業と優しさの万華鏡
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、1/12です。
ドラゴニュートの村長を洞窟に棄てたのは、彼の母親と娘さんと奥さんだったそうな。
常々「病気になったら棄ててやる」と村人を脅していた父親に思うことがあった娘さんが、祖母と母親を説得してそうしたのだと。
娘さんは悪夢は見ても、後悔はしてないと言っていたそうだ。
「ノエ君にしたことも、お父さんが他の村人を脅したり苦しめたりしてるのも、どうしても許せなかったんですって」
「それでも人、それも父親殺しは悪いことだから、一生背負っていくって」
娘さんは、その時のことを自嘲交じりに語ったそうだ。
普段村人に「病を得たら・老いたら棄ててやる」と豪語し、実際病人や老人の家族にそうするように迫っておきながら、自分が棄てられると分かったときには泣いて赦しを請うた父に呆れた、と。
二人が訪れた際、村は信じられないくらい清浄な空気に包まれていたそうだ。ノエくんや識さんが村を出たときよりも、更に。
因果は巡る。
けども、だ。
「そこまで背負う必要はないですよ。生きてますし、呪いは解呪しました。それに運が良いことに、面倒を見てくださる方もいます」
後々かかった諸経費をエイルさん達に払ってくれるなら、私としては特に。
殺人も何もこの国の司法の問題だし、エイルさんの村長の初見の反応を考えると、ドラゴニュートはマルフィーザに国民として属しているかも怪しい。
誰がどうやってその村を裁くか、正直解らない。責任に関しては、その娘さんの人生に付き纏うだろうし、彼女やその家族も村人から同様の仕打ちを受けるかも知れないのだ。まして元気になった村長が、娘さん達に報復しないとも限らない。けどそれを止める義務も私にはないのだ。
法で裁けるのは法の範囲内にいる人だけだけど、法が守るのもその法の範囲内の人だけなので。
というか、棚上げだ。
当事者の一人が寝込んでるわけだし、それ以上の発展が今は見込めない。
となれば、もう一つ大事なことの方へ意識を集中させないと。
洞窟は外の天気と違って、雰囲気からして薄暗い。
一旦昼食と休憩のために洞窟から出ると、キャンプ地にしている河原へと転移した。
お昼ご飯はこれまた料理長が持たせてくれた飯盒炊爨セットだ。マジックバッグ、腐らないの超便利。
菊乃井で採れた野菜たっぷりのカレーセットやサラダ用のトマトや葉野菜、飯盒には人数分よりちょっと多いお米。そう言えばご飯は多めに炊いて、焼きおにぎりにでもしてくださいって言ってたな。
大根先生達もこっちに合流することになってたから、菫子さんに色々持たされたそうな。
皇子殿下方も陛下と妃殿下に何やら渡されたそうで。
「ソーニャ様に準備していただいた料理の材料が入ってるよ。伝言も」
「メモを渡されているから、ショスタコーヴィッチ卿に渡してほしいって」
「なんで、僕!?」
「や、ソーニャ様が一番はショスタコーヴィッチ卿、次善でルビンスキー卿。ロマノフ卿は絶対ダメだと仰って」
素材袋をシオン殿下がヴィクトルさんへ、メモを統理殿下が。
渡されたヴィクトルさんは、メモを見て肩をすくめた。
「伯母様が、アリョーシャには絶対料理させるなって」
「ああ、食材が無駄になるから? 次善でボクなのはなんで?」
「変にアレンジするから。基本に忠実にやってって書いてある」
ああ、ラーラさんアレンジャーなのか……。
ロマノフ先生は何でもできるように見えて、家事全般がかなり苦手だと聞いたことがある。親が絶対ダメって言うんだからお察し。大根先生はロマノフ先生側らしい。
図らずも三英雄の料理の腕前評価を見てしまったわけだけど、それはそれ。
奏くんと紡くんとノエくんが竈を組んでくれている間に、大根先生とラーラさん、レグルスくんとニルスさんと爺やさんで薪を取りに森へ。
私と識さんと皇子殿下方、ヴィクトルさんでお料理。私達の護衛はタラちゃんとござる丸が務めて、ロマノフ先生は晩御飯の狩りにお出かけだ。
