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リバーシブル・ワンダーワールド  作者: 瀬那月 奏夜
2/2

001.どうやらこの少女は普通じゃないらしい

「あ、起きたか?」


ゆっくりと目を開けて起き上がった少女に、男は話しかけた。そのままにしておく訳にもいかず、そこら辺で取れた宿屋に運び込んだのだ。


「……えっと……これは…どういう状況なのでしょうか……」


ボソッと小さな声で呟いた少女は、その生気のない目で男を見た。


「……すまない。花街で倒れている君を見つけたんだが、そのままにしておく訳にもいかず、近くの宿屋にでもと思って運んだんだ」


男が少し申し訳なさそうなのには訳がある。それはここの場所が問題だ。花街にまともな宿屋など無いに等しい。しかもいきなりで空いているところがここ以外になかったのだから仕方ないといえば仕方ない。つまりそういうことだ。


「…はぁ……倒れて、た?」


少女の混乱の声に、男は頷いた。


「繁華街の端で、ボロボロになってな。

あ、すまない。自己紹介をしていなかったな。俺はアルマンド・グリーフ」


「あ、はい……えっと……海琳、です」


男はアルマンド、少女は海琳という名前らしい。

それにしても、海琳の様子がおかしい。これがどういう状況なのか全くわかっていないようだ。


「えっと……あの、今っていつで……ここってどこですか?」


「はぁ?東蔭暦1575年那月15日日時10時34分だが?あとここはサンクトゥルスアズワール領花街のホテルだな」


「……へ?……とういんれき……?なつき……?にちどき……?さんくとぅるす……?あずわーる……?えっと、なんですかそれ……?」


「!知らないのか?」


「あ、えっと……すみません……聞いたことすらありません……」


 海琳は申し訳なさそうに目を伏せる。その様子を見てアルマンドは考えた。


「……ふぅ。仕方ない。とりあえずついてきて欲しいのだが、いいか?」

「えっ、あっ、は、はい……」


 声は小さいながらも同意を見せた海琳に、アルマンドは立ち上がり、ここを出る準備を始めた。



 宿を出た2人は、人の波をかき分けながら進んでいたが、5分ほど歩いたところで休憩を挟むこととなった。海琳がバテたからだ。


「はぁっ、はあっ……ひ、ひと、多すぎませんか……?」


「たしかに今日は多いな。何かあっただろうか?」


 息を整えようと深呼吸をする海琳。そんな海琳に水を渡しながら、アルマンドは人の流れに目を向けた。大勢が向かっているのは……


「……あっちは……時の広場か?」


「……」


 アルマンドは眉をひそめて考える。


(今日は何も無かったはずだ。なら、この人々はどこに?)


「……あ、あの、あの人……」


 海琳の声にアルマンドは海琳視線を追う。そこには1人だけ人波に逆らい進んでいる女性がいた。しかも……


「!怪我をしているのか?」


「……た、多分。えっと、歩き方も不自然ですので……足にも怪我をしている……と、思います……」


 恐る恐ると言った様子で口を開いた海琳に、アルマンドは素直に感心する。普通はそこまで気づかない。その観察眼はどこで身についたものなのか。話せば話すほど疑問が増えていくこの少女に、アルマンドは興味を持ったのだった。


(まあ、この子のことは後にして、まずは状況の確認だな……)


 アルマンドは、ちょうどよく躓いて倒れ込んだ女性の方に向かい、手を差し伸べた。


「大丈夫か?」


しかし忘れてはならない。アルマンドは現在、階級章をつけているのだ。この世界では階級は絶対的なもの。突然サンクティアに手を差し伸べられた女性は、顔を青くして逃げ出した。


「あ、おい!また転ぶぞ!」


「っきゃあっ」


 アルマンドの忠告通り、怪我した足でいきなり走り出した女性は数メートル進んだところでまた倒れかける。


「っ……と。だ、大丈夫……です、か?」


 その体を支えたのは海琳。足を引きずる女性を気遣い、人混みを避けた裏路地に入った海琳は、女性の目を見ていきなり一言告げた。


「……えっと……時の広場で、何が起こっているんですか……?」


「……っ、お願い、私を……私たちを助けて!!」


 海琳は、その言葉に困ったように眉を八の字にした。


「えっと、アルマンドさん……どうしましょうか?」


「……一体何をしたんだ……はぁ」


「すみません、ちょっとした体質で……」


 海琳は困っている人に頼られるという不思議な体質を持っているらしい。なんとも迷惑な体質だ。


「とりあえず、話を聞かせてくれ」


 アルマンドの言葉に、女性は堰を切ったように泣きながら話し出した。



「「闇オークション?」」


「……っ、はいっ、私は商品としてっ、オークションにかけられるはずでっ……どう、してもっ、怖くてっ、何とか逃げてきたんです……っ」


 女性の話を聞いて、アルマンドは頭を抱えた。


(確かに最近闇オークションが問題視され、調査を始めていたが……なかなか証拠が掴めないと思ったら、こんなに白昼堂々と行っていたとは……)


