そうじゃなくても何とかするのが福祉ってこと
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次回の更新は、12/26です。
この病は何処で出くわしたとしても、一番最初にやることはただ一つ。
解呪、だ。
「奏くんは弦打ちでこの辺り一帯を念のために浄化! レグルスくんと紡くんはエイルさんの護衛! タラちゃんとござる丸はニルスさんと爺やさんの護衛! ラーラさんは辺りに他に人がいないか探ってください! ヴィクトルさんは私と一緒に中へ! ロマノフ先生、山全体の把握をお願いします!」
全員が私の言葉に従って動く中で、エイルさんとニルスさん達が目を白黒させる。
そんな中、紡くんが「はい!」と手を上げた。
「わかさま、つむ、へんばいできるようになりました!」
「へんばい……反閇か!? じゃあ、エイルさんとニルスさん達を中心に据えて展開を!」
「はい!」
声をかければ紡くんが独特の歩き方で、エイルさんとニルスさん、爺やさんの周りを歩き始める。
古来に旧火神教団に伝えられた神聖魔術による破邪の結界、それを反閇という。武神山派もそれを受け継いでいるようで、現行代表である威龍さんにしか使えない技だったらしい。
でもまあ、紡くんイゴール様のご加護あるしね。そりゃ教えられたら、出来るようになるだろう。奏くんによると、紡くんは最近殴りヒーラー兼殴りスナイパーに進化してるらしいから。うーん、enfant terrible(物理)
反閇自体は解呪まで至らないけど破邪結界としては優秀だし、奏くんの弦打ちと合わせたら浄化効果が相乗されて、今から私のする解呪の底上げ効果が見込める。
エイルさんは直に触れる寸前くらい患者の傍にいたんだ。移っててもおかしくない。そしてそんなエイルさんの傍に、ニルスさんと爺やさん。
病人ともども纏めて解呪と祝福が一番手っ取り早いだろう。
そういうわけで、ヴィクトルさんと二人で洞窟の中に。
エイルさんが止めるんだけど、そこはひよこちゃんが「だいじょうぶだから!」と、エイルさんを止めてくれてて。
そんなやり取りを無駄にしないために、奥にさっさと入って行けば倒れている人が見えて来た。
ヴィクトルさんが指先に光を灯す。するとそれに照らされた洞窟の壁が、やたら色彩豊か。こんな状況じゃなきゃ、じっくり見たいところだ。
それはさて置き、倒れている人を観察する。
先ほど先行させたプシュケから得た情報によると、背中に異形の羽根があった。いや、異形って言っても人間に生えてたらビックリするやつだけど、羽根が生えてる種族を知っているとそうでもない。
つか、ビックリしたのは何でその羽根を持つ人がこんなとこにいるかってことなんだよね。
ヴィクトルさんに目配せをすると、頷いてくれる。それから倒れている人……結構ガタイの良さげな男の人なんだけど、その人に視線をひたりと当てた。
ややあって。
「あー……因果応報っていうのかな、これ?」
「……どういう?」
「ノエたん達が住んでた、ドラゴニュートの隠れ里の村長さんだってさ。病気が分かってここに棄てられたっぽい」
「うわぁ……」
一瞬、遠い目になる。
でも彼が誰かって分かったって、病をそのままにしておけない。
腹の底から大きくため息を吐く。それからまた大きく吸い込むと、一音目を喉から押し出す。
今日の選曲は輪廻或いは生と死の繰り返し、そういう意味を持つ曲だ。
このドラゴニュートの村長には、正直モヤる。識さんから伝え聞いたノエくんへの仕打ちは、そりゃ許せない。だけど、だからって病で死ねばいいとは思えない。
前世、公務員だった「俺」は福祉専門の部署で働いていた。その仕事の中で知ったことがある。
それは「真に支援を必要とする人は、こちらが手を差し伸べたくなる人の姿をしていない」という現実だ。
その現実が今世でも目の前に転がっている。
でもこういう人でも助かる社会でないと、こちらが進んで助けたくなるような人も救われない。だってそういう人は大概、自分から救いを求めてくれないんだ。
