじゃないかと期待したけれど……何事もなく地上に帰り着いてしまった。

 そしてなんだかんだ、シャニアはペガサスと親睦を深めたようだ。


「あなた、すっごくいい子ね。また会いに来るから」


 シャニアはペガサスを厩舎に戻して首にきゅっと抱きついて、そんなことを言っていた。

 またやる気なのか……


 私が今日得たことと言えば、ヒロイン属性は半端じゃなく、シャニアのしたいことを実現するためにかなりの補正が働くということがわかっただけだ。

 このヒロイン、トンチキだけれど恐ろしい。

 

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