結びついていく事象
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次回の更新は、1/26です。
菊乃井に帰って来てからが、また大変だった。
移動自体は先生方の転移魔術で何とかなったし、先にロッテンマイヤーさんに連絡を入れておいたから皇子殿下方やニルスさんに爺やさんの滞在もそう問題はなく。
じゃあ何が大変って、モトおじいさんと浩然さんの防具制作が。
白鯨山でもらってきた何代か前の長老さんの骨が大変素晴らしい素材だってのは、浩然さんからその場で力説されたから解ってた。
問題発生は奏くんと紡くんが採取したアンモナイトっぽい魔化石と、私がマルフィーザの市場で買ってきたデザートローズをモトおじいさんにみせたときのこと。
デザートローズとアンモナイトっぽいのを矯めつ眇めつしていたモトおじいさんの表情ががらっと変わった。
「でかした、奏に紡! 若様も!」
「え? なに?」
「どうしたの?」
私は大音声の直撃で鼓膜が痛くて震えたけど、奏くんと紡くんは慣れているのか平気な顔。ついでに何が「でかした!」なのか聞いていた。
モトおじいさんが顔を輝かせて説明することには、奏くんと紡くんが採取したアンモナイトっぽいのからはミスリルの片鱗がみてとれて、私のデザートローズはなんとなんと賢者の石の原石だった。
モトおじいさんの言葉に、ヴィクトルさんが慌てて鑑定したんだけどビンゴ。
そんなわけで、私のデザートローズ改め賢者の石(原石)とミスリルアンモナイトは、めでたく識さんとノエくんの防具になることに。
そこからがまあ、うん。
浩然さんもそうだけどモトおじいさんも、いえばオタクなんだよ。そんな二人が素晴らしい素材と巡り会ってしまったものだから、レッツパーリィッ! てなもんだ。
海の向こう、マルフィーザの新月まではあと四日。出来ればこの新月に乗り込みたい。
そう告げたら、なんとモトおじいさん「二日くれ」ってさ。
私はそれで良かったんだけど、ノエくんと識さんがこの過密スケジュールに首を捻った。
「次の新月でもよくないですか?」
「腕試しなんだから、そんな急でなくとも」
これは私も解るんだけど、首を横に振る。
「次の新月でも全然負けないとは思うんです。でも今回の新月の方が、『ザマァ!』って言ってやれる予感がするんです」
「おれも。別に戦い自体は次でも全然いいんだけど、今回の新月はなんか弱点が多い気がするっていうか」
奏くんも私の意見に賛成してくれている。
それでノエくんと識さんも「あ、はい」って感じになった。日頃の行いって大事だね。
普段の防具作りで三日かかるものを爆速で二日、フィッティングと最終調整に一日、そして殴り込み。
決まってしまえば後は粛々と。
奏くん紡くんは朝と昼はモトおじいさんと浩然さんの手伝いに費やし、夜はロマノフ先生と大根先生がお手伝いに入るそうな。
物作りの方は専門家に任せるとして、後は政の方だ。
マルフィーザの状況はあまり良くない。
なにせ隠れ里であるドラゴニュートの村にまで件の病は及んでいるのだ。大発生まで秒読みといったところだろう。
これに関しては、楼蘭の巫女さんや司祭さん達が現地入りしだしたので手当は出来ているとみてもいいかも。
次男坊さんの所では、ラシードさんの二番目の兄であるザーヒルと、次男坊さんの秘書であるアリサさんが中心になって、マンドラゴラ看護班が結成されたそうな。彼の所のマンドラゴラは全て梅渓領産なので、ここでもシュタ何とか家は締め出しを食らっている。
いざとなれば次男坊さんとザーヒルがマンドラゴラ看護班を引き連れ、マルフィーザへと支援に向かうという。
それが彼の独立を決定づける功績として処理されるそうだ。着々とレールが築かれている。
一方でニルスさんだけど、お父上と秘密裏に連絡を取ってもらうことにした。