「はぁ……とりあえず、時の広場に向かおう」


「ま、待ってください!その格好は目立ちすぎます!あなたもです!」


 女性は立ち上がったアルマンドと海琳を引き止める。


「服ってどこに売っているのでしょうか」


「買っている暇はない。オークションは何時からだ?」


「12時30分からのはずです……」


 アルマンドは懐中時計を出して時間を確認すると、険しい顔をして海琳達の方に向き直った。


「急ごう。あと15分で始まる」


「というかせめて階級章外してください!!!」


 結局アルマンドは上着を脱いだが、海琳はどうしようもなかったため、そのままの格好で行くことになった。







「ところで、この服って変ですかね?」


「この辺では見たことがないな。どこの服だ?」


「制服です」



「……ここか」


 時の広場に着いた3人は、広場の真ん中で行われる闇オークションを見てそれぞれ違った反応をした。


「まさか、こんなところで行われていたとはな……」


 またもや頭を抱えるアルマンド。


「……っ、早く、他の人を助けないと……!」


 一緒に捕らえられていた者の心配をする女性。


「……気色悪っ」


 海琳は誰にも聞こえない程度の声量でぼそっと呟いた。もしかすると彼女は、見た目に反して口が悪いのかもしれない。


「とりあえず様子を見るぞ。君はどこに捕らえられていたか思い出してくれ」


「す、すみません、私が覚えていなかったせいで……」


 女性は必死で逃げてくるあまり、自分の捕らえられていた場所を覚えていなかったのだ。まあ逃げてくる中場所を覚えていたらそれはそれでどんなやつだと言う話になるが。


「君が謝る必要は無い」


「……!……あれ」


 海琳がアルマンドの袖を引いてある方向を指さす。指の方向にあったのは明らかに雰囲気が違う路地裏。しかも入口のところには見張り番のようなものもついている。


「……あそこか」


「……!そ、そうです!私はあそこから……っ」


 女性は涙目になりながら首を縦に振った。


「……よく逃げ出せましたね」


 そんな女性と見張り番を見比べながら、海琳が呟く。


「わ、私が逃げた時には誰もいなかったんですけど……」


「……となると、あなたが逃げたことによって監視が鋭くなったのでしょうか……」


(海琳、ここに来てから会話が増えたか?いや、というよりは会話がスムーズに進んでいるというか……)


 女性の隣で顎に手を当てて──すなわちよく言う考えるポーズで悩んでいる海琳の方を見ながらアルマンドは思う。


(はぁ。こいつのことを考え出すとキリがない。後でにしておこうと先程も思ったのにな……)


 ふぅ、と息を吐き出したアルマンドの方を唐突に振り返る海琳。その口元には微笑が浮かんでおり──


(な、なぜだろうか。何か嫌な予感がする……)


