心のぜい肉が落とせない!
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次回の更新は、12/15です。
翌朝、案の定マルフィーザの王城に宿泊中の皇子殿下方から来た指示は「確保しろ」だった。
件の病の元はルマーニュ王国、その証人だからね。
旅商人兼情報収集役のジャミルさんも色々動いてくれて、象牙の斜塔の長の側近が一人、ルマーニュ王国王都から逃げ出して消息不明になってるのを突き止めてくれてたんだけど、その人の行方が今回解ったわけだ。
ニルスさんの証言と合わせて、ルマーニュ王国に対する札にしたい。なので彼を保護すべしっていうのが、帝国の意思だ。
で、本来なら帝国本国に来てもらうのが筋だけど、私達と一緒にいた方が絶対安全だから「連れて行動してね(はーと)」みたいな?
「というわけで、ニルスさんには私達と行動を共にしてもらいます」
「え? いや、しかし……」
「安全面であれば私達と一緒にいる方が、遥かにこの宿屋に籠っているより高いです。それに、貴方、何でもするんじゃなかったんですか?」
朝一番、爺やのアルバートさんを撒いて私達の部屋にやって来てニルスさんは、昨夜と同じく「宇気比でも何でもします」と言い切った。
それならばということで、彼に帝国の皇子殿下方が今マルフィーザにいること、彼のおかれた立場、持って来た情報を伝えたことを話して今ここ。
帝国の皇子殿下方が来るのはニルスさんも知ってたけれど、こんなに早く話が付くとは思っていなかったみたい。
私と皇子殿下方がズブズブなのって、帝国内部では有名でもルマーニュ王国ではそうでもないのかな。
それに、私達と行動をともにするのは彼の望みにも叶う。
そう告げれば、ニルスさんの顔つきが変わった。
「私達はたしかに夏休みとしてマルフィーザに来ましたが、貴方に裏向きの事情があるように、私達にもそれがあるんですよ」
「裏向きの、事情……」
「帝国や主だったあちらの大陸の国はもう件の病を克服した気分でいますけど、とんでもないことだ。効果ある薬はまだ作られてはいないし、ルマーニュ王国では未だに病が猛威を振るっている」
苦々しいことだけれど、あの病は呪いを排除しても毒性や感染力は結構高いんだよ。
菊乃井では色々あって単なる風邪程度なんだけど、他の地域じゃインフルエンザ並みの脅威だ。単なる風邪でも人は死ぬけど、インフルエンザも毎年万から人が死ぬ。
件の病の根幹にある病気に効く薬が開発されてこそ、本当の病の克服なんじゃないの?
おまけにルマーニュ王国だけでなく、マルフィーザのあるこっちの大陸でも流行り始めてるんだから、病の変質まで秒読みだろう。
変質した病が、今の克服気分で浮かれた帝国に戻って来たら目も当てられない。
それを防ぐための手段であるお医者さんの質と量の確保。それこそが今回の私の旅の目的でもある。
つらつら説明すると、ニルスさんの顔色が青を通り越して白に変って、最後には何でか頬を赤くして。
「閣下は、ルマーニュ王国のことも考えてくださっていたんですね……!」
「いい加減どうにかしないと、帝国にまた被害が及ぶからです」
何言ってんだ、コイツ。なんで私がルマーニュ王国のことまで考えにゃならんのだ。
私が病を何とかしたいのは、もうここに至ってはロッテンマイヤーさんの安全なお産のため。産婆さんや産婦人科医、小児科医を増やしたいのもあるけど、肝心の産婆さんが必要な時に件の病に罹って来れないとか本末転倒なんだよ。物のついでだ。
閑話休題。
病に対抗するためのお医者さんの確保にマルフィーザがどう繋がるかというところで、イゴール様からお聞きした魔女の一族をお迎えに上がったと話せば、ニルスさんの表情に驚愕が浮かんだ。
「そんな一族が、マルフィーザに……。それにイゴール様のお話、というのは」
「おれ、加護持ちだもん!」
