風雲、急を告げすぎでは……?
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次回の更新は、12/22です。
とはいえ、だ。
こういう謀略戦みたいなのを実際にやるのは侯爵として歴史の浅い菊乃井家には荷が重い。だって国家間の戦争みたいなもんよ? お呼びじゃねぇのよ。
なのでニルスさんに聞かせたのは、考え得る対抗策の一つってこと。
そう説明すれば、ややニルスさんの白かった顔色が青褪めてるくらいまで戻って来た。
だけどルマーニュ王国の王家の首のすげ替えは、どう転んだところで必須だろう。その後ろ盾に帝国や他の国が承認する、ルマーニュ王国でも人望厚いユレンシェーナ伯爵家が立つ。その辺が妥当で、下手すると帝国は不本意な妥協を強いられる。
将来独立してもらうこと前提で、一旦混乱が収束し適した政治体制を築くまで、帝国が面倒を見るって言うね。
前世でいう「アウスグライヒ」のような、それぞれに独立した政府、独立した法律、独立した議会があるのに、君主は麒凰帝国の皇帝陛下一人みたいなことにならきゃいいけどな。そうなると売国派の思うつぼだから。
帝国はルマーニュ王国の国土を現在必要としてはおりません、だ。
この辺りのことは、今朝既に皇子殿下方を通じて本国の宰相閣下や陛下にぶん投げている。あとはあっちにお任せ。
私の仕事は、危機感を持ってもらうことだ。ダメ押しが残っている。
ってわけで、やってきましたルッジェーロ山。
冒険者ギルドで情報を聞いたら、ロマノフ先生のお顔でちゃんと良い情報が聞けました。
エイルさんからもらった情報どおり、ルッジェーロ山は五合目まではギリギリ普通の人でも護衛なしで登ることが出来るそうな。
ただこれは四十年くらい前に突然そうなったので、突然以前の状況……手練れの冒険者の護衛がないと進むのは困難という風に戻ってもおかしくないので警戒はしているらしい。
エルフと言えど子連れでっていうのは難色を示されたけど、私達フォルティスが持つパーティー情報を照会してもらったら「どうぞどうぞ、狩りの成果の持ち込み大歓迎で御座います」となった。冒険者ギルドのお偉いさんの揉み手って初めて見たな。
ルッジェーロ山は美味しいキノコや木の実が採れることで有名だそうで、獣道じゃなくて登山道がちゃんと整備されている。
今回は連れて来たのがタラちゃんとござる丸だけなので、私達もえっちらおっちらハイキング。
同行者の中でニルスさんが一番体力ないから、スピードは彼に合わせて。
熱中症予防に彼や爺やさんに魔術で涼しい風を送っているので、普通に散歩してるのとそう変わらないはずだ。
「この山に、魔女の末裔達がいるんですよね?」
「この時期なら、その可能性が高いという情報があるというだけですね。あとは地道に探さないと」
「そうですか」
ニルスさんが不安げに言う。
そりゃさ、私だって断言したいけどこればっかりはね。
多分探すのも試練のうちに入ってるんだ。そうじゃなきゃ手っ取り早くイゴール様がご紹介くださるはずだもの。そうじゃないってことは、きっちり探して誠意を示すか、足を棒にしてでも探す過程が必要なんだ。
それにもう一つの重要な情報。そっちを今は優先させているから。
私達には病の他に、敵がいる。それも世界の敵だ。
そんな話をすると、後に控えて歩いている爺やさんとニルスさんが顔を見合わせた。
「世界の、敵……?」
「そうですよ。病も厄介ですけどね、こっちも厄介だ。どうにかする手段はあるんだけど、それが今通じるか分からない。ある程度戦う手段が確立できている病の方が、ひょっとすると向こうに回すのが楽な相手かも知れませんね」
「そんなものが……!?」
ニルスさんと爺やさんの顔が驚愕に歪む。
病は世界規模だけど、最悪疑似エリクサー飴っていう反則すれすれの薬があるからな。翻ってドラゴニュートの破壊神の方は、ノエくんしか殺せない。
