プルーフ① はじまり~町長編
プルーフは5歳の時に、冒険者である父が依頼中に仲間の裏切りに合い亡くしてしまった。
それからは、母が1人で畑仕事を朝早くから夜遅くまで行って働きづくめだった。
そんな母は毎日裏切りを図った当時のパーティの事を日々罵りながらプルーフを育ててきた。
「本当に冒険者っていう稼業は忌々しいね。あんなものはひとのつく仕事じゃないよ。プルーフあんたは絶対に冒険者なんかにはさせないからね」
そんな母親であったが、疲れた体であるはずなのに、毎日優しく声をかけてくれて、プルーフの事をとてもやさしく愛してくれていた。
プルーフはそんな母がとても好きだったので、1日でも早く楽にさせたかった。
それで朝から夕方は母親を助けるために、一緒に畑仕事をして過ごした。
しかし、プルーフは母親に黙っていたが、大人になったら父と同じ冒険者の道へ進みたかった。
そのため、冒険者の事を嫌っている母親に内緒で夜中にこっそりと剣を振るっていた。
雨の日も、雪の日も、風の日も剣をひたすらふるった。毎日、毎日、父の残した剣をふるい続けた。
そうした日々が14歳の冬に突然終わりを告げた。
プルーフを必死で育ててくれた母が、病で倒れて帰らぬ人となったのだ。
プルーフは母を埋葬した後、家を出た。
14歳という若い年齢では畑仕事で食べて行くには辛すぎたのだった。
そして、父と同じ冒険者を目指して町にやってきた。
「母さん、この年まで育ててくれてありがとう。母さんの希望に沿うことはできないが僕は冒険者になるよ」
プルーフは家から最も近くにあった町にやってきた。
名前は『タンク』と呼ばれていた。街道沿いに出来た宿場町で、町で過ごす人たちは冒険者が半数を超えるほどだった。
プルーフはこの町にやってきたのには理由があった。
それは冒険者として生きていくために必要な冒険者登録をするためだ。
ここにはプルーフの家から最も近くにある冒険者ギルドが設置されていたのだった。
プルーフが最初に訪れたのは冒険者ギルド『コリット』だった。タンクの町の中で最も大きな建物だったのですぐに分かった。
冒険者ギルドの扉を開いて、最初に目に入ってきたのは荒くれ者たちの姿だった。
父親が裏切りに合い、母親が毎日罵っていた冒険者の姿だった。
まだ若いプルーフは、まわりに居る荒くれ者たちが少し怖くて、目を合わさずに受付までゆっくりと歩いて行った。
受付には優しそうなお姉さんがいて挨拶をすると気軽に答えてくれた。
「お願いします。冒険者として登録したいのですがどうしたらいいでしょうか?」
「こちらの用紙に記入してください。カード代金として銀貨1枚必要となります。持ち合わせがない場合は貸出制度もありますよ」
「その年では冒険者は厳しいですよ。親切なパーティに参加して助けをお願いしてみればどうですか?」
受付のお姉さんは優しく伝えてくれたが、その言葉に対して条件反射のように体が反応した。
「俺は絶対に助けを願ったりはしない。自分自身の力だけで生きて行くんだ」
受付のお姉さんは少し怯んでいたが、こういったことに慣れているのだろう。何でもないかの様に対応してくれた。
そして、家にあった銀貨10枚のうちの1枚を使い冒険者登録を済ませた。
◇
プルーフが冒険者として登録してからは地道に薬草採取から始めた。
山で暮らしていたことが幸いして薬草の生息場所や種類に関しても慣れていたのでとてもスムーズに進めることが出来た。
薬草採取になれてきたころに、増えすぎた一角ウサギの討伐依頼が出ていた。
一角ウサギはGランクの駆け出し冒険者でも、ソロで討伐できる魔物だった。
しかし、まだ若いプルーフに討伐できるのか自分自身ですら不安があった。
「初めての討伐依頼はほとんどの人がパーティを組むんだけど、プルーフさんはどうしますか?」
「助言は感謝しますが、自分は誰ともパーティを組む気がないので、ソロでやってみます。やらせて下さい」
ギルドの受付のお姉さんは優しく助言してくれたが、それでも、プルーフはソロで行うと言い張った。
一角ウサギはそのスピードを生かして、ソロで討伐する時は後方からいきなり武器である角を突き立ててくるのだ。
そのため、慣れない冒険者は2人でパーティを組んで、後方の死角をなくすのだ。
「これまで、ずっとこの父さんの形見である剣をふり続けてきたんだ。一角ウサギぐらい絶対に仕留めてやる」
プルーフは心に強い決意をして、増えすぎた一角ウサギがいるという北の森を進んでいた。
風の音がする度にそこに一角ウサギがいるのではないかと思い心臓の鼓動が鳴りやむことはなかった。
突如、今までに聞いた音以上に大きくて引きずるような音が響いた。
草むらが波打っていたので、プルーフはそこにいると感づいた。音に沿って体を正面に合わせながら攻撃の機会を待った。
「よし、よし、こっちだ。こっちにこいよぉ~」
正面の一角ウサギに意識を集中していたら、突如、後方から同じような音が聞こえた。
「やばい、2匹いるのか!」
プルーフは体を大きく横に振って、後ろからくる一角ウサギをよけつつ斬撃を加えた。
クリーンヒットではなかったが、しっかりとダメージを与えていた為、一角ウサギはそのまま絶命していた。
しかし、態勢を崩していたプルーフはその場でしゃがみこんでいた。
そんなプルーフに向かって来ていた音があった。
「やばい、どうする!」
がむしゃらに剣をふっても、当たるものではないと直感したプルーフはまっすぐに音の方に向けて剣を差し出した。
ぐさっ!
