被害者がいないのでギリギリ成立しない(多分)
いつも感想などなどありがとうございます。
大変励みになっております。
次回の更新は、1/5です。
ってわけで、大根先生と識さんやノエくん以外に皇子殿下方が加わったんだけど、これで目を回したのはニルスさんだったわけで。
言葉にならない悲鳴を挙げて倒れそうだったのを爺やさんが支えようとしてよろめく。
気付いた統理殿下が颯爽とニルスさんと爺やさんの二人を支えて、口の端を爽やかに上げた。
「大丈夫か? 卿が、鳳蝶から連絡のあったユレンシェーナ伯爵家のニルスだな?」
「は、はひ! き、麒凰帝国のだ、だだ、第一皇子殿下には、ご、ごごごごき、ご機嫌うるわす」
噛んだし、めっちゃどもるやん。
物凄く動揺しているニルスさんの体勢を爺やさんごと立て直すと、穏やかにニルスさんの挨拶を受ける。それからシオン殿下を呼んで、自身の弟をニルスさんへと紹介した。
一連の流れはスマートで、ゾフィー嬢と一緒にすると岩塩齧りたくなる世界を作り出す人とは思えない。
シオン殿下も柔らかな微笑みでニルスさんに声をかける。実に優美に穏やか、かつニルスさんの置かれた状況に寄り添った声をかけるもんだから、ニルスさんも爺やさんも感極まって泣きそうだ。
詐欺。
そういう言葉がついつい頭に浮かぶ。すると隣にいた奏くんがにこっと笑った。
「若様も似たようなところあるからな?」
「いや、待って。それは流石に不本意。取り消しを求めます」
「シオン殿下も同じこというと思うぞ」
真顔で奏くんを見ても、彼の清々しい笑顔に陰りはない。
腹黒いところは似てるかも知れないけれど、私は詐欺を働いた覚えはない。ちょっと修羅場に背中を蹴り飛ばして頭から突っ込ませてるだけだ。それだってちゃんと覚悟を勧めてるし、本人の同意もある。
ちょっとぶすくれて頬を膨らませていると、不意に識さんとノエくんと大根先生の話し声が耳に入った。
「うぅん、これは……ドラゴニュートというか、神聖文字の更に古典文字ですね。オレもこれはまだ完璧には読めないヤツです」
「そういえば、神聖文字を使っていた時代も前神聖文字期と後神聖文字期とで別れていたな」
「はい。たしか、三百年近い歴史の断裂があって、古典神聖文字が途絶えて神聖文字になった……みたいな」
そう言えばロマノフ先生の歴史の授業や、ヴィクトルさんの魔術史の授業でそんなようなことを聞いた覚えがある。
今我々が神文字と呼んでいるのが後神聖文字期の神聖文字だ。
ふっと、浮かんでくる。
前神聖文字期と後神聖文字期に三百年近い間が空くのは、それこそこの壁画の破壊神の騒動のせいで、その時代において覇権を握りかけていたドラゴニュートが世界の隅に追いやられ、逆にドラゴニュートに圧迫されていた人々が世界を掌握したから。
それまでの権力者が使っていた文字を否定し、更に使いやすく改良を加えることで、それまでのドラゴニュートの権威を徹底的に破壊することを望んだ……なんてね。
それはともかくとして、ほんの少しでも読めるノエくんが壁画の下に書かれた文字を読んでいく。難しい単語か、単語になっているかも分からない文字列を飛ばしての翻訳だけど、それでも何も分からないより収穫はあった。
「……ここに描かれているのは、破壊神がどうして破壊神になったか。それから破壊神を封印するまで、封印した後の勇者の末路という感じですね」
ノエくんの言葉に、皆やっぱりという顔。
それに首を捻っているのがニルスさんで、彼にノエくんや識さん、大根先生の紹介を忘れてたように思う。
なのでニルスさんに声をかけた。
「彼、ノエシスくんが件の破壊神対策の切り札です。識さんは彼の許婚で、彼の頼れる魔術師さん。それから二人の引率の先生で、象牙の斜塔の大賢者・フェーリクス先生。都合により菊乃井では大根先生で通っています」
「は、初めまして。ルマーニュ王国ユレンシェーナ伯爵家のニルスです」