世界が理不尽だとか、今更いうつもりはない。そのクソみたいな現実の横っ面を殴り飛ばすために、こっちとら色々やってるんだから。
一節一節に魔力を込めて歌えば、浅く上下していた男の呼吸が穏やかになっていく。赤黒く拍動して、蛇のようにうねる赤黒い痣も、段々と薄くなってきた。
最後の音が洞窟の壁に吸収されると、男の身体から痣は完全に消えていて。
ヴィクトルさんが男に視線を当てたまま、小さく頷く。
「お疲れ様、呪いは消滅。ただ風邪症状が結構強く残っているから、何処かで安静にさせた方がいいね」
「まずは一安心ですね」
「うん。あーたんの解呪の魔術をつむたんの反閇で強化してるから、外の三人も大丈夫じゃないかな? 山に関しても裾野くらいまで、かなたんの弦打ちで魔術が届けられてるだろうし。呪い自体は消滅してると思うよ」
詳しくは外に出ないと分からないけど。
ヴィクトルさんはそう言うけど、見立ては間違いないだろう。
とりあえず、ドラゴニュートの村長も何とかしないと。
考えていると、ロマノフ先生が洞窟の中に入って来た。
「鳳蝶君、ヴィーチャ、どうです?」
「うん。解呪は成功。ただ風邪の容態はそんなに良くない」
簡単にヴィクトルさんが告げると、ロマノフ先生が倒れている村長を担ぎ上げた。安静にさせるにも、洞窟じゃあね。
そういうわけで外に出るために、洞窟を引き返すことに。
そういえば、入るときに目を引いた色鮮やかな壁は一体何だったんだろう。
ふと気になって壁に目をやれば、壁に何か書いてあるのが分かった。じっと目を凝らすと、人物画に見えてくる。
さらによくよく見ると、壁の絵の中の人間に、ロマノフ先生が担いでると男との共通点があった。
即ち、ドラゴンの羽根。
ぴたりと歩みを止める。
じっと見れば文字は何となく神聖文字……前世で言うなら楔形文字のような? それと何か絵のようなものがあって。
何だろうな? 見たことあるような、ないような。今世でなく前世の記憶に引っ掛かりがあるんだ。
絵と字を組み合わせて一つの文字として読ませる文明が、前世の遥か古代に存在していた。これってもしや、そういう?
眉間にしわを寄せて考えていると、外から何か聞こえて来た。
男を担いで外に出たロマノフ先生が、待っていたエイルさん達に状況を説明しているみたい。
急いで外に出ると、エイルさんとニルスさん、爺やさんが心配そうな顔でこっちを見て来た。
「待ってる間に凄い病気だってことは聞いたけど、若様は大丈夫なのかい?」
「ええ、この病は根本にある呪いを断ち切ってしまえば、ちょっと酷い風邪くらいなものですから」
「そうなのか……。病に呪いを仕込むなんて、随分悍ましいことをする奴がいたもんさね」
全くだ。
ロマノフ先生に担がれている男も悍ましいけど、度合い的にはこの病を作った者、それを私欲のために利用しようとした者はそれより上だろう。
にしても拾った以上面倒見ないといかんのかな、これ?
嫌すぎてため息を吐けば、エイルさんが首を捻る。それからロマノフ先生の肩に担がれているドラゴニュートの村長を見て唸った。
「ドラゴニュートかい。お伽噺だとばっかり思ってたけど、いるんだね?」
「ええ、はい。まあ、いるんですよ」
「何だい? 驚いてないねぇ?」
「友人にいるもんですから」
そしてコイツはその友人に酷いことしたクソです。
なんて言える訳もなく、熱が治まってないのでどうしたら……と愚痴る。だって私ら観光客だぞ? これからキャンプの予定だったんだ。
本当にどうしよう? 最悪菊乃井の療養所に放り込むか?
色々考えていると、エイルさんがポンと私の肩に手を置いた。
「よし、あたいに任せな! あたいらの集落、すぐそこだからさ。あたいらロシニョールは、病人を見棄てたりしない!」
おおらかな笑顔に安堵するよりも先に、私の背筋は電撃を受けたような感覚が走った。
お読みいただいてありがとうございました。
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活動報告にも色々書いておりますので、よろしければそちらもどうぞ。




