言葉を紐解く
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次回の更新は、12/29です。
私の【千里眼】は、試練にぶつかると途端に黙ることがあって。それって簡単に辿り着いたら試練じゃないだろって言う場合と、それよりももっと大事なことがあるって時と、大概二択だ。
今回は多分後者。
そしてその大事なことは、あの洞窟に辿り着くことだったのかも知れない。
エイルさんに率いられ、ルッジェーロ山を皆で下山。彼女のルーロットに揺られているときに、ふとレグルスくんが言ったのだ。
「あのどうくつが、エイルさんにおしえてもらったドラゴニュートのどうくつだったんじゃ……?」
なんと、ひよこちゃん。
私と先生方がエイルさんとドラゴニュートの村長の件で話し合ってた間に、ちらっと洞窟の中を見て書いていることを奏くんと紡くんとニルスさんと爺やさんで手分けしてメモに取って来たそうで。
間に合わなかったとこは、幻灯奇術を応用してノートに焼き付けてくれるというお手柄まで! 最高! 凄い! うちの弟、天才!
奇しくもドラゴニュートの破壊神に辿り着けそうな情報を拾ったわけだけど、恐らくその必要なピースの中にあの村長も入ってる気がして。
いや、この村長はエイルさん達に辿り着くピースだったのかもだけど。
しかし、どう切り出したもんか。
悩んでいると、御者台のエイルさんから声がかかった。
「もうすぐ着くよ」
その言葉で馬車の窓から外を見れば、森から谷の方に移動しているのか河原のような場所に来ていた。
もうすぐがどれくらいか分からないけれど、このまま進むのってちょっとどうなのか。
なんて考えていると、馬車が静かに止まった。
お馬さんにちょっと水を飲ませてやりたいってことで、一度休憩を挟むことに。
エイルさんと話さなくては。
丁度エイルさんも病人の状況を見るために、馬車に入って来たことだし。
エイルさんは男の額に乗せたタラちゃん特製氷嚢の具合を見て、それから私に話しかけて来た。
「あのさ、若様」
「はい」
「その、病の特徴が出てたから、今流行ってる特殊な病気ってのは分かった。でも対処法まで分かっていて、対処できるってのは一体……?」
「あ、その件に関しては、私もお聞きしたかったんです」
ニルスさんがエイルさんの言葉に同意する。彼の中で、呪いの情報は昨夜私に伝わったことになっているのだ。
ルマーニュ王国に提示された病の対処法はロックダウンと、そのロックダウン中の民の慰めに菊乃井歌劇団の歌やマグメル大聖堂の聖歌を聞かせるということで、マグメル大聖堂の聖歌に解呪成分が含まれていることは知らせていない。
それで何故? そんなところか。
何処まで開示するかな……?
エイルさんが私が思っている通りの人であれば、この話は聞いておいてもらいたい。
だから病の件は菊乃井が知ること全てを話すことに。
疑似エリクサーの存在も、件の病が作られた経緯や、理由があって呪いが付与されたこと。余すことなく、だ。
「その呪いというのが、魔力の高い者ほど症状が重篤化するという呪いだということまでは菊乃井で突き止めたんです。が、物的証拠がない以上、この病は呪いが付与された兵器であることも、その流行にルマーニュ王国が関わっているとも言い切れない。下手すると戦争になりますから。そこで秘密裏に領民、或いは国民すべてに解呪の魔術をかけることにしたんです。それがマグメル大聖堂の聖歌でした」
「では、閣下はこの病に呪いが付与されていたことは既にご存じだったのですか!?」
「はい。実際菊乃井領の病の呪いを解いたのは私です。さっき見たでしょう? アレをやったわけです」
ニルスさんの顔が若干固い。
麒凰帝国はルマーニュ王国にきちんと解呪も含めて対処法を示していたんだもんな。
じゃあ自分の情報は価値がなくなったと感じたのだろう。けど、そこじゃないんだ。ニルスさんの情報の価値は。
