だからホラーは駄目って言ってるだろ!?(ガチギレ)
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それで翌日。
昨夜は空飛びクジラの群れから帰って、すぐ夕食になった。
昼間にカレーと一緒にソーニャさんからの差し入れ的なアレをヴィクトルさんが仕込んでくれてたんだよね。
デカい餃子だった。
いや、餃子という名前じゃなく、前世のそれっぽいやつ。
小麦粉で作った皮に、ミンチ肉とスパイスとみじん切りの野菜を捏ねたヤツを包んで焼くの。
凄く美味しかった。
それだけじゃなく、野菜のマリネとかもあったし、ソーニャさんの手作りお惣菜が色々。
美味しいものはそれだけで気力を充実させる。
今朝も昨夜の残りをピタパンにした物を食べて、元気充填完了。
そういう状態で菊乃井に浩然さんを迎えに行って、白鯨山へとやってきましたなうって感じ。
白鯨山は空飛びクジラの墓所なので、瘴気がなくはない。モンスターだってアンデッドだって沢山いるはずなのに、気配のけの字も感じないときたもんだ。
「相変わらず怖がられてますねぇ」
「まだ何もしてませんが?」
「そりゃ物音一つ立てただけで消滅するかもしれないって考えたら、出てこないよねー」
ケラケラとヴィクトルさんとロマノフ先生が笑う。アンデッドが出てこない理由の大半は私だろうけど、モンスター全般が出てこない理由の九割九分九厘を担う人達に笑われるなんて理不尽!
でもまあ、今日の所はいいや。
非戦闘員の浩然さんとニルスさんがいるから。
因みにアンデッドが出てこない理由の大半が私だけど、残りは最近単なる木刀でもレイスやリッチを仕留められるようになったレグルスくんと、そもそも神様だったのでアンデッドなんかものともしないエラトマとアレティを過不足なく扱える識さんとノエくんのせいだったりする。
白鯨山は裾野から頂上の至る所に空飛びクジラの骨が落ちてるんだけど、生前力の強かった空飛びクジラの骨は頂上付近にしか墜落しない。
それは空飛びクジラ内の掟で、力の強い空飛びクジラだけが頂上に骨を落とす権利を持つかららしい。
長老さんは歴代でもかなり強い方だから、いずれ自分も頂上で眠ることになるだろうって。
そんなわけでサクサク頂上へ。
今回の登山は早いよ。先生方が転移魔術で頂上付近まで連れて来てくださったから。
枯れ木に紛れて、枝のように地面に落ちる骨に浩然さんが驚愕のため息を吐いた。
「ここ、マジでいい骨が沢山っすわぁ」
「分かるんですか?」
「もっちのろんっす! 強度や硬度は言うまでもなく、残存する魔力量もかなりなものっすよ! これはお師匠さんもはりきっちゃうって!」
「浩然先輩、お師匠さんって?」
地面に膝をついて骨を集め出した浩然さんに、識さんが首を捻る。浩然さんは大根先生を先生って言ってたから、お師匠は別の人だろう。
「ああ、ほら。ム……じゃなくて、モッちゃんさんだよ」
「ああ、なるほど?」
「うん。あのお人はすげぇんよ」
ははぁ、そう言えば獅子王家にも出入りするぐらいだもんな。
こくこくと識さんとノエくんと一緒に、私も皇子殿下方も頷く。
空飛びクジラの骨は空を飛ぶ生物の骨だけあって、軽い。にも拘わらず、物凄く頑丈。オマケに残存魔力量が多いとなれば、付与魔術の定着も容易なんだとか。
実に防具の材料として魅力的な反面、加工が鬼のように難しい。それこそ熟練の鍛冶師でもなきゃ、扱い切れない代物だそうで。
幾つかいい形の、恐らく肋骨や背骨、それらの破片を拾っていく。
不意にレグルスくんが首を傾げた。
「ちいさい、こどものクジラのほねもあるの?」
白鯨山の本当の頂き、先端部分の岩場に小さなクジラの骨、それこそノエくんや統理殿下くらいの大きさのが、形もそのままに残っている。ばっちりクジラの骨って分かるくらいだから、亡くなってそんなに経ってはいないのだろうか。それにしてはこう、年経た生き物から感じる熟練の魔術師のような雰囲気があって。
皇子殿下方もニルスさんも、識さんやノエくんや浩然さんも、ただならぬ雰囲気に困惑気味。勿論私も。