成り行きを見守っていた奏くんが、私の横から顔をだしてにやっと笑う。
私の手の内を晒す必要はないと考えて、奏くんがニルスさんの意識を逸らしてくれたようだ。まあ、奏くんが加護持ちなのは本当だしね。
「つまりその魔女の一族を見つけることが、ユレンシェーナ伯爵領の民を、ひいてはルマーニュ王国の民達を救うことに繋がる、と?」
「それだけじゃない。でも今はとりあえず貴方、すぐ着替えを買っていらっしゃい。いや、こちらで準備するので、外出の準備をしなさい」
「は、はい……!」
急かせばニルスさんは全速力で自身の部屋の方へ駆けていく。
その背中を見送ってから、隣で頭の後ろで両手を組んでいた奏くんに声をかけた。
「ニルスさん、何かありそう?」
「うーん、あの兄ちゃん自体は何もないと思う。爺やさん? それも大丈夫。でもあの兄ちゃんを取り巻く何かが何か嫌だ。あんまり加護の話とかはしない方がいいかなって」
「なるほど、解らん」
「おれも。何かが何か嫌なんだよなぁ。でも今は関係ないかな」
からっとした奏くんの言葉に頷いておく。
それにしてもマルフィーザに一か月近くいて、適した服を持っていないのは本当に問題だ。この辺りの意識改革からやらないと、多分ニルスさんの望みは果たせない。
これはラシードさんより梃子摺るかもしれないな。ラシードさんには差し迫った自分と臣下の命の危機があったけれど、ニルスさんにはそれもなさげ。
あるにはあるんだろうけれど、イマイチどころかイマサンくらい身につまされている感覚はないだろう。
「どのくらい時間がかけられる物か……」
「ルマーニュ王国の状況は相当悪いでしょうから、余裕はないと思いますがね」
「あー! 心のぜい肉ぅぅぅぅぅ!」
思わず叫ぶ。
帝国の意思は保護・確保なんだから、別に彼の望み通り戦い方を教える必要なんかないんだ。
ないんだけど……!
とりあえずニルスさんの服の調達は、この中で一番センスとかが解るラーラさんにお願いして、私やレグルスくん、奏くん紡くんはお着換えだ。
ルッジェーロ山にあるアルチーナの谷を次の目的地にしてるんだけど、マルフィーザの冒険者ギルドによって、山や谷の魔物の情報などの収集をしておく。
冒険者パーティー・フォルティスとしての出動ですよ! 久々!
私はレクスの衣装に袖を通し、レグルスくんや奏くん紡くんはソーニャさんお手製の服を着る。お揃いの部分がある衣装は統一感があって、パーティーという感じがひしひし。
おまけにこの服は極小の魔力で、温度調整をしてくれる優れモノだ。あと僅か魔力を足せば氷の攻撃魔術になる、その寸前の涼しい空気を作って身体に纏わせてくれる。とても過ごしやすい。
着替え終わったところで、ヴィクトルさんがタラちゃんとござる丸を連れて散歩から戻って来た。
もっとも単なる散歩じゃなく、ヴィクトルさんはニルスさんの泊っているコテージに結界を張りに行ってくれたんだけど。
タラちゃんはこの辺りに住んでる蜘蛛族へ、変な奴がいたら教えてほしいとお願いに行ってくれてたんだよね。普通はついて行くもんだけど、この辺り虫さんが多くてですね。
タラちゃんに「むし、おおいです。ついてくるしないでだいじょうぶ」って気遣われちゃったんだよ。
ござる丸についてはこの辺の植生を調べてもらって。
魔女の一族の皆さんに菊乃井に来てもらったはいいけど、必要な薬草が手に入らないでは困るからね。
そしてニルスさんが爺やさんを伴って私達の部屋に戻って来たのと同じくして、ラーラさんが動きやすく涼しい服を調達して帰って来てくれた。
「服のお代は出世払いにしておきます。必ず出世してもらうんで、そのつもりでいてくださいね?」
「あ、はい」
着替えたニルスさんに優しく微笑むと、何故か彼の顔が引き攣ったけど気にしない気にしない。
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