「潜入しましょう」


「「……へ?/は?」」


 素っ頓狂な声を上げる2人に、海琳はさっきまで機能していなかった表情筋を少し働かせながら続ける。


「あなたにはまた捕まって頂きます。あぁ、ご安心ください。危害など与えられらる前に助けますから。主にアルマンドさんが」


「おい。お前は?」


 最後の言葉にアルマンドが口を挟む。


「私は戦えませんので」


「戦闘に使えるスキル、ひとつも持ってないのか?」


 緩やかに笑みを浮かべたまま即答した海琳に、アルマンドは眉間を抑えながら即座に切り返した。


「……スキル?」


「そうか、それも知らないのか……仕方ない。神殿に行って調べる時間もないしな。今回は俺が行くか……」


「仰っていることはよく分かりませんが、協力していただけるということですね。ありがとうございます」


 ニッコリと完璧な笑みを浮かべて言い切った海琳。その様子に幸先不安になるアルマンドは、少し決断が早すぎたかと後悔するももう遅い。


「では……」


 海琳は笑顔を浮かべたまま女性の方に向き直り、その背中を思いっきり押した。


「「ひぇっ?!/おい?!」」


背中を押された女性は人並みを上手にくぐり抜け、見張り番の方まで倒れ込んだ。


「……あのなぁ」


「だって1番早くて自然でしょう?それよりも、です。これで見張り番は少しの間いなくなるでしょうから、その間に中に突っ込みましょう」


 しれっとした顔で話しを続ける海琳は、見張り番に捕まった女性が中に連れていかれたのを確認して、歩き出した。


「本気かこいつ……」


 思わず口に出してしまったアルマンドの呟きももっともである。


「あ、おい待て一人で行くな!!!」


 すぐさま追いかけ、一緒に突入することにはなったが、さっきまでとは雰囲気も様子も違う海琳に振り回されるアルマンドだった。



「……ここか」


「捕らわれているのは先程の女性を含めて5人。そのうち3人は子供ですね。先程の女性の拘束が他の人よりも強いところを見ると、警戒されているようです。見張りは……3人といった所でしょうか」


 路地裏にあった扉から建物の中に入り、息を潜めて進んだ2人は厳重な警戒がされている部屋の中を覗いて判断する。ちなみになぜ見つかっていないかというと、見張りが周りも見ずに大急ぎで走っていったからである。2人は壁に張り付いていただけで見つからなかった。まったくもってアホな見張りである。まあ2人にとってはそちらの方が都合がいいが。


「にしても、よくそんなに分かったな」


「何故でしょうか。先程から普段よりも気配に敏感になっているのです。さらに言うと視力や聴力も上がっている気がします」


「そうか……」


(もしかすると、感覚強化系のスキルを持っているのかもしれないな)


 海琳の言葉にアルマンドは考える。しかしすぐに……


「あら、誰かがこちらに向かってきますね。早く隠れましょう」


「隠れる場所がないが……」


「ご安心ください。隠れる場所は見つけるのではなく作るのですよ」


 海琳は周りを見渡し、そこら辺に放置されていたボロ布を被った。


「ほら、アルマンドさんも早く!見つかってしまいますよ?」


「はぁぁぁ」


 楽しげに笑う海琳を見、アルマンドは大きなため息をついて同じようにボロ布の中に入った。


「……おい、女が戻ってきたというのは本当か?」


「はい。人波に流され、押されたのでしょう。私が見張りをしていると女がぶつかってきました」


「なるほどな。ふっ、愚かな女だ」


 やってきたのは2人。この二人の会話を聞くに、この闇オークションの主催者と先程の見張り番だろう。2人は話をしながら扉をくぐり、その重厚な扉を閉めた。完全に閉まったのを確認して、海琳は布を取っ払う。


「まさか本当にこれで凌げるとは思ってもいませんでした。あいつらアホなんですね」


「俺はお前が本気じゃなかったと知って恐怖すると同時に安心している」


 海琳に続いて布を払いとったアルマンドは、嘲笑を浮かべる海琳に頭痛を催しながら言う。失礼ですね、と冗談めかして言う海琳はやはりどこか愉しげだ。


「では、次出てきた瞬間に制圧をお願いします」


「待て、そんな話一言も聞いてないぞ」


「今言いましたので」


 はあ、なんでこんなことになっているんだ……アルマンドの心の中はまさしくそうだろう。


「……ところで、さっきまでとは随分様子が違うようだが、お前もしかして多重人格か?」


「うふふ、どうでしょう」


 話を変えようと咄嗟にでてきた疑問を振ってみるも、返ってきたのは曖昧な返事。しかしその返事を聞いてアルマンドの判断はほぼ確定した。


(やはりこいつ、多重人格か……詳しいことはわからないが、それがわかっただけでも少しはやりやすいな)


 実際のところ、海琳は多重人格ではない。スイッチが入ると性格が変わってしまうだけである。実は目の色も変わっているのだが、先程まで前髪で隠れていたこともあり、気づかれていないようだ。


(まぁ混乱させておけばいいでしょう……別に嘘はついていませんしね)


 実は内心でこんなことを考えている海琳。スイッチの入っていない時は天使のようなのにこれは小悪魔……いや、悪魔だ。あっさり堕天している。


「あ、多分もうすぐですよ」


「はぁ……」


「ため息をつくと幸せが逃げますよ?」


(誰のせいだ、誰の!!!)


