無力でなく微力、だからこそ尽くす意味がある
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次回の更新は、1/23です。
Q.何しに来た? 遺骨勝手に持ってったら呪うぞ、貴様!
A.破壊神を倒す為です! 現長老からも許可貰ってます! 何卒!
Q.破壊神? ドラゴニュートのあれか? 子孫君、頑張ってるって? マジ? 君、ちゃんと手伝う?
A.勿論です! そのためにこちらに素材集めに来ました! どうか! どうか!
だいたいニルスさんと空飛びクジラの骨の間で交わされた会話はこういうことだったそうな。
彼、ニルスさん。どうもネクロマンサーの素質があったみたい。
私? 骨の長老の言葉は全く聞こえませんでした。
これってネクロマンサーの資質はニルスさんの方が上ってことだ。
私は大精霊くらいの格を持ってない相手の声は聞こえないみたいで、ニルスさんはそれ以下の相手の声も拾えるようだから。ビックリするわ。
咄嗟に聞こえた骨の長老の声に、自分が把握している情報を分かりやすく伝えたのが功を奏したようで。
骨の中に宿った思念は、骨を渡すことに納得して、白鯨山の大気に溶けていったという。
思わずロマノフ先生のマントに隠れちゃったけど、先代の空飛びクジラの骨の残留思念は、話の分かる相手だったみたい。
レグルスくんを連れてって言ったけど、あれも嘘だ。真実はロマノフ先生のマントを捲ったひよこちゃんに「かながいないから、かわりに」って入れられたのだ。兄の沽券とは? というか、ひよこちゃんはいたら奏くんの背中に私を隠すつもりだったのか? そこは紡くんの場所では?
「は、腹が、痛い……!」
ひぃひぃお腹を抱えて奏くんが河原に転がる。
屈辱!
白鯨山で使えそうな骨を回収してきた一部始終を、浩然さんが正直に大根先生に報告するもんだから、ニルスさんと骨のやり取りもだけど、その時の皆の様子が伝わってしまって。
ホラー大嫌いな私がロマノフ先生のマントに隠れたっていうか、ひよこちゃんにロマノフ先生のマントにナイナイされたことまで知られてしまった。
結果、奏くんが河原で腹を抱えて大笑いだよ。ひどい!
そこはひよこちゃんと紡くんが「わらっちゃだめ!」と奏くんのお尻を叩いてくれたので、ちょっとスッとした。
それで、「ごめんて」と言いつつ笑いを治めた奏くんが次は首を捻る。
「いやぁ、でも、あれだな。若様のネクロマンサーの才能って、わりと微妙だったんだな」
「ああ、うん。そうみたい。魔物使いと同じく、中途半端っていう?」
「魔物使いの才能はほぼタラちゃんやらござる丸頼りだし、霊感も普通よりはある程度的な?」
「そういう感じ。まあ、上には上がいるってことだね」
「だなぁ」
まあ、人間なんでも出来る人の方が少ないし、ずば抜けた才能がある人の方が極稀なわけで。
私の方はそれでいいんだけど、うっかりネクロマンサーの資質が判明したニルスさんの方は、凄く微妙な表情だ。だってその才能の伸ばし方が分からない。
冒険者としてならその能力で戦闘経験を積めばいいんだけど、領主としてはちょっと。
いや、あるにはある。
でもそれを今のニルスさんに提示するのは良くない。出来ればある程度色々経験するまでは気付かせたくないんだ。
そして、その気付かせたくない理由に気が付いた統理殿下とシオン殿下が、こそっとこっちに目配せしてくる。気付かれるなってことだ。
ので。
「うーん、一旦それは忘れましょうか。中途半端に霊感を高めてしまうと、霊障とかで影響を受けるそうなので」
「え? そうなんですか?」
「はい。一応私もネクロマンサーの適性があるので、その辺は知ってます。楼蘭の聖女様からお聞きしたんですけど」
ニルスさんがきょとんと瞬く。これは本当の情報。
神聖魔術をブラダマンテさんから教えてもらうついでに聞いたんだ。霊感が強いってことは、アッチからの干渉も受けやすくなる。
神聖魔術の祝福効果を受けやすく、呪いの効果もまた受け取りやすいってさ。
