貴族の初心に返ること
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さて、マルフィーザ時間で新月の日が来た。
ノエくんと識さんは前日のうちに本格的な戦闘訓練をやって、最終調整した空飛びクジラの防具を身に付けている。
私達フォルティスも、パーティーお揃いの服……レクスシリーズとでも言おうか……で完全装備だ。
勿論武器だってプシュケだけじゃなく、夢幻の王もある。レグルスくんはいつもの木刀に替わって、源三さんから譲られた無双一身流継承者の証である大小の小、つまり脇差を腰に帯びていた。
奏くんと紡くんは、ティアマトの髭を弦にした弓とスリングショットを装備している。
当然識さんとノエくんはエラトマとアレティからなる、フェスク・ヴドラだ。中のエラトマが「早く破壊神(笑)の血を吸わせろ」と煩いらしい。
んで。
「なんですって?」
「うん? だから、国宝」
「……国宝?」
「国宝」
え? 国宝って何? もしや、国の宝って書くアレ? いや、まさかそんな……。
目は口程に物を言うどころか、顔全体がそんな雰囲気を醸してるのは自分でも分かる。相対してる殿下方はもっと分かったろう。それでも大真面目な顔で統理殿下とシオン殿下が続ける。
「マルフィーザに行く前に『破壊神退治にいくのなら』と、父上が持たせてくれたんだ。どうせ立太子すれば俺の物になるんだから、今貸すくらい予定の範囲内だろうって」
「これ、凄いんだよ。初代皇帝陛下の佩剣だったんだ」
アカン、冗談じゃなかった……。
内心で震えていると、ニルスさんが動揺も隠せずにガクブルしてるのが見えた。そりゃ、そうなるわ。
統理殿下が佩いて来たのは、なんと初代皇帝の佩剣である「パンタ・レイ」だった。これ、皇家の血筋の人が持つと、艶陽公主様からの加護で常時回復とか状態異常反射とか、なんかヴィクトルさんの目に優しくない効果が付くそうだ。鞘に包まれてさえいても眩しすぎて、ちょっと私の目にも優しくない。
更にもう一つ、シオン殿下の佩剣だよ。「カレパ・タ・カラ」と言う名で、これも国宝。初代皇帝陛下に縁ある人の遺品だそうな。こっちも目に優しくない。
実際は愛用のクロスボウで戦闘するにしても、装備してるだけで何らかの効果はあるとか。
もともと防御に関しては、皇子殿下方の服にソーニャさんが色々つけているので、心配はないそうだ。ヴィクトルさんの目が淀んだから、間違いないだろう。
にこやかなロマノフ先生が、前世のケータイのマナーモードかってくらい震えるニルスさんの肩を、柔らかく叩いた。
「これが麒凰帝国の本気と言うものです。特等席で観戦してましょうね」
声もなくニルスさんの首がブンブン上下に動く、赤べこってああいう玩具のことだっけ?
まあ、いいか。
そんなこんなで準備万端、殴り込みの決行となったわけで。
現在ドラリーチェ山の山頂少し手前。まだ夜には遠く。
「いやー、しかし誰もドラリーチェ山に来たことがなかったとは」
「まあね。山に何か音楽に纏わることがあるって聞いていたら、入ったかも知れないけど」
「ボクはそもそもこっち側に興味がなかったからね」
「キリル君が二百年ほど前に近くの村に寄ったことがあるそうだよ。その村も、もうないらしいが」
そう、エルフ先生達の誰もドラリーチェ山に行ったことなかったんだよ。
だけど偶々菊乃井に滞在していたキリルさんが、防具の用意をしている間に先生達をドラリーチェ山に連れて来てくれてたんだよね。
キリルさんも討伐の手伝いを申し出てくれてたんだけど、今回は予定が合わなかったので、そういう協力を申し出てくれたんだ。
タラちゃんとござる丸が周囲を警戒してくれる中、私達はお夕飯。腹が減ってはなんとやらって言うし。
もぐもぐと料理長が作ってくれた焼きおにぎりを食べていると、空を見上げてニルスさんが「綺麗だ」と呟く。
まだ完全に陽が沈み切っていない空は、紫よりもなお明るい。
月がない代わりに少しずつ顔を見せ始めた星が、僅かに瞬いていた。
ノエくんと識さんは、言葉少なに頂上付近を睨みつけている。ノエくんのご両親の仇であり、彼の宿敵がいる場所を。
