第弐章 家出
卓也は、夜道を歩いていた。
家出をして、もう何年たつんだろう。
家までの帰り道を、ひとりで歩いていた。
「ひとり」といっても、もう小6だ。
怖くはない。
ピンポーン
いきなり、「ただいま」と帰るのもあれだから、
チャイムを鳴らしてみた。
しばらく沈黙が続く。
その間に、この家出のことを思い出していた。
母さんのおなかに命が宿った。
そう知ったとき、どんなにうれしかっただろう。
オギャーと泣き続ける赤ん坊を、初めて抱いたとき、
どんなに感動しただろう。
本当にうれしくて、
兄になる喜びをかみしめていた。
でも弟は
2歳になっても言葉を何一つ言わなかった。
歩くこともしなかった。
心配した両親が、病院へ連れて行った。
弟は病気だった。
命も、そう長くはないという。
両親は泣いた。
俺も泣く…
はずだった
俺はなぜか、うれしかった。
母さんを、ずっと取られていたから。
その時俺は、5歳だった。
母親に思いっきり甘えたかった。
なのに、両親は、
弟につきっきりで、俺の顔も見てくれなかった。
母親は言った。
「あんたの顔なんか、いつでもみられるでしょ!
この子はね、いつ見られなくなるか、わからないのよ!!
みられるうちに、見ておきたいのっ…」
母親は泣いていた。
そっか。
母さんは、俺よりも、弟のほうが大事なんだ。
俺なんか、きっといなくなってもいいんだ。
いなくなっても…
いいんだ…
そう思ってしまったんだ。
作者より
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