さ~て、世界救っちゃいますかね!とか言わない(真顔)
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識さんが村に敷いた神聖魔術の結界は、外から入ってくる悪い物や呪いを遮断することが出来る。しかし中にいる者に関しては悪心がある限り、悪夢を見続けるという物。
つまり最初からそのコミュニティーにいる者を排除する訳でなく、改心を促す類の結界なのだ。
最初からコミュニティーに属している村長に関していえば、件の病に付属する呪いを遮断することは出来る。
しかし、コミュニティー内で彼に対して抱かれた悪意は、悪意を抱いた人間が改心しないと消えない。
一旦は悪意を消されたとしても、悪意を抱かれる人間が悪意を抱かれるだろう行動を改めない限りは鼬ごっこ。それどころか蓄積された負の念が、結界の浄化作用を上回れば、浄化しきれなかった負の念が溜まる。
その溜まった負の念が、消えるはずの外からの呪いに力を与え、結果消えずに残った。村長が病を発症したのはそういうカラクリだろう。
私の説明はわりと説得力があったのか、皆が「なるほど」と頷いた。まあ【千里眼】からのヒントがあったから、間違いはあっても大幅なズレはないだろう。
それよりも、だ。
気付いたのか、識さんが顔を青褪めさせた。
「え!? じゃあ、今頃隠れ里で件の病が大流行してる可能性が!?」
「……あるかも、って感じですね」
逆に、村長一人が背負って追放されて、後は風邪症状で済んでるかも知れないけど。背筋がぞわぞわする感覚も特にないしな。
エイルさんが棄てられた村長に触れようとした時の方が、余程ヤバい気配があった。それは後で皇子殿下方に共有しておこう。
でも私の言葉に青どころか顔色を白くした識さんはそれどころではない感じ。ノエくんもかなり表情が硬い。
多分大丈夫だと思うといったところで、実際が分からないことにはどうにもならないだろう。
村長は倒れていないんだし、戻っても大丈夫では?
そう提案すると、二人は転移魔術で一度ドラゴニュートの隠れ里へと向かった。
残った私達は、大根先生の知識を頼りに壁画の解読作業を続ける。
私が見つけた月齢みたいな絵は、やはり月の満ち欠けを描いたものだったらしい。
そういう一文を大根先生と紡くんが、取っていたノートから見つけたのだ。
それはもう地道な作業だったとも。
壁画と取ったノート、それからノエくんの読めるとこだけ翻訳とそれをノートに書きとった物。それぞれ突き合わせて、対応する文章と文字と、別の文章を照らして共通する文字を見つけて、構成する神聖文字もばらして照らし合わせて。そういう作業を繰り返し。
それで解ったのは、背景の月には意味があること。
破壊神が倒された場面で新月だったのは、それが奴の弱体化のタイミングだったから。
どうも破壊神と呼ばれる存在に変成を果たした時に使った魔術が、氷輪公主様のお力に頼った物だったらしく、月の満ち欠けが強さに影響を及ぼすのだそうな。
となれば、私達が破壊神を強襲する日も新月で決定だ。相手が弱る要素なんか何ぼあってもええんですってこと。
他にもイシュト様の眷属だから使える魔術は火炎系多し。だからって水・氷結系が弱点ということもない。雷系統も特に。
じゃあなんで勇者がその二つを使っている風景が絵として残っているかというと、これは単に勇者がドラゴニュートにしては珍しく水・氷結系や雷系魔術が得意だっただけっていう。
結局勝利を収めたというか、封印できたのは魔術で物理を上げてしこたま殴ったからという、至極原始的な理由だったのだ。
「……特に使えない魔術がないって分かっただけマシか?」
「ですね。別に火炎系魔術無効というのでもないみたいだし」
肩をすくめる統理殿下とシオン殿下。
翻ってひよこちゃんが拳を天に突き上げた。
「じゃあ、いつもとおなじだね!」
「ごり押し!」
「ちからわざ!」
レグルスくんと同じように奏くん紡くんが、天に拳を突き上げる。そしてそのまま三人で私を見た。
何か、期待されてる……。
仕方ないので、私も拳を天に突き上げた。