因みに楼蘭には巫女司祭のほかに大司祭大司教とかいう役職があるんだけど、聖女っていうのもある。ブラダマンテさん以降に出来た役職なんだけど、巫女さん司祭さんの一個上、大司祭大司教の一個下って感じ。
楼蘭では政治的な意味はあんまりなくて、単にアンデッド討伐数が多いことに対するご褒美的な役職みたい。
男性の場合には聖者になるらしい。
私もデミリッチ討伐と天地の礎石の民間伝承クラスアンデッド討伐でその称号を貰える資格があるらしいんだけど、丁寧にお断りした。字面が悪すぎるんだ。こっちは政治的な意味で。
それはおいておいて。
正しい修行をしないで霊感だけ高めても仕方ない。今抱えている問題が片付いたら、私の人脈を辿ってネクロマンサーの師匠になってくれる人を探す。
ニルスさんにはそれで話は付けた。爺やさんにもくれぐれも他言しないように言ったけど、こっちはちょっと見張りがいるな。本国のお父上に連絡されると、ニルスさんに明かしていないことがバレるかも知れない。それは阻止の方向で。
今のニルスさんには言わない方がいいだけで、将来的には話すし、それより先に自分で気が付くと思うけど、今は駄目だ。
そんな訳で防具に使う骨をもらって来る間に、奏くん達はどうだったかと言うと、なんとエイルさんが訪ねて来たそうな。
「あのドラゴニュートのおっさん、目ぇ覚ましたってさ。熱は下がったけど、体力の消耗が激しい上にまだ咳や鼻水が酷いし、完治はあと七日くらいいるかもって」
「そうなんだ……」
「ござる丸の葉を煎じて飲ませてソレらしいから、結構危なかったのかも知れないね」
「なるほど?」
奏くんとラーラさんの言葉に頷く。すると大根先生と紡くんからも報告があって。
「吾輩の独断で申し訳ないが、彼女達に持っていた疑似エリクサー飴を渡しておいたよ。彼女達が倒れては困るからね」
「はい、ありがとうございます」
「つむ、ござる丸からはっぱもらってわたしました。かってにごめんなさい」
「いいよ、大丈夫。アレは集落のお年寄りに使うはずなのを、私が頼んだ人に使ったんだしね」
ござる丸の頭をみれば、結構寂しくなってる。でもござる丸が持って行けって渡したんだろうし、それなら構わない。
というか、エイルさんの集落の薬師さんは優秀なんだな。
ござる丸の葉っぱをきちんと病に適するような使い方ができる薬師さんなんだから。絶対菊乃井に来てほしい。
それでなんだけど、エイルさんにはラーラさんや奏くんや大根先生から、破壊神討伐の準備のために一度菊乃井に戻ることを伝えたそうだ。
エイルさんには大根先生がお弟子さんと連絡を取るとき用の道具を渡してくださったので、菊乃井に戻っている間はそれで連絡を取ることに。
とりあえず今はこのくらいだろう。
奏くん達の魔化石採取も結構捗ったみたいで、ノジュールがこんもりと河原に積んであった。魔化石、出るといいね。
さて、材料は揃った。明日朝に菊乃井に戻ってそこから全力で防具作りを開始。
その間にニルスさんは、菊乃井にいるルマーニュ王国出身の皆さんと会って外側から見たルマーニュ王国を学ぶことになっている。
私や皇子殿下方もお国に提出する中間報告のまとめをやる予定だ。
ニルスさんがふっと穏やかに手を取り合う識さんとノエくんを見ているのに気が付く。しばらく見ていると、自分を見ている私の視線に気が付いたんだろう。ニルスさんが私の方を向いた。
「私でも、役に立てることはあったんですね」
「何を仰るやら。今日一番活躍したのは貴方ですよ」
彼がいないと無用な争いになるところだった。それが回避できたし骨も無事に入手できたのだから、役に立つどころの騒ぎじゃない。
そう言えば、ニルスさんの頬が少し赤くなった。
恐らくだけど、ルマーニュ王国から逃げ出すように疎開してからこっち。彼はずっと無力感に苛まれてきたんだろう。さりとて出来ることがあるでなし。
でもそれが今日、ほんの少し拭われた。
「これから忙しくなりますよ」
「はい!」
答えた彼は、しっかり前を見据えていた。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