「ニルスさんは物的証拠というか、証言をお持ちだ。それを公表出来れば、解呪を堂々と進められる。これで助かる人の数が増えるでしょう」
「……!」
青褪めていたニルスさんの顔に血の気が少し戻る。
ルマーニュ王国の現王家の命運にはトドメを刺すかも知れないけど、王様が変わっても国民がいれば王国は続いて行くのだ。オマケにニルスさんの望むように、領民や国民を助けることになるわけだから、それで良しとしてもらいたい。
一方でエイルさんは違うことが気になったらしい。
「流行り病の研究って、どうやって? その、若様んちには御医者の一族でもいるのかい?」
「いえ、医師はお若い先生がほぼ一人で奮戦してくださっています。代わりに薬学の大家である象牙の斜塔の大賢者様とそのお弟子さん方がご協力くださっています」
「象牙の斜塔ってそりゃまた凄いところのお人が……」
「はい」
これには私の領地経営が関わってくる。
今までの取り組みを話せば、エイルさんの顔が驚きに染まった。
「領民全部に学を付けるって! いや、それもだけど医者代をほとんど持ってやってるって……!?」
「はい。皆保険制度と言うんですけど。税収も大きくなってきたら、せめて出産と成人するまでの医療費は無料にしたいと思っていて」
「なんで!?」
「いや、何でって……」
嘗て前世の「俺」が暮してた国の、わりと良い制度だからやるってのもある。
だけどもう一つ理由があって。
前世のイギリスの政治家アナイリン・ヘヴァンの、「俺」が好きだった言葉を引用させてもらう。
「異世界の政治家に『病気とは人々が金銭を支払ってする道楽ではないし、罰金を支払わなければならない犯罪でもない。それは共同体がコストを払わねばならぬ災難である』と言った人がいるそうです。今回の流行り病を見るに、本当に災害と変わらない。災害は領主が集めた税金で立て直しを図るもの。ならば病もそうするべきだと思うんです。が、我が領にはお金がなくてですね……!」
なので自助が出来る大人と払う余裕があるお家には、ちょっと頑張ってもらいたい。持続可能な運用にしようとすれば、財源確保は必須だしね。
けど御大層な理想があるわりに医者の数も足りない。
そんな話もすると、エイルさんの瞳が僅かに揺れた。
ここが勝負所かも知れない。
馬車の中で話を聞いていたレグルスくんが、そっと私の背中に触れる。
覚悟を決めると、私はエイルさんの名を呼んだ。
「なんだい、若様?」
「貴方はもしや、この大陸でかつて薬草やその知識をもとに人々を病から救いながらも、魔女狩りの迫害を受けた医者や薬師一族の末裔ではありませんか?」
真っ向から直球勝負だ。
ロシニョールという言葉、実はちょっと聞き覚えがあって。
これもまた前世の話ではあるんだけど、フランスにスノボとかスキーのメイカーで「ロシニョール」というのがあるんだよね。ロシニョールとは日本語だと小夜啼鳥と訳される。小夜啼鳥はナイチンゲールの和訳だ。
そして私にはナイチンゲールと言えば小夜啼鳥以外に思い浮かべるものがある。
「クリミアの天使」と呼ばれたその人は「天使とは美しい花をまき散らす者でなく、苦悩する者のために戦う者だ」と言い、自らランプ片手に傷病兵の看護に当たったとか。
看護師の祖とも言うべき人、その名をフローレンス・ナイチンゲールという。
沈黙が馬車の中を支配する。
誰もが固唾を飲んでエイルさんの答えを待っていて、それが分かっているのかエイルさんが「なんで?」と尋ねた。
「なんで、そう思うんだい?」
「一つは貴方が『ロシニョールは病人を見棄てたりしない』と言ったから。二つ目は昨日のニルスさんへの処置と助言。大汗を掻いたときには水に塩を入れるという知識を、門外不出として受け継いでる辺り。最後に『ロシニョール』という言葉。ロシニョールって聞き馴染みがないから、この辺りの地名かと思ってたんですが……ちょっと渡り人関係で引っかかる言葉だったので」
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




