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かき揚げ

作者: 奏汰 剣崎

出汁のいい香りが鼻腔をくすぐる。パチパチッ。小気味いい音が台所から聞こえてくる。

揚げ物か……何だろう。箸や薬味を並べ終え、佳代のいる台所へ向かう。

「おっ、かき揚げじゃん。エビまで入ってる!うどんといえばこれだよなー」

 思わず口元が緩んでしまう。香ばしい匂いだけで飯食えそー。

「ちょっと奮発したのよ。浩一好きでしょ?」

 得意げに微笑む佳代は、意外にもエプロン姿がよく似合っていた。黒髪ボブに日焼けした肌。

いかにも運動してますって見ための通りソフトボールを小六から高三やっていた。俺と佳代は

「さすが、幼馴染。よく分かってるー!あれでも、お前かき揚げ嫌いじゃなかったっけ?」

 確か、小三か小四の頃、かき揚げを佳代から貰った記憶がある。学校のかき揚げはべちゃっとしていて歯ごたえがまるでなかったっけ。

あれはあれで好きだったが、さすがに二つも食べるのはきつかったんだよなー。

「え、私かき揚げ好きだよ?」

「は、嘘だろ!?お前小学校でクラス一緒の時俺にくれただろ。」

「いや、あれは……。」

 浩一は覚えていないんだろうけど……。


 「おい、かき揚げ、悟志に返してやれよ!」

「何でだよ。こいつがくれるって言ったんだよ、な、悟志!」

 悟志を睨みつける翔くんは浩一よりも身体が大きい。スズメとツバメくらいの体格差だ。

佳代は気が気じゃなくて配膳しながらも意識は浩一たちに向いていた。浩一は優しいけどけんかっ早い。

今週二度目の喧嘩を始めそうで不安なのだ。

「あ、いや僕は、そんなこと……。」

「あ?」

「翔、その言い方じゃ、キョーハクだろ」

「浩一、お前かんけーないだろ!」

 翔君が浩一の肩を思いっきり押した。あっ。浩一がよろけた隙に翔君は、かき揚げを口の中に放り込んだ。一口で飲み込んじゃった!こんな時に限って先生いないし。

「いってぇな!何すんだよ」

「こういちっ!」

 今にも飛びかかりそうな浩一に慌てて声をかける。目が合ったから首を横に振る。

浩一は舌打ちしたかと思うと自分の皿からかき揚げを悟志君に移した。

「え、いいよ」

「いいから、食えって。お前他のおかず食えねーんだろ?」

 佳代は、ほっと息をついた。浩一知ってたんだ。悟志君がアレルギーで他の副菜(ピーナッツと小魚、卵とじのほうれん草)が食べられないのを。後で浩一にかき揚げをかき揚げあげよう。

私も知ってるんだから、浩一がかき揚げ大好きなのを。そう思って停滞していた配膳を慌てて行った。


「ダイエット中だったからよ」

 意外とやるじゃんって思ったのは内緒。これをきっかけに浩一が好きって自覚したんだっけ。え、小四で!?とか騒いでいる浩一はその時から何にも変わってない。

「女の子は皆そうだよ。あ、こら!まだ食べちゃダメだって!」

 伸びてきた浩一の手をべしっと叩く。怯むことなく、かき揚げを手づかみした。が、

「あっつ!」

 自業自得。ふふと笑みがこぼれる。

「バカねー熱いに決まってるでしょ!あと、今日はたれも凝って作ったんだから大人しく待ってて」

「たれ?分かったよ。座って待ってるわ」

 指をフーフーしながら席につく浩一。ほんと子供。目をキラキラさせて箸を弄んで。

子供でももう少し落ち着いて待ってられるわよ。


「はい、いいよ。お待ちどおさま」

 うどんとは別盛りにされたかき揚げからは湯気が立ち上っている。

とろみのあるたれもかけられ、油の香りと醤油の香りが絶妙なバランスで薫ってくる。

「うん、うまいっ!」

 あまりの美味しさに、がつがつと頬張ってしまう。このたれ、コクと深みがある。

ただの醤油じゃないのか。

「なー、このたれ、いつもと何が違うんだ?」

「お、わかっちゃった?実は燻製醤油なの!」

 喜々として語り出す佳代はやっぱり可愛い。俺は箸を休めて、佳代の笑顔を眺めた。

幸せだなと実感しながら、最後の一口を噛み締めた。


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