モンスターより破壊神より怖い者、その名は……
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翌日、晴れ。ただし朝っぱらから蒸し暑い。
まだ小さいと言えど川の近くだから涼しいけど、それでも蒸すのは蒸す。
昨夜の残りで軽い朝ご飯にすると、徒歩で昨日の洞窟へ。
エイルさんが昨日あの洞窟にいたのは、たまたま探し物があって。それが片付いたから、お昼を食べるのに丁度いい場所を探してあそこに辿り着いたからだそうな。
偶然なんだろうけど、もしも彼女に洞窟の話を聞いて探しに来ていなかったらと思うとぞっとする。
あるいはイゴール様の加護が、彼女達を守るため、そして私達が彼女達に出会うために作用したのかもしれないけど。
で、だ。
洞窟に着いたので改めて中を観察。
「……人間に羽の生えた絵が、ドラゴニュートを表していると考えて間違いはないと思います。だとすると次の場面で黒いドラゴニュートの絵がなくなって、大きな黒いシミのような物になったのは何を意味するんでしょう?」
「黒いシミ、黒いシミ……なんだ?」
壁画の一部を見て、ニルスさんと奏くんが首を捻る。
その絵の下に書かれた絵と神聖文字の組み合わせも、規則性が大分あやふやだ。
先生方も神聖文字は何とかなっても、この文字はダメなようで首を傾げている。
というか、これ神聖文字より古いんでは?
絵って描く人によって同じものを描いているはずなのに出来上がりが全然違う。
案外のその辺りの事情で絵を付けるのは廃れて、横の神聖文字っぽい記号だけで文節を作るようになっただけだったりして。
なんて先人にちょっと失礼なことを考えていると、紡くんが「もしかして」と口を開いた。
「あのくろいシミ、てんちのそせきみたいなかきかたなのかも!」
「どういうことだ、つむ?」
「えぇっとね、てんちのそせきでさいしょみたへきがあったでしょ? ラトナラジュっていうしかのかみさまは、すがたがきちんとかかれてなかったの」
紡くんの説明に、去年の夏休みの出来事を思い出す。
天地の礎石という遺跡で神様一人と一頭の、魔物退治の神話の壁画を見たんだ。そういえばあの壁画、登場人物皆同じ顔だったり、きちんと鹿の神様の描写してなかったような。
人物の顔をはっきり描かなかったのは、絵を通じて呪いをかけられるのを防ぐためとかなんとか。
じゃあ、ドラゴニュートだった者が黒いシミになっているのは……?
紡くんにどういうことか尋ねたレグルスくんが、ポンっと手を打った。
「このくろいシミ、もしかしてはかいしんで、きちんとかかなかったのは、かいたらのろわれるとおもったから!?」
「そうかも!」
きゃっきゃきゃっきゃレグルスくんと紡くんが戯れている。はー、尊い。
言われてみればそう見えてくる物で、洞窟の入り口付近から始まっている壁画を眺める。
最初だろう一番入口に近いのは、黒と白の翼が生えた人形が向かい合ってるシーン、次の壁画が黒い人形と白い人形が向かい合い、赤いボールと青いボールを投げ合っている場面。更に次が黒い方の翼の人形が花のようなものを齧っている姿、そしてその次の絵が黒いシミなのだ。
これを黒いシミが破壊神だと想定してみると、破壊神になる前のドラゴニュートの時に誰か……白い人形と争い、花型の何かを食らうことで破壊神に変ったと解釈できる。
「うーん? そうすっとこの花が賢者の石?」
「なのかな? この青いボールと赤いボールは魔術の応酬? 赤は火、青は水もしくは氷……?」
「次の場面では白い方が雷みたいなのと剣持ってるぞ?」
「こっちの白いのが勇者ですかね?」
「多分。奥に白いのが黒いのに剣を突き刺してる絵があるよ」
「黒いのに巻きつかれて、白いのから赤い何かが噴き出している絵もあるね」
全員で絵を眺めて、ああでもないこうでもないと首を捻る。
黒いのが破壊神という観点から見てるからそう感じるだけで、実際的外れかもしれない。
