ダンジョンにもそんな驚きは求めてない
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あ……ありのまま、今起こったことを以下略。
私の七歳のお友達と四歳の弟が、この階層のボスより強い巨大イニシャルGを一撃瞬殺したんだけど、どういうことよ?
唖然としていると、横から二の矢が放たれて、八匹残ってたイニシャルGが六匹に。
ヤバい、夢じゃなかった。
しかも今度も見事に頭を貫通してる辺り、精度も抜群だ。
が、それにラーラさんが首を振る。
「ひよこちゃん、カナ、マナー違反だよ」
「マナー違反って……?」
こんな時にもマナーなんかあるのか。
大の大人の男が三人、顔を洟と涙でグシャグシャにしながら尻餅をついてる。どうみてもエマージェンシーなのに、そんなのあるの?
疑問が顔に出てたようで、ラーラさんが腕組みしながら「お勉強の時間だね」と真面目な顔で私やレグルスくんや奏くんを見た。
「モンスターは倒すと必ずとは言わないけど、アイテムを落とす。冒険者はモンスターを倒して手に入れた戦利品を売ったり使ったりで生計を立ててるんだよ。戦闘に割り込むのは、この戦利品を横取りする行為に等しい。だから基本的に相手が助けを求めるまでは、どんなに冒険者が危なくなっても手を出してはいけないんだ」
「ああ、なるほど……」
「おれたちがやっつけたら、あのオッサンたち、ごはん食べられなくなっちゃうのか……。ひよさま、ごはんはだいじだ!」
ラーラさんの説明に頷くと、奏くんが雷に打たれたような顔をして、レグルスくんを説得にかかる。
しかし、レグルスくんは嫌々と首を振った。
「ナイナイだめなのぉ? にぃに、あれきらいなのに?」
「きらいでも、若さまはよその人のごはんは取っちゃだめって言うよ。な?」
「う、うん。あれがご飯の元になるなら、私はまあ、大丈夫……」
「わかったー」
良い子のお返事をするレグルスくんに、大人達が優しい眼差しを注ぐ。
ほわっと雰囲気が和みかけるが、それを野太い悲鳴が遮った。
「た、助けてくれぇっ!?」
「死にたくないぃぃっ!?」
ヒィヒィ泣き声混じりのSOSに、ラーラさんとロマノフ先生の目がそちらに向いて、奏くんとレグルスくんがすかさず弓を構える。と、私と繋がった糸を揺らしてタラちゃんが自己主張してきた。
私が嫌いなイニシャルGもタラちゃんにはご馳走らしく、「食べちゃダメですか?」と言いたげに見上げてくる。
「タラちゃん、放して良いですか?」
「ああ、どうぞ」
「じゃあ、はい。タラちゃん、行っておいで」
糸を放してやると、一目散にご馳走に向かって飛び跳ねて行く。
そう言えば私はタラちゃんがどうやって獲物を狩るのか正直解ってない。つか、蜘蛛は巣を張って待ってるもんじゃないんだろうか。
そう思って見ていると、タラちゃんが粘着性のある糸を塊にしてスリングを作り、それを次々に巨大イニシャルGにぶつけていく。かなり威力があるようで、ぶつけられた側はぴくぴくと脚を震えさせながら、腹を天井に向けて倒れた。
それを更に糸で動けなくすると、次の獲物を求めて跳ねて行く。アグレッシブ。
タラちゃんが狩りをしてるのを邪魔しないように、奏くんとレグルスくんは近付いてくるのを射殺し、ラーラさんとロマノフ先生は氷や雷の矢で虫を退治して。
あっという間にGを殲滅したんだけど、その亡骸は全てタラちゃんのお腹の中へ消えていった。南無阿彌陀仏。
んで、ガクブル可哀想なくらい震える三人のオジサンのところに行くと、何と言うかツンと鼻に来る異臭がして。
あんまり見ると良くないかなと思ったけど、尻餅をついた地面の色が変わっていてついでに水溜まりも出来てたからお察しだ。
ぐずぐずと洟を啜る三人に追い討ちかけるのもなんだけど、そのままの格好でいると風邪を引くかもだし、何より怪我してた時に不衛生だもんね。
