紐解かれた先に通す筋道
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本日は年内最後の更新です。
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次回の更新は、1/1の朝6時です。
お正月なので1/1から1/3まで連続で変則更新と致します。
今にして思えば、なんでエイルさんから「ロシニョール」と聞いてすぐに思い浮かべなかったのか……。
てっきり地名かなんかだと思ってたんだよ。
前世にレオナルド・ダ・ヴィンチっていう天才芸術家がいたけど、あの人ヴィンチ村のレオナルドさんっていう意味なんだもん。
エイルさんの「ロシニョール」もエイル・ダ・ロシニョールとかそんな感じだとばかり。
でもそれだったら「ロシニョールは病人を見棄てない」って意味が分からなくてだな。地名じゃないならなんだ? 集団の名前か? そういう連想ゲームに至ったのだ。
彼女にこの連想ゲームと、渡り人の言語で「ロシニョール」はナイチンゲールを指す言葉であること、そして異世界にはナイチンゲールという姓の医療に纏わる偉人がいたことを告げる。
するとエイルさんは、物凄く複雑そうな顔をした。
「……どういう頭の構造してんのさ」
「うーん、まあ、そもそも魔女の末裔の方々がこの辺に潜んでいるという情報は得ていたので。それに敵意も害意もなく探せば、すぐに見つかる加護をお付けになったと聞いていましたし」
イゴール様の加護、マジで有能。これで探せなかった歴代の権力者は、フォローのしようもない。
私の説明にエイルさんがきょとんとする。
「加護をお付けになったと聞いていた……って、どういうこと?」
まるで目の前で言われたような言い方だったからか。そこに食い付いたエイルさんに、私の後ろから奏くんと紡くんの二人が手をぱっちんと合わせて顔を出す。
「おれら、イゴール様の加護持ちなんだ!」
「つむ、イゴールさまとおはなししたことあるよ!」
「それでか」
エイルさんもだけど、話を黙って聞いていたニルスさんも爺やさんも頷く。本当は私も色々ご加護いただいてるけど、それはニルスさんと爺やさんには伝えない方がいい気がした。だから今回は奏くんと紡くんが前に出てくれたんだろう。
畳みかけるように、私は話を続けた。
菊乃井の領地はさっきも言ったけどお医者が少ない。まだ件の病も特効薬が出来ていない以上変質の可能性も高い。だから医者がほしい。
それだけでなくこれからの人達に、医者としての知識を分け、次代の医師の育成を担ってほしい。
そして。
「私には、本当の両親に替わって私を育ててくれた育ての母がいるんです。その人のお腹に赤さんが来てくれた。でもお産は親子ともども命懸け。育ての母も、そのお腹にいる赤さん達も無事に生まれてくるには、産婆さんや産科のお医者さんが必要だし、生まれてくれば小児科のお医者さんのお世話にもなる。私の大事な人を助けてほしいんです」
言い募ると、エイルさんは大きなため息を吐いた。
「……あたいの一存じゃ決められない」
それは彼女が私の推理を肯定する言葉に他ならなかった。
エイルさんは緊張して肩が凝ったと、腕を回す。そのついでとばかりに口を開いた。
「正直言えばあたいは菊乃井だっけ? 行ってもいいって思った。ただあたいは医者とか薬師じゃなくて、看護師ってやつなんだよ。だからロシニョール……ナイチンゲールを受け継ぐんだ」
「ということは、他にも集落にはお医者や薬師さんの家系が?」
「ああ。この際だから言っちまうけど」
エイルさんの話は、迫害された一族が大陸を隠れるように旅し始めて百年ほど経ったあたりの頃から。
丁度一族の集落に、賢人……渡り人の女医さんが保護されたそうな。
得体の知れない人である彼女を集落の人は手厚くもてなし、怪我もしていたそうだから受け継いだ知識を元に介抱して。
彼女の方も最初は混乱していた物の、医師を務める明晰な頭脳で現状を理解すると、そのまま一族にいつき自身の知識や技を伝授したとか。
