死神の声
ピンポーン
「…た、ただいま…」
「…はーい、どなた?」
それはそうだよな。
7年もたって、声変りもした声。
たとえ息子でも、7年間離れていたんだ。
わからないにきまってる。
そう分かっている…はずだった。
はずだったのに…
オレは泣いた。
ガキみたいにワンワン泣くわけではないけど、
静かに泣いた。
泣いたのなんか久しぶりだ。
「はい?」
扉が開いた。
懐かしい…
7年前でも覚えてる。
母さん…
「オレ…だよ…母さん…。」
母さんは
思い出せないようだった。
それはそうだよな。
7年の溝だもの。そう簡単には埋まらない。
ましてや、泣いてぐしょぐしょになった顔で突然現れて、
7年前の幼い顔とつなげろ、というほうが無理だ。
「卓也だよ…7年前に、家出して…
帰ってきたんだよ、母さん…!」
抱きつこうとした。
恥ずかしくなんかなかった。
だけど…
「触らないでっ!」
母さんは、オレを突き飛ばした。
「あなたが…息子?そんなこと、あるわけないじゃないの。
何がほしいの?お金?食べるもの?」
違う…
「母さん!?俺だよ、卓也だよ!冗談言わないでよ、息子だよ!?」
「知らない…あなたなんて、知らないっ!
私の息子はこの子だけ…」
奥から出てきた、幼い子は…
オレの…弟…
病気にかかって、あと何日も生きられないと言われた、
そして
オレが嫉妬してた…
「病気…治ったのか?こんなに…生きていたのか…!?」
「この子に触らないでっ!」
母さんのヒステリックな声が、周りに響く。
どうして?思い出せないの?自分の息子だよ?
「とにかく出て行って!あなたなんか、私の息子じゃないわ!
二度と来ないでっ!!」
扉は閉められた。
もうオレが開けることは
できない
「くそっ!!」
オレは泣いていた。
家の裏にある山の中で。
独りぼっちで泣いていた。
…寂しかった。
オレの記憶は、あの人の頭の中から
削除されて
消えていた。
オレはあの人と、
他人になってしまったんだ…
血がつながっているのに…
あんなに愛されていたのにっ…
それに比べてどうだ…
あの弟…
弟なのに、オレは兄なのに、お互い名前を知らないんだ…
あいつは俺のことを…
知らない…
弟は、母さんから、オレへの愛を奪った。
奪って自分の物にした。
自分だけ愛されて、オレは他人になった…っ!
はげしい怒りがわいてきた。
体が壊れてしまうと思うくらいに、ただただ熱くなった。
怒りと…
悲しみ…
『オイデ…』
?
『オイデヨ…』
気のせいじゃない。
ほんとに聞こえた…。
「誰!?」
『オイデ…』
ポケットの中の携帯が、音とともに光りだす。
あけると、その画面は…
『死神ノ世界ヘ…』