この間にドラゴニュートの村長が誰に面倒を見てもらっているか、情報共有しておかなくては。
そういうわけで、包丁でジャガイモの皮をむきつつ話を切り出す。
報告はしてあるけれど、ニルスさんと知り合った経緯からずっとエイルさんとは縁が続き、ドラゴニュートの村長の件も彼女にお願いしていること。
探していた魔女の末裔が彼女で、現在一族では分業で魔女達の技を継いでいること。そういうことを話せば、統理殿下が唸った。
「奇妙な物だな。他者を虐げる側だった者が、今度は虐げられる側になり、他者に長年虐げられてきた人々に救われようとしているなんて」
「本当に。でも、そういう奴がこれで改心するとは僕には思えません」
シオン殿下が首を横に振る。私もそう思う。そんな都合よく心は出来てない。
だけどそれも今はどうでもいいことなので、情報交換を続ける。
ノエくんと識さんが村で聞いて来てくれたことによると、あの洞窟ってドラゴニュートの聖地の一つだったらしい。
ノエくんは一応、破壊神と自分達の因縁が描かれた壁画のある洞窟が何処かの山にあることは知っていたそうな。ただ場所まではご両親から聞いていなかったとか。
ご両親が出かけた最後の討伐も、本当は駄目でも生きて戻るつもりだったようだ。しかしどこで伝承が途切れたのか、ご両親はどうも満月で破壊神と戦ってしまったみたい。それで色々計算が狂ったんだろう。
情報が途切れるってマジで怖い。
ただ取れる有効手段がいつものごり押し力押しなので、そこは救いがある。
あとの時間は準備にかけなければ。
それで思い出したことなんだけど。
「白鯨山に行かないとですね」
「ああ、空飛びクジラの骨な」
「うん。防具作るのと、あと長老さんに会って破壊神が封じられている場所の話を聞かないと」
去年の夏にマグメルで知り合った空飛びクジラの長老さん。
あの方はノエくんの御先祖様を知っていて、破壊神の居場所も御存じだったはず。
ノエくんと識さんの話をしたところ、自分達一族の骨は防具に持って来いの素材だから使っていいと言ってくれた。
そして今、菊乃井には大根先生の元で防具作りの研究をしている一族の浩然さんがいる。
「一度菊乃井に戻りますか? 武器はあるにしても、防具を調えなくてはね」
ジャガイモの皮は終わった。人参に取り掛かりつつ尋ねると、竈を作っていた奏くんがひょこっとこちらに顔を向ける。
「モッちゃん爺ちゃんが言ってたけど、三日あれば防具は作れるってさ。浩然さんはどのくらいかかる?」
「浩然先輩は研究者であって職人じゃないから、どうかな?」
識さんが首を捻る。
そういや浩然さんのお兄さんが職人で、彼の研究成果を形にしてるんだったか。
それなら浩然さんの研究成果は彼のお兄さんに渡して防具もお願いすることになるんだろうか?
ちょっと悩んでいると、紡くんがひょっこりてを上げた。
「モッちゃんじいちゃん、浩然おにいさんと、ノエにいちゃんとしきねえちゃんのぼうぐつくるってもりあがってました!」
「おう。なんか紹介したら意気投合しちゃってさ。なんか浩然さんの兄ちゃん? モッちゃんじいちゃんなら是非勉強させて貰えって手紙来たって言ってた」
「おおう、それはまた……」
えらい交友関係が拡がってるな。
でもそれなら猶更菊乃井に一度帰った方がいいだろう。
そうなるとニルスさんだけど、どうしたもんか。
一つ道が見えれば、違う問題が顔を出す。頭を悩ませていると、統理殿下が涼しい顔で言った。
「連れて行けばいいんじゃないか? 世界は自分が思うより優しいことを、ニルスは知った方が良い」
いいセリフだけど、統理殿下が握っているジャガイモは当初の半分以下の大きさしかなかった。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。
活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




