誰がために
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ロマンは兎も角、ティボルトさんやマキューシオさんにも、同じく首打ち式をすると、パチパチと周囲から拍手が起こる。
いや、でも、よく考えたらこんな誓いを立てさせたら、三人の未来を縛っちゃうんじゃないかしら。
そうは思うけど、彼ら三人の償いは結局「強くなったら菊乃井に奉仕する」だから、形としては縛らなきゃいけないわけで。
でもまあ、武闘会に向けて彼らのモチベーションが上がるなら良いか。
と、思っていたら、ドスッと後ろから何かに追突されて。
振り返ったらひよこちゃんがぶうっとほっぺたを膨らませていた。
奏くんも、なんだか口を尖らせてるような。
「どうしたの、レグルスくん。奏くんも……」
「にぃに! いちばんは、れーでしょ!」
「ひよさまはともかく、なんで兄ちゃんたちが先なんだよぉ!」
なんのことさ?
なんで二人がぷりぷりしてるのかよく解らなくて首を傾げると、ラーラさんがぽんっと手を打った。
「二人とも首打ち式が羨ましかったのか」
「えー……なんで?」
「なんでって……」
「にぃには、れーがまもるの!」
「おれは、若さまの右うでになるって言ったじゃん!」
うん?
つまり、三人が私の家来になったと思ってるってことかな。
それはちょっと違うんだけど。
訂正しようとすると、ヴィクトルさんが「チッチッチ」と人差し指を振った。
「君たちは首打ち式しなくっても、あーたんの特別枠でしょ。だってれーたんはたった一人の弟だし、かなたんはたった一人の親友なんだから」
なんかボッチ拗らせてるみたいな言い方だけど、間違ってはないんだよね。
レグルスくんは唯一の血を分けた弟だし、次男坊さんとかマリアさんとか「友人」って言えるひとはいるけど、「親友」となると奏くんしか思い付かないもん。
前世の「俺」の親友はまた別枠だし。
頷くとちょっと二人が得意気になる。
それを見たラ・ピュセルのお嬢さん方がやっぱり「かーわーいーいー!」と悲鳴をあげて。
うん、レグルスくんと奏くんが可愛いのはデフォルトです。
抱きついてきたレグルスくんをぎゅっと抱き締めて、奏くんの手も握る。それで完全に膨れっ面が消えたから、納得してくれたんだろう。
さて、食事の続きだ。
良い具合に焼けた野菜やお肉は、ロミオさんたちやラ・ピュセルのお嬢さん方のお腹にドンドコ収まるし、レグルスくんも奏くんも元気に食べて。
デザートの焼き林檎を食べ終わった頃。
「お招き頂いたお礼に、一曲歌わせて頂きます!」
凛花さんを中心に五人が並ぶと、ヴィクトルさんが指揮棒を振る。
すると五人が息ぴったりに歌い始めた。
その曲は五人のオリジナル曲で、普段カフェで歌っているものだそうで。
賑やかな旋律に、五人のそれぞれ高さの違う声が絡まって、美しいハーモニーになっていた。
けれどこれはコンクールで歌うものではないらしい。
最後の一音を合わせて伸ばすと、振り付けなのだろう。腕を天に向けてフィニッシュポーズ。
奏くんとレグルスくん二人の拍手がとても大きく庭に響いて、私も負けずに手を叩く。
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
お嬢さん方が声を合わせて、お辞儀をする。それに合わせてヴィクトルさんも一礼すると、五人に顔を上げさせた。
そしてあらかじめ渡してあった風呂敷包みを、五人に順次手渡していく。
「開けてみて良いよね?」
「勿論ですよ」
私の言葉に風呂敷包みをあけると、シュネーさんが「きゃあ!」と歓声を上げた。
「可愛い! このスカート、ドレスみたい!」
「本当だ! すごぉい!」
「わぁ、マントみたいなヒラヒラついてる!」
「凄く可愛いです……!」
彼女達の手にはコンクールで着るためのステージ衣装──真っ白なパフスリーブのレースジャケットに、パニエで膨らませた裾のプリーツがジグザグと段違いになったワンピース、シルクの靴下に白い靴、背中には色違いのシフォンのような柔らかい素材で作った妖精の羽のマント──が確りと握られていて。
本当はアクセサリーも用意してるんだけど、それは当日のお楽しみだ。
それぞれ身体に衣装を当てて、見ているのも華やかで可愛くて和むんだけど。
ほんわかしていると、リュンヌさんが真面目な顔で衣装を抱き締めた。
リュンヌさんの羽は黄色。
「若様、ありがとうございます。私たちも、全力で菊乃井のために頑張ります!」
「はい、よろしくお願いいたしますね」
桃色の羽を翻すのは凛花さん。眼が少し潤んでいる。
「私、最初は家に帰りたい一心で合唱団やってました。でも今は違うんです」
「私も凛花ちゃんと同じです。今は自分から歌いたいって心から思います」
今にも零れそうなほど涙を溜めて凛花さんに寄り添うのは、ステラさん。ポニーテールに青い羽がきっと映えるはずだ。
同じく凛花さんにシュネーさんが寄り添うけど、彼女の羽は緑色。
「応援して下さる冒険者さんが『今日は危ないことがあったけど、生きて帰ったら君たちの歌が聞けるって自分を励まして頑張った』って言ってくださって。私たちでも誰かの生きる縁になれてるって、嬉しかったんです」
ひらりと紫の羽を翻して、リュンヌさんと寄り添うのは美空さん。二人の眼にも涙の膜が張っていた。
「応援して貰える嬉しさも、誰かの生きるための力になれる喜びも、合唱団として活動しなければ解りませんでした。だから、これからも私は誰かの力になれるように頑張ります!」
彼女たちに関しては、私はほとんど何もしてないんだけど、そういう風に言って貰えるなら服を作った甲斐があるってもんだよ。
頷いていると、ヴィクトルさんが優しく笑う。
「合唱団にはモデルがあるんだよね? 確か異世界の女の子だけの劇団で……」
「はい。その方々もお客さんに夢や希望を分け与え、美しい物語を見せていらっしゃる。私はラ・ピュセルの皆さんにもそうあって欲しい」
誰かに希望を持たせ、生きる勇気を与えることの何と難しいことだろう。
けれどアイドル、或いは役者という人たちは、それを当たり前にやってのけるのだ。
「願わくば、あなた方ラ・ピュセルが菊乃井に……いえ、それ以外の人にも夢と希望をもたらす存在であるように」
「「「「「はい! 頑張ります!」」」」」
五人の乙女の溌剌とした声が、澄んだ青空に誇り高く響いた。
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