腹を括っていつも付けてるウェストポーチから三枚、ボクサーパンツを取り出す。
これは氷輪様とファッションショーした後、ちゃんとお洗濯して万が一の時のために持ってたやつで、魔力の通った布で作ったから大人も子供も履けるのだ。
「あの……これ……下着ですが」
「うぉ!? あ、ありがとよ……」
三人のオッサンを代表して黒髪のやる気なさげな垂れ目の、草臥れた雰囲気の人が人数分のボクサーパンツを受けとる。
襲われた事情とかも聞きたいし、逃げられては困るからロマノフ先生と源三さんとが見張りに付くと、ヴィクトルさんは結界を張り、宇都宮さんがレジャーシートの代わりに持ってきた厚手の布を敷いて。
私はと言えば臭いとか残ると嫌だから、魔術で辺りを清めて、ご飯の終わったタラちゃんと再び糸で手を繋ぐ。
と、下着をつけた三人が、おっかなびっくりといったていでこちらにやって来た。
「あ、履き心地大丈夫ですか?」
「お、おう、ちょっと締め付けられる感じはあるけど、まあ安定感があるというか?」
「布がぴっちりしてるから、ずり落ちなくていいなぁ」
「そうですか、差し上げますから使ってくださいな」
返されたって使えないもんね。
にこっと笑うと、オジサンたちはちょっと戸惑った感じだったけど頷く。するとヴィクトルさんが、オジサンたちのズボンを差し出した。
「魔術で洗って乾かしておいたから。あと、その下着は菊乃井の冒険者ギルド御用達のEffet・Papillon製だからね」
「ま、マジで!?」
「あの、ギルマスが有望な駆け出し冒険者に購入を奨めてるっていう!?」
「小物だから安価だけど、付加効果付いてるからあるとなしとじゃ、駆け出しには段違いっていうやつか!?」
……待て、なんだその評判は。
私、そんなの聞いてない。
若干胡乱な眼差しでヴィクトルさんを見ると、肩を竦めるだけで。
ロマノフ先生がそれを後押しするように、にこやかにオジサンたちに話しかける。
「私やそこの魔術師のエルフも、その下着を使ってるんですよ。下着なのに魔力上昇や物理防御向上とか付いてるので。新製品のお試しに付き合うのを条件に、ただで沢山貰ったんですよ。ね?」
バチーンとウィンクが私やヴィクトルさん、レグルスくんや奏くん、源三さん、つまり私が作った下着を履いてるメンバーに飛んで来る。
確かにただで渡したよ。
だけど流通するほど作ろうなんて思ってないよ?
私は自分含めて周りがかぼちゃパンツでさえなけりゃ、それで良いんだから。
胡乱どころかジト目になると、ラーラさんが追い討ちをかけてくる。
「女性用もあればいいんだけど、中々恥ずかしがって作ってくれないんだよね」
だって!
女性用下着の構造なんか解んないもん!
教えてくれたら作るけど、誰がそれを私に教えてくれるのさ。
次男坊さんか?
次男坊さんに聞けばいいのか?
現実から逃げていると、ズボンを履き終わったオジサン三人組が、ようようと口を開く。
「何にせよ、助かったよ」
「ありがとよ」
「アンタら命の恩人だよ」
「いいえ、ルールより先に手を出してしまって失礼しました」
お辞儀してランチ用の布に招くと、宇都宮さんがすかさずお茶をお出しする。
アクシデントがあった時用に、お茶もお昼も多少多く持ってきていて良かった。
出されたお茶を飲んでから、大きく息を吐くと、
三人組のうちの一人、黒髪のとは別の茶色の髪の毛に無精髭を蓄えた人がぽつりと溢す。
「ちくしょう」と言う、絞り出すような声に何事かとその人を見ていると、同じく三人組の中の頬に大きな傷痕のあるオジサンが拳を握り込んで地面を叩いた。
「よろしければ……お話をお伺いしても?」
おずおずと声をかければ、黒髪のオジサンが頷く。って言っても、周りは少なくてもオジサンより強いんだから、話すしかないんだけど。
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