どちらも世界規模ではあるけど、対処法が限定的で、その方法の不安要素が高いのはドラゴニュートの破壊神のほうかなぁ。
ノエくんが丁度良く仕上がっていて、董子さんの用意したアレが功を奏すれば話は簡単なんだけど。
ニルスさんと爺やさんに、掻い摘んでノエくんと識さんの関わった破壊神の話をすれば、さっと二人の顔色が悪くなった。
「そんな、破壊神だなんて……! 人間と人間が争っている場合ではないじゃないですか!?」
「え? そうですが?」
「そ、そうですがって!?」
平然と返した私に、ニルスさんが焦ったような声を出す。
世界はニルスさんや他の人達が知らないだけで、何度も危機に晒されてきた。今回だって私も偶々知っただけで、人知れず世界を守ろうと動く意思は他にもあるだろう。
人間同士で争ってる場合じゃない? そうだよ。だからこそ、権力争いなんて人間だけで対処できるような問題に日和ってるわけにはいかないんだ。
驚きに顔を歪めたニルスさんに背を向けて、山道を黙々と上る。
これでもう少し真剣に危機感を抱いてくれるといいけどな。身につまされると、人間やる気になるもんだから。
ふっと奏くんとレグルスくんが「ん-?」と首を捻った。
「どうしたの?」
「んー、あにうえ、しってるひとがいるかも?」
「うん。でも知らない気配もあるな。先生達も気が付いてると思うけど」
その二人の言葉に、前を行くロマノフ先生が振り返った。
「ええ、もう少し場所が特定できてから伝えようと思ったんですが」
「結構近いよ。声が反響してる感じがあるから、この近くにある洞窟のどれか……かな?」
「そうだね。ただ会話にはなっていないというか、焦ってる感じだね」
ロマノフ先生の後ろはタラちゃんとござる丸、それからレグルスくん。ちょっと下がって奏くんとヴィクトルさん。次が私と紡くんでニルスさんと爺やさんを挟む。最後尾はラーラさんという布陣で、エルフ先生達が首を捻る。
なら、私の出番。
持って来たプシュケ六つを全て空に飛ばして、先生達が指差す声の聞こえる方向へと先行させる。すると登山道からかなり脇に逸れた森の奥に、ひっそりと洞窟が見えた。
中へとプシュケを潜入させれば、プシュケが視る映像が頭の中に流れて来て。
薄暗い洞窟を煌々と照らすランタンの灯に、オレンジ色に染められたパッチワークのスカートのひだが揺れる。
そのスカートの人が、そっと手を伸ばそうとした先には背に異形の翼を持つ男の人が。
彼の身体の、服に覆われていない部分には蔦状の赤黒い拍動する痣、激しく上下する胸、呼吸は荒く熱っぽい。
マズいと思うと咄嗟に声って出るもんで。
「エイルさん、その人に触らないで! 今すぐ距離を取って! 口元を布で覆って、そこから出てください! 早く!」
私の声を過たず翠のプシュケが、翼持つ男の傍にいたエイルさんに届いた。プシュケの硝子のような複眼に、振り返ったエイルさんの驚きに満ちた表情が映る。
『え!? え!? 昨日の麒凰の若様!? え!? 何!? どういうことだい!? このお人、熱があるみたいで……!?』
「その人、世界的に流行っている病に罹ってます! だから近付かないで!」
『そんな!? なんでそんなことが分かるんだい!? それに病人を見捨てるなんて……!』
「見捨てるんじゃありません! 処置をするために触らないでくれって言ってるんです! そっちにすぐに向かいます! 今は洞窟から出て!」
走りながら叫べば、ひょいっと身体をロマノフ先生に持ち上げられる。
ニルスさんはラーラさんが抱えて、爺やさんはレグルスくんと奏くんがさっと協力してタラちゃんのうえに乗せた。ヴィクトルさんは紡くんを抱っこしようとしたけど、自分で走る方が速いって断られる。
先生が全速力で駆けた先に、翠のプシュケに連れられて洞窟から出て佇むエイルさんの姿が見えた。
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