日常だって良日
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次回の更新は、4/6です。
というわけで、宴の翌日には私達は菊乃井家に帰還した。
皇子殿下方は菊乃井で一泊したあと、お隣のロートリンゲン公爵領へと出発された。
帝都で大人同士の話し合いが出来ていたらしく、マルフィーザから帰るための旅程丸々空いたので、まずロートリンゲン公爵領で過ごした後、獅子王家へとご滞在されるとか。
次男坊さんと会うらしい。
皇子殿下方にはお土産にリュウモドキのお肉で作ったベーコンと、禍雀蜂の蜜と当家で飼ってるモンスター牛の花子さんのミルクから作られたミルクジャムを渡しておいた。
勿論獅子王閣下と次男坊さんに渡す用も。
それで戻って一番驚いたことは、ニルスさんの爺やのアルバートさんが……なんか若返っていた。
いや、語弊。
白髪が黒髪になってたとかそういうことじゃなく、雰囲気がしゃっきりしていた。矍鑠というのだろうか、心なしかほんの少し曲がっていた腰も伸びていたし、草臥れた雰囲気もなくなっていて。
ニルスさんが凄く驚いてたけど、爺やさんもニルスさんが逞しくなったって驚いてたっけ。
まあ、な。
ニルスさんの方は結構な追い込みをかけたせいだろう。けど、爺やさんは……。
菊乃井は使用人に出す食事も美味しかったって?
そらそうだろう。料理長の腕前は皇居の料理人のそれに劣らないし、まして材料っていうかお水がな。
このあたりを深く考えると大変なので止めよう。
ニルスさんだってそのお水で炊いたご飯なり、捏ねたパンなりを食べているわけだし。
この二人はこの二人で積もる話もあるだろうからと、暫くはゆっくりしてもらうことに。
私は私で、帰還翌日はレグルスくんと一緒に各方面に挨拶回りに出たんだよね。
エイルさん達が引っ越してくるお知らせとか、他色々。
特に役所のルイさんには話すことが増えた。
ニルスさんの件に、イワクツキの骨の話、これから来るだろう大災厄の予感。
ニルスさんのことは破壊神退治の準備の時に知らせておいたからそんなに驚いてはなかったけれど、やはりイワクツキの骨と大災厄の予感に関しては凄いお顔だった。
今やれることは、その大災厄に立ち向かうために政戦両略をニルスさんに叩き込むこと。
そういうわけでニルスさんにはルイさんだけでなく、エリックさんやヴァーサさんの三名を先生として付けることになった。
ルイさんもだけどエリックさんもヴァーサさんも、本業がある傍らで教師というのは大変だろう。そう思ったんだけど、三人とも出てきたとはいえ祖国。自分達が協力しないでどうするって感じで、ニルスさんの先生を引き受けてくれた。
それにラシードさんという兄弟子もいる。ニルスさんも色々意見が聞けて良いだろう。
そして、骨といえばもう一つ。ワジュドさんの骨のことも説明しておいた。
ルイさんやエリックさん、ヴァーサさんにしたのと同じ説明を冒険者ギルドの長・ローランさんにもしたんだけど、四人とも「ああ、いつものことですね」っていう感じで然程驚かなくて。
一緒に来たレグルスくんもだけど、偶々一緒になった奏くんと紡くんにも「ほら、やっぱり」みたいな温い目で見られて解せなかった。
そしてその次の日。
「なるほど。ではイゴールからの託宣、恙なく務めたということじゃな?」
「エイルさん達が菊乃井に越してくるのは、明々後日ですが。滞りなくばそれで完了、ということになるかと」
「ふむ、ならばよし。イゴールに代わって褒めおこう、大儀であった」
「恐悦至極に存じます」
「ありがとうございます!」
ひらりと薄絹の団扇が翻って、花の香りが風に漂う。
姫君様にマルフィーザであったことをご報告申し上げると、ご満足いただけたのか、紅も艶やかな唇が弧を描く。
やー、戻って来たって感じするわー。
旅行もいいけれど、家で皆のお顔を見て、奥庭で姫君様にお会いできる日常も凄く楽しい。
レグルスくんもそうみたいで、姫君様にマルフィーザで見つけた卵形の石の話を身振り手振り交えつつ話す。
