誓いをここに
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四の月の半ばから終わりにかけて、皇帝陛下の即位記念の式典が続く。
武闘会と音楽コンクールは、その初めの週の一日目から予選が行われ、成績優秀者は式典最終日にある園遊会へと招待されるのだ。
だから、決着が着くのはその三日くらい前なのだそうで、結構な長丁場になる。
ってな訳で、予選が始まる前々日、菊乃井屋敷では壮行会をすることに。
ラ・ピュセルの五人とエストレージャの三人を招いて、食事会兼衣装のお披露目会でもある。
ハレの日にマナーがどうのと気にせず、お腹一杯食べてもらうために、会場は庭。立食形式というかバーベキューにしてみたんだよね。
料理長が下拵えしたお肉や魚、野菜を炭火の上に置いた網に並べていく。
因みに材料はまたも先生方が調達してくれたんだけど、出所は内緒だそうで。
「お招き頂いてありがとうございます」と、五人揃った見事なカーテシーを披露してくれたラ・ピュセルの五人に、同じく招待への謝辞を胸に手を当てて述べるエストレージャの三人。
「今日は気兼ね無く楽しんで、英気を養ってくださいな」
「ありがとうございます!」
「私、こんな立派なお庭初めて入りました!」
「お花が沢山で素敵ですね」
「バーベキューも凄く良い匂い……」
「み、皆! お行儀よくしなきゃ、ダメだよ!?」
思い思いに屋敷の庭を見たり、バーベキューの匂いに鼻をひくひくさせたりするのを、キャッチフレーズにも「真面目」と言うくらい真面目そうな美空さんが止める。
ロミオさんたち三人はエルフィンブートキャンプで屋敷に来慣れているせいか、料理長を手伝って肉を焼く。
奏くんやレグルスくんも、焼いてもらった肉にかぶり付いて楽しんでいるようだ。
エストレージャの三人にせよ、ラ・ピュセルのお嬢さんがたにしても、マナーや立ち居振舞いはラーラさんが担当して教えているせいか、背筋がぴんと伸びている。
特にお嬢さんがたは舞台人だからか、すっきりとしていて優雅。
何処かの貴族のご令嬢と言われても納得しそうな雰囲気で、同じく何処かの騎士団の騎士だと言われても頷いて仕舞いそうなロミオさんやティボルトさん、マキューシオさんと並ぶと実に華やかだ。
「はぁ……お姉ちゃんたち、きれいだなぁ」
「おねーさんたち、かわいいねぇ」
ほわぁっと感嘆のため息を吐く奏くんとレグルスくんの眼はキラキラしていて、あれだ。前世の「俺」と「田中」が、菫の園の男役さんや娘役さんを見る時みたいな眼をしてる。
そう、アイドルとか役者さんは、こうやって憧れと夢と希望を振り撒いてくれるから好きなんだよね。
ほわぁんとそんな様子を見ていると、ロミオさんやティボルトさんやマキューシオさんも、何か思うところがあったのか、奏くんに「俺達は?」と尋ねる。
「兄ちゃんたちも変わったな! すげぇ強そうだ!」
「少しは俺達もカッコよくなったかい?」
「うん、でもぉ、にぃにのがかっこいいの!」
あらぁ、もう、ひよこちゃんたら、兄上照れちゃう。
両手を頬っぺたに当てて照れ照れしながら答えてくれるレグルスくんの姿に、お嬢さん方が「かーわーいーい!」と身悶えて、エストレージャの三人が肩を竦める。
「そりゃ、れーたんにはあーたんが一番カッコいいよね」
「そんな鳳蝶君が一番格好いいと思うのは私ですけどね」
「異議あり! それはボクだと思うよ」
「ちっがうよ! 僕だよね、あーたん?」
確かにロマノフ先生は格好いいけど、ラーラさんもヴィクトルさんも格好いいんだよね。
でも私的には、漢と書いて男と読む系なローランさんとか料理長のがカッコいいって言葉に当てはまるような。
つか、エルフ三人衆はカッコいいより綺麗なんだよ。
それはおいといて。
今日、ロミオさん達が着ているのは、私が作ったナポレオンジャケットとベスト、その下のシャツ・下着・靴下、それからパンツと小さなポーチの付いた武器を吊り下げられるベルト。加えて次男坊さんから仕入れた武器とバックル、靴とフル装備だ。
どれもこれも「防御力向上」と「魔力向上」を付与しているお陰で、それが重なって「武器破壊効果」と「絶対防御」になっている。