剣に向かって、飛び込んでくるように一角ウサギが突っ込んできた。
プルーフは初めて魔物の討伐を行った。
こうして、夕方までには合計6匹の一角ウサギを討伐することが出来た。
◇
こうして冒険者として過ごして早1か月がたった。
毎日、欠かさずに色々な依頼をしっかりこなしてきた結果何とかFランクに上がって小物の魔物の討伐で食べて行くことが出来ていた。
たまに、魔物の討伐で怪我を負うことがあったが、それでも、プルーフはだれかとパーティを組むことはしなかった。
「パーティを組むのもいいものですよ」
「助言はありがたいが、俺はパーティを組まない。すまない」
「そんな、良いんですよ。ソロでもきちんと依頼はこなしてくれてますから。こちらは助かっていますよ」
受付のお姉さんであるジョアンナさんはにっこりとやさしく返事をしてくれた。
◇
さらに、1年が経ったが、プルーフは誰ともパーティを組むことはなかった。
それでも、すべての依頼を単独でこなしていった。
「よぉ、プルーフ。最近、がんばっているんだってな。今度、割のいい依頼があるんだが、一緒にやらないか?」
「声をかけてくれて、ありがとう。だが、俺はソロでやるって決めているんだ。申し訳ないが、他を当たってくれ」
依頼を単独で行うために、時々声をかけてくれる他の冒険者の頼みを断り続けた。
さらに、依頼事態も選ばないといけなかったことも多かったが、ゆっくりと堅実に依頼をこなしていくことでランクもEまで上がった。
このようなやり取りが時々あったせいで、次第に声をかける冒険者はいなくなった。
そのうちプルーフは「手助け不要のプルーフ」と呼ばれるようになり、他の冒険者に助けを乞うことを極端に嫌う冒険者として有名になっていった。
「手助け不要のプルーフ」という異名をつけられるようになったが、それでも、プルーフは受けた依頼で失敗したことが1度もなかった。
「お前、プルーフの護衛依頼を依頼したことあるか?あいつは何時でも1人なんだ。だが、文句も言わず驚きだが、その剣の腕も立派なんだよ」
「そうそう、無駄口ばっかり立派なつまらない護衛を2~3人雇うよりもプルーフ1人の方が安心できるんだよな」
護衛依頼を受けた商人たちは、プルーフの異名の割にその勤勉さと剣の腕に信頼があり、近場の護衛などでは商人たちの評判も良く指名依頼を受けるほどであった。
◇
さらに1年が経つ頃には、単独での依頼受注だけであったにもかかわらずDランク冒険者まで成り上がっていた。
「プルーフさんすごいですね。ソロの冒険者でたったの2年でDランクまで上がった冒険者はあまりいないですよ。商人さん達の評判もいいし、これでパーティを組んでくれたら、もっと依頼をおねがいできるんですがねぇ」
受付のジョアンナさんは少しいたずらっぽい笑顔で、パーティを組むことを進めてきた。
「からかわないでくれよ、ジョアンナさん。俺はパーティは組まないって知ってるだろう」
「ええ、知ってるわよ。でもちょっと厄介な依頼が来ているのよ。しかもあなたへの指名依頼がね」
ここでプルーフに一つの事件が起こった。
それは、タンクの町の町長であるバイソンからの指名依頼だった。
内容はタンクとその隣町のスキーラに向かう街道に盗賊の集団が出没するため、その盗賊集団を討伐してほしいというものだった。
「盗賊の討伐依頼なんて、Cランク以上の冒険者にしかできない依頼じゃないか。俺に死ねっていうのか」
「ごめんなさい。町長のバイソンからの指名依頼なの。断ることはできないんです。だから、プルーフお願いパーティを組んでくれない」
受付のジョアンナさんは必死にプルーフにパーティを組むことをお願いした。
Dランクのプルーフでもパーティを組めば盗賊の討伐依頼であっても成功する確率が格段に上がることができたのだ。
「ジョアンナさん、すまない。それでも、やっぱりパーティを組むことはできない」