「そうかや。それでその卵の形の石、今も持っておるのかえ?」
「はい!」
良い子のお返事に和んでいると、ひよこちゃんがポシェットのピヨちゃんに呼びかけて、中にある卵形の石を出してもらう。
捧げ持つようにして見せられた卵形の石に、姫君様が「おや?」と口にされた。
「ひよこや、そなた珍かな物を手に入れたの?」
「めずらか?」
「うむ。中にヒヒイロカネの塊が入っておる」
「「!?」」
びっくりして二人で飛び上がる。
ヒヒイロカネって言ったらレアメタル中のレアメタルで、菊乃井のダンジョンでも産出されるんだけど、最後に出た記録なんか百年以上前だったはず。
ひぇぇぇぇぇ。
物凄くびっくりしてレグルスくんと二人で、卵形の石を見る。でも姫君様は残念そうに首を横に振った。
「そうは言っても、このとおりの大きさじゃ。ひよこの刀の刃にするには到底足りぬ……が」
姫君様がそこで言葉を切る。
何か考えておられるようで、一度目を伏せられて、それからレグルスくんに向かって薄絹の団扇を差し出された。
「ひよこ、その石を妾に預けよ。妾が良き物をイゴールに作らせてやるゆえ」
「わかりました!」
にこっと笑ってレグルスくんが姫君様に石を差し出す。
差し出された石はふよふよと浮いて、姫君様の団扇の上にちょんっと乗った。するとふわっと石が消える。
イゴール様に何をご依頼になるんだろうな?
首を少し傾げると、姫君様が重ねて「良き物じゃ」と仰る。それが何かは内緒ってことだな。
ならばとレグルスくんと「ありがとうございます」とお礼を申し上げれば、簡潔に「よい」とだけ。
なのでヒヒイロカネの話はこれで終わり。
あとはレグルスくんとのお庭キャンプの話に。
「ふむ、この庭でのう」
「はい。少々騒がしいかも知れませんが、お許しいただきたく」
「構わぬ。そもそもここはそなたの家の庭じゃ、好きに使うがよい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
姫君様から奥庭の使用許可が出たので、キャンプ会場はここ。
メンバーは私とレグルスくんの二人だけど、きっと楽しくなるだろう。久しぶりに屋敷の前の森とか探検しようかな?
そんなことを考えていると、姫君様がふっと微笑まれる。
「よく遊び、よく学び、よく食べ、よく寝るがよい。童とはそういうものじゃ。楽しむがよかろう」
「「はい!」」
大きな声で返事をすると、姫君様はゆったりと頷かれた。
お歌が終われば、状況確認と仕事。
ルマーニュ王国への対応は周辺諸国で協議中。
まだそれ以上の進展はない。一国が平地になるかもしれない話だから、すぐに進む方がちょっと怖い。
情報としては、あの国の王家も随分と親子仲が悪いらしく、自分が退位しないなら次の代で違う家に禅譲してもいいという王と、即座に王を引き摺り下ろして自分が即位したい皇太子で揉めているそうな。
早くしないとどちらの首も物理的に飛ぶのを、どうにもお判りでないようだ。
他にも楼蘭教皇国の司祭さんや巫女さんが、マルフィーザに医療支援のために入った。
いうても看病は表向き。
本当は呪いの解呪が目的なので、夏の終りには次男坊さんが自前のマンドラゴラ医療班を連れて現地に行くそうな。
皇子殿下方との対面は表向き、こっちの打ち合わせだという。
本当はいかにシュタ某家を弱らせるかの相談だけどな。
それも終わればお昼ご飯のあとから、レグルスくんとお庭でキャンプだ。
執務室兼書斎から部屋に戻って準備をしていると、タラちゃんとゴザル丸とレグルスくんが、ひょこりと顔を出す。
「どうしたの?」
「うん。タラちゃんとござる丸が、あにうえとおれをおまつりにさそいたいんだって」
「お祭り?」
首を傾げる私に、タラちゃんとござる丸は恭しく大きな……レグルスくんのお顔くらいある葉っぱを差し出した。
お読みいただいてありがとうございました。
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