その二人にレグルスくんがにぱっと笑った。
「だいじょうぶ! おれもあにうえもがんばるからね!」
「うん、ひよ様。ありがとう」
「勝ちましょうね!」
三人で「えいえいおー!」とか盛り上がっている傍に、奏くんと紡くんも加わる。
「あれさ、破壊神ってやつ。倒したらなんか良いモン、皮とか骨とかでるかな?」
「にいちゃん、モッちゃんじいちゃんにもってかえる?」
「いや、破壊神だぞ? 出るか?」
「出たとして、そんな怪しげなヤツの骨とか使うの?」
そこに統理殿下とシオン殿下がげそッとした顔で口を挟んだ。奏くんがこっちを見る。
「若様、どう思う?」
「うん? 高く売れそうなら売ったらいいんじゃない? その前にお祓いとかしないといけない気がするけど」
「怨念とかこびりついてそうだもんな……」
質問に答えれば、奏くんが嫌そうな顔で頷く。それに識さんがうんうんと頷きつつ。
「ああ、なんかばっちい感じしますよね」
「識、人の宿敵をばっちい扱いしないでほしい……」
「あ、ごめん」
床に零した牛乳を拭いた後の雑巾について話すような顔の識さんに、ノエくんが眉を八の字にする。でも彼も視線が遠くに行ってるから、多分破壊神のイメージが牛乳を拭いた後で暫く放置した雑巾に変ったんだろう。
そうか、ドラゴン型だったな……。
「爪や牙、皮や骨は売れるとして。内臓はどうなんですかね?」
お弁当のおかずの唐揚げを齧っていた大根先生に訊いてみる。すると大根先生はほんの少し考えてから、顎を擦った。
「そうだな。普通のドラゴンと同じであれば、血や臓物なども売れるだろうが……。やはり神聖魔術で浄化してから売りに出すべきだと思うね。でないと、呪いの秘薬が出来そうな気がする」
「ああ、エリクサーがアンデッド化薬になりそう的な?」
ラーラさんの疑問に大根先生が頷く。
アンデッド化薬って、遺体をアンデッドにするんじゃなく、生き物をアンデッドにするってやつだ。時々古代の拷問話とかで登場する。
何で知ってるか? 祖母の書斎にあったんだよ、古代の拷問法っていう本が……。
「うむ。それはそれで作ってみたいが、扱いに困りそうではあるな。作ったところで世には出せぬだろうし」
「作ってみたいんだ、叔父様……」
げそっとヴィクトルさんが首を振った。まあ学者さんって、出来そうなことはやってみたい人多いよね。そこでやらないで倫理を守る人の方が大半だと思うけど。
「売れたら利益は四対六でどうです?」
「どういう配分で?」
識さんがにやっと口の端を上げる。ノエくんは苦笑だ。
「菊乃井領が四、このメンバーが六で山分けとか」
「うーん、それもありですけど。菊乃井四、フェーリクス学派全体の研究費に三、残りの三を山分けでは?」
「おや、我が学派の研究費が増えるのかい?」
「識さんもノエくんも所属してますし、これからも色々頑張ってもらいますしね」
そんな話をしていると、ニルスさんが苦笑いしているのに気が付いた。それにレグルスくんがにぱっとした顔を向ける。
「ニルスさんはなにかほしいものある?」
「え?」
「ニルスさんもやまわけのなかにはいってるんだから、いまからほしいものをかんがえておいたらいいんだよ」
「で、でも僕は……」
何も出来てないし、戦闘で貢献も出来てないとでも思っているんだろう。だけど、だ。
「ニルスさん、貴方も貴族ならその流儀に従わなくては」
そういうとニルスさんが目を点にする。
「私達貴族って何代か遡ればほぼ蛮族ですよ。戦う以上勝つのは当り前だけど、相手が二度と立ち上がれないように身包み剥ぐのは勿論、全身永久脱毛だし、家は更地にして庭にぺんぺん草の一本も残さないぐらいの気持ちでいかないと。それで手に入れた財は仲間と山分け。こういうときこそ、初心に返らなくてはね」
にやっと笑えばひよこちゃんが後ろで「あにうえ、かっこいい!」と大はしゃぎだ。
「なら俺は将来、蛮族の親玉か」
「悪のなんとかの首領よりはましじゃないですかね……?」
そんなこと呟く統理殿下とシオン殿下のことは無視だけど。
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