「プルーフさん。どうしてそんなに強情なんですか。たまには、ギルドのいうことを聞いてくれてもいいじゃないですか?」
ジョアンナさんは涙ながらにお願いをした。
かたくなにソロを貫き通すプルーフのことは尊敬していたが、今回の指名依頼はあきらかにおかしいものだったのだ。
だからといって、町長であるバイソンの依頼を無碍に断ることはできなかった。
過去にもバイソンによって、無茶な使命依頼をすることが何度かあり、以前にギルマスに苦情を申し上げたけれどもギルドにはどうにもできないことだったことをジョアンナさんはわかっていたのだった。
◇
とある酒場での高級個室で酒を酌み交わしている2人がいた。
側には酒場が用意した美女を侍らせて、まわりは護衛でがっちりとガードしていた。
かなり酒も回って上機嫌になっている2人は、とあるネタをもとに賭けをすることになった。
「タリクソン知ってるか?プルーフっていう冒険者がいるんだが、そいつは絶対にパーティを組まないっていう噂があるんだが、丁度、東の荒野に最近盗賊集団が荒らしているって依頼が、上がってきているんだ」
「バイソン、もしかしてそいつがソロで討伐できるかどうかをかけるのか?」
「そうだ!」
「乗った!」
バイソンはプルーフのパーティ嫌いをネタに、スキーラの町長であるタリクソンと賭けをしていたのだ。
難しい討伐依頼を出して、プルーフがパーティを組めばバイソンの勝ち、ソロで失敗すればスキーラの勝ちというものだった。
◇
プルーフは悩んでいた。
指名依頼である以上拒否は出来ない。拒否することはできるが、それがギルド命令であった場合は強いペナルティをかされることになる。
時には冒険者登録のはく奪もあった。バイソンはそのことを利用して、町長としての特権を使って横暴な依頼をしていたのだった。
「ギルド命令だからこの使命依頼は断れないんだろう。だからといって、パーティも組まない。パーティを組まされるのも絶対に嫌だ。他人の助けは絶対に受けない」
「どうしても、ソロで受けるっていうの?今回のペナルティはかなり重いですよ」
「わかってる。それでもいいんだ」
「そうですか・・・」
ジョアンナさんは何度もパーティを組むようにお願いをしたが、プルーフはがんとしてパーティを組まなかった。
プルーフはDランクとはいえ、剣の腕前で言えばCランクにもうすぐ届くと言える位だった。
ソロでの討伐の為、盗賊の首領を逃がす可能性があったが、正面から乗り込むしかなかったプルーフは真っ正直に突入した。
30人程度の盗賊団だとはいえ、全員がまとまっているわけではなかったので、少しづつ減らしていって、もう少しで首領の所に攻め込めた。
しかし、結果は失敗だった。もう少しで盗賊の首領を倒せたが、部下を犠牲にして、裏口から首領だけが逃げだしていたのだった。
裏口からの逃亡の危険はわかっていたが、ソロで討伐している以上どうにもならなかった。
結果、首領以外は全てとらえたにもかかわらず、使命依頼失敗扱いとなった。
「ごめんなさい。指名依頼の失敗のペナルティとして、冒険者ランクを1段階下げるようにって、ギルマスから・・・。ごめんなさい。ギルマスにお願いしたんだけど・・・どうにもならなくて」
バイソンは賭けに負けた腹いせに、プルーフに指名依頼失敗の責任を取らせて、冒険者ランクを1段階降格させたのだった。町長の命令では、地方の冒険者ギルドではどうにもならなかったのだった。
バイソンはコネと裏金で町長の座を維持していた。
バイソンは裏で犯罪ギルドとつながっていたのだ。そのため、多くの冒険者がバイソンの賭けの対象で辛い目にあっていた。
プルーフはEランクからのやり直しとなった。
「こんなことって、何なんだよバイソンのくそ野郎。せっかく努力したのに、これまでの苦労が・・くっそぉ」
プルーフは悔しくて悔しくてたまらなかった。このまま、橋から身を投げて命を絶とうと考えた。