 呑気な海琳に苛立ちを通りこして呆れを感じ出しているアルマンドだが、さすがに緊張感を持って欲しいものだ、と息を吐く。そんなことをしている間に……


ギィィィ


大きな音を立てて扉が開いた。張り詰めた空気が広がる。そして……


「なっ、なn-」


「おい───?!」


出てきた男たちはアルマンドにより助けを呼ぶ間もなく意識を奪われた。


「さすがですね」


「まあな。こいつらどうするんだ?」


 海琳は部屋の中に入ると、なにか縛ることが出来るものでもないかと探したが……


「あ、いいものがありました!この檻の中に入れておきましょう!!」


「あの、マリンさん!それも大事ですが先に出してくださいません?!?!」


 使われていない檻を軽く叩いて顔を輝かせた海琳に全力でツッコミが入った。もうお分かりであろうが先程の女性だ。


「そういえば海琳、この厳重な檻をどうやって破る気だ?」


「え?……何も考えていませんが」


 続いて入ってきたアルマンドに問われた海琳は、逆に驚いたような顔をして言い切った。その言葉に周りは愕然とする。


「はぁぁぁあ?!アホじゃないんですか?!」


 全力で叫び声を上げた女性。あまりの声の大きさに海琳は耳を塞ぎながら言った。


「しーっ、あんまりうるさくすると見つかってしまいます。それよりも誰かピッキングできないんですか?それか解錠魔法みたいなのってあったりしませんか?」


「そう簡単にピッキングできる奴がいてたまるか。解錠魔法はないことは無いが俺は使えないぞ」


 アルマンドから言われ、海琳は考え込む。


「……では、私が1度試してみましょう!それで出来なければ……力技でなんとかしましょうか」


「言っていることが無茶苦茶なことに気づいてるか?」


 先程からため息をついてばかりのアルマンド。彼のとしてはこれ以上海琳に暴走させるような要因を作りたくない、というのが本音だ。が、そうでもしないと自分がしないといけなくなるという事実から目をそらすことも出来ない。


「……こう、対象に意識を集中させて……“解錠(Unlockin)”」

 アルマンドが唱えたが、鍵は少し揺れた程度であいた様子はない。彼は魔法が苦手なのだ。


「なるほど……“解錠(Unlockin)”」


 海琳がアルマンドを真似て唱えると、彼女と鍵が淡い光をまとった。そして……


…カチッ


「……開きましたね!助かりました!」



((なんでそんなにあっさり使えるんだ?!/使えるの?!))


 海琳の楽しげな笑顔と対照的に、段々顔に疲れがにじみでてくる2人。そんな2人を気にせずに放置されていた他の人達も助け、檻の中に悪人2人(もうどちらが悪人かもわからないが)を乱暴につっこんだ海琳は、怯えきった子供たちに優しく声をかける。


「痛いところはありませんか?……大丈夫ですよ、もう怖くありませんからね」


 しかし子供たちは海琳が話しかける度に泣き声が大きくなる。


「……えぇ、私なにかしたんですか?」


 混乱しきった海琳は助けを求めてアルマンドたちの方を向くが、アルマンドはまた大きなため息をついて海琳を部屋の隅に引っ張っていく。


「えっ、なんですか?」


「お前はアホなのか?これまで捕まってろくな環境にもいることが出来ずにいた子供たちだぞ?そんな子たちを捕まえてきたのは間違いなくあそこのデブだろう。つまり、子供たちにとって、あれは恐れる対象になる。それを思いっきり蹴って檻の中につっこんだお前がその対象になっても何らおかしくないと思うが?」


