三、
時が経つのは早いですね
動かねば。
「ヒビキ」
意識が手繰り寄せられた。
跪いたままのハイリッシュが私を見ていた。
「あ、あぁ、思い出したよ、ハイリッシュ。お陰で忘れたかったことも、思い出した。忘れてはいけなかったことを、忘れてしまっていた。僕が居なくなってどうなった?」
少しこめかみを押して、ぼーっとする頭をすっきりさせようとした。
立ち上がったハイリッシュは廊下の先を行くように促してきた。
「ヒビキ、ここでは、目立ちます。私の部屋へ移動しましょう」
確かに、教室から数人が此方を伺っている。
「そうだな」
頷き、先を歩き始めたハイリッシュに着いて行く。
学舎を出て、石畳みの道を暫く歩くと林の向こう側に塔が見えた。そこへきて漸くそこが目的地であることを思い出した。
ハイリッシュの部屋は塔の最上階にある。
螺旋階段を登り切ると質素な家具が僅かばかり置かれた広い部屋に出た。
「何も無いな」
勧められて椅子に腰掛けると、扉の向こうからハイリッシュが茶器を持ってやって来た。
「明後日には旅立つつもりでした。しかし、あなたを捕まえることができて良かった。探していたのですよ。五十年前、何があったのですか?」
出された茶を手に、香りを愉しむ。
一口飲むと、生き返るように身体に沁み渡る感覚がした。
「そんなに経ったのか。どおりでハイリッシュがお爺様になってるはずだ」
「ええ、実際、孫が五人ほど居りますよ」
「孫!それは是非会わねば。エリシャの子か?それともあの後に授かったのか?」
「エリシャもおばあさんになっていますよ。あなたが居なくなって、王の紹介でエイリアナ様と結婚しました。エイリアナ様との間に二人ほど。二人目の子を産んだ後、エイリアナ様は肥立ちが悪く、亡くなってしまいました。その後に結婚した今の妻、ターニャとの間に二人ほど。私は五人も授かり、五人とも健康に育ちました。エリシャは二人、子を産みましたが、一人は事故で、一人は出産の時に子と共に亡くなりました」
「エリシャは?」
「まだ元気に妹たちの子を育ててますよ。あとの四人の内、三人は亡くなってしまい、エリシャと弟のグァンが生きております。グァンは二人の妻との間に四人、子供を授かりましたが、二人が元気でおります。ヒビキ、子の生存率は低いのです。そして、寿命も短い。私もいつ死んでもおかしくない歳となりました」
背筋の伸びたハイリッシュに老いは感じない。しかし、寿命は確実に迫っている。
「そうか、早いな」
ヒビキは受け入れる事実に頷いた。
「だから、想いを残す前にヴァへ行こうと思ったのです。カリオネル不在のヴァに何が起きているのか、確かめねばなりません」
「カリオネルがいない?何故だ?」
「発表はされていません。半年ほど前にカリオネルの術式が消え、身罷られたのだと。私には、それしか分からないのです」
「次代のカリオネルの術式が無いのだな」
「そうです」
「半年、そうか、分かった。私も一緒にヴァに行こう」
「いえ、国子はお残りください。力が不安定となっています。災害が起こりやすくなっているのです。私が国を抜け、あなたも国から居なくなると、誰が国を護るのですか?」
思わず笑いが漏れた。
「次代が居るのだろ?お前が後釜を作らず国を出るとは思えん。そいつに任せればいい。案外、任せると強くなるもんだ」
「・・・、全く、ヒビキのそれは変わりませんね。では、王に報告を。それから旅支度をしましょう」
手にした茶を飲み干すとハイリッシュが立ち上がった。
「今の王は誰だ?」
ヒビキは飲み干した茶器をハイリッシュに渡しながら、聞く。
茶器を受け取りながら、ハイリッシュは首を傾げた。
「ヒビキが名付けられた第四王女スズカ様です」
一時、王城は騒然とした。
数十年ぶりの国子来城に右に左にと慌てふためく下臣を他所に、国王スズカはただ一人、国子の部屋を訪ねた。
主人を迎えた部屋は幾分、華やかさを増し、嬉しげな雰囲気だった。
言葉もなく、扉を抜けたスズカは国子を前に膝を折った。
「お変わりないこと、嬉しく感謝いたします。スズカにございます」
国子はスズカに手を差し出し、立つように促した。
「元気そうで何よりだ。急に現れたりして騒がせたね。内密に、と伝えたはずなんだけどね」
「何を仰いますか、国子の再来は国の希望となります。下臣が騒ぐのも仕方ないことです、が、今回はそうではないようですね」
手を引かれて座ったスズカの向かい側に座る国子と元長老のハイリッシュを見て、スズカは溜息をついた。
「ヴァへ行かれるのですか?」
「そうなんだ。ハイリッシュはおじいさんだろ?心配でね。一緒に行って、ついでに竜を探してくるよ」
スズカは目を開き、次いでコロコロと笑い始めた。
かつてスズカは竜への憧れを一方的に語っていた。
初めてヒビキと会った日、スズカはヒビキが何者であるかを理解できないほどの幼児だった。ただ、家族と違う髪の色のスズカは同じ黒髪のヒビキに直様心を開き、毎日のようにヒビキの部屋へ、忍び込んでいた。
幼子の止まらない言葉には、既に諦めを含んでいたが、ヒビキはいつも楽しそうにスズカと会話をしていた。
スズカは四十年以上前のことをまるで昨日のように思い出していた。
「幼児の戯言を覚えておられましたか。嬉しいです。ここを離れられない私の夢を、どうぞ宜しくお願いします」
「うん、引き受けた」
頭に白が目立つスズカの方が母親と言ってもおかしくはない。だが、四十年以上前から変わらず若いままのヒビキにスズカは頭を下げた。
足の甲が痛み始めたが、歩くのに問題ないから放置していたら
同じ足の膝痛み始めた
医者から一言
鉄分不足からきていますから、
鉄貧血を治しましょう
・・・
まさかの血液問題からの派生!
鉄の薬が合わなかったので、一生懸命、食品を選んで鉄分を摂取するように頑張っています。
なかなか、難しい