下を見ると、断崖絶壁が100mは続いているのではないだろうかという場所に居た。橋の中腹で空を眺めている男がいたので、その男が通りすぎたら命を絶とうと決めた。
その男は一向に立ち去ろうとせず、しまいには橋から飛び降りようとしていた。
プルーフは自分が飛び降りようと考えていたにも関わらず、その男を助けてしまった。
男の名はセリーグ、間もなく40に差し掛かろうかとする中年剣士だった。
才能もなく、がんばってきて冒険者ランクもCまで上がったがそれ以上は望めなかった。髪の毛はぼさぼさで無精ひげを生やしていかにも人生をあきらめている風貌だった。
プルーフはなぜだかわからないが、その男に助けを願い出たのだ。
自分と同じように死のうとしていた仲間と考えたのかもしれなかった。
「俺はプルーフ、セリーグよ俺を『助けてくれ』」
セリー兄グは、生きる希望もなく成長の望みもないのでプルーフの言葉に対して絶対に断ろうと考えた。
しかし、返事として出てきた言葉は、「俺でよければ『たすけよう』」だった。
その日以降、プルーフとセリーグは剣の修練を行っていた。
プルーフにとっての剣の修練はいつもの日課だった。
セリーグもこれまで、毎日、剣の修練を重ねてきた。
しかし、プルーフと行った剣の修練は違った。
なぜだかわからないが、プルーフに剣の修練として打ち込む旅に、自分の力が増していた。
そして、力だけでなく、剣筋すらも鋭くなって行ったのだった。
セリーグは貴族の家系だった。
落ちぶれた貴族ではあったが、ほそぼそと暮らしていた。
しかし、ある時、バイソンのたくらみのせいで、スキーラ町のタリクソン男爵の暗殺未遂の犯人に仕立て上げられたのだった。
ただでさえ、落ちぶれたの貴族であったが男爵暗殺未遂となれば、おとり潰しの対象となり、そのため、小さな娘を3人と病弱な妻でタンクの町にやってほそぼそと働いていた。
しかし、病弱の妻は病に伏してなくなった。小さな娘たちも次第に病気で亡くなり、セリーグ家はセリーグ一人となってしまっていたのだった。
セリーグは1か月の間プルーフと剣術の修練を行い続けた。
筋力、剣術、動体視力共に考えられない位の上昇をした。
セリーグはもともとプルーフの助けを受けるつもりもなかった。
それゆえ、毎日、プルーフに助けることは無理だと伝えようと思っっていた。
しかし、プルーフに答える返事はいつも、『俺は必ずプルーフをたすけるぞ』という言葉以外でなかった。
プルーフは死ぬんであれば、バイソンに一太刀浴びせてからにしようと考えていた。
そのため、助けを乞うことはしないといった自分の主義を捨ててまで、セリーグに協力を願い出たのだった。
「セリーグ、意味が分からないくらい君は強くなった。そして、僕と出会ったあの日、命を捨てようとしていた僕と同じように命を捨てようとしていた君、君の命を僕に貸してくれないか。今日、バイソンとつながっている犯罪ギルドを潰す」
「いやいや、無理だよ。僕にはそんな力はないよ」
「大丈夫だ今や君の剣術はAランク、いや、もしかしたらSランクに届くかもしれないよ。だから、今日、力を貸して下さい。『たすけてください』」
「俺でよければ『たすけよう』」
セリーグはプルーフの『たすけてください』という言葉を聴いたとたん、【「俺でよければ『たすけよう』」】といった返事以外は出すことが出来なかった。
そして、この日、パーティ『手助け不要のプルーフ』によって、犯罪ギルド『夜目』はセリーグ一人の力で壊滅することになった。
「お前の力はもうすべてそいでやったよ。バイソン。これまで自分の犯した罪をあの世で償うんだな」
こうして、犯罪者ギルドの力を失ったバイソンは同じく、パーティ『手助け不要のプルーフ』によって倒された。
プルーフはセリーグが犯罪者ギルド『夜目』を潰したから出来たことだと言って、セリーグに町長を勧めたが、自分にはその任は重過ぎると言って辞退した。
その結果、プルーフはタンクの町の町長になった。