「吾輩は歩く大根の研究をしていてね。だから大根先生と呼ばれている。よろしく」
「フェーリクス学派で回復魔術の無痛化を研究している識です! 生ける武器に寄生されています!」
「あ、ノエシスです。この壁画の破壊神と戦った後に呪いで狂死した勇者の末裔です、よろしく」
三人ともにぱっと笑うけど、濃ゆいな……。
菊乃井、集めたわけじゃないけどバックボーン濃ゆい人ばっかりでビックリするわ。
「改めて聞くと濃ゆいな……」
「本当ですね、兄上。狙って集めたのかと思うほど濃ゆい」
統理殿下とシオン殿下のため息交じりの声が聞こえたので振り返ると、奏くんが紡くんとそこに合流している。
「そうだろ? おれとつむ、めっちゃ薄味じゃない?」
「その上今度は、仮想敵国の伯爵家次期当主か。俺なんてただの第一皇子だぞ?」
「僕もただの第二皇子ですよ、兄上」
「え? にいちゃん、つむ、あじするの……!?」
なんて言い草なんだ。
紡くんの味はともかく、年長三人にムッとして言い返す。
「皇子はその辺に転がってる立場じゃないと思いますが?」
「菊乃井にはいるだろう? 転がってたのをお前が拾ってきたのが」
「あー……いるな」
統理殿下の言葉に奏くんが頷く。
思い当たったのかレグルスくんも「あ」と呟く。いや、アレは例外だろう!?
そう思ったけどロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんに大根先生、識さんにノエくんまで「そう言えば」っていうもんだから。
ニルスさんと爺やさんが凄い顔でこっちを見る。こっち見んなし。
何とも言えない微妙な雰囲気に陥る。その微妙さを払拭したくて、話を変えることにした。
こっちだって大事な話なんだよ。
咳払いをして、ノエくんと識さんの名を呼ぶ。
「昨日ですが、この洞窟を見つけたときとある人物を保護しました」
昨日の一件を知る人達の雰囲気がピリッと変わる。
緊張が混じる空気に、ノエくんと識さん、大根先生や皇子殿下方が、その張り詰めた空気に眉を顰めた。
ニルスさんの手前、エイルさんが魔女の末裔だというのは共有しない方がいいだろう。私がマルフィーザから医師の一族を引き抜くことを、帝国が承認していると知られる。それがいいのか悪いのかの判断がつかない。
そういうわけで親切な人と知り合って、偶然この洞窟の情報をもらって。
来てみたらなんと件の病に罹って、恐らく村人から棄てられたドラゴニュートの隠れ里の村長を拾った。
そこまで説明すると、本日合流組の顔がげっそりしたものに。
「流石に引きが強すぎるだろ……」
「なんか付いて……いや、もう、憑いてるレベルじゃないの?」
皇子殿下方がなんか言ってるけど、そんなのは無視だ。
向き合ったノエくんは凄く微妙な顔で。
どうしたのかとレグルスくんが、ノエくんの手を引っ張った。
「ノエくん?」
「えぇっと、ちょっと複雑だなって。あの人、厄介な病気に罹った村人や、お爺さんやお婆さんは山に棄ててやるって日頃から煩かったんだ。それが、自分が捨てられちゃったんだなと思うと……」
一方で、識さんも微妙な顔だけど、こっちはちょっと事情が違う様子。
腕を組んで首を「なんでだろ?」と左右動かしている。
「なんで、とは?」
「いやぁ、あの村には一応神聖魔術で結界を敷いているんです。だから件の病気が侵入しても、呪いの成分は消えるはずなんですよ。それなのに村長は呪われていた。おかしくないですか?」
ピシっと空気が凍り付くように温度を下げた。
神聖魔術で結界を張っている所にいるはずの人物が呪われるなんて、正直想像はしていない。が、【千里眼】に引っ掛かってるものがあって。
「その人、普段から嫌われるような言動してたんですよね?」
確かめるようにノエくんに尋ねれば、彼は困ったような表情で頷いた。
「じゃあ、仕方ないことですね」
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。




