第参章 美里
「ふあ〜……。」
美里は、歩道を歩いていた。
―綾香とけんかした…
あんなに仲がよかったのに……
綾香とは、幼馴染だ。
幼稚園の時出会って、仲良くなった。
それはもう、双子のように―
小学校も中学校も同じ。それまで一度もけんかしたことなんてなかった。
なのに――
些細なことだった。
私が悪かった。
先生の花瓶を割ってしまった。
それは、綾香。
「いっけないんだ〜!先生に言ってやろー!」
男子たちがいじめる。
―いつもそうなんだ。
男子は綾香をいじめる。私は見ないふり……。
結局、男子が先生を呼んできて、綾香は大泣き。男子は怒られて、綾香は少し怒られていた。
帰り道、まだ涙の跡が残る綾香と並んで帰る。
「先生に何怒られてたの?」
私が綾香に聞く。
綾香は喋らない。
「ねえ、綾香?どうし「うるさい!!」
え?
綾香のこんな声…はじめて聞いた……
「あ…綾香?…どうした…の「あんた、うるさいんだよ!あたし、ようやく涙止まったのに、あんたのせいで、また出てきたじゃん…!どうしてくれるのっ!嫌な記憶を、ほじくりださないでよっ!!」
綾香はすたすた歩いて行ってしまった。
「あや…。」
メールをしても返事が来ない。
電話にも出てくれない。
綾香は、相当怒っている…
♪♪♪〜♪♪〜
ケータイの着信。メールだ。
件名 ウザい
本文 ウザい。黙ってて。
あんたなんかキライ。
消えてもらえる?
あたしの視界から。
もう二度と見たくない。
―涙がこぼれる。
《返信》
件名 ごめんね
本文 ごめんっ、ほんっとごめんね!
謝るよ、だから許して?
もう二度と、ひどいことは言わない。
約束するから。
《送信》
涙が止まらない…よ……
「ごめんね」でいっぱいだった。
♪♪♪〜♪♪〜
件名 ヤダよ
本文 あんたは何に対して
謝ってんの?
思い出したくないことを
思い出されたこと?
だったら許さない。
あたしに対するいじめは、
そんだけじゃないもん。
あんたなんか、一生
許さない。
もうメールしないで。
迷惑メール。
ひどい…
ひどいよ…
あたしに対する、いじめといってもいいんじゃない?
……あたしも同じことを…
していたの…?
「ごめんっ、ごめんねっ!!わかったよ、綾香の気持ち!痛いほどわかったよ!苦しくて悲しくて…それでも耐えてきたあんたは偉いよっ!すごいよっ!!!」
同じ言葉を、綾香に送った。
件名は、『最後にこれだけ言わせて』…………
♪♪♪〜♪♪〜
件名 黙れ
本文 うっさいっつってんじゃん。
偉いからなに?
今更わかったって遅い。
お前なんか、呪ってやる。
苦しんで死んじゃえばいいのに。
死んでよ。
っ………………
……何も言えない。
黒と白の画面。
絵文字も、なにもない、ただの黒い文字。
それを見ているだけで、
さみしかった…
「うっ…うあッ……ぐ…
突然の、はげしい痛み。
この痛みの原因を知っている人は、
―綾香だけだ。