あるいは、裏側の。
登場人物
杏子、キョウコ
占い師の女。父親の性的暴行から逃れるため、一人で家を飛び出した。雑居ビルの一室で占いの館「杏子」を開いている。通信制大学に通っている。占いとしての能力を評価され、強引に、夜明けの騎士団の専属魔術師にされてしまう。魔術師としてのタイプは「テンパランス(節制)」。深い洞察力で、占いを用いて、人の心を暴くことができる。
θ、シータ
夜明けの騎士団のメンバー。魔術師名は、「カブリエール」。主に、魔術師のスカウトを行う。あまり多くを語ることのない「男」だが、なにかと杏子の支えになる。
β、ベータ
夜明けの騎士団のメンバー。教団の中で、ナンバー2だが、ベラベラと良く喋る。杏子のことを気に入っているらしく、セクハラまがいのことをして、杏子に殴られることもしばしば。
Δ、デルタ
夜明けの騎士団のメンバー。女。杏子に教団をやめるように度々説得する。手首に、蛇の入れ墨がある。青い目をしている。
D’arc ダハク(ダルク)
シスター。夜明けの騎士団を憎んでおり、杏子にも、夜明けの騎士団をやめるように忠告する。Δとは面識があるようである。杏子の家の近くの教会に住んでいる。シスターだが、信仰は、ルター派のプロテスタントであり、シスターは、あくまでも「修行」らしい。ダルクは、洗礼名。
典子、ノリコ
杏子の親友。杏子の占いの館に、客として訪れることもしばしば。杏子が、魔女であることは知らない。杏子に最も信頼されている人物
アル=ファ¿
教団のトップ。ナンバー2のβも「よく、わからん人」と言われている。杏子を見ると、何故か、十字を切る。
「通変星は、時柱、年柱に、傷官が2つある。あなた、もしかして、恵まれない幼少期を過ごしたのかしら。タロットカードでは、過去の位置に、力が逆位置。おそらく、親から束縛されていた、、、。あら、あなた命式に華蓋がある。もしかして、夜のお仕事をされている?あるいは、すると、稼げるわね。沐浴に、病もある。精神世界への興味もおありね。知的でもある。帝旺があるから、仕事を始めると、トップに立つけど、恋はうまくいかないかも。あなたの親と同じように、あなたもまた人を束縛してしまうから。どう、当たってる?」
時計の針は0(ゼロ)を指している。雑居ビルの一室、灯りは、フクロウの形をした卓上ライトのみ。ぼんやりとしたオレンジ色が、ベールを被った女と、ベージュのワンピースの女を照らす。ビルとビルに挟まれた三日月が人間の頭4つ分しかない小さな小窓から見える。遠くからサイレンの音、その音が遠くなっていく。泥酔した若者の叫び声が、散発的に、あくまでも「散」発的に、小さな空間を切り込んだ。ワンピースの女が目をまん丸にして、ベールをじっと見つめる。「はい、全くその通りです。」語彙に乏しい人間ではなかったが、ただ、「全く、その通りです」と言う他ないほど、彼女は驚愕していたのである。「あなた、女としては、はっきり言ってモテる。あなたには魅力があるの。とてもミステリアス。あなたの中には、弱いものと強いものが二つあるの。病や、沐浴が現れることはよくあるのだけれど、帝旺の星が並ぶのはとても珍しい。帝旺は強すぎる星。病や、沐浴の星では太刀打ちできない。あなたの中に、潜む、その強すぎる側面、人格があなた自身を暴走させてしまうけれど、でも、帝旺は、その暴走にも耐えられるレールもまた与える。おまけに華蓋もあるなんて。江戸時代に、遊女として運命を与えられたら、あなたは花魁になるタイプ。でも、弱いあなたの側面が、あなたを苦しませる。ああ、よくある時代劇ね。遊女を主人公とした、時代劇。あなたのこと、好きになりそう。」白色のシルクに身を包み、女は、ベラベラとよく喋る。ドーパミンが溢れ出して、自分でない何かが、語らせているかのように、女は一種の解離に陥っていた。この女の饒舌に、ワンピースは、先ほどまでの、自信なさげな猫背から、ピンと背筋をまっすぐにし、その顔は、これ以上の回答を要求していなかった。回答ではなく、さらなる賞賛を求めていた。
「はい、じゃあ、30分。鑑定料3000円。延長することもできるけど、どうする?」
ワンピースは、3000円で、今まで感じたことのない快感を得たので、さらなる延長を望もうかと思ったが、エクスタシーは永遠に続かないことを自覚して、「いや、大丈夫です。ありがとうございました。」席を立ち、ブランドの長財布から、紙幣を3つ机に並べた。なるほど、ブランドの財布が、彼女の正体だった。若干20の占い師は、今日も満足して、「また、困ったことがあったら来てね」と、客を見送った。