それでその時に、専門性を高めるために一族で分業を始めたという。
即ち医師・看護師・薬剤師そんな感じで。
そのときに目印のために隠し名、即ちエイルさんの看護師=ナイチンゲール=ロシニョールという感じの姓を付けたんだって。
他にもお医者の一族、薬師の一族は違う姓を名乗っている。
これはもし一族の誰かが魔女として捕まっても、他の一族を切り離せるようにっていう配慮だそうな。
そこまで隠さなければいけないほど、迫害は苛烈だったのだろう。
だからこそ、彼女だけでは決めかねる。
そういうことだと、私にだって分かる。分かるからこそ、私だってここで話を切り出したのだ。
そう告げれば、エイルさんがきょとりと瞬いた。
「だって、隠れ里というか集落の場所を、部外者が知っちゃったらマズいじゃないですか」
「あ」
「今ならエイルさんのことだけを忘れたら済む。でも集落を知ってしまったら、それがエイルさん達にとって断れない重圧になるでしょう?」
「それは……」
ルッジェーロ山には、エイルさん達が必要とする薬草がある。彼女の一族がここを棄てるのは厳しいだろう。それって弱みを握ってるのとどう違うの?
今、彼女の馬車は停車している。それなら下車するのも可能なんだ。そして集落の場所を有耶無耶にしてしまえる。
提案すると、エイルさんはガシガシと頭を掻いた。
「こ、この病人どうするのさ?」
「厚かましいお願いですが、その人のことは病が癒えるまでお願いできますか? 恐らく熱自体は明日、もしくは明後日下がると思います。ですので、癒え次第この河原にでも連れて来ていただければ、何とかします」
「何とかって」
「この人と直接の面識はないのですが、実は心当たりがあって……」
これも話すか……。
巻き込みたいわけじゃないが、ドラゴニュートの隠れ里の話をするなら、ノエくんや識さんの話もした方がいいだろう。
エイルさんの人の好さにつけ込むようで申し訳ないが、話しておいたら彼女だけでも菊乃井に来てくれるかも。
彼女の知識や技だって、これからの菊乃井の医療には絶対に必要なんだ。
そんな打算込みで、ノエくんや識さんの事情、そしてドラゴニュートの破壊神の話をすれば、エイルさんは大きく目を見張った。
「……壮大な話だね。あたい、どんだけ狭い世界に住んでたんだろ?」
「それは致し方ないというのは酷い言い方だと思いますが、事情が事情ですし……」
だいたい破壊神のことなんか、この世の九割近い人間は知らないんだよ。私だって去年の今頃知ったんだから。
ちろっと寝台に寝かせられたドラゴニュートの男を見る。顔は発熱で赤みはあるけど、呪いの痣は消えた。
今弱ってるけど、正直信用できない人ではあるんだよな。
というわけでちょっと魔術をかけておく。
魔封じと羽根封じに、膂力を五歳程度の人間の子どものそれまで低下する魔術。ついでにタラちゃんに頼んで、目隠しを一つ。悪意を持って誰かに何かしようとすれば、目が大変なことになる。
エイルさんの顔を見るとちょっと引いてる感じだけど、こればかりは仕方ない。
「この人、やったことがやったことなので。病から回復しても素直に感謝するとは、私には思えない。皆さんに病人をお願いすることになるのだから、その安全確保は私の義務です」
「分かったよ……」
というわけで、私達はエイルさんのルーロットから下りた。
連絡用にラーラさんが持ってた便箋と封筒を渡して。
この便箋と封筒、便箋の方は中の文字が消えなくなり、封筒の方は指定した相手に勝手に飛んでいくという優れモノ。
男が癒えたら、これで連絡をもらって私達が降りた河原に迎えに行くって寸法だ。
エイルさんにそっとレグルスくんがひよこちゃんポーチから取り出した封筒を渡す。これはイゴール様が用意してくれた紹介状だ。
彼の一族はどんな答えをくれるのだろうか。
お読みいただいてありがとうございました。
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