ヴィクトルさんが首を捻って骨を凝視すると、暫くして「ああ、なるほど?」と声を上げた。
「えぇっとね、先代の空飛びクジラの長みたい。なんか小さい時に神様の庭に生えてる不老効果を持つ果物を盗み食いしたせいで、その時点で身体の成長が止まっちゃったんだって」
「!?」
「いや、仙桃とか蜜柑とかじゃない。別物だから安心して」
凍りかけた空気が弛む。
まあ、姫君様が天上の食べ物を注意なくくださることはないもんね。
ヴィクトルさんの目に映った情報を纏めると、その長老、身体こそ成長せず子どものままの大きさではあったけれど、その果物の恩恵か魔術は歴代の長の誰より強く、頭脳の方も冴えていたそうだ。
亡くなって実はかなり経つんだけど、残存する魔力量がまだまだ多いため、朽ちることなくそのままの骨格で残っているとか。
でもそんなに魔力量が多いならリッチとかレイスになってそうなもんなんだけど、ところがどっこい。
本クジラさん、成長できず、奥さんも貰えなかったために今生には全く未練がなく。さっさと輪廻の輪に入ったとか。
じゃあ残った骨をネクロマンサーが云々というのも、残存する魔力が強すぎて半端なネクロマンサーの術は跳ね返しまくっているらしい。
名のある冒険者が自分の防具の素材にと考えても、骨に遺った長老さんの残留思念に邪魔されて動かすことも出来ないという。凄いな。
よく見ればその骨の周りは、地面が血を吸ったような禍々しい色で、ぺんぺん草すら生えていない。ただでさえ白鯨山は木々は枯れて、地面は落ち葉で埋もれて寒々しい風景なのに。
浩然さんが「あの」と私に話しかけて来た。
「アレ、ノエくんの防具にいいと思うんすよ」
「え?」
「肋骨部分が丁度ノエくんの胸部保護に使えそうだなって。軽くて頑丈な鎧って、大事っすよ!」
「はあ。えぇっと、もしかして残留思念を祓えって言ってます?」
「っす」
マジかよ。
私、幽霊もホラーも大嫌いなんだけどな!?
気付けばノエくんや識さんが期待に満ちた目で私を見ている。だけど、だ。
「いや、識さんやノエくんも祓えるのでは?」
「あー……無理です!」
「オレ達、楼蘭のグーパン式なので……」
おふ。
傍でワクワクした目で私を見上げるレグルスくんも、楼蘭式だから無理。
ひゅるりと冷たい風が吹く。すると何とも言えない不気味な、カタカタと物が動く音が。ギシギシ言ってるのも聞こえるな、なんて思って骨の方を見るとあら不思議。目玉が落ちて久しそうな眼窩が真っ赤に光っている。
それだけでなく、骨だけのクジラがゆらりと浮かび上がった。全身に禍々しい魔力を感じていると、不意にニルスさんが動いた。
「あ、いえ、違います。あの、空飛びクジラ族の眠りを妨げる目的とかでなく、あの、ドラゴニュートの破壊神をですね」
「!?」
「そうそう、そうなんです。その破壊神を討伐するのに、ドラゴニュートの勇者殿の末裔である、こちらのノエシス殿と許婚の識嬢がですね。強力な防具を必要とされていて。あ、現長老殿にはきちんとお許しを得まして」
なんか、喋ってる……。
ブンブンと手を横に振って何かを否定するように動かしたかと思うと、ペコペコと頭を下げたり。
見守っているうちに、禍々しい雰囲気を放っていたクジラの骨が穏やかに凪いでいくのが分かった。眼窩の光が穏やかな青に変わったし。
「え? いいんですか!? ありがとうございます! はい、勿論。必ずや破壊神を討伐できるよう、こちらも全力でバックアップしたいと!」
ニルスさんが握り拳を固めて元気よく言えば、空飛びクジラの骨がゆっくりと地上におりて岩場に着地する。その眼窩から青い光が消えると、ニルスさんが笑顔で我々を振り返った。
識さんとノエくん二人が手を握り合い、皇子殿下方は二人でくっつき、浩然さんとヴィクトルさんは唖然としている。私はレグルスくんを連れて、ロマノフ先生のマントに隠れてたけど。
「先の長老さん、お骨を好きに使っていいそうですよ!」
良かったですね!
にこやかな彼が、なんか怖かった。
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