といっても、マルフィーザに疎開を偽装しつつ、帝国もっと言えば菊乃井領で保護するので~という連絡だけど。
菊乃井そして帝国は、ニルスさんやお父上が抱えている件の病の秘密をもう掴んでいる。だからと言ってルマーニュ王国を更地にしたい訳でも、属国にしたい訳でもない。ただこの病を根から断ち切りたいだけだ。苦しむ人達も見棄てては置けない。
そのための手段を講じるから、出来れば王家、売国派、革命派と、準備が出来るまでのらりくらりやってほしい。
それから後もう一つ、気になることを調べてもらうお願いを。
それを話すと、羽ペンを握ったままニルスさんがきょとんと瞬いた。一緒に執務室で破壊神に関する報告書を書いていた皇子殿下方も首を傾げる。
「えぇっと、お伽噺……ですよ?」
「はい。でもね、怖いことに裏付けが結構ありまして」
「ラナー嬢は生き証人だし、大根先生のその当時の噂話というのも気になる話ではあるな」
「ルマーニュ王国出身の有能な人達が信憑性があるって調べたのも、ちょっと怖いよね」
ラナーさんのお母様がかつてとある川に沈め、お伽噺でルマーニュ王国へと運ばれたという厄介な骨の件だ。
帝国はそれのお蔭で建国から今に至るまでの百年では足りないくらいの長い間、運河を作るという計画が阻害されてきた。骨が持ち去られて久しいというのに、だ。
ルマーニュ王国に骨がないのであればいい。問題は骨があった場合だ。どこにどういう影響が出ているか、それがルマーニュ王国へと強く影響しているのかが気になる。
いや、違うな。
大きく息を吐くと、ひよこちゃんが読んでいる書類から顔を上げた。彼が読んでいる書類は、歌劇団の羽根が出来そうってやつ。
「もしも今、その骨がルマーニュ王国にあるとすれば、事態はより悪化するでしょうね」
「え?」
「人間の負の思念は呪いに力を与える。強大な怨嗟と怨念の籠った瘴気をまき散らす呪われた骨が、今この時も件の病で苦しむ人々の怨嗟や、己の欲を満たすことしか考えない貴族たち妬み嫉み不平が満ちる場所にある。骨の呪いに力が注がれ続けているんです。何が起こるやら、想像もできない」
或いは、逆なのかもしれない。
骨が自身の呪いを強化するために件の呪いを利用している、なんて。
だとしたら、今やってる封鎖政策は呪われた骨にとって好都合とも言える。
怨念や怨嗟が積み重なれば積み重なるほど強くなるのだ。恨みを持った誰かを食い合わせて、呪いを鍛え上げるような環境。それが呪われた骨にとっては一番いい環境でもあって。
ふっとそこで思考が浮上する。
「蠱毒のような環境を作ろうとしてるのか……?」
落ちた呟きに、執務室の空気が凍り付く。
リッチやレイス、デミリッチのような存在ならともかく、骨にそこまで意思が残るだろうか?
考えて、あり得ると思い直す。
空飛びクジラの長老は骨になってもなお、同族と自身の眠りを妨げようとするものを退ける意志と力を持っていた。ならそれを別の何かが持っていることもあるだろう。
眉間にしわが出来たのだろう、ひよこちゃんが難しい顔でこちらを見ていた。
「いや、蠱毒って蟲とか動物でやるものだろう……?」
シオン殿下が顔を引きつらせながらいうけど、解ってるだろうに。認めるのが嫌すぎてそういう顔になるんだろう。
ジト目になると、シオン殿下だけでなく統理殿下も表情を引き攣らせた。現実逃避してる場合じゃない。
「なんで動物や蟲でできることを、人間で出来ないと思うんです? それに負の思念を集めるなら、人間ほど効率のいい生き物が他にいますか?」
放っておいたら勝手に地獄を作り出すのが人間の特技なのに。
「分かりました、父には全力で調べてもらうよう頼みます」
ニルスさんがきっと凛々しく頷く。
未曽有の危機、なんてもんじゃなさそうな災厄の予感が彼を覚醒させたようだ。
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