「過剰戦力!」
言ってみて何か違うとは思ったけど、先生方はそうは思わなかったみたい。
ロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんや大根先生は「合ってる」と笑う。
皇子殿下方もなんか頷いてるし。
一方でニルスさんが首を捻った。
「過剰戦力、とは……?」
「ああ、鳳蝶達のパーティーはいつもそうだな。何だったか、伝承級のアンデッドが五分と持たなかったんじゃなかったか?」
「兄上、計ったら三分ですって」
「お、お強いんですね? あ、エルフの三英雄が揃っておられるのに愚問でしたね」
「いや? 鳳蝶達のパーティーは鳳蝶とレグルスと奏と紡の四人だぞ?」
「伝承級アンデッドとやりあったときは、識嬢とノエシスが加わってたくらいだよ」
そう。
この上ロマノフ先生やヴィクトルさんやラーラさん、大根先生までとなると、本当に世界征服できそうなんだよね。そんな面倒なことやらないけど。
そんなことを考えていると、にやっと皇子殿下方が笑う。
「今回は俺達もフォルティスに臨時で入れてくれるんだろう?」
「ちゃんと父上や母上の了承もとって来たからね」
「は?」
変な言葉を聞いた。
なので目を丸くして皇子殿下方を見る。私だけじゃなくニルスさんも爺やさんも、だ。
瞬きを繰り返して、大根先生の「まあ、大丈夫では?」という言葉に我に返る。
「大丈夫じゃないですよ!?」
「そうかね? その辺の冒険者より余程出来ると思うが」
「次期皇帝のやることじゃないですよ!?」
立場ってものがあるんだよ。
そういう意味ではついてこられると困る。しかし、ここでロマノフ先生がにこやかに爆弾を落とした。
「佳仁様も私にくっ付いてキングベヒーモス討伐を経験してますからね」
「ああ、なんか聞いたことあるよ。三日間の寒中行軍だったとか」
「可哀想だよね、三日間ずっと前衛やらせたらしいじゃん」
思ったより鬼畜の所業だった。皇太子にそんなことする人、いる? いたわ。
ちょっとなんて言っていいか分からない。
言葉に詰まっていると、統理殿下とシオン殿下がニルスさんを間に挟んだ。
「お前も来ると良い、ニルス」
「そうだよ。世界が救われるところなんて滅多に見られないんだから」
おい。
皇子殿下方が来ることも承知してないのに、何言ってやがる。駄目だというより早く、爺やさんが慌てて皇子殿下方に割って入った。
「恐れながら、ニルス様は……!」
戦えないとか、嫡男だから。
理由は沢山あるだろう。
けれど皇子殿下方は首を横に振った。
「ニルスには、自分の決断が間違っていない証明が必要だろう?」
「お前が信じて、自身を委ねた菊乃井鳳蝶。ひいては麒凰帝国が信じるに値するか、その目で確かめるんだ。俺達帝国は言った以上のことはする。俺達が参戦するのも、その証立てだと思ってくれ」
真摯な言葉に、爺やさんが口を噤む。一方でニルスさんが、一瞬目を瞑って。
目を開けたときには、迷いがなかった。
「爺や、僕は行く。僕の選択が間違っていなかったという証がほしいのはたしかだ。でもそれ以上に、知ってしまった世界の危機を座して見ていることなんて出来ない。足手まといになるだろうけど、僕はその光景を記録に残すくらいはしたい。それが僕が今見せられる誠意だとも思う」
「坊ちゃま!」
爺やさんの手をニルスさんが握りしめる。爺やさんは涙目で、「坊ちゃま、ご立派になって」とか言っちゃって。
今の話、感動する要素なかったよな……?
ぶっちゃけあの二人は自分達が行きたいだけだし、ニルスさんに関しては安全的には破壊神がいてもこっちと行動する方が……ってことだろう。
色々目を逸らしていると、洞窟の中央に魔力の渦が生まれた。
光る渦はやがて風を巻き込んで、人の形を取る。
「ただいま戻りました」
「様子、見て来ました!」
ノエくんと識さんが戻って来た。
おりしも洞窟の外は、太陽が真上に来る時分となっていた。
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