 女性が子供たちをあやしているのを横目で見ながら海琳に説明をするアルマンド。……正確には説教をかましている、の方が正しい気もするが。


「そんなもんなんですかねぇ……?」


「そんなもんだ」


 心底不思議そうに首を傾げる海琳は、ハッとしたかと思うとすぐにニコッと笑い、宣言する。


「では、私は先に逃げ……ん、ん゛ん゛、先に上で待っていますね」


「おい待てお前逃げるって言っただろ今!!」


 結局体力のなさでぶっ倒れているところを捕まった海琳だった。



「自分の体力のなさを舐めてました……」


「それはともかく、早くここを出るぞ。こいつらは騎士団にでも連絡しておけば捕まえに来てくれるだろう。もうそろそろ誰か来てもおかしくないからな」


 廊下で立ち上がった海琳の腕を掴んだままアルマンドは言った。ちなみに腕を掴んでいるのは逃げないためだ。


「ですね」


「お二人とも、全員逃げる準備は出来ましたけど……」


 ドアを開けて子供たちや獣人など、囚われていた人たちを引き連れて女性が部屋から出てきた。


「ちょうどいい。全員連れて逃げる。俺が先に行くから……いや、海琳、お前も前で一緒に行くぞ」


「え、なんで私も?」


「今から1つ攻撃魔法を教えるからもし誰か来たら倒せ。俺は狭いとこで戦うのには向いてないんだ」


 そう言ってどこからともなく長剣を取り出すアルマンド。なるほど、確かに狭い通路で長剣を使うのには無理があるだろう。


「体術でなんとかなる範囲ならいいが大人数でかかってこられてはどうしようもないからな」


「なるほど……攻撃魔法ってそう簡単に使えるんですか?」


「君なら大丈夫だろう……いいか?発動の原理は解錠魔法と同じだ。意識を集中させる。呪文は……まあこれでいいだろう“水球(Aqua polo)”」


「……“水球(Aqua polo)”……きゃあ!」


 なんと、海琳が放った魔法はとてつもない威力で通路の壁にぶつかった。


「……」


「…………」


「…………あの、壁に穴が空いてる気がするんですけど」


「「………………」」


 2人は尊い犠牲となった壁を放置することにした。アルマンドに関しては騎士団がなんとかしてくれるだろうというなんとも人任せな考えである。


「……使えるな。威力も充分すぎるくらいだし、行くか」


「で、ですね」


 そしてアルマンドと海琳が前衛で、逃げるために歩を進めていく一行。途中で小さなハプニングはありながらも、なんとか路地裏の入口まで戻ってくることは成功した。が……


「この人数で出たら間違いなく注目されますよ……」


「仕方ない、マリンは後ろに注意を払ってろ。少しずつ出していく」


「えーっと……三手に分けます。マリンさんとアルマンドさん以外、10歳以上の人が私を含め2人しかいませんので、最後のグループはマリンさんに着いてきていただくことになりますが……」


 顔を突き合わせて作戦を練る一行。結果、アルマンドは外で出るタイミングを見計らう、警備を、マリンは後方警備と第3グループと出てくることを、女性は第1グループ、もう1人の獣人の少女は第2グループとして出ていく、という計画がたった。

 まずはアルマンドが出ていき、外の様子を確認する。


「……特に視線は感じないな。……よし、今だ」


 広場の真ん中で謎のツボのようなものがオークションにかけられ始めたところで第1グループが出ていく。その流れで第2グループも出ていき、路地裏に残っているのはマリン率いる第3グループとなった。しかし、残っている子供たちは、突然大声で泣き出す。


「……やっぱり私、子供に嫌われるんですかね」


「そういうことじゃないと思います」


 とりあえず泣いている子供たちを外に出し、女性と獣人の少女がその子たちをあやす。


「……はぁ。まぁいいでしょう。とりあえず視線は感じません」


「俺もだ。

……2人とも、聞いてくれ」


 アルマンドは、子供たちをあやした2人に向き直ると、これからの作戦を告げた。



「アルマンドさん、ここからどうする気ですか?」


 マリンはアルマンドに聞いた。この2人は、捕まっていた人々とは別れ、広場の端の人がいないが、オークションの様子はよく見えるところで箱の陰に隠れていた。


「10分後にあそこにたっている男の意識を刈り取る。その頃には騎士団が到着しているだろうから、残りは任せて我々は退散する」


「なるほど……って、それ意味あります?」


「ステージの真ん中にたっている男が倒れたら他の人々の意識はそちらに持っていかれるだろう。だからだ」


「ああ、その間に騎士団がなんとかするんですね、分かりました……ところで、ここからどうやって動く気ですか?」


「……」


 今はそこそこの人数が、2人を隠す箱の前を通っているが、その作戦で行くと間違いなく逃げる瞬間にここから走ると目立つであろう。


「しまった、そこを考えていなかった……」


「……はぁ。私は面倒事は御免なので今のうちに逃げますよ」


「それなら俺も行く。別に何もしなくても騎士団ならなんとかするだろう。アズワール騎士団は優秀だ」


「さっきと言ってること違いますけど?はぁ……」


 そして、2人は人目を盗んで逃げだした。途中で怪しまれて殺されかけたため、相手を半殺しにして放っておいたのはまぁ正当防衛と言うことにしておこう。



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