ちなみに「絶対防御」は物理的な攻撃は勿論の事、魔術攻撃や相手からの能力低下の付与魔術も弾いてくれるのだ。
それだけじゃない。
武器──ロミオさんは剣、ティボルトさんは槍、マキューシオさんは鞭と投げナイフ──にも「貫通」が付与されている。
「貫通」とはそのまま、相手がどんな付与効果が付いた防具を身に付けようとも、その効果を全く無視してダメージを与えられるのだ。
他にも靴やバックルには「俊敏向上」や全体的な能力向上効果を得られる魔術を付与している。
こんだけ盛ったらまず負けない……と思うんだけど、それでも元々の能力が低いとどんだけ盛ってもそれなりにしかならないのが付与魔術の弱点だ。
薄っぺらい紙に「絶対防御」を付けたところで、三回ほどナイフで切られたら、魔術の効果が無くなって切れちゃうんだよ。
「三人とも、服の着心地はどうですか?」
「はい、凄くしっくり来ます」
「動きやすい、軽いですね」
「見た目はちょっと派手かと思いましたが、実際着てみるとそうでもないかなって」
「ああ。ジャケットとパンツの色は三人とも同じ黒にしましたけど、中のベストの色は変えましたもんね」
ロミオさんにはワインレッド、ティボルトさんにはインディゴブルー、マキューシオさんにはビリジアングリーンを。
目立たない所にエルフ紋様の刺繍も入れまくったもんね。
くるっと三人ともターンして見せてくれたけど、中々様になっている。
その姿にパチパチとラ・ピュセルのお嬢さん方から拍手が起こった。
それに軽く手を振ってから、きりっと三人は表情を改める。
「奴らのこと、ロマノフ卿から聞きました。それから若様の考えも」
「俺達は菊乃井の御領地を確かに危険に晒しました。あの時は俺達がどんなに愚かな事をしたのか、全く解ってなかった」
「でもこの数ヶ月で俺達は学び、そして知って、どれ程の温情を与えられたのかも理解したつもりです」
「そうですか。で、どうします?」
「勝ちます。勝って、御領地に恩返し……いや、俺達みたいに心ならずも腐った奴を助けてやりたい。俺達が助けられたみたいに」
「若様、俺達にご命令ください」
「『絶対に勝て』と、一言。必ずや勝ってご覧にいれます」
ざっと膝を折り、三人揃って私に向かって頭を垂れた。
何かあれだなぁ、騎士の叙任式みたいでちょっと壮観。
と、思っていると、ロマノフ先生が腰から剣を引き抜いて、私の手に自分のそれを重ねて持たせてきた。
「鳳蝶君、首打ち式を」
「首打ち式?」
「首筋に剣の平たい部分を当てて騎士の誓いを立てさせてあげなさい。主君に立てた誓いは、主君の赦しをもって祝福になります」
そう言うと、私の手に添えた先生の手が動いて、剣の平でロミオさんの首筋に触れる。
「鳳蝶君、復唱してください。『彼が全ての善良にして弱きものの守護騎士となるように』」
「彼が全ての善良にして弱きものの守護騎士となるように」
「『汝、謙虚であれ。誠実であれ。礼儀を守り、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましくあれ。己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となれ。主の敵を討つ矛となれ。騎士である身を忘れることなかれ』」
「汝、謙虚であれ。誠実であれ。礼儀を守り、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましくあれ。己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となれ。主の敵を討つ矛となれ。騎士である身を忘れることなかれ」
仰々しい言葉を復唱すると、剣を首から離し、その切っ先をロミオさんの目の前へと差し出す。すると顔をあげたロミオさんに、ロマノフ先生が「誓うならば刃先に口付けを」と言葉をかける。
ロミオさんは、凛とした表情で刃先にキスをして。
「誓います」
ヤバい、なんか私の中の「俺」が「騎士道ロマン万歳!」とかワクワクしてるんだけど。
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