だけど私達の推理が当たっていれば、黒いのは破壊神。そして破壊神は赤……火炎系の魔術を得意としているのかも。
まあ、ドラゴニュートってイシュト様の眷属だしな。火炎系魔術が得意でも、そう不思議はないだろう。
けど、私が気になったのは黒い人形と白い人形の武器や魔術よりも、この二つの人形の背後に描かれた円のような模様。
正確にいうと入口付近の絵では真円だったのが、奥に進むがごとに少しずつかけて、白い人形が黒い人形に剣を突き刺す場面では真っ黒に塗りつぶされているのだ。
「これ、月の満ち欠け? 黒く塗り潰されているのは、新月?」
確信は持てない。
けれど円が黒く塗りつぶされている絵の次では、微かに弓のようなものが背後に描かれているのだ。その弓も場面を経る度に円へと近付いていて。
最奥部分の絵では背景に真円が浮かび、円の真下には剣を突き刺され赤いものを噴き出している白いシミ。それを取り囲み、膝を折って嘆くような白い人形が描かれていた。
その絵の少し前では、血を流した白い人形が白いシミへと変化した物もある。
「これって、ノエくんのいちぞくがはかいしんをたおせないで、ドラゴンにかわっちゃったところ?」
「その次の絵は、周りの白い奴らが白いシミが暴れてるのを止めたってことか……?」
レグルスくんと奏くんの声が聞こえる。
総合すれば、この洞窟の壁画は破壊神の成り立ちと、破壊神を封じた後の勇者達の悲劇を残した物。そういうことになるのだろうか。
そしてその背景の月のような模様。あれはもしや戦うに適した月齢なんでは?
色々情報を織り込んでいる壁画に、要らない要素を付け加えるとは思えない。
そういう詳しい情報は、絵の下の文字に書かれているのかも。
これは早いところノエくんと識さん、そして大根先生と合流したいところだ。
そう思いつつ壁画とにらめっこしていると、ロマノフ先生とヴィクトルさん、ラーラさんが一斉に「あ!」と声をあげる。
「あ、来た?」
「叔父様の気配だね」
「にしては大所帯な……」
怪訝そうな先生方の声に、紡くんが反応する。
「だいこんせんせいですか?」
「うん。叔父様が合流するときように、僕らの位置が特定できる道具を渡しておいたんだよ」
ヴィクトルさんの言葉にそうかと納得しかけて、一瞬止まる。
今、大所帯ってロマノフ先生言わなかった?
識さんとノエくんが一緒なのは当初の予定通りだけど、それなら大所帯とは言わないだろう。
なんか、アレな予感がする。
そんなことを話しているうちに、何か人の話し声が風に乗って聞こえて来た。
いや、私、そんなに耳が良い方じゃないけど聞こえるってことは、聞かせてるんだろう。マジで嫌な予感しかしない。
ザワザワと洞窟の入り口が騒がしくなったところで、入ってくる日の光が遮られ、人の影が五つ浮かぶ。
「やあ、アリョーシュカに鳳蝶君。こんなところにいたのか!」
入っていたのは大根先生、その後ろに識さんとノエくんだろう。でも問題はその後ろから顔を覗かせた二人で。
「やあ、来たぞ!」
「久しぶりだね!」
統理殿下とシオン殿下が、それぞれにこやかに手を振ってくる。
「な、なんで!?」
「え? 来てほしかったんだろう?」
「相変わらず、素直じゃないよね」
二人の姿に声が裏返る。すると二人して悪戯が成功したように笑って。
「お前が夏休み前に連絡してきたことをゾフィーに話したんだ。そうしたら『殿下、それは遠回しなお誘いでしてよ? あの方素直じゃないんですから、ご一緒しませんかと言いたかったのですわ。きっと』と教えてくれてな」
「父上も母上も『それなら楽しんできなさい』って、快く送り出してくれたよ」
ひくっと口の端が引き攣る。
この世の何よりもゾフィー嬢は統理殿下が大事。その殿下にマウント取ったとバレたら、そりゃこうなるよな……。
心の中に浮かんだ「殿下をよろしく」と笑うゾフィー嬢の顔